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BLの丘
ふたり 10
2012-04-19-Thu  CATEGORY: ふたり
翌日、信楽から誘いを受けた旭がまともな仕事などできるはずがなかった。
2DKのマンションに案内した新婚らしいカップルに対しても、「一緒に住めるっていいじゃないですか~。広すぎて離れるより、そばにいてお互いを感じられる方がいいですよ~」と個人的な意見が混じる。
いや、個人的な意見が入るのは今までもあったことだったが…。
信楽の言葉があるせいか、イチャイチャベタベタする奴らが羨ましくて、嫌味すら零れてくる。
そんなトゲトゲしい発言は控えられるべきなのだが、旭の言葉に納得してくれるところもあるようだった。
憧れは人を刺激していたりする。
『一緒にいられる』…。
いまの旭にとっては夢のような空間で、そうなれる人たちが羨ましくて仕方がなかった。
そここそ、公私混同された職場だったのかもしれない。

「いぃ、間取りよね~」
「日当たりもいいよな」
そんな会話を後押しして、「人気物件なんですよ」とさっさと契約を促す。
いつか自分もこんなふうに誰か(誰かは今の頭の中に信楽しかいないが)とかわしてみたいものだと、憧れが渦巻いた。
彼らとは仮契約を結んで別れた。
一仕事を終えた気分は、いつもよりも清々しい。

「お先にしつれいしま~すっ」
何より早く帰りたい気持ちが勝った。
契約をもぎ取ってきた今、無駄な残業に付き合わせるほど無粋な社員たちではなかった。
仕事とプライベートを分けさせた信楽の発言は、旭の行動をテキパキと動かす元ともなっていた。
今までとは違う、効率の良い展開が日々繰り広げられている。
その良さは、旭より周りを囲む人たちが判断できるくらいだった。
旭の退社の挨拶にも快く見送ってくれる。
特に今日は、この後に待つ”なにやら”を感じるから、止めもしなかった…というべきか。
若い人の出会いを咎めない、そんな優しさがうかがえる職場は、働くにしても何にしても気持ちが良いものである。

旭はまっしぐらに信楽の家へと向かった。
会社を出る時におおよその到着時間は伝えてある。
早かったのか、驚かれたような返信はあったけれど、拒絶はされていなかった。
そのことはますます旭の気分を盛り上げてくれた。
信楽に何か手土産を用意するものだろう…。そう思いながらも、好みが何であるのかまだ知らない。
差し障りのない、日持ちのする焼き菓子を購入して、一路目的地へと足を速めた。
出迎えてくれた、久し振りに会う信楽は、前ボタンのシャツのいくつかをはずし、エプロンをかけたスタイルだった。
初めて訪れる…ということを忘れたように、自然と招き入れてくれる。
「思ったより早かったからびっくりしちゃったよ」
話しかけてくれる態度も違和感のない、友人を相手にしたようなもの。
そこには”恋愛感情”など存在しないのだろうか…。
それでもいいと望んだのは旭自身だったし、ヘタに突っ込んで今の関係が崩れるのも恐れた。
「あ…っと、キリついちゃったし…」
「もうすぐできるよ。その辺りに座っていてくれるかな」
案内されたリビングダイニングは、ほこりの一つも落ちていないほど綺麗に清掃され、無駄なものが何もない整理整頓された空間だった。
旭が暮らしている空間とは違いすぎる。
さらにそこに漂う香ばしい匂い。

居た堪れない思いがふつふつとわき起こってくる。
人の家を勝手に歩くのはいかがと思うが、じっとしてもいられなかった。
上着だけをソファの上に置いて、旭はキッチンにいる信楽のそばに寄った。
「え…、と、…あの…、俺、何か手伝えますか?」
タダメシを食べに来たわけではないし、できるだけそばにいたい…。全てをお任せする、情けない男になりたくはなかった。
旭の心情を読みとったのか、信楽は特に嫌がる素振りも見せなかった。
「本当に簡単な料理ばかりなんだ。…うーん、グラスとお皿を運んでもらおうかな」
旭の気持ちを蔑ろにすることはない。落ち着きのなさは感じられていることなのだろう。動くことで緊張を少しでも取りはらってしまうこと…。
すでに用意された食器をそれぞれダイニングテーブルに運ぶ。
取り分けられたスープカップや用意されたサラダボウルなどを順に運んでいるうちに、メインディッシュとなる魚のムニエルとフランスパンが整えられた。
どこのレストランのメニューだと旭は目を丸くする。

