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BLの丘
淋しい夜に泣く声(千城) 58-4
2009-10-19-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
千城は頭を抱えた。瞼の奥が熱くなりうずくまりそうになる。
この一時間ほどで英人はどこまで行ってしまったのか…。
こんなことなら、どれだけの人間を使ってもこの付近を探させれば良かったと後悔した。
自分が辿り着いた時、確かにベッドには英人の温もりがあった。それはほんの少し前までここに居たことを表している。
どこに買い物に出ても食事に出ても、鍵を開けたまま電気も点けたままで1時間以上外出するとは思えない。

「捜索願を出しに行く」
「お待ちください。彼が出てまだ何時間ですか?たとえどんな状況であれ、一晩くらいの外出は待つべきです」
野崎の言葉に過去の英人の生活状況を示唆され、こみ上げる激情に千城は今度こそ思いっきり野崎の頬を叩いていた。
「どこまであいつを侮辱すれば気が済むんだ。これ以上英人に何かしたら絶対にただではおかない」
昔のような生活に戻ったのだと暗に込められたことがどれだけ千城の反感を買い、心を抉ったのだろう。
今の英人はこれまでとは全く違う人物として成り立っている。昔の面影など何一つ残さず作り変えて自分のものにした。簡単に他人に着いていくとは思えなかっただけに、第三者から過去を指摘されれば言葉に出した者に憤りと憎悪が噴き出した。

数歩だけ室内に戻った千城は、英人が投げ捨てて行った紙を野崎に突き出した。
「誰がこんなことをしろと言った?金で解決したかったのなら何故そう言わなかった?たった500万の価値しかなかったと英人に知らせたかったのか?」
千城は煮えるような感情を抑えきれなかった。
叩かれた野崎はそれでも怯むことなく、毅然と『現実』を千城に諭した。そもそも生きる世界が違うのだと言いたげに冷たい声をあげたが、千城の怒りを煽っただけだった。
「『たった』? 彼の生活レベルをご考慮ください。充分すぎるほどです。彼の2年分の収入ですよ」
「それがなんだ。俺の年収がいくらあると思っているんだ」

千城には現在の会社での収入の他に、大学時代に取得した特許料とアメリカで立ち上げた会社の顧問料が自動的に入金されていた。
自分から見れば、『たった500万円』だった。
そんなはした金で英人を傷つけたくも失いたくもなかった。

「探せ。一時間以内に見つけてここに戻せ」
低くて掠れるような声がこぼれるように喉の奥から紡ぎ出される。
千城には一分一秒だって待つことなどできなかった。
「500万の代わりに一億でも10億でも支払ってやる。その代わり必ず本人のサインを俺の目の前でさせろ。こんな勝手な振り込みで清算するなど、絶対に許さない」
千城は手にした紙を野崎に渡し、目の端に筋を立てた。
本人の確認も取らずに一方的に振り込み、全てを水に流そうという野崎の行動はどうしても許しがたく、千城はこの一瞬でこれまで築き上げた野崎との信頼関係をリセットしようとしていた。
それだけではなかった。千城は英人の為なら『榛名』の名前などいらないというところまでたどりついていた。
これまで野崎と組んできた中で、違和感なく全て見過ごせてきたのは千城に感情がなかったからだ。

…英人がいない…
その事実が重く千城に圧し掛かってくる。

もし英人が戻らなければ…。
一生謝罪することのできない絶望感が千城を覆い尽くした。たとえ野崎が仕組んだことだとしても、英人の傷を深くしたのは自分の態度であり名前だ。責任は全て自分にあると千城は思っていた。
そして二度と手にすることのできないあの温もり。愛おしさ。気が狂うほどの感情…。
英人を失ったらきっと自分は元に戻る。情熱のかけらもない、親に作り出された『人形』に…。
あの日々がどれだけ意味のなく虚しい時だったのか…。
千城の瞳から熱い滴が一粒落ちた。千城はこの世で初めて涙を零した。
英人に対する謝罪と後悔、手放したくない愛情。自分自身に対するやるせなさや初めて手にした嫉妬、焦燥、欲望という激情。
自分が英人に生きて行くための術を教えたように、英人に人を守り大事にする心を教えられた。かけがえのない人物がすぐそばで笑っていてくれることの幸福感。

