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BLの丘
淋しい夜に泣く声 54
2009-10-13-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
英人は部屋を出ろと野崎に伝えられたことを榛名には言ってはいけないのだとなんとなく感じた。
きっとそのことを榛名に伝えれば、榛名はどうにかしようとしてくれるかもしれない。だが確実に榛名と野崎の関係を壊すことになる。そしてグループの中から孤立させることになる。榛名の将来を潰すのと同じことだった。

戻るのだ…。なにもかも、…夢は見るものだと教えられたあの頃に…。
隣に腰を下ろした榛名が泣き崩れる英人を優しい腕で抱き寄せた。
『好き』ともう一度言わせてほしかった。
英人の心などもう充分なほど分かっていると榛名が激しい勢いで英人の唇を覆った。
「んっ」
呼吸を漏らす暇すら与えられなかった。
口腔内を抉る様な行為に、榛名の情が込められている気がして嬉しかったが、もう応えることはできないのだと悲痛な叫びが胸に木霊した。
英人はぎゅっと榛名の首に腕を巻き付け、声にならない言葉を唇の上に乗せた。
「何も不安に思わなくていい。守ってやると誓った」

榛名の言葉がとても柔らかく羽のように英人を包み込んだ。
信じたかったけど叶えられる夢でも喜びでもない。
野崎に言われた榛名の将来を思えば、取り消さなければいけなかったものだった。

明日の朝には荷造りをして…持つものなどほとんどないが、何もかも無かったようにここを立ち去るしかない。
榛名に与えてもらったものを一つでも手にしたら、恋の思い出として毎日悲観に暮れる自分がすぐにでも浮かんだ。

夜の間、一時も榛名は英人を離さなかった。
まるで英人の心の傷を読み取ってしまったかのように、幾度も「心配しなくていい」と繰り返した。
最後の夜くらい、笑顔でいようと無理に笑って見せたのに…。

一睡もできなかった。榛名に心配をかけたくなくて、彼の身体にくっつくように縮こまって眠っているふりをした。
顔を上げたら、もしかしたらまだ榛名も起きていて、視線を合わせてしまうのではないかという怖さがあって、榛名の姿をもう一度見ることもできなかった。またあの鋭い双眼に捕らえられたら、間違いなく自分は罪を犯す気がした。
朝が来て、いつものように英人を起こさないようにと、静かに動き出した榛名が身支度を整える衣擦れの音が聞こえた。
たぶん榛名は、また今日の夜、この部屋に戻ってくるのだろう。
それとも会社で野崎に現実を知らされるのだろうか。
泣かないように目を瞑っているのが精一杯だった。

出て行く直前、榛名がベッドの上に戻ってくるのを気配で感じた。英人はただただ硬く瞳を閉じ続けた。
英人の柔らかな髪を梳き、頬を撫で、瞼の上や頬や唇に幾度もキスの雨を降らせる。
いつ目を開けて榛名の顔を見てしまうか、早く出ていってほしいと願う気持ちと、このまま時間を止めてと神に祈る気持ちが交差した。
最後にぎゅっと力を込めて英人を抱きしめた。榛名の温もりが肌の上に滑ってくる。
やがて、榛名が英人から離れて、寝室のドアを閉められる音が聞こえた。
ようやく大きく息を吐き出した英人は、それと一緒に涙を流した。
もう、逢うことはないだろう…。

その日の午前中のうちに、英人はホテルを後にした。まるで散歩にでも行ってくると言わんばかりの軽装だった。部屋にあったものは何一つ持ち出さなかった。描きかけた絵も置いてきた。
従業員の誰も気にしていない様子だったので、少し安心してしまった。
長い間住み慣れたはずの古い2階建てのアパート。全戸10部屋しかない一階の一番奥にある部屋に入った途端、足のつま先から表現のしようのないみすぼらしい感情が湧きあがってくるのを感じた。
自分がこの数カ月、いかに裕福な生活を送っていたのか、嫌というほど振り返らされた。

最後に戻ったのはいつだったのか、その時にある程度片づけていったから散らかっているということはなかったが、それが逆に何も無さを強調していた。玄関を入ってすぐにある小さな台所と、奥まで見通せてしまうような狭い居住空間。
豪華な家具の一つもあるわけがなく、手前の6畳間には小さなテーブルと座布団、中古屋で買った今にも壊れそうなテレビがあり、その奥に繋がる4.5畳間には粗末なパイプベッドがあるだけだった。
もちろんワードローブの中にも、榛名が買ってくれたような高価な服など一着もない。
もともとここで生活をしていたことが本当に現実だったのか思い出せないほどに、自分の生活感までも榛名に変えられていた。

英人は柔らかさのかけらもない硬いベッドの上に座ってみた。
上半身だけをそっと横にしてみる。寝心地の良さなどこれっぽっちも感じられない。まるで床の上に寝ているようだ。おとぎ話に出てくる「藁のベッド」のほうがよほどふかふかしているのではないかと思った。それでも昨夜一睡も出来なかった身体は気疲れと一人にされた淋しさから、やがて眠りに誘いこまれた。
起きたらご飯でも買いに行こう。仕事も何か探さなくちゃ…。アパートまで追い出される。そしたらどうなっちゃうんだろう…。
まともな生活を思い浮かべる半面で、何も考えたくない、何もしたくないという悲観的な感情が渦巻いていた。
このまま死んでしまおうか…。
涙が一筋だけ頬を濡らした。

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