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BLの丘
甘い人 4
2011-12-10-Sat  CATEGORY: 甘い人
栗本佳史が連絡をもらったのは夕刻の頃だった。栗本の経営する病院はすでに患者が途切れていた。
まもなく診療時間も終わり、その時間を待たずに片付けが先に行われていく。何かあればまた出してくれば良いだけのこと。
恋人の譲原望からの連絡は、一つの案件が片付き、その顧客に飲みに誘われたのだという内容。
職業柄、お互いに客や患者のことについては特に語ることもなかったが、ふと漏らされた話の中から、今現在望の扱っている件が一筋縄ではいかないのだと気付いていた。
もちろん信頼があるからこそ語られたことであり、他者に告げることなどない。ちょっとした愚痴のようなもので、双方の状況は理解できている。それだけ頼られた人という気持ちも湧く。
その件がどうにか処理できたこと、客にも喜びがあったのだろうと、そっと察する。
これまでも、仕事上の付き合いはもちろん、何かにつけて制約などしたことのない仲だった。
ただ、過去、望が傷を癒す為に他の男に走ろうとしたのを、幾度も遮ってきた…、自分なりに我慢できなくて手を出した…、そんなことはあった。
踏み込んだのはプライベートの面だけ。
今は自分に寄り添ってきてくれる存在だと分かっている。人との付き合いが必要であることも充分承知していた。
だから顧客との付き合いにも反対しないし、望の意思に全てを任せている。

互いに別の空間で暮らす日々。特に連絡してくる必要もないだろうと思うのに、わざわざその一報をくれたのは、今夜付き合う相手の何かがあったからなのか。
望なりの佳史への気遣いなのだと、改めて感じることがあってホッとした。
気遣われるほど望の中で大きな存在となっているのだと分かるのが嬉しい。
「一杯飲んだら帰るから…」
そう告げられた言葉に、「あぁ。夕飯、用意しとくよ」と答える。
どれほど長い話になるのかも分からない。しかし、必ずここに帰ってくるのだという思いが伝わってきた。
望には自分で所有し、帰るマンションがある。わざわざここまで来ることもないと思うのに…。
この場所に来たい理由があるのだろうか。
ささやかなことが喜びに変わる。
「待っている」という言葉を無しに、雰囲気だけを伝える。温もりは機械越しでも感じられる。
会える…と約束することも少ない。来れば迎えるし、来なければ互いの生活を尊重した。
『余裕』…。そう捉えられるものなのか。あとは追い掛けた『見栄』でしかない。
長年待って張った落ち着き…。動揺など見せないと…。望はここに来る…と…。

飲んで帰ってくるなら胃に優しいものが良いだろうと選んだ食材の品数。
顧客との付き合いの時間がどれほどになるのか、知りもしない。
望の立場も分かるからこちらから連絡を入れることもなかった。こうして待つのは、もう長年の癖のようなもの。
ただ、過去と違って、自分の元に来るのだという信頼が、今の栗本を支えていた。

それなのに…。
突然もらった連絡は過去の級友でもある、警務職の佐貫からで…。
付き合いは何かと長い。色々な意味で胸に秘めた過去も持っている。
以前、望が思いを寄せた相手でもあり、呆気なく望を振ってくれた人物でもあり…。しかしその潔さに誰もが認めてしまったほど、偽善的なかけらも残さなかった。冷たくしたことも逆に愛情の裏返しと言えた。
ひどく責めたくても、できなかったのは佐貫の人柄と、どこまでも突っぱねた彼なりの愛情を感じるから。
中途半端な思いを与えないことで、望を護ってくれていたのだ。
その彼から伝えられたこと…。

