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BLの丘
淋しい夜に泣く声 27
2009-09-23-Wed  CATEGORY: 淋しい夜
英人は希望と絶望の狭間を彷徨っていた。
この一週間で自分の心に受けた傷はだいぶ回復していた。
神戸から聞かされた、榛名が自分に期待を寄せるという発言がさらに上薬となって癒されていた。
榛名に対して恐怖以外の感情をいだき、再び会いたいとまで思わせていた。
それなのに…。野崎から生活の全てを見られていたと聞かされれば、やはり籠の中の鳥なのだと嫌というほど認識させられた。

言葉を返さず、うろたえるような英人の姿を見て、野崎は自分が失言を犯したと咄嗟に判断したらしい。
申し訳なさそうに英人を気遣った。
「たまにはお友達とお出かけになられたらいかがですか?気分転換も必要ですよ」
野崎は提案をしてくれたが、とてもそんな気にはなれなかった。
榛名の許可を得ずに勝手なことをすれば、次はどんなひどい仕打ちが待っているのかと想像するだけで身震いがする。

英人が小さく首を振ると、どうしたらいいものやらと野崎の考えるような仕草が見えた。
「社長は明日お戻りになります。たまにはお食事にでも誘うようお伝えしておきましょうか?」
「え?戻る…って…?」
野崎から愛おしむように声をかけられれば、何事かと思う。
心底英人が不思議そうな顔をすれば、それこそ驚いたように野崎の目がピクンと一瞬だけ開いた。
「お聞きになっていなかったのですか?ニューヨークに出張に行かれていたのですが」

初耳だった。榛名が最後に会った日に何かを言いかけたのはこのことだったのだろうか。
この一週間、全く姿を現さなかった理由を今知った。
榛名の目が届かないから余計に厳しく監視されていたのかと改めて思った。
聞いていなかったと返事をするまでもなく、英人の態度を見て内心など打ち明けたも同然だった。
「私は一日早く戻っただけです。社長がどうしても寄りたいところがあるとおっしゃったので帰国日を変更いたしました」
野崎は英人が尋ねるよりも先に答えた。

榛名と別れた瞬間から、屈辱を味合わされもう顔も見たくない…という思いがあったが、今日の神戸の話を聞いてから真逆の方向へと変わった。
確かに自分の体に受けた、恥ずる行為は印象として強く残っていた。
自分が間違いを犯した罰だったのだという理由付けがあっても、気持ちがある人間としては乳飲み子のように平気で下を汚す人間として見られたくなかった。あまりにも恥ずかしすぎて、だから逢いたくないと思い続けていた。
だが、別れ間際の一瞬だけ見せた優しさに何の意味が込められていたのだろうか。今はその真意を知りたい。

英人が表情を変えず、むしろ考え込むように俯く姿に野崎は何かを感じたのか、それ以上榛名の話題を振ってはこなかった。
「プロジェクトとしての開始はまだ先ですが、水面下では色々と動きが出ているのですよ。暮田さん(←暮田英人〈くれたひでと〉です。苗字なんて忘れたよ…)の作品を、神戸様も楽しみにしております。気に病むことなくお好きなだけ描かれてください」
励まされている言葉のようにも聞こえた。

今日、神戸にも同じことを言われた。
「心の中のものを絵にすればいい」と…。
振り返れば榛名もそう言っていた気がする。今となってはもう、あまりはっきりとは思い出せない。
今は籠の中の鳥であってもいつか羽ばたける時がくるのだろうか。

野崎の言葉にもじんわりと染み込むような温かさを感じたのは確かだった。
「あ、り、がとう、ございます」
掠れるような声だけが漏れて、気遣うように野崎は原案を英人の手元に残したまま、「失礼します」と部屋を出て行った。

ポロリと零れた涙は何に向かってだったのか自分でも分からない。
嬉しさなのか悲しみなのか、それとも誰かに対する感謝なのか…。


次の日の夕方、英人が待っていたのを知ったかのように榛名の姿が部屋に入ってきた。
見慣れないポロシャツとチノパンという軽装だった。おまけに髪形も崩れて…洗いざらしといった方が正しいのだろうか…。
一瞬誰が入ってきたのかと警戒したくらいだった。部屋のカギは榛名と英人しか持っていないはずだったから…。
手には袋を下げていて、画材の前に座り茫然としていた英人の前に差し出された。
「おまえに土産だ」
声を聞いて初めて榛名なのだと気付いたくらい、穏やかな表情をしていた。

渡された袋の中には数冊の絵画集が収められていた。
「美術館に寄ったからおまえのためにと思って」
中身を見れば、それらがニューヨーク市で有名な美術館で売られているものだと知った。
一冊や二冊ではない。集められるようにして収められた絵画集の一冊を開いた時、英人の眠っていた血がざわざわと動き出したような興奮があった。
「…あ、これ…」

英人はなけなしのお金でイタリアに出向いたことはあったが、それ以外の国には足を踏み入れたことが無かった。
世界中に展示されている作品を、日本で売られている絵画集の中で幾度か眺めたことがあっても、榛名が『土産』として持ってきたものは規模も量も上回っている。
それに買い求めることができず、英人は図書館でしか見たことがなかったから、こうして自分のものとしてじっくりと眺めることなどなかった。
手元で眺められる…。たったそれだけで喜びが生まれたほどた。

喜びに満ちる英人を満足そうに眺める榛名に、凌辱を受けた時の威圧感も恐怖も浮かばなかった。
風貌が違うせいなのだろうか…?どうしてこうもこの男は雰囲気をガラリと変えてしまうのだろう。
まるで別人に出会った気にすらさせられる。
榛名は英人の手にされていた画集をスッと取り上げた。そして逞しい胸に英人を迎え入れた。

「あとでゆっくり見ろ。今はおまえを抱きたい」

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