野崎は英人のアパートに千城を残したままで立ち去って行った。何をどうやって探すのか千城には想像もつかなかった。いくらなんでもこの状況で野崎が英人の捜索を放置するとは思えなかった。
少なくとも今現在で野崎と英人が繋がっていないことは確かだ。千城が指定した時間内で探し出すことは困難だろう。
何ができなくても、自分は英人が戻ってくることを信じて待つしかない。そんな不甲斐なさに暗い影が落ちてくる。
本当は自分だって英人の行きそうな場所をあたってみたかったが、その間に戻られたら…と思うと動けなかった。
千城が行こうとする場所は野崎だって分かっているはずだ。

硬いベッドに腰かけたまま、何時間が過ぎたのだろうか。
幾度か響いてくる足音にハッとさせられては、一番奥のこの部屋に辿り着く前に別の部屋のドアが開いた。2階に上っていくものいた。
待ち人が来ないことに苛立ちと不安が胸の中で渦巻き心臓を押しつぶしそうだった。
…恋は盲目…
聞いたことのある言葉にフッと顔が歪む。まさに今の自分がそうだ。
そんな愚かな話があるかと高を括っていたが、自分が堕ちてみれば納得がいった。
理性ではどうにもならない感情。たぶんそれが『恋』や『愛』と表現されるものなのだろう。

…戻ってこい…

千城はひたすら祈り願っていた。もう一度抱きしめて自分を必要とする英人の心と体を感じたかった。
傷つけた分以上に、もっともっと骨の髄まで愛してやるから…。
何の苦しみも悲しみもない世界に連れて行って笑顔を見ていたかった。
ただ隣に居てくれるだけでいい…。
千城こそが愛情を浴びたかったのに、それ以上に英人に全てを捧げて彼の悦ぶ姿を視野に収めたかった。

夜中過ぎに、車の止まる音がした。降りた人間が話す声がぼそぼそと聞こえてくる。
どうせ睦まじい時間を過ごした男女だろうと特に気にもしなかったが、耳を澄ませてみれば、共に男なのだということに気付いた。しかも一人の声は…間違いなく英人だ。
榛名は勢いよく玄関ドアを開け、身体を外へ滑らせた。

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千城編、これで終わります。次回から英人サイドに戻ります。

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コメント

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帰ってきた!?
コメントメグミ | URL | 2009-10-19-Mon 00:51 [編集]
こんばんわ☆
千城が涙を流すほど英人を思い焦がれていたことがとても切なくてハラハラしていました~☆

バーの店員が英人に手を出すことはまずないと思いますが、2人で帰ってきた秀人を千城が誤解しちゃったら・・・更に切なくなりそう~(汗)

野崎との仲はかなりやばくなっていますね・・・。
どうか、本当の意味で心が繋がりますように☆

次回も楽しみにしております♪

Re: 帰ってきた!?
コメントきえ | URL | 2009-10-19-Mon 09:08 [編集]
メグミ様

おはようございます。お越しいただきありがとうございます。

> 千城が涙を流すほど英人を思い焦がれていたことがとても切なくてハラハラしていました~☆
いなくなって初めて知ることができたようです。
もう後は突き進むだけ…?!

