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BLの丘
待っているよ 4
2012-06-02-Sat  CATEGORY: 待っているよ
福智の明るい声は周りの人間にも響く。
ふたつ隣の席に座っていた三歳年上の甘木多久(あまぎ たく)が話に入り込んでくる。
三十歳になった彼は知識も豊富、面倒見も良く、年上の人間からも頼りにされ、年下からも慕われている。
裏を返したら”ただのオタク”にもなりかねないが…。
きりりとした眉と少々ボサボサの髪が妙な男臭さを生みだしていた。
「え、津屋崎ってば痴漢にあったの?」
「あってませんよ~っ」
倒した頭もすぐに持ち上がる。
どうして自分がそんな対象にされなければならないのか…。
確かに周りにいる人間を見ていれば、誰よりも背は低いし、筋肉もないし、『逞しい』とは縁遠いかもしれないが。
いくらなんでも痴漢の標的にはならないだろう。
「津屋崎、ラッシュ時、避けてくるからいいかもしれないけど、満員電車になんか乗ったらあっという間に餌食だよな」
「そうそう。筑穂、”癒されたい”オーラ、バンバン振りまいてるもん」
「なんだ、それ~っ」
甘木に同意した福智に、思わず反論の言葉が発される。
“癒されたい”オーラ、ってどんなものだ?! それがどうして痴漢に繋がるんだ?!
「『お兄さんが慰めてあげよう、可愛がってあげよう、癒してあげよう』っていう雰囲気」
「甘木さんっ、そうそうそうっ。つい手を出したくなる」
「"つい”で出されてたまるかっつーのっ」
なんだか良く分からないが、二人して意気投合している内容は筑穂にとって嬉しいものではない。
穂波と嘉穂を送り出し、家のことも片付けてくる筑穂はラッシュ時間の電車とは少しズレる。その昔は満員電車に乗ったこともあったが痴漢などに出会ったことはない。
それは今でも変わらないだろうと思っているのだが、ふたりの見識は違っているらしい。
香春が狙われるというのなら話も分からなくはないが…。

「実際は筑穂のほうが癒し系なんだけどさ。パッと見た目ときにね~」
「津屋崎って下の奴ら、良く気にかけるし、甘えさせてくれる雰囲気ありなんだけど、その反面で”自分も”を醸し出してんの。そこに引き寄せられるっていうかさ~」
一緒に働く自分たちの様子を観察してくれている甘木にも感心するが。
自分が誰かに甘えたいなどと思ったことがあっただろうか。
今は目まぐるしく過ぎていく日々に対応することに精一杯だ。筑穂がやらなければ誰がやる、という気合に埋もれている。
「俺、癒されたいなんて思ってないもん…」
筑穂の台詞に、目の前から盛大な溜め息が聞こえた。
「その無意識さがさぁ~。めっちゃタダ漏れしてんのに~」
「飯塚~。よーく教えてやれ。自覚がないっていつか痛い目にあうぞ」
「俺っすか~?」
「"つい”、手、出してやれよ。そんでもって”癒し系”に癒されて来い」
「なんか、俺まで”お疲れモード”っぽい言い方じゃないですか」
「だってそうだろ。締切に追われて、この二週間、まともな休みも取ってないじゃないか」
何やら腑に落ちないと甘木に向かう福智なのだが、最終的に甘木の意見は、筑穂も福智も似たもんだと判断を下した。
自分の仕事以外、本当にマメに気を使ってくれる甘木である。
でもなんだか間違った方向に括られている気がした筑穂だ。
疲れていない…。自分は疲れてなんかいない、と筑穂自身に言い聞かせる。
そりゃ、今朝は穂波の突発的な出来事に翻弄され、嘉穂の妙に早すぎる成長ぶりに動揺したが…。

「うーん。今日、筑穂に甘えられたら嬉しいけど。でもどっちかというと今の筑穂のほうが何かを求めている感じでしょ」
「そんなことない~っ」
「そんなことあるよ~。だから”癒されたい”オーラ撒いているんだろうが」
「ま、津屋崎も家のことでいろいろあるからな。溜め込むだけじゃなくて吐き出せる場所、持ったほうがいいよ。そのままじゃ満員電車でなくても痴漢にあえるぞ」
「甘木さ~んっっっ」
口々に言いたいことを言われて、結局福智との関係を薦められて、どうしてそっちに話が流れるのかと思う。
福智とは仲良くしている方だとは実感があるが、今の関係で充分であり、手を出される存在にはならなくてもいい。
それよりも何故今日に限ってこんなに構われて言われるのかが理解できなかった。
『痴漢にあったのか?』の質問から随分と方向違いの話に展開しているような気がする。
「もう…」
筑穂が、くだらないと話を切り上げようとすると、からかわれていたのか、二人も口を閉じてくれた。
結局、どう、いつもと雰囲気が違っているのかの原因は分からずじまいで話が終了する。

仕事を始めようとしたそのタイミングのとき、穂波の学校から電話が入った。
時間にすればもう一時限目の授業が終わっている頃だろう。
この三年間、不思議と担任が変わることがなく、またバスケ部の顧問まで兼任してくれているおかげで、筑穂も親しみがあった。
学校の教師陣の中で唯一知っている人、といっても過言ではないくらい。
声を聞けば彼の容姿が脳裏に浮かんでくる。
三十代の半ばくらいだっただろうか。運動部の顧問をしているせいもあるのだろう、頑丈だし精神の強さを感じさせてくれる人だった。
鼓膜に響く音声は結構な低音だ。
『大野城(おおのじょう)です。津屋崎君、まだ登校していないんですけれど、何かありましたか?』
「はぁっ?!」
機械音が流れるオフィス内。たまに人の話し声もありはするが、突如上がる筑穂の大声に周りの人間は何事かと一斉に振り返る。
「ちょっ、なっ?!えっ?!行ってないっっ?!」
『ええ、遅刻かなと思って待っていたのですが…』
今朝の行動を思い出す。朝練に行くのだと、弁当まで持たせた。筑穂の脳裏を過るのは最悪なパターンだけだ。
一気に血の気が引いた。

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コメント

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だ、誰と?
コメントちー | URL | 2012-06-02-Sat 02:58 [編集]
兄ちゃんのお相手は誰なんだぁ!
怪しいのが三人も。

先生かしら?
それとも、先輩?同期?
まさか、まだまだ出てきたりして(笑)

穂波はサボりかな?バイトしてたりしてね。兄ちゃんばっかりに負担はかけられないとか言って。

しかし、謎解きしてるみたいです。
犯人(恋人)は誰だ!
あー、明日が待ち遠しい。
Re: だ、誰と?
コメントたつみきえ | URL | 2012-06-02-Sat 06:37 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 兄ちゃんのお相手は誰なんだぁ!
> 怪しいのが三人も。
>
> 先生かしら?
> それとも、先輩?同期?
> まさか、まだまだ出てきたりして(笑)

怪しいのが(爆)
あまり焦らすのもなんなので、一気に出してみました。
まだ増えるかもしれませんね~。

> 穂波はサボりかな?バイトしてたりしてね。兄ちゃんばっかりに負担はかけられないとか言って。

Σ (゚Д゚;)
……ナ、ナニモ言ワナイデ去ル……

> しかし、謎解きしてるみたいです。
> 犯人(恋人)は誰だ!
> あー、明日が待ち遠しい。

週末、パソコンに向かうのが難しいので『明日』がありますかね…。
短くても何か書けたらupしていこうと思います。
精々(←失礼な)色々な予想(妄想)を繰り広げていてくださーい。
コメントありがとうございました。

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