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BLの丘
新しい家族 1
2012-01-06-Fri  CATEGORY: 新しい家族
茶色い大きなテーブルがある。何人も座れるようなふかふかな椅子もあった。
阿武日生(あぶ ひなせ)が住んでいた六畳一間のアパートよりもずっと、ずっと広い部屋の中には、黒い服を着た大人の男が壁伝いに数人いた。
ふかふかなソファに一人で座っていた、三十歳前の父親よりも一回り以上年上で、やっぱり父親よりも怖そうな顔をした刈り上げの男がじっと日生を見た。
その視線の鋭さに普段怖いと思う父親のはずなのに、太腿の裏に隠れようとして、父親に引っ張り出された。
連れてこられた場所が暴力団組員の事務所だなどとは、八歳になったばかりの日生には分かるはずもない。
日生の隣でぺこぺこと頭を下げる父親がいた。いつも日生を叩いたり蹴ったりと傲慢な態度を晒す姿からは一転して、へつらう姿が奇妙でもあった。
「阿武さんよぉ。借金返せないから息子を人質だとぉ?!」
「す、すみませんっ。オレに残っているのはもうコイツしかいなくてっ。返済し終わるまで煮るなり焼くなり、後はそちらにお任せしますので…っ!!どうかっ、それまで…っ」
「随分ムシのいい話じゃねぇか。要するに育てられねぇから売り飛ばそうって言うんだろ」
フンっと鼻で笑った男はニヤリと口角を上げながら煙草を取り出す。すかさずライターを持った違う男が跪いて火をつけるのを、日生は訳も分からなく見つめるしかなかった。
会話のほとんどは理解できないでいる。
「おい、ボウズ。こっち来い」
フゥっと煙を吐き出した男に呼ばれて恐怖のあまり、父親の脚にすがった。普段こんなことでもすれば蹴飛ばされて地面に叩きつけられた。でも今は、それが許されるような気がした。
「日生。おまえはいい子だな。あの人の言うことを良く聞くんだぞ。お父さんは褒めてやるからな」
縋ったのに父親は怒らなかった。一度も梳いてもらえなかったようなくちゃくちゃの柔らかな茶色の髪を撫でられた。
初めて聞いた父親からの言葉は日生を喜ばせるものにしかならなかった。
『いい子』と言われたのも『褒めてあげる』と言われたのも記憶がある限り初めてのことだった。
引き攣る笑みを浮かべる父親に肩を押されておずおずとソファに座った男の前に出た。
父親に褒められたかった…、それだけかもしれない。
煙草を咥えた男の手が伸びてくる。
日生の色白の小さな顎を捉えて上向かせた。
「いくつだって?」
されるがまま…。それは今までの生活となんら変わりはなかった。逆らえば痛い目にあう。
日生の背後で「八歳です」と父親の声がした。
「それにしちゃ、小せいし痩せてんな。もっともおまえに育てられりゃ、こんなもんか。…父親に似なくて良かったなぁ。今からこの器量良しじゃ、すぐにでも客が取れるぞ」
男の後半の言葉は日生に向けられたものだった。しかし日生は相変わらず言葉の半分も分からなくて大きな瞳をぱちくりとさせただけだった。

目の前の男がクイっと顎をしゃくるのが見えた。
すぐにパタンという扉の閉まる音がして…。慌てて日生が振り返ったとき、もうそこに父親の姿はなかった。
だけど不安も感じなかった。状況の何一つ、分からないというほうが正しい。
フーっと煙たいものが顔に吹きかけられてむせ込む。
「おまえもバカな親を持ったなぁ」
呟かれた言葉は哀れむというより、楽しまれているようだ。
日生はどうしてよいのか分からず、俯きながらダボダボのトレーナーの裾を握り締めた。
それは体のサイズになどあっていない。着せてもらえたのは何日前だったか…。下半身はやはり裾を折ったデニムのパンツだった。
父親が帰ってこない日は何日かあったから、寧ろ人がいてくれるこの場所の方が救われるような気すらしていたのかもしれない。
日生には母親というものはいなかった。

日生の体つきはとても八歳とは思えなかった。園児で充分通用する。
着せられているものは、年相応に父親が選んだのではなく、適当にその辺から拾ってきたものだと、煙を吐いた男、真庭奈義(まにわ なぎ)は思う。
とりあえず、稼いでもらわなきゃ困るのはこちらだ…と、三千万の借金のカタを眺めていた時、ノックの音の後で、「三隅(みすみ)様がいらっしゃいました」と舎弟の声が聞こえた。

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また風呂敷を広げたらしい…。
先にお断りしておきますが、任侠ものではありません。
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