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BLの丘
あやつるものよ 17
2011-11-28-Mon  CATEGORY: あやつるものよ
何の予定もない千種は翌日からでも勤務できた。
ユニフォームであるシャツとエプロンを身につけて良く知った店内を案内される。下半身は何でもいいというのでジーパンのままだ。
レジ仕事だけでなくその他の雑用も任されたが、その都度丁寧に教えてくれるので戸惑うこともない。
久し振りに働く感覚は新鮮だった。
そんな中で千種の仕事ぶりは確実に評価されていった。
間違えてはいけないという気持ちが強く働き、適当な気持ちで職場に向かわないからだ。
過去のミスが千種をより慎重な人間へと変えていた。
ほんの数時間の労働なのに、チラシを調べたり、売り場の人と交流を図って雰囲気を良くしようとする。
そこまで真剣に取り組んでくれる姿勢に、弥富のほうが驚かされていた。
店長と「良い人材を入れられたものだ」と話しあうくらいに。全て知っていたならこちらで社員にしたいくらいだと無言の会話の中にあったりする。しかしすでに手遅れと言うべきか…。
少しずつ千種の労働時間も増えていった。

ある日の夜、もうすぐ上がりの時間になるという頃、レジ脇のカゴ類を整理していた時、後ろから「え?」という驚きを表す声が聞こえて振り返った。
スーツを着こなした仕事帰りのサラリーマンという風情の男が目を見開いて立っていた。
「あ…」
目の前に現れた男の存在に、千種も同様に目と口を開いた。
過去同じ会社に同期で入った一宮瑞穂(いちのみやみずほ)である。同い年で部署も一緒だったため、何かと良く話をしたものだ。
濃い眉と体格の良さが男臭さを見せる。
「安城…?」
まじまじと見られ、居心地の悪さに逃げ出したい気持ちになった。
ここにきて、昔の同僚に会うとは思ってもいなかった。嫌でも思い出される失態が浮かんでくる。
「おま…っ。…こっちに来てたのかっ?!」
単なる驚きが激しい驚愕に変わった。過去のことを振り返られるのは気の重い話だ。
「あ…」
何と言葉を返したらいいのやら俯く千種に、近くにいた弥富が不思議そうな顔で様子を伺ってきた。
明らかに分かる知り合いの登場は珍しい光景でしかない。
だからといって客との会話に口出ししてくるわけもない。弥富は黙々とその場で作業を続けている。

黙ってしまう千種の頭上で一宮のどこか納得した溜め息が零れた。
「あー、部長かぁ。…一緒に来てたんだぁ。…つか、部長、………あー、あ――っ、えーっ、部長最初っからそのつもりだったのかよ――っ?」
なんだか千種では話が見えないところで一宮は、思い出したことがあるのか一人考えを巡らせていた。
一宮の口調は昔と変わらず、少しホッとする部分もある。
『最初』とは何のことであるのか…。
千種が一宮を見返せば半ば呆れたような表情を浮かべる。それは明らかに岡崎に向けたものだろう。
「な、何?」
「部長がこっちに異動願い出したことだよ。安城を呼び寄せるためだったんだ…」
一宮からの発言には聞き捨てならない言葉が含まれていた。
『異動願い』…。会社からの指示ではなく、岡崎から望んだということになる。
疑問だらけの千種が瞳だけで質問を投げかけると、理解した一宮が淡々と答えてくれた。
「そっか、おまえ、聞いてねぇよな。まぁあんな騒ぎがあった中だったし、すぐ辞めちゃったし…。岡崎部長、別に異動する必要、なかったんだよ。会社の体面保つために課長だけ飛ばしたんだけどさ。それに責任感じて…と思っていたよ。会社も課長飛ばした後だったし、別に違和感持たれる時じゃないからすんなり受けちゃったらしいよ。部長が言いくるめたのもあるんだろうけど。…そーか、そーか、おまえかぁ」
全く予期していない数々に千種はますます言葉が出なかった。
「え…?」
「あの状況で、安城が退社することを部長は感じてたんだろ。上層部、どうにも収集つかなくなってたしな。こう言ったら悪いけど、精神的なダメージを受けた安城に付け入ったっていうか。部長にしてみたらこれ幸いだったんじゃないの?見たこともない所に行くのに、部長が安城に一緒に来いって言えば、懐いていたおまえ、絶対についていくじゃん。まぁ半分は責任取りみたいなのもあるかもしれないけどさ。右も左も分からない所に連れてきて、そうすりゃどうやったって頼るのは部長だけになるじゃん。…部長、ある意味、すげーな。伊達にあれだけの役職に就いてねぇよ」
そうは説明されてもまだ飲み込めない千種である。
一宮に言わせるところ、千種の行動も感情も読みとった上で、岡崎が起こした行動になるらしい。
だがしかし、現実にはお互い、もう会えないかもしれないと思っていたものだ。
『付いてこい』ではなかったけれど…。
…あぁ、そうか…。そこまで読まれていた、ということになるのだろうか。確かに精神的に弱っていて、藁にもすがりたい気持ちがあった時だった。

