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BLの丘
淋しい夜に泣く声(千城) 58-2
2009-10-17-Sat  CATEGORY: 淋しい夜
千城は自分が英人にどれだけ安心させる言葉を囁き、彼を信頼させたかと振り返った。それを目の前の男は土の中の根まで掘り返すようにして枯らさせたのだ。
今の英人にこのような仕打ちを受けてまともに生きていられるはずがないと感じた。根元ごとむしられ真夏の熱く焼けたコンクリートの上に放り出された草花と一緒だ。
完全に、金で買い、捨てたようなものだ。千城が「するな」と言い続けたことを自分で実行したのも同然だった。
あれほど守りたいと思っていた者を、塵か紙屑のように扱う野崎の存在が許せなかった。

千城は社長室を飛び出した。
「社長っ!!」
開かれたドアから野崎の叫び声が響くのと同時に、向かい合った部屋から何事かと広重が顔を出した。広重はすでに千城の怒鳴り声で腰を上げていた。
そして社長室中に散らばった書類の山を見て呆然とした。
少なくてもこれまでに二人が感情を露わにすることはなかったし、もちろんこんな光景も見たことはない。
廊下の端で壊れるほどエレベーターの下りのボタンを叩いている千城を見た時、明らかに何かがあったと判断できた。

なかなか昇ってこないエレベーターにイライラする千城の元に、野崎が近寄る。
「頭を冷やされてくださいと昨夜も申し上げたはずです」
千城の頭の中で点と点が繋がった。
昨夜、あれほど頑なに英人の元に残ることを拒んでいた野崎が最終的には許した。
いつまでたっても譲ろうとしない自分に諦めたのだと思っていたが、たぶん野崎は手配を着々と進めたかったのだ。
英人にも伝えることは伝えたし、英人が野崎の言葉通りに動くと踏んでいたから、最後と思えば情けもかかったのか…。
「クソッ!」
まんまと野崎の掌で操られたことを悟った時、チンと高らかな音を立ててエレベーターが到着した。
開いたドアに乗り込もうとして足を踏み出した瞬間、中に乗っていた人物に息を止めた。
会長である龍之介と一世が並んで立っていた。

「こんなところで何をしているんだ。野崎に話を聞いて出迎えにでも来る気だったのか」
髪の全てを白髪にしてしまったものの、まだまだ充分に昔の威厳は保っている龍之介が、笑いながらエレベーターを降りた。少々身体が弱ってきたとは言っているが、70代だというのに同年代と比べてもはるかに若く見える。
続いて父の一世が廊下で並んだ。千城の鋭い目の形は一世のものを受け継ぎ、彼らが親子だと思わせた。
まさかこの場に来ているとは思ってもいなかった千城は、顔が引き攣りそうになるのを寸前でどうにかとめた。
千城の後ろから機転を利かせた野崎が近寄り、「応接室へどうぞ」とエレベーターから降りたばかりの二人を、社長室よりも手前の部屋へと案内した。
今の自分の勤務する部屋の惨状など見せられたものではない。

千城はこの場から立ち去れなくなった自分の身を呪った。
昨日のうちにスケジュールを確認し食事の予定まで立てたのか、最初からここで待つよう話を仕向けたのは間違いなく野崎だ。さすがにやりかけの仕事を放ってまで退社するとは想定していなかったようだが、絶妙なタイミングで現れた会長たちにほくそ笑む顔が浮かぶ。
先程走ってきた廊下を二人が歩き出すと、千城の目の前で、空っぽのままエレベーターのドアが閉まった。
自分の不甲斐なさを恨み、なるべく早く行くからどうか少しでも信じて待っていてくれと無事を祈るしかなかった。

英人の携帯電話は通じなくなっていた。電源を落としているとアナウンスがあるから解約までは行っていないのだと判断をするが、どうせ時間の問題だろう。
苛立ちが増すだけで、千城は怒りの矛先をどこにぶつけたらいいのか、自身のコントロールさえ危うかった。
これまでどうやって感情に支配されずに過ごしていたのか思い出せないほど、すでに千城は冷静さを欠いていた。
普段であれば千城も応接室で二人の相手をするところだが、仕事が忙しいと言い訳を立てて、一歩も応接室には近づかなかった。それに代わって野崎が相手をしている。もちろん仕事など一つだって片付いてなどいない。
終業時間を前に、秘書室の女性を呼び出し、エレベーターを待機させておくよう指示をした。先程の惨状は女性秘書たちも目にしているだけに、このフロアに居る誰も彼もが今の千城にビクビクしていた。
廊下で待っている間、野崎にでも見つかればまた逃げ道を失うような気がした。ただでさえここには去ることのできない要素が二人も存在している。応接室で二人の相手をする野崎がこちらに顔を出す前に退社する算段だった。
女性秘書を送り出し、暫くしてから静かに廊下に出てエレベーターの方へ視線を向けると、「大丈夫です」と言うように女性秘書が頭を下げた。
物音を立てないように扉を閉め、千城はエレベーターに乗り込んだ。もちろん女性秘書には口止めをしてある。

