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BLの丘
悲しい夜に泣く声 25
2009-09-22-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
榛名の姿を見なくなって一週間が過ぎた。
部屋の電話が珍しく鳴ったかと思うと、相手は神戸だった。
『千城にギャラリーを見せるように言われていたんだけとなかなか時間が取れなくてゴメンね。急な話で悪いんだけど、今日出て来られそうかな?』
神戸だってたくさんの仕事を持っている。状況は理解できたし、神戸の手を煩わせたくもなかった英人は快諾した。

榛名も承知の上と思えば心も軽かった。長く籠り外の空気を全く吸っていないことにようやく英人は気付いた。
どれだけ長い時間が過ぎていたのかも最初は曖昧だった。
昼夜なく好きな時に好きなだけ好きな事をする…。
酷い目にあって2、3日の内は『夜には榛名が来る』という意識が働いていたが、放置されていることになんとなく気付いた時から生活のリズムが狂いだしていた。
もし自分が寝てしまった時に榛名が来ても、言われたように相手をすればいいだけだ、という開き直りもあったから、生活態度はどんどんと悪くなったのかもしれない。

神戸との約束の時間を決めると、間に合うようにと早速身支度を整え部屋を出た。
ロビーへ出ようとしたところで白髪交じりのコンシェルジュに呼び止められた。
「お車を手配いたします」と丁寧に頭を下げられ面食らった。
これまでどこに行こうと自由に行かせてくれたのに、こんなことは初めてだった。
すでに行先を知っているような態度に訝しさが浮かぶと、「先程神戸様からお話を伺っております」と先に答えられてしまった。
神戸が部屋の電話にかけてきた時にホテル側にも伝えたのだと分かったが、何故そんなことをする必要があるのかまでは、英人の頭では理解ができなかった。

言われたように用意された車に乗り込み、行き先を告げなくても運転手は目的地へと向かってくれた。
ギャラリーに着いても運転手は代金を告げもしないし、それどころか自分が降りてドアまで開けてくれた。
それに気付いた神戸がギャラリーの外まで出迎えてくれる。
英人は突然、世界がガラリと変わってしまった感覚に落ちた。

「突然、ごめんね。でも良かったよ、今日英人君の都合がついて」
神戸はシャツにスラックスを合わせただけの軽装で、ニコニコと笑みを浮かべた。
「さぁ、どうぞ」
と促されて白壁に間隔良く作品が並べられた店内へと足を踏み入れた。
久し振りに見る他人の絵はとても新鮮だった。
ここのギャラリーには色々な画家の絵が飾られている。美術界では有名な画家の名前もあったし、全く聞いたことのない新鋭の人の作品もあった。
どの作品も躍動感があって惹きこまれる。自分が描いた稚拙なものとは大きく異なる気がした。

「いくつか店舗はあるんだけど、ここに英人君の絵を飾ろうと思っているんだ。どぉ?」
銀縁の眼鏡をかけた秀才は確認を取るように英人に尋ねた。
英人にしてみれば、自分の絵が飾られるなど、これまでの人生でほんの一秒だって思ったことがなかったから、場所があること自体が不思議で、夢のような話だった。
都内に構える一等地。並べられる作品と自分のものが比べられるのかと思えば展示されることの怖さが占めていった。
「え、ここに?…うそ…無理…」
「どうして?」
萎縮し戸惑う英人が怯えにも似た声を上げれば、不思議そうに覗き込む神戸の姿があった。
「だって…、だって絶対…、これほどの人たちと並べられない……」
武者震いをする英人に、神戸の声は優しく降り注いだ。

「『絵』って見る人によって印象は全く変わるんだよ。100人の人間が嫌いと言ったとしても、一人はこれだけが良いって言うんだ。万人に受け入れられるのが全てじゃない。見る人の心をたった一人でも捕らえられればいいんだ。一人だけに認められたとまずは思ってごらん。君は千城に目を留められたんだよ。運がいいんだって思えないのかなぁ」
諭すように言われたが、神戸の言葉が飲み込めるまでには長い時間がかかっていた。
一人に認められたというだけで、その先に何があるというのだろう。その後にたった一人に見放されたら結局同じじゃないか…。
無言のまま、すでに飾られている数々の展示品に視線を這わす。
束の間の時間を置いてから、神戸は言葉を続けた。
「世の中には絵を描きたくても描けない人など五万といる。英人君だってそんな一人だったんじゃないの?たった一人でも目を付けてくれた人がいればそこからチャンスは無限大に広がっていくんだ。千城に目を留められここに展示をされ、新たに顧客が増えるという可能性を生み出せないの?飾れない人は一生のうちに一度も飾ることなんてできない。たった一人ですら目にしてもらえない。ただ埋もれていくだけだ。怖気づいていたらどんな世界だって渡っていけない。君が違う世界を生きたいのであれば僕は無理に止めないし君の好きにしたらいい。ただ今は、君のために用意できる場所があることを忘れないで」

英人は薄暗く沈んでいた心にポッと灯りが灯った気がした。
この数日間、自分は榛名の置き人形になるつもりでいた。絵を捨てるつもりはなかったが、心の奥底では捕らえられ離れられない虫けらのような自分だと思っていた。
榛名が目指したのはそんな世界ではないと神戸は言う。
自分を一人の人間としてきちんと立たせてくれる機会を、榛名が用意してくれていたのだと、今頃になって気付く。
身体の奥底から沸き上がる、まるで血流が逆流しているかのような苦しさと、言いようもない感動に知らずに涙が溢れた。

神戸は英人の涙を気にすることもなく、淡々と告げた。
「この場所に決めたからね」

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なんとなく悲しくてもう一本上げてみました。
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