FC2ブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
淋しい夜に泣く声 31
2009-09-26-Sat  CATEGORY: 淋しい夜
自分の失態を咎められているのかと思えば、体の気遣いまでされる。
ボロ切れのように体を売ってきた自分に、『自分を大事にしろ』と言葉をかけてくれる者などいなかった。
母親だって似たような生活をしていたから、特に悪いことをしているという意識はあまりなかったが、一歩間違えば道端に捨てられていてもおかしくないような生活だったことは確かだ。

『人間』として生きていくために必要なものを榛名から教えてもらっているようだった。
教えてもらっているだけでなく、確実に与えられていた。

体に覚えさせられたのは、人間としての常識だけではなかった。
その後も幾度か抱かれているうちに、榛名の身体にしか反応しないように、いつの間にか躾けられていた。


その日から、幾度も榛名は英人を部屋から連れ出した。
食事は人間の基礎だと言って夕食を共にすることは何度もあったし、来られない時は自動的にルームサービスが届けられた。残された食材も全てチェックされていた。どんな栄養が足りないと小言を言われもした。栄養学の知識まで榛名は持ち合わせていたようだった。(絶対嫌だ、こんなヤツ…)
気分転換だと休日には榛名の運転するスポーツカーで郊外に遊びに行ったこともある。
休日の榛名は威圧感のかけらもなかった。颯爽とする若い青年で、それは初めて見た夜の時のように心が鳴った。
山にある広い公園の中、隣接した小さな動物園でヤギや馬に餌を与え無邪気に笑う榛名の姿があった。
こんな顔をするのか…と驚かされるほど、榛名の表情は柔らかく慈悲に満ちていた。


神戸のギャラリーに数点の作品が飾られることになり、そのお祝として神戸と野崎と共に4人で食事をした。
もともと育ちの悪い英人は、榛名が連れていくレストランが苦手だった。
堅苦しい服はもちろんだったし、何よりテーブルマナーというものを知ってはいてもナイフとフォークは自分の勝手にはならなかった。
今日は更に難所で、目の前に出されたのは豚の骨付き肉だった。

明るい談笑を交えながら食事は優雅に進んでいたが、ちらりと見回した3人は器用に肉を剥がしている。
絶対に自分では出来そうにない高度な技術のような気がした。
だからといって、手づかみでしゃぶりつくわけにもいかない。
一応、形なりに、肉をいじってみたのだが、どうやっても骨が当たってナイフもフォークも食べ物を英人の口に入るようにはしてくれなかった。
それに気付いた隣の榛名が、会話を中断して「ちょっと待っていろ」と英人に声をかけた。

何事かと目の前の二人が黙ったが、榛名は気にした様子もなく会話を続けながら、自分の皿の肉を食べるわけでもなくあっという間に綺麗に身と骨に分けた。
はっきりいえば、フォークしか使わなくても良い状態にしてしまったのだ。
英人が戸惑いも抵抗も感じる間もなく、榛名はスッと自分の皿と交換した。
「え…?」
それと同時に目の前に座った二人の視線が一斉に自分を見た。
出された料理もまともに食べられないのかと非難されているようで、英人は縮こまってしまった。
「どうした?俺の食べ掛けでは嫌か?」
カトラリーを手にしようとしない英人に榛名は口角を上げながら冗談まじりに告げた。

これまでも幾度か、とても食べられそうにない形状の物が出てきたことがあった。
その度に嫌がるわけでもなく、当たり前のように榛名はウェイターを呼びつけ、盛り付けを変えた状態に作り直させた。
さすがにこの場でそのようなことをされたくもなかったが、こうもあからさまにされては英人には恥ずかしさしか浮かんでこない。
『嫌か?』と聞かれれば、そんなことは思いもしなかったから小さく首を振ってフォークを手にした。

相変わらず平然と話の続きをし出した榛名に、暫く黙っていた神戸が唐突に口を挟んだ。
「千城ってば保護者なの?恋人なの?」
「グホッ」
むせ返ったのは英人だった。
飲み込み掛けた肉が気管に入り鼻からかけらが飛び出すのではないかと思った。
「何をしている」
榛名が自分のナプキンを掴み、むせ返る英人の口を覆った。
「おまえが馬鹿なことを言うからだ」
榛名はキツく口を閉じろと神戸を睨んでいたが、まったく気にした様子もなく、「だって、ねぇ」と隣の野崎に同意を求めていた。
クスクスと笑みを浮かべる野崎は分かったように頷きながら「全ては暮田さんの成せる技ですね」と何故か嬉しそうだった。

それ以上は榛名が神戸の口を閉ざしたために、英人と榛名の間柄を追及されることはなかったが、英人は神戸が発した『恋人』という言葉にずっと気を取られていた。
榛名がそんなつもりもなく自分を扱っているのは百も承知していた。
どちらかといえば『保護者』という言葉の方が正しいのではないだろうか。
榛名の前では、自分は子供でしかなかったから、何もかも教えられてばかりだった。
これまで世の男を捕まえ金を貰い渡り歩くような暮らしをしていた自分に、榛名の特別な扱いがあるはずがなかった。
だけど、他人が見ても疑いを持つような触れ合いが存在しているのかと思えば、嫌でも気になる。
榛名がどんな意味を含めて自分に触れているのか…。

何より、確実に自分は榛名に溺れていたのだから…。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
よければポチッとしていってくださいナ…


明日の更新はたぶん無理です。
土日またいで、月曜日になると思います。すみません。
関連記事
トラックバック0 コメント1
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-09-01-Sat 07:59 [編集]
拍手コメね様
おはようございます。

>涙が出るほど切ない話をありがとうです。切ない中にも優しさがあり… 胸が締め付けられます。主人公の幸せを願ってやみません。これからも作者様のペースでの更新を楽しみに待っております

暗い話を書いたなぁと今となって思っているところがありますが…。
辛くても支えてくれる人がいるんだっていう雰囲気が書けて伝わっていたらいいです。
読んでくれて嬉しいです。
コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2019/12 >>
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -


Copyright © 2019 BLの丘. all rights reserved.