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BLの丘
ふたり 15
2012-04-24-Tue  CATEGORY: ふたり
旭が投げたグラスが割れなかったのは運が良かったことになるのか…。
濡れた伊吹は自分に非があることを晒したせいもあるのか、文句もなく、何も言葉を発さなかった。
「多賀…さん、貴方、最低…」
ポツリと呟いただけで旭は即座に席から立ち上がっていた。
旭が抱かれて心地良かった空間があったのに、頭から否定してくれたのだ。
悔しさと憎しみ、悲しさでいっぱいになる。
伊吹自身、呼ばれた理由が信楽のことであったのなら、誘いに乗ってくることはなかったのかもしれない。
だけど旭の言葉には、一つの肩の荷が下りたような雰囲気すらあった。もちろん、信楽が新しい恋に向かえるかもしれない安堵を見つけたからなのだろう。
『抱いた』という言葉が大きな意味を持っている。
そうなれることを感じたから、正直に過去の出来事を口にしたのだろうか。
苦しんだふたりのことは分かっても、今の旭に伊吹を気遣ってやれるような精神状態はなかった。

旭は食事代だという意味をこめてテーブルの上に札を置いた。
そのことに伊吹は声をあげそうになっていたが、それよりも早く旭の体は店内から飛び出していく。
すぐにでも信楽に会いたかった。
しかし仕事中に会いにいけば、信楽は快く思わないだろう。
伊吹との過去を思い返させたくもなかった。もう二度と、信楽の口から『伊吹』という名を聞きたくもない。
彼らの事実を改めて知ったことも、信楽にわざわざ教えたくない。
そんな過去があっても、まだ信楽が伊吹を思っている事実が信じられなくもあった。

「なんで…?」
旭の気持ちは独り言となって零れ落ちた。
何がそんなに良かったのだろう。自分では伊吹を越えられないのだろうか…。
道行く人に時々ぶつかり、だけど急いで会社へと戻った。
どよんとした雨雲を背負い込んだ旭の姿には、他の社員からも疑問の声が発される。
昨日といい、今朝といい、旭の機嫌は高気圧に覆われていたはずなのに、「昼食に出る」と言い残してから戻った午後は最悪の雰囲気を隠しもしない。
40代になる営業所長が、感情の起伏が激しい旭に向かって、あからさまに注意を促したほどだった。
「そんな辛気臭い顔でいたら客も逃げるだろうよ。仕事中くらいしゃきっとしろ。シャキッとぉ」
「しょちょぉ~」
だけど返ってくる返事は甘えたい気持ちをまとった、ヤル気のないものだった。
それでも残業などしたくない旭は、どうにかこうにか仕事をやり終える。
こんな日に旭に残業させたくない思いは、他の社員も認めるところがあるのか、頭を抱え、ため息まじりに見送ってくれた。

旭は一度家に戻ると、着替えをバッグに詰め込んで部屋を出た。
行き先はもちろん信楽のマンションである。
事前に連絡を入れるべきなのだろうが、今朝尋ねた「また来てもいい?」の質問に信楽は明確な答えをくれなかった。
電話口で断られてしまっては、向かう口実がなくなる。
信楽の性格を思えば、突然訪れても無碍にされることはないだろう。
もう一度旭を包みこんでもらって、自分という存在が身近にいることを教えたい。
信楽が満足させてくれる体は、旭が持っている…。
それだけではなく、旭も信楽の過去を拭い去ってやりたかった。
“あんな”伊吹に傷つけられたままではなく…。

まさかの訪問にやはり信楽は驚いていたが、「会いたかった…」の台詞に、困ったように笑みを浮かべて出迎えてくれた。
旭は顔を見るなり、すぐ信楽の体に縋りついていた。まだ玄関を入ったばかりの場所である。
自分から抱きつく旭に、またもや苦笑に似たものが浮かぶ。
たった一度の交わりで、恋人気分になってしまうのは早すぎると分かっているけれど…。
思いの丈をぶつけて旭に心を開いてもらう手段しか脳裏にない。
「高島君?」
「『旭』って呼んでくれるって言ったのに…っ」
正直に不満を漏らせば、ふわりと笑った信楽が、「そうか…」と駄々をこねる子供を見る視線に変わる。
昨夜の、そして今朝の出来事は、信楽にとって一時の、気まぐれな情事になってしまうのだろうか…。

「もう仕事は終わったの?随分と早いね」
「今日は”ノー残業デー”」
「そう…」
本当に信じてくれているかは疑問だ。昨日だって同じような時間にウキウキ気分でやってきた。
そう毎日定時で上がれるはずがないとは、年上の信楽のほうが理解しているのではないか。
「とりあえず、上がって。お茶でも淹れてあげるよ」
せっかちになる旭を宥めようとするのか、落ち着かせようとする台詞が吐かれる。
体を離される行動に、旭はまた強くその体を引き寄せた。

「信楽さん…、今日も抱いて…」
甘え強請る旭の態度に、信楽の瞳が見開かれた。
心がまだ無理なら、まずは体から…と考えるのが、今の旭だ。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-04-24-Tue 00:12 [編集]
今の旭に
「急いては事を仕損じる」と、ひと言
今の信楽に
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と、・・・って ちょと違うなぁ~(笑)

まぁ そんな感じって事で♪Σd(ゝ∀・)...byebye☆
若いなあ
コメントちー | URL | 2012-04-24-Tue 05:00 [編集]
なんだー、旭ったら一言しか言わないで出ていっちゃったわ。
最低だなんて、伊吹自身がよくわかってるんだけどねえ。
ふっ。旭・・・

残された伊吹はどうしたかな?
(何だかんだ言っても伊吹が心配)
あ、甲賀に慰めてもらえるかあ(笑)

信楽さん、素直にね。怖がってたら失うばかりだよ。
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-24-Tue 07:01 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 今の旭に
> 「急いては事を仕損じる」と、ひと言
> 今の信楽に
> 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と、・・・って ちょと違うなぁ~(笑)
>
> まぁ そんな感じって事で♪Σd(ゝ∀・)...byebye☆

そんな感じ(笑)
どっちでしょうかね~。
今のところ旭に軍配があがっているような気がしなくもないですが…。
信楽、黙ったまま旭に流されて行きそうで…。
旭は真正面から切り込んでいきますからね。
我が儘なお子様だぁ。
コメントありがとうございました。

Re: 若いなあ
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-24-Tue 07:19 [編集]
ちー様
おはようございます。

> なんだー、旭ったら一言しか言わないで出ていっちゃったわ。
> 最低だなんて、伊吹自身がよくわかってるんだけどねえ。
> ふっ。旭・・・

感情まかせに暴行(?)して、これ以上言いたいことも言葉にならなかったんでしょうか。
それくらい胸の中でモンモンとしちゃったんでしょう。
伊吹も自分のしたことは理解しているしね。
旭に何されても文句なんて言えないよね。

> 残された伊吹はどうしたかな?
> (何だかんだ言っても伊吹が心配)
> あ、甲賀に慰めてもらえるかあ(笑)
>
> 信楽さん、素直にね。怖がってたら失うばかりだよ。

伊吹は黙々とご飯でも食べて帰ったでしょうか(笑)
さすがにそれはないだろうけど。
「仕事、さっさと終わりにして帰ってこい」くらい言ってるかも?!
「アノヒトにも"良い人"ができたんじゃん」って宥められて腕の中でゴロゴロしてそうです。
信楽も過去の失敗を胸に刻んでいますからね。
気持ちを伝えることの大事さは一番分かっていることだし…。
コメントありがとうございました。


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