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BLの丘
淋しい夜に泣く声(千城) 58-1
2009-10-16-Fri  CATEGORY: 淋しい夜
こんなところですみません。初めて榛名編を書いてもいいかな…と思いました。というか、英人が立ち去ってしまった後の榛名と野崎の姿がどうだったのかと思い浮かんだので…ってだけです。(数話で終わります)


夕刻も近づいた頃、千城は早々に仕事を切り上げて英人の元に戻りたいと思っていた。
野崎は朝、一日のスケジュールを確認する時に、「今日は外出する予定はない」と伝えてきた。その代わり、朝から膨大な量の書類と資料の確認に当たらせた。
そつなくこなしていけば、昼過ぎに追加をしてきた。
さすがに昨夜、英人の部屋に残らせたことに対する厭味なのだとは思ったが、午後の会議を1時間で切り上げさせれば終わらないこともないと文句も言わなかった。というより会話をする気が起きなかった。
どうでもいいような確認事項まで含まれていたから、社長室から廊下を挟んですぐ隣にある秘書室に向かい、第二秘書である広重(ひろしげ)に直々に届け、処理をしておくよう指示した。
秘書室には雑用までこなす3名の女性が常に待機している。広重は間もなく50歳になろうというベテラン秘書だったが、実力的には完全に野崎にやりこまれていて、もっぱら社内専用という存在になっていた。

もともと野崎は、金融業を担う千城の父一世(いちよ)の会社で秘書を務めていた男だった。入社当初から一世に仕え、みるみるうちに力を発揮し始めた実力者だ。
千城が榛名グループ内で起業すると言った時に、ご丁寧にも野崎を譲ってくれた。
あらゆる事項に精通した野崎なら、若造の千城がやり込められても回避すると踏んでいたらしい。
野崎は実力主義の一世に気に入られていたし、榛名一族と付き合いもあるほどまで親しくしていたから、千城のお守役まで任されていたようなものだった。それまで一家に言われるよう過ごしてきた千城は文句の一つも言わなかった。
幼少時代から千城は親と一緒にいる時間よりも家庭教師や家政婦と共に過ごす時間のほうが長かった。夫婦の間に子供は千城しかいなかったから表面的には可愛がられたが、その愛情は『教育』という表現だった。常に人の上に立つ人間であるようにと言い聞かされてきた。親には従順でいればいいと悟ったのもこの頃だったし、同時に親を越えようという闘争心を漲らせるようになったのも同時期だ。
業務内容に関しては特に野崎に頼るようなことはなかったが、彼に任せておけば安心だという信頼関係はすぐに生まれ、おまけに千城同様洞察力に長けていたから無駄な会話で時間を潰さなくて済んだ。誰が見ても文句の付け所がないほど、二人は光と影のように添っていた。

夕方、社長室に階下に降りていた野崎が戻ってきた。
「19時から会長と一世社長がご夕食を共にしたいと申してきましたので受けておきました」
千城は整った神経質そうな眉をピクンと揺らした。
朝から千城が不機嫌極まりない状態でいることを知っていながら、野崎は昨日のことはなかったかのように立ち振舞い表情も変えずに一日を過ごした。それでいて平然とスケジュールを組みかえるこの男に、これまで言い表したことのないような苛立ちが沸々と湧いた。野崎は今までは必ず千城に確認を取ってから会長や一世に連絡を入れていた。今日に限っては何も聞いておらず勝手に返事をされている。今更同席出来ないと伝えれば会長たちに疑われるのは必然で逃げられないと思っているのだろう。
「お前が行け」
千城は相手にする気はないと、静かに告げただけで書類に目を落とす。野崎が何かを企んでいるようで、そんなスケジュールは聞いていないと取り合いたくなかった。
祖父、父と共にする食事には何かと深い話題が多く、必要性を過去の経験で充分に理解していたが、今日だけは受ける気になれなかった。
出席しない責任は野崎に取らせればいいと内心で悪態をついた。

「ホテルの部屋は全て片付けさせていただきました」
全く関係のない返答に、千城は即座に英人に何があったのかを判断した。そして食事会の話。
たぶん何もかも野崎が手を回し仕組んだことだ。今夜の退社後に千城の行く場所はないと暗に伝えている。
無言で睨み上げれば、野崎も千城の聞きたい答えを何の戸惑いも迷いもなく淡々と語りだす。
目だけで会話が出来るとはこういう時に恐ろしいものだと思う時がある。返す言葉の隙を作らせないのだ。
「暮田さんがご自身でお戻りになられると判断を下されたようなので、残されたものについて処分はホテルに任せました」
野崎の態度は全てが完了したと言わんばかりに落ち着き払い、千城の意思など無視していた。