> バーの店員が英人に手を出すことはまずないと思いますが、2人で帰ってきた秀人を千城が誤解しちゃったら・・・更に切なくなりそう~(汗)
さすがにこのショック状態の後で、威嚇攻撃は…ショックの後だからあり得るのかな?
千城編を書き終えてなんですが、二人のご対面はまだ先で、あと2話くらい挟みます。

> 野崎との仲はかなりやばくなっていますね・・・。
> どうか、本当の意味で心が繋がりますように☆
はい。彼の存在もかなり考えております。
なんてったって千城とも榛名家ともお付き合いが長く深いので…ねぇ…

コメントいただきありがとうございました。
何があっても英人を取り戻して傷ついた心を癒して欲しい。
コメント甲斐 | URL | 2009-10-19-Mon 11:17 [編集]
千城さん、やっとそんな気持ちに気が付いたんですね。英人を取り戻すためなら名前も今まで築きあげたものも捨ててもいいくらいに欲しているということを。

野崎氏は千城さんからの信用を失いましたね。長い付き合いでしたでしょうに信頼関係をなくしてしまったら仕事上といえどもうまくいかないでしょう。『あなたのため』という押し付けが大きな代償となってかえってきたと理解できるかな。
Re: 何があっても英人を取り戻して傷ついた心を癒して欲しい。
コメントきえ | URL | 2009-10-19-Mon 14:09 [編集]
甲斐様

こんにちは。
さきほどコメ欄にレスを送ったはずなのですが、見事に尻切れとんぼ。
何をかいていたかしら…???(すみません)

> 千城さん、やっとそんな気持ちに気が付いたんですね。英人を取り戻すためなら名前も今まで築きあげたものも捨ててもいいくらいに欲しているということを。
やっとここまでたどりついた模様です。
一度離れたことで、切羽詰まったのでしょうか。

> 野崎氏は千城さんからの信用を失いましたね。長い付き合いでしたでしょうに信頼関係をなくしてしまったら仕事上といえどもうまくいかないでしょう。『あなたのため』という押し付けが大きな代償となってかえってきたと理解できるかな。
信用を失ってしまいましたが、長年の千城と榛名家との付き合いがございますので…、どうなるのかしら…

コメントいただきありがとうございました、
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2009-10-19-Mon 14:31 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: 切ないっす
コメントきえ | URL | 2009-10-19-Mon 15:51 [編集]
T(この場合C様?)様(すいませんっ!変換を良く分かっていないヤツですっ)
こんにちは。お越しいただきありがとうございます。

> 日々の更新お疲れさまです。
> 私も実は一話から読み返して、ますます感動に酔いしれてます(>_<)
うぉおおおっっ!読み直しいただくとボロがっ…(冷汗っ)

> 千城が与えてただけではなくて、英人も同じように、人としての大事なものを千城に注いでいたのですね。。
…らしい、です…。(今更とってつけたように…くっつけるワタシ…)

> 次からどうなることやら本当にドキドキです。
とりあえず、千城編を終了しまして、また次回から英人バージョンで進んでいきます。
英人から見た千城は全く別人でしょうから、今回千城編をちょっとでも書けてよかったかな…と思っています。
> 楽しみにしています!
ありがとうございますm(__)m
ぜひまたお越しください。
コメントいただきありがとうございました。
>
> またまた貴重なスペースに乱入してしまい、申し訳ありません
コメントきえ | URL | 2009-10-19-Mon 16:19 [編集]
MO様

こんにちは。レスが遅くなりましてもうしわけございません。

>千城編」ありがとうございました。
私もいつか書きたいな~と思いながら逃げていた部分がありまして。今回英人と離れたことで、ちょっとくらい…と自らに気合を入れてみました。
千城の知らなかった部分を喜ばれている方がいたようで、私も嬉しかったです。

>今後 英人の事を、ペットの様に溺愛するだけではなく、どのように向き合うのがベストなのかを見つけてくれることと思います。更新を楽しみにしています。
英人は前向きになり、千城も過去も未来も恐れていない状況に達しました。
今後どうなって二人が成長していくのか…私も楽しみです(?!)

コメントいたたきありがとうございました。
(間違いとか気にしませんからいつでもお送りください)
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