「でも元気そうなおまえ見て、なんかちょっと安心したわ。あの後、気にしてた人も結構いてさ。あれだけ大掛かりなことやっちゃったから仕方ないってのもあるけど」
「うん…」
「まぁ、なんだ。あんま、気にするなよ」
「うん…。ありがと…」
励ましてくれる声に瞼が熱くなった。
岡崎に言われた時もそうだったが、過去の職場の人間に言われるのは、自分を知っているだけに重さが違う。
それに岡崎がここまで来る過程を聞いて、迷惑をかけたと背負っていたものが半減したような気分になった。
「でもさー。安城ってつくづく仕事できる奴だったんだなぁって、今思わされてるよ。おまえ、淡々と仕事こなしてたから気付かなかったけど、後の人間、要領が悪いんだかどうなんだかさぁ。正直、今の本社、テンパってるよ。岡崎部長が抜けたのも大きいけど。あの人、フットワーク軽かったからね。ま、みんな意地があるから現状をどうにかしようって言わないけど。本当、逃がした魚は大きいってこのこと言うんだってマジ感じてる。誰も口にしないけど、安城に対してそう思ってる奴、結構いると思うよ」
「別にそんな…」
褒められて悪い気もせず。不安から一転して千種の頬はほんのりと染まった。
「部長もさ。そういうとこ、ちゃんと見てたんだろ。おまえ、めっちゃ可愛がられたもんな。それも今になって納得できる」
「も、もう…」
一宮にクスッと笑われて余計に朱が走った。
かつてどんなやりとりがあったのか。ただの上司と部下だった関係の中で、特別な目で見られていた事を今更ながらに教えられて気恥ずかしさが全身を襲った。
あることをきっかけに、行動を起こす岡崎の素早さを改めて知るようでもある。今回の件にしてもだ。
またそれを元同僚に知られるのもどうであるのか…。

「一宮、こっち、なんで…?」
「あぁ、ちょっと支社に用があってさ。出張。さっき岡崎部長の顔を見てきたばっかだったから、安城見つけた時はちょっとびびったわ」
「あー…」
本社を去った人間が遠い地に揃っていれば、一宮の思考も理解できるような気がした。
それにしてもさすが営業というべきか。物事を繋げる判断の早さは感心できるものだった。

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コメント

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No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-28-Mon 07:25 [編集]
s様
おはようございます。

>ますます、これからが気になります。毎日とても楽しみです。

意外なところから事実が漏れ聞こえてきました。
でもまずは本人に確認するところですね。
楽しんでもらえるものを書けたらいいです。
コメントありがとうございました。

No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-28-Mon 17:48 [編集]
そうかあ、そうですよね
ダーリンはこちらの支社に転勤してきたのですから
この地で以前の同僚だった人に偶然会う機会もあるんですね
でも変な人にあわなくてよかった
地味に仕事できる子だった子を一度の失敗で追いやるなんて非情な会社だけど、いい出会いもあったし
こうして理解してくれていた人もいたからよかったなと思います

それから、ダーリンは結構策士?
ま、できる部長さまですから
そこんとこも卒がないってことですね
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-29-Tue 07:19 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> そうかあ、そうですよね
> ダーリンはこちらの支社に転勤してきたのですから
> この地で以前の同僚だった人に偶然会う機会もあるんですね
> でも変な人にあわなくてよかった
> 地味に仕事できる子だった子を一度の失敗で追いやるなんて非情な会社だけど、いい出会いもあったし
> こうして理解してくれていた人もいたからよかったなと思います

人ってどこで出会うかわかりませんよね。
偶然ってすごいです。
ダーリンはまだ会社にいるのでその近辺をうろうろすれば可能性も大!
できる子だったからこそ、大きな会社相手で、だからこそ影響もあったんでしょうか。
理解してくれる人がいて、その人とも話ができて、自信を持ってくれたらいいです。

> それから、ダーリンは結構策士?
> ま、できる部長さまですから
> そこんとこも卒がないってことですね

策士ですね~。
一緒に働いていて性格も理解していたんでしょう。
こちらもできる部長様で…。
気付いた営業にもびっくりですが…(←)
コメントありがとうございました。

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