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BLの丘
契りをかわして 1
2012-03-06-Tue  CATEGORY: 契り
土木作業員が出入りする会社の事務所内、多賀伊吹(たが いぶき)は配布資料を持って渡り歩いた。
生命保険の外交員になって数年。入社した時の研修ではあまりの女性の多さに圧倒されたが、指導してくれる男性社員に励まされて、女性陣に混じってここまで乗り越えてきた。
小柄で人懐っこい伊吹は、気後れなく女性たちと交流を持つこともできたので、それも幸いした。
訪れていた会社は以前いた社員から引き継ぎを受けた場所である。
雨の日は外での作業が減ることもあるせいか、普段はいない顔が見られたりする。もちろん全社員が出入りしているわけではないが…。
休みになってしまう社員もいれば、こうして事務所に顔を出す人間もいる。
なかなか名前と顔が一致しない中、どうにかこうにか人の良い笑顔を向けて営業に回る。
常日頃、体を鍛えるような仕事を持つ彼らとは雲泥の差、というか、筋肉など彼らの半分しかないのではないかと思われるくらい華奢な伊吹だった。
黒髪はサラサラとしていて俯けば額にかかる。どうやっても流れ落ちてくるそれは、今では諦めて撫でつけることもしていない。同じくはっきりとした二重の大きな瞳も漆黒。
丸みのある顔つきもあるのか、伊吹は実際の歳よりも若く見られがちだった。35歳になった今も、見た目は20代である。
そのどこか幼く見えるところが幸いしているのか…、嫌がられずお情けでもそれとなく話を聞いてくれるみんなだったりする。
こんな時、『可愛い』と称される部類に生んでくれた母親に感謝した。
保険会社の中で、『顔で売ってこい』などと陰口を叩く人も居はしたけれど…。
ノルマがあるのは大変なことでもあったが、以前の仕事も営業職だったため、人との会話は難なくこなせる。
以前勤めていた会社は30歳の誕生日を迎える直前に倒産してしまった。
おかげで記念すべき(?)大台の歳になる時も、無職という情けなさだった。

「お久しぶりです。石部(いしべ)さん、そろそろ保険の見直しをしましょうよ」
仕事中の人間に話しかけるのは少々抵抗があるが、事務所の机に座り、缶コーヒーを飲み煙草をふかしながら他の社員と明らかに分かる雑談をしているところには気軽に入っていける。
ちょうど十時のお茶の時間だというのも都合がいい。もちろん、そこを狙って訪問しているのだが。
石部と呼んだ男は紺色のニッカポッカを着ていた。短い長さに切られた髪はツンツンと上を向いている。
細面の顔形は印象をすっきりと見せていたし、肩幅があるせいか余計に顔が小さく感じる。
晴れた日に来てもなかなか出会える顔ではない。
29歳になる彼はある現場に出向いていると聞いた。
目の前に座っているのは50代の現場監督を務める強面の男だ。
今日は事務処理のやり方を教えに来ているらしい。
全員と話をしたいところだが、そんな時間があるわけもなく、ある程度狙いを定めて動く。
石部甲賀(いしべ こうが)は咥え煙草のまま伊吹に顔を向けてくれた。
適当な態度であしらわれることもあるというのに、甲賀はニコニコとしていて機嫌が良さそうだ。こんな風に出迎えられれば伊吹の気分も上がる。
「保険~?…っていうか、俺、そういうの、全然分かんねーし」
少し掠れる感じの声は低いほうだ。
たぶん今現在だって、どんなプランのものに入っているのか分かっていないのだろう。
『まぁ、話くらいきいてやってもいいよ』といった態度に伊吹はサクサクと話を進めた。そこはやはり、限られた時間という周りへの配慮もある。
それでもこの会社は皆の気も緩く、かなり自由がきくほうで助かっていた。
仕事中でも五分や十分ならすぐに時間を作ってくれたりする。
「もうすぐ30歳になられるじゃないですか。30代になると体調の心配とかも増えてくるでしょうし、見直していただくのにいい機会だと思いますけど。今日はね、お勧めのものを持ってきたんです」
伊吹の営業スマイルは絶好調なくらいに働く。
素早く甲賀用に用意しておいた資料をデスクの上に広げて見せた。
伊吹のカバンの中には、まだ他にも何人か分の資料が詰め込まれていた。誰かに出会えるだろうと準備したものだ。
「30ってあのさぁ。もうそんな歳か、って気にしてるっていうのに、はっきり言ってくれるよな」
「あ~、すみませ~ん、失礼しました。それでね、こちらは万が一の時に保障がしっかりしたもので……」
軽口を明るくかわしながら本題へと入っていく。
どこまで本気で聞いてくれるかは分からないが、興味を持ってもらうだけでももうけものだ。
現在入ってもらっている保険との違いを分かりやすいように説明して、「いかがですか?」と少々強引に話を持っていくと、「いーんじゃね?」とあまりにもあっさりと返事がきた。
甲賀は難しく考えることを嫌うタイプのようだ。
そう意思表示されれば話は早い。
「そうですか。ではこちらの契約書に……」
こちらもまた順に書き方を教えて、甲賀は素直に従ってくれた。
話を終えて全開の笑顔を向けると、「あ…」と甲賀が何かを言いかける。
何か不明な点でもあったかと、伊吹は内心で不安を覚えながら小首を傾げて見せた。
「多賀さん、今夜暇?」
「今夜?」
「合コンやるんだけどメンツに加わんない?」
予想外の問いに伊吹は一瞬面食らってしまった。色々な場所で付き合いは多くありはするが…。
契約が取れた矢先に口にされるのは一番辛いところでもあったけれど…。
この場合、どうしたって甲賀分の料金は支払ってやるべきだろう。
ありとあらゆる要素を脳内に巡らせて、新しい出会いがあることに思考が負けた。
伊吹の場合、まったくもって、『営業活動』以外に興味がなかったのだが…。
「楽しそうですね。えぇ、お時間によってですが、大丈夫ですよ」
「本当に?じゃあさ、店は……」
甲賀に待ち合わせ場所と時間を教えてもらって、伊吹はまた配布物を手に事務所内を回る。
一件の契約が取れたことで伊吹の心は、ホッとした気持ちが溢れていた。

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新連載スタートです。
タイトルを決めるだけで時間がかかってしまった…。
さぁ、おねだりなのか結果なのか(´∀`;)
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コメント

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新連載
コメントさえ | URL | 2012-03-06-Tue 12:17 [編集]
きえちゃん、新連載おめでと~♪
早速間違い発見しちゃった。
最後の方、2ヵ所千種登場。
これはちーちゃん出てこないよね~?
Re: 新連載
コメントたつみきえ | URL | 2012-03-06-Tue 12:36 [編集]
さえ様
こんにちは。ご一緒してました~。

> きえちゃん、新連載おめでと~♪
> 早速間違い発見しちゃった。
> 最後の方、2ヵ所千種登場。
> これはちーちゃん出てこないよね~?

Σ( ̄□ ̄;)
ご指摘ありがとうございます~。
名前がごっちゃになってる私の脳内…。
(千種の時も吉良が何度和紀になったことやら…)
なるべく続けて書いていこうと思います。
途切れ途切れになるかもしれませんがよろしくね(^.^)/
コメントありがとうございました。
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