すべてがうまくいったと思い地下駐車場に降り立った時、何故か野崎がそこにいた。
「どちらへ行かれるのですか?」
何をしても野崎に見透かされていることに益々憤りは激しくなるばかりで、千城は野崎を睨みつけた。
「着替えてくるだけだ」
「それでしたらクローゼットの中に準備してございます」
どこまで用意周到な男なのかと、知ってはいたつもりだったがこの時ほど煩わしいと感じたことはなかった。
千城は無視した。口を開けば罵倒の言葉しか出てこなさそうで、ここでも野崎と惨劇を繰り広げるのは避けたいとなけなしの理性が働く。
待機していた社の車を寄せようとするのを野崎が手を広げて制する。その手を千城は叩き落とした。
本当だったら一発でも殴ってやりたいくらい、胸の中は溶岩のようなドロドロとしたもので埋め尽くされていた。
もう、ちりちりとじわり焦がすようなくすぶりかたではなく、自分の全てを熱で焼きつくすような想いが全身を流れる。
「いい加減にしろ。おまえの指図は受けない」
千城から漏れた声は、地を這うかのように低く響いた。これ以上野崎に振り回されたくなかったし、何よりも英人がどうしているのか気になって仕方なかった。言い争いをしている暇があったら少しでも早く英人を安心させてやりたかった。

怒りも忘れたような盛大な溜め息が野崎から零れる。英人の話題が出てから鋭い眼光を放っていたのに、ようやく諦めの色を覗かせた。
「情けをかければ彼が傷つくだけです。いずれどこかではっきりさせなければいけないのなら早い方が彼の為だと何故お分かりにならないのですか」
諭すように告げた後、「お着替えに戻られる時間だけですよ」と千城を送り出した。
野崎だって人の心は持っている。さすがに今日一日の千城の行動は、彼も体験したことはなく精神的に堪えていた。

漠然と英人と共に過ごすことがあたりまえだと感じていたこの頃。先程感じた喪失感はすでに欲求へと変化し、千城を焦がし続けていた。鉛のような重さが熱に溶けて、血液と共に全身に回っていくようだった。
離れる気などさらさらない。

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コメント

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野崎の言いなりになってる場合じゃないと思うぞ
コメント甲斐 | URL | 2009-10-17-Sat 11:06 [編集]
本当の意味で『野崎だって人の心は持っている』とは思えない。
野崎が考える人の心とは自分が良かれと思って行動することがすべてで、はっきり言って自己満足なエゴだと思う。
千城は、何に捕らわれているのでしょうね。
英人を取り戻すことで会社や家族との関係が壊れるのを恐れているのかな。
何が一番大切かよく考えて大切なものを得るために他の何かをなくしてもかまわないと思うのなら、野崎の言いなりになってうじうじしていないでみんな放り出して英人を捜しに行こう!そうでないなら諦めなくては・・・。
Re: 野崎の言いなりになってる場合じゃないと思うぞ
コメントきえ | URL | 2009-10-17-Sat 13:11 [編集]
甲斐様

こんにちは。
体調不良で午前中、ぶっ潰れた私です。

> 千城は、何に捕らわれているのでしょうね。
> 英人を取り戻すことで会社や家族との関係が壊れるのを恐れているのかな。
> 何が一番大切かよく考えて大切なものを得るために他の何かをなくしてもかまわないと思うのなら、野崎の言いなりになってうじうじしていないでみんな放り出して英人を捜しに行こう!そうでないなら諦めなくては・・・。

千城の気持ちについてはおいおい変化が見られると思います。
前置きが長いようで焦らしてしまっているようですみません。
野崎との確執が生じたのもこいつらにとってはまだ2日目の出来事なので、今までのこととか色々と思うところがあるのではないでしょうか。(←他人事)
今の段階で千城も英人がどこまで崩壊しているのか、想像でしかないし、まぁいるべき場所(アパート)に居るだろうって思っている部分がありますから、そんなに追い詰められていないです。
行けば会えるだろう…っていうくらいの余裕がまだあるみたいです。

コメントいただきありがとうございました。
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