「い、いつもこんなの食べているんですか~っ?!」
「まさか。俺なりのおもてなし料理ってところかな。雑な所があるけど。高島君がくるっていうからね。でも満足いただけるかな」
「しますっ、しますっ、させていただきますっ」
どこの友人宅に訪れたところで、手料理でもてなされたことなど稀だし、しかもこんな高級に見える盛り付けは出てきたことがない。
不満など微塵も生まれないといったところだ。
半ば呆然としながら、促されるままに椅子に座った。

過去と比べたくはないが…。
伊吹は常にこのような料理を食べて過ごしていたのだろうか。
そして挙句には、何が気に入らなかったのか、別れたのだろうか…。
かつての、伊吹の席を、信楽は旭に譲り渡してくれる気があるのだろうか…。

複雑な思いが脳裏を横切るが、改めて顔を合わせて共に味わった食事に、変な思考が消えた。
『今の時間を楽しみたい』…。

過去、何があったかなどすでに知れたこと。
全てを受け止めて、それでもこの人が良いと思える感情。
今がフリーで、付き合っている人間がいなくて、こうして自分を呼んでくれる空間があること…。
ずっとメールだけで過ごした時間が、直接相手の顔を見て会話ができる。
出しゃばった言葉を発しているのかもしれないけれど、信楽はフッと笑って全てをやり過ごしてくれた。
話すことはほとんど旭のことだったのかもしれない。
質問には答えてくれるけれど、誤魔化される所も多い。
さり気なく話題を変えられて、それはいずれも旭の日常を聞いてくるものだった。
自分に興味をもってもらえたのかと、喜々として旭は口を開く。
ニコニコと笑顔を向けてくれる仕草に旭の想いは惹きこまれていく。

食べ終わった食器を揃って片付ける。
シンクの前にふたり並んだ時、間近に寄った信楽に旭から溜めこんでいた想いが突拍子もなく零れた。
何にも動じなさそうな風情。優しそうに見守ってくれる仕草。包んでくれる温かさが全身から溢れている。
これ以上離されるのが怖い…。

「キス…、してもいい?」
旭が告げ傾げた首の先に見えた、困惑の眼差し。

強引でもいい。…奪ってしまいたかった…。

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旭~っ!!(何も言わない…)
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-04-19-Thu 00:40 [編集]
出たぁー旭の もろ直球の言葉ー!
この子は、心に思った事を 脳に行く前に お口で途中下車しちゃうのよね~(笑)
これは持って生まれた性格でしょうから 直し様がないか!?ヾ( ̄▼ ̄||)ァハハ・・・

伊吹を引きずり、ズリズリ~の信楽のお返事は?

信楽の手料理か、私も食べたかったなぁ
チェ~ッ… ( ̄、 ̄)...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-19-Thu 07:09 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 出たぁー旭の もろ直球の言葉ー!
> この子は、心に思った事を 脳に行く前に お口で途中下車しちゃうのよね~(笑)
> これは持って生まれた性格でしょうから 直し様がないか!?ヾ( ̄▼ ̄||)ァハハ・・・
>
> 伊吹を引きずり、ズリズリ~の信楽のお返事は?

脳に行く前に途中下車(爆)(←表現、うますぎですっ)
ホントに真っ先に口が動く子ですね~。
今更直しようがない性格です。
このままズンズンと進んでいくんでしょうね。
信楽はそれにどう対応していくのでしょう。
とりあえず出されたものは喰っちまえ?!(←)

> 信楽の手料理か、私も食べたかったなぁ
> チェ~ッ… ( ̄、 ̄)...byebye☆

お料理できる男っていいですよね~。
我が家にも一人いただきたいです。
けいったん様、お口あけて(^o^)丿~~~◇ ポイ
コメントありがとうございました。

旭?
コメントちー | URL | 2012-04-19-Thu 22:09 [編集]
やだわ、旭。
ちょっと読みに来れなかったら、
まあ。何なの?
ドキドキしちゃったじゃないの。

信楽さん、旭の気持ち汲んであげて欲しいな。
汲まないのもまあ、それはそれで良いんですけどね。

旭くん、頑張ってね。
Re: 旭?
コメントたつみきえ | URL | 2012-04-20-Fri 07:01 [編集]
ちー様
おはようございます。

> やだわ、旭。
> ちょっと読みに来れなかったら、
> まあ。何なの?
> ドキドキしちゃったじゃないの。

ドキドキしていただけましたか~。
旭、何しているんでしょうかねぇ。
襲ってます。

> 信楽さん、旭の気持ち汲んであげて欲しいな。
> 汲まないのもまあ、それはそれで良いんですけどね。
>
> 旭くん、頑張ってね。

思いを汲み取ってくれるのか、遊びで済ませてしまうのか…。
まぁ、大人な人ですからね。
そろそろ動き出さないといけないふたりです。
『ふたり』…タイトルだなぁ…(←忘れていた人)
コメントありがとうございました。


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