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BLの丘
淋しい夜に泣く声 56
2009-10-14-Wed  CATEGORY: 淋しい夜
どこをどう歩いていたのかも分からず、この時の英人はぼうっとしながらただ足が動いていた状態だった。
心はからっぽで、あれほど痛かった心臓も胸も今は静かに動き続けている。
ショックが大き過ぎたのか、涙も枯れたように瞳を濡らすことはなかった。
突然、腕を引っ張られた。掴まれても驚くこともなく、気にした様子も見せずにゆっくりとした動作で、自分に近づいた人間を振り返った。
「あんた、何してるんだよ、こんなところで」
ライトブラウンに髪を染め上げ、身に付けた装飾品はどことなく夜の雰囲気を纏わせていた。彼は、なんとなく見覚えがあるような気もしたが、どうせ昔寝た男だろうと、英人は彼が誰なのか問いもせず考えようともしなかった。
とぼとぼと歩いていた足が止まったが、この男が何故自分を呼び止めたのか無心で不思議にも思わない。

腕を一向に離そうとせず、悲愴感漂う英人を放っておけなかったのか口ぶりは、心配している様子を見せながら少し怒っているようだった。
「どうしたんだよ、今にも死にそうな顔をして…。今のあんたみたいなのがこの先に行ったら間違いなく誰かの餌食になるぞ」
その時にようやく英人は自分の足が向いていた方向に視線を送った。昔よく通ったエリアがこの先にはある。男を対象にした飲み屋がほとんどだったが、中には違法に人に身体を売って働かせ、金を巻き上げる店もあると聞いた。
彼が伝えようとする意味をなんとなく理解したが、自分の人生などどうなっても良いと虚ろな目を足元に落とした。

「最近顔を見なくなったから安心してたんだ。もう荒んだ生活から足を洗ったんだろうって。この辺で噂も聞かなかったし、どこかでまともな生活を始めたんだと思ってた。何でこんなところにいるんだよ。しかもこんな、死人みたいな顔で…。何かあったのか?家まで送っていってやるから、もうあんな生活に戻るな」
切羽詰まった様子で彼は英人を掴む腕に力を込めた。
英人は少し驚いた。かつて自分を気遣ってくれるような人間がいただろうか。気遣い声をかけてもらえたことがなんとなく嬉しいとも思った。
この人が誰なのかも分からないのに、英人の薄暗く淀んでいた瞳に少しだけ明るさが宿った。
榛名に突き離されたどん底から、人の温かみを初めて知った時で、心配される声がスッと入ってくるようだ。

「どうした?帰る家も無くなったのか?でも昔みたいに自分を貶めたらダメだ」
言葉を全く発しようとしない英人に、行くあてがなくなったのだと勝手に解釈したらしい彼は、しばらく悩むようにしていたが、表情を不安そうに変化させた。
「もし良ければうちに来ているか?別にあんたに何をしようとかいうんじゃないし。それに俺、これから仕事が入っちゃってるから部屋にはあんただけを残していくことになっちゃうけど。とりあえず、これからを考える時間くらいはもてるだろ?」
『これから仕事』という台詞を聞いて、なんとなく見覚えのあった顔が、昔の記憶と繋がった。
いつも客を取るために通っていたバーのバーテンダーだ。
客を選ぶのにいろいろとアドバイスをくれるほど、心配をかけていたということだったのだろうか。

迷惑はかけられないとゆっくり首を振ったが、彼は「そうしてくれ」とむしろ頼んできた。
「今のあんた、一人にしたら絶対に間違った方向に行っちまう。こんな顔でうろつかれたら、俺だって気になって仕事どころじゃなくなる」
しばらくその場に突っ立ってどういうことかと考えていたら、腕を引かれた。
「自分の家でやましいこと、何もしないって。逆恨みされて放火でもされたらたまったもんじゃないからな」
フッと、「安心して」と言わんばかりの笑顔を向けられた。
懐かしい顔でもこの男は安心してよさそうだ。あのボロボロのアパートにも戻りたくなくて、英人は大人しく従った。

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ちょっと短いですが今日の分ということで…(昨夜も書いちゃったしな…)

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コメント

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コメントきえ | URL | 2009-10-14-Wed 16:43 [編集]
MO様

こんにちは。いらっしゃいませ。

>バーテンダーは、ずっと英人の事を気にかけていたのでしょうか?それとも、野崎にでも頼まれているのかな?千城は、英人の心の内を読み取ってくれるので、たとえ一時離れることになっても、きっと英人を誤解することなく、救い出してくれますよね。更新を楽しみに待っています。

の、野崎の差し金…!?
うーん。この男はどこまでも守備範囲がありそうですからね~。
実はあと1話を出した後で、こうして離れている間の千城の姿を書いてみようと思っています。
そんな中で、英人に対してどうしたのか、少し話がつながるのではないかな…と…(単純に英人だけでは理解しにくい私の力不足です)

ぜひまた遊びにいらしてください。
コメントありがとうございました。
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コメント | | 2009-10-14-Wed 16:53 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: 野崎さん酷いよ!
コメントきえ | URL | 2009-10-15-Thu 00:09 [編集]
K様 (お名前、どうしようかと思ったのですが伏せさせていただきました)

いらっしゃいませ。こんばんは。
たくさんいただいたのでメールでお返事をさせていただこうかと思ったら、何故かうちのパソコンはエラーを起こしてしまったのでこちらからまとめて失礼いたします。
策略の方はご指摘いただいた通りだと思っています。
昔書いたものをあれこれいじってどんどん加えてしまったのがあのザマです。
自分でも後悔していたくらいでした。
今考えれば、よくこんなものを読んでくれる方がいたなぁと恐縮しっぱなしです。

安住と中條は仲の良いお友達の設定です。
けど時々何かの間違いがあるのかなぁ?みたいな想像するだけのつもりが
すごく曖昧なものを書いて、返って皆様を混乱させてしまったようで…(この記事は冷汗かいてました。だったら書くなよって話ですよね…)

淋しい夜を応援していただいているとのことでとても嬉しく思いました。
野崎の人間性をずばり当ててしまうところがさすがK様ですね。
>バーテンさん。(って、実はこのあろ酷い目に・・・はないですよね??)
酷い目に…って鬼のような誰かさんに…ってことですよね…?
私が思っている以上に皆さんが深く読んでくださってて驚きます。

私の文章力があまりにも幼稚で、うまく伝わらない個所がいくつもあると思います。
機械にも疎いしネットやブログという世界も正直詳しい人間ではありませんので、ご不便とかご迷惑とかをおかけすることになると思いますが、なんとかがんばりたいです。

コメントをいただきありがとうございました。
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