信じられない出来事だった…。あの英人が自らの意思で立ち去るわけがない…。朝まで隣にいた…。
一晩中抱きしめた。いつ目が覚めても彼が淋しがらないようにとずっと彼の寝顔を見ていた。出てくる時に少し震えていたようだが、また来るからと思いの丈を込めて愛情を降り注いできた。
「ゆうべ、あいつに何を吹きこんだ?」
昨夜の英人にどれだけ問うても、英人は野崎との会話の内容を答えようとしなかった。だから何度も「心配しなくていい」と安心させる言葉を吐いた。
英人は「分かった」と頷いていたし、無理な作り笑いにも気付いたが、自分がいれば英人は安心すると自惚れていた。
英人がホテルを立ち去ったと聞けば、野崎が絡んでいることは明白だったし、たぶんそう促したのだろう。
離れて行く…と感じた瞬間に胸の奥底にフッと浮かび上がった喪失感。過去に一度も感じたことのない鉛のような重みが千城を襲った。
「吹きこんだなどとは失礼ですね。ご忠告を申し上げただけです」
野崎は相変わらず淡々としていた。

千城は思わず立ち上がった。一瞬野崎が驚いたようだがすぐにいつもの姿に戻った。
「どちらへ行かれるおつもりですか?終業時間までまだございますよ」
「自分で確認する」
「本業をお忘れになるのはおやめください」
どこまでも冷静にことを進めようとする野崎を疎ましく感じた。胸の奥で何かがちりちりと焦げ付くようなものがある。
「それにお振り込みも完了させていただきました。暮田さんはご自身のお立場をご理解されているはずです」
足を止めさせる決定打は前の言葉だ。
これこそ振り込みとは何の話だか千城でも理解することは困難だった。
この焼け付くような胸の痛みは何を意味するのだろう…。
千城は足を止めると野崎の元まで一歩二歩と戻った。今にも胸倉でも掴んでやろうかという気迫にも、野崎は一切表情を変えない。
「なんだと…」
「社長のお名前で、『慰謝料』という形で500万円の振り込みを終えています」
鋭い目を見開いた千城は、咄嗟にデスクの上にあった書類の束を野崎に向けて投げつけた。本人に手を上げようとしたのをぎりぎりで踏み止まった。
千城自身、ここまで感情的になる自分が信じられなかったが、間欠泉のように吹き上がる苛立ちだけは押さえられなかった。
「ふざけるなっ!!」
一部は野崎に直接当たり、他は紙吹雪のごとく宙を舞った。
千城の怒鳴り声は秘書室まで届くほどの激昂ぶりだった。

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千城編、普段より少々長くなると思います。ご了承ください。

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コメント

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切ないっす[i:63954]
コメントちぃ | URL | 2009-10-16-Fri 11:58 [編集]
いつも拝見させていただいてます。物語の深さと2人ね心の変化にいつも感動させられてます。アップまで楽しみでなりませんが、お身体を大事に頑張ってください!
Re: 切ないっす
コメントきえ | URL | 2009-10-16-Fri 13:13 [編集]
ちい様

こんにちは。いらっしゃいませ。

> いつも拝見させていただいてます。物語の深さと2人ね心の変化にいつも感動させられてます。アップまで楽しみでなりませんが、お身体を大事に頑張ってください!

いつもお越しいただいているようで嬉しいです。
英人と千城が離れたことで、千城サイドも書いてみようかなと重い腰があがりました。
今まで見えなかった千城のこととかうまく書けたらいいんですけど…伝わるかしら(不安)
お気遣いいただきありがとうございます。
コメントありがとうございました。
冷酷 野崎のヤツめー
コメント甲斐 | URL | 2009-10-16-Fri 17:26 [編集]
野崎氏こんなことして、ただで済むと思っているんですかね。
はいそうですかと簡単に納得する性格じゃないことよく知っているんだから。
仕事のことを考えたら冷静になってすぐ忘れると見ているとしたらまだまだ分っていないですよね。それとも秘策が?

千城さんどうするんですか?
英人くんはホテルにも自分のアパートにもいないし。。。
Re: 冷酷 野崎のヤツめー
コメントきえ | URL | 2009-10-16-Fri 18:46 [編集]
>甲斐様

拍手コメにもいただきましてありがとうございます。
すみませんm(__)m
どっちにどうやって返信をしたらよいのやら…多めに見てやってください。

>榛名さん、負けるな! 非道な野崎さんなんか簡単に許しちゃダメです。> 野崎氏こんなことして、ただで済むと思っているんですかね。
ええ、そろそろ天罰でも下したいところです。
まぁ黙っていない鬼がそのあたりにいるので…。(私は逃げる)

> はいそうですかと簡単に納得する性格じゃないことよく知っているんだから。
> 仕事のことを考えたら冷静になってすぐ忘れると見ているとしたらまだまだ分っていないですよね。それとも秘策が?
ひさくっ?! ありません(汗
もう秋なのに冷汗とかたっぷり放出ですぅ
ちょっ、ちょっと考えないと………

> 千城さんどうするんですか?
> 英人くんはホテルにも自分のアパートにもいないし。。。
どうするのでしょうか。行方不明ですよね…。
樹海に転がっていないことを祈るばかりです。(それは冗談で…)

レスまで回らないどうしようもない頭にお詫びを申し上げつつ、コメントをいただけて本当に嬉しいです。
またお越しください。
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