『望が襲われた。今から送っていくから…』
受話器越しのくぐもった声の奥にある風景を、佳史は想像できなかった。
「な…?!望はっ?無事なのか?」
『襲われた』という意味を理解できない佳史ではなかった。過去幾度か、そんな場面には遭遇している。
ただ、どこかで”他人”という視線があったのを、今更ながらに感じた。
身近にいた人間の気持ちが今ほど強く分かった時はない。
かつての自分がどんなものだったのか叱責を浴びるようで、その罰かと全身に悪寒が走る。
『無事だ…。…ただ酷く脅えているから、…話をきいてやってくれ』
ビクンと体が跳ねる。
無事だと言われても、その姿を見るまでは落ち着かない。
佐貫の言い分も充分なほど理解できた。
佐貫では聞き出せないことを、佳史に依頼した形だ。
だけど振り返らせるようなことはしたくない…。佐貫の気持ちを考えたら葛藤するものがあるのだと思える。
被疑者とのやりとりがいかなるものであったのか。その真実。
望が言うのも言わないのも、佳史の対応に賭けたのだろう。
全ての人間が、『守秘義務』を背負っていた。
特にこの場。愛した人を世間に晒す、傷を負わせるものを宿していたから…。

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たびたびすみません…。どこ視点?ですよね…冷汗
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コメント

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読み返しました
コメントさえ | URL | 2011-12-10-Sat 02:19 [編集]
久しぶりに望って聞いてアレ?どのお話?って思って、読み返してみました。
そうでした。ナリ君の離婚のお話でしたね~。
1年前でしたね~。
早いです。
Re: 読み返しました
コメントたつみきえ | URL | 2011-12-10-Sat 06:14 [編集]
さえ様
おはようございます。

> 久しぶりに望って聞いてアレ?どのお話?って思って、読み返してみました。
> そうでした。ナリ君の離婚のお話でしたね~。
> 1年前でしたね~。
> 早いです。

そうなんですよ~。
ちょうど1年前に登場しているんです。
月日が過ぎるのは早い。・゚・(ノД`)・゚・。
私も『誰?』と思わずうなっちゃう人たちでした。
わざわざ読み返していただいてありがとうございます。
離婚は何を生んでいくんでしょうかね~。犯罪ですかね~。(←)
コメントありがとうございました。
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-12-10-Sat 12:53 [編集]
佳史&望は、あれからべったりと甘々に暮らしていたわけでもなかったんですね
年齢にしても社会的な立場にしても自立した大人として『互いに別の空間で暮らす日々』ということなのでしょう
良し悪しは別として

確かに視点が変わってわかりにくいことあります
しばらく読んでいて「あれ?」と思っていると変わっていたことに気が付いて読み直す、なんてこと
作家さんによっては文章の頭に『~視点』とか『side~』のような但し書きがついていたりするのもありますしね
連載で読んでいると1話ごとに読むのに時間が空いてるせいかあまりに気ならないですけど、まとめ読みすると戸惑うことがあるでしょう
でも、但し書きがつきで一瞬でわからなくても
ひどく勘違いさせる書き方や、わからないままずっと読んでしまうのでなければ
私はあまり気になりませんよ
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-12-10-Sat 14:04 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 佳史&望は、あれからべったりと甘々に暮らしていたわけでもなかったんですね
> 年齢にしても社会的な立場にしても自立した大人として『互いに別の空間で暮らす日々』ということなのでしょう
> 良し悪しは別として

甘々でありそうで少し違っていました。
でも根本的には甘いと思いますよ。
大人の雰囲気…どこまで出せるでしょう。

> 確かに視点が変わってわかりにくいことあります
> しばらく読んでいて「あれ?」と思っていると変わっていたことに気が付いて読み直す、なんてこと
> 作家さんによっては文章の頭に『~視点』とか『side~』のような但し書きがついていたりするのもありますしね
> 連載で読んでいると1話ごとに読むのに時間が空いてるせいかあまりに気ならないですけど、まとめ読みすると戸惑うことがあるでしょう
> でも、但し書きがつきで一瞬でわからなくても
> ひどく勘違いさせる書き方や、わからないままずっと読んでしまうのでなければ
> 私はあまり気になりませんよ

視点の移り変わりはすごく気にするところであります。
相互視点をうまく切り替えていけたらいいのに。
その力もなく…。お詫びするばかりです。
そんな中でついてきてくれるのはありがたいだけです。
分かりづらいものを書いてすみません。
でもこうやってご意見もらえるから、次に役立てようとか思えます。
次がいつかは本当の疑問ですが。
コメントありがとうございました。
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