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BLの丘
淋しい夜に泣く声 26
2009-09-23-Wed  CATEGORY: 淋しい夜
その後、温かな紅茶と甘いケーキを用意してくれて、神戸は色々な事を話してくれた。
思えば、英人は榛名のことなど何一つ知らない自分に気付いた。
ギャラリーの奥に備えられたソファーセットに身を置き、甘い紅茶を一口すすった。

「千城とは昔からの悪友でさ。といっても千城は昔から雲の上を歩く人間だったけど。僕ね、以前は榛名グループのデザイン部にいたんだよね」
明るい笑顔を崩すことなく過去の話から切り出した。この二人は学生時代に知り合ったとのことだった。
「千城が建設部の方で別会社を立ち上げるって聞いた時に、上下関係になるのがなんとなく嫌で、それをきっかけに会社を辞めてフリーに。まぁほとんど榛名…というか千城かな、のバックアップがあってここまでこられたようなもんだよ」
結局自分だって、一つのチャンスから生まれた人間なのだと英人に言って聞かせた。
ギャラリーの半分は榛名個人が融資しているのだという。
「会社自体が違うから上下関係も何も、特別に関係してこないけど気分的に嫌じゃない?社長職なんかに就かれちゃったら」
美しい模様の施されたティーカップを口に付け、一向に手の動かない英人に、「ほら、食べなよ」と促してくる。
榛名の話に気を取られていた英人は、最初の一口を飲んだだけで神戸の話に引き込まれていた。

英人がフォークを片手にケーキに立ち向かうのを確認して、神戸は続きを話した。
「千城って会長の直属の孫なんだよね。小さい頃から英才教育ばっちり受けてきて分野も知識もそれはそれはとっても広く深く。本当に人間の脳はどこまで記憶と判断が出来るのかと感心させられるよ」
肩をすくめながら冗談半分に話してはいるが、榛名の存在を認めているのは確かだった。
それはなんとなく英人も感じていた。あの確固たる態度は自信がなければとれないだろう。
英才教育を受けたというだけではなく、たぶん本人に探究心や闘争心が人一倍にあったから今の地位があるのではないだろうか。

神戸は榛名のことを色々と聞かせてくれた。
日本の大学で工学を専攻し、アメリカに渡り建築と経営を学んだこと。ヨーロッパに留学もしたことがあって、多少の美術にも詳しいこと。
大学時代から幾つかの特許を持っていて、榛名グループに名前を置く前にすでに会社を経営していたこと。
20代のうちに今の会社を立ち上げたこと。

どれをとっても英人とは生きていく世界が大きく違う人間なのだと思わされた。
神戸に言わせれば、そんな人間に目を留めてもらったことを幸せに思わなくてはいけないんだろうな…と漠然と感じた。

「千城は英人君のことをとっても大事にしているし期待しているよ。だから自信をもって心の中のものを絵にすればいい」
英人は予想もしていなかった言葉が神戸から飛び出して、手にしていたフォークを取り落としそうになった。
…大事?…期待?…
大きな目を見開いて神戸を見返せば、無言で「うん」と頷かれただけで、それ以上のことは言ってこなかった。
英人は声も上げられず、これまでのことが脳裏をぐるぐると駆け巡った。
榛名に出会ってから僅か1ヶ月足らず。浴びせられたのは鋭い眼光とキツイ言葉、他人には言えないような濃密な逢瀬…。

榛名に会って何かを聞きたかった。何を聞きたかったのかは分からなかったが、とにかく榛名に会いたいと思った。
これまで、二度と現れなければいいと思っていたのに、神戸の言葉を聞いた途端に熱い血が巡っていくのを知った。
でも榛名はもう何日も姿を見せない…。
それは自分が悪いことをしたからなのだと、改めて思い知らされた。


その日の夜、久し振りに野崎が顔を見せた。
「原案を作成してみたんですよ。形になると印象も変わるでしょう?」
ポスターの大きさの紙には、色々な角度から捉えた写真が並べられ、キャッチコピーや説明文、そして英人の描いた絵が中央に収まっていた。
広告をデザインする仕事に就いていたから、その完成度の高さに感心されたところもあった。
しかし何と言っても、自分の悪戯半分に描いた絵が、こうも形となって表されていることが何よりの驚きだった。

渡されたポスターの原案をしみじみと眺めていると、野崎の心配げな声がした。
「お痩せになりましたね」
ドキッとして思わず野崎の顔を振り返る。
眼鏡の奥から英人の全身を観察するような視線が投げられていた。
榛名の洞察力にも感心するところはあったが、この男の方が数枚上手なのではないかと時々思う。
たぶん、ほとんど一瞬で状況を判断できるほどの能力を持ち合わせているのではないだろうか。
「そ、…うですか…?」
さりげなくとぼけてみたつもりだが、野崎には意味がなかったようだ。
「お食事もほとんど取られていなかったようですね。外食でもお召し上がりになられていれば別ですが、お部屋からも出られなかったようですし」

まるで監視されていたかのような発言に、いつかの榛名の言葉が浮かんだ。
『ホテルは俺の所有物だ』…と。
何かの線が繋がった気がした。
今日の昼間、初めて声をかけられたコンシェルジュ。何を告げなくても当たり前のように送迎した車。いつも気遣うように訪れてくれたルームキーパー。

全ては榛名が自分を監視するために置いた人間だった。

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