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BLの丘
あやつるものよ 15
2011-11-26-Sat  CATEGORY: あやつるものよ
岡崎にこの会社とのやり取りをメールで伝えると、しばらく返事がなかった。
仕事中で忙しいのだと思っている。
だけど反対されることでもないだろう。
問題は待つ半年間の身の持たせ方であった…。

そのままスーツ姿で自転車に跨りいつものスーパーに向かうと、夕方の値下げのシール貼りをしていた弥富に出会った。
今日面接を受けた会社は自転車でも通勤できない距離ではなかったが、いずれは車を持つのかと問われる。
自由に動ける交通手段はどうしても求められるものであり、いずれ購入する予定だった千種は頷きを見せた。
自家用車で動く分は交通費に加算されるというのだからありがたいものだ。
ある意味、納車までのゆっくり選べる時間をもらえたのかもしれない。

「…、誰かと思った…」
「あー、面接の帰りだったし…」
滅多に…どころか初めて見る畏まった格好は弥富に目を見開かせるものとなった。
「面接?…あー、就職活動か…。うまくいきそうなの?」
「それがさぁ。俺もびっくりな話で…」
今日の成り行きを心配しつつも話してしまうと、会社名を聞いた弥富は知ったふうに、「昔からあるところだから大丈夫だと思うよ」と安心させてくれた。
この地で名を馳せた会社が、嘘をついたり、無謀な行動には出ないだろうと、さりげなく教えられる。
改めて聞かされれば千種もホッと息をついてしまうものだった。
やはり地元の人の情報は何にも勝らぬ強いものとなる。
ただ、半年を開けてまでの採用という成り行きには興味を持たれたようで、売り場でありながらざっと過去の経歴を伝えると、口をぽっかりと開けられてしまった。
「…う…っそぉ。…あの、大手に居たの?」
過去勤めていた企業がどれほどの知名度をもつのか、それなりに認識しているつもりであったが、ここまでの驚かれ方はされたことがなかった。
「あのさ…、千種くん…って、めっちゃ優秀…とかいう?」
「ふつう」
どっからが『優秀』でどっからが『普通』なのかは曖昧すぎる疑問点だったが…。
弥富の”ポカン”は止まらずにいる。
「いやいやいやいや…。こっちであの会社の、それも支社に入れる人なんて、選抜部隊みたいなもんだって。その本家本元にいたわけでしょ…。…そりゃ、欲しがるわ…」
なにやら、面接を受けた会社に同情してくれたらしい。半年という期間が非常に微妙な期間であることも納得された。
これが二、三か月先のことであるなら、無理をしてでも採用していただろう。一年であるなら、再募集をかけたかもしれないと。
手に入れたいが、自由に振りまわせない、千種の生活もあり、会社側の状況もある。

過去の会社名で褒められるのはどうにも腑に落ちなかった。それがこの地に運ぶ原因にもなっていたのだから…。
「入社できるのと、働き具合はまた変わるんだよ…」
暗い過去を思い出しそうで、千種はその話から切り上げたかった。
就職が決まった嬉しい顔から一転して、睫毛を伏せた千種に弥富も何かを感じたのか、それ以上のことは口にしなかった。
ここまで引っ越してきた理由も聞かれていない。その辺りから、漠然と察するものがあったのだろうか。
充分なほどの環境で労働できる場所を、好き好んで辞めて田舎に引っ込んでは来ないだろう。
待つのは就職に苦しむ状況だけだ。
弥富に口に出されないことがありがたい優しさだった。

「あ、今さ、タラを半額にするとこだったんだけど…」
かき集めていたパックたちに次々と値下げシールが貼られていく。その一つを弥富が持ち上げた。
夕方の買い物客は、今夜の食事用にと真っ先に赤札が張られたものを手にしていくような状況だった。
「タラっ!タラ、もらう。鍋に必要~」
「千種くんが作る鍋ってどんなものなの?やみ鍋?」
「それ、ひどすぎっ」
冗談を言い合いながら、買い物の時間が過ぎた。
その途中で岡崎からメールが入ってきた。
驚いたことに、岡崎なりに千種が面接を受けた会社の情報を探っていたらしい。
弥富と同じように『地元で長年操業している会社だから安心していいだろう』という答え。
さらに『あと半年は俺も贅沢ができるな』という内容。
贅沢…っていうより、家計費を圧迫しているんじゃないかと首を傾げた。
ブツブツと言いながら弥富の前で返信をしていると、内容を耳にしていた弥富が徐に笑い転げた。
「そりゃ…っ、世話係が多忙になるんだから自分の負担も増えるだろうよ。せいぜい”自由時間”に奉仕しとくんだな」
弥富の笑みは止まらない。
理由が分からずに首を傾げれば、「賢いくせに鈍感」と罵られる。
「千種くんが働くようになったら、相手の人の好き勝手にできないってことでしょ。自由に弄れる、それが相手の人にとって『贅沢』だったんでしょ」
『自由に』という台詞に、しばらく体が固まった。
岡崎は特に千種を縛り付けるようなことはしなかった。しかし、朝も起き上がれない無茶をするときもある。
それらは全て、千種に次の日の予定がないからであって…。
そんなふうに振舞えるのも今ではだからこそ。
我慢してきた岡崎にとっては、確かに、『贅沢』なのかもしれない。
激しい行為を思い出してはかぁぁぁっと頬を染めた千種に、どうしたのかと不思議そうな弥富の顔が覗きこむ。
「え?掃除とか洗濯とか料理とか…じゃないの?」
改めて問われた立ち位置は、千種を現実に戻すのに充分だった。
世話になっている…と伝えた時から、弥富の中では千種は、義理で行うただの家政婦に近い存在だったらしい。

「はいっ!はいっ!そうですっ!」
勘違いはどこまでも広がるが、今の千種にはこれ以上の誤魔化し方など思い浮かびはしなかった。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-26-Sat 21:53 [編集]
もー千種くんたら~
昼間っから何考えてるんでしょうねぇ
それも人前で…

これから半年間は専業主夫生活を楽しむのかな
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-28-Mon 07:05 [編集]
甲斐様
おはようございます。
レス遅くなりました。

> もー千種くんたら~
> 昼間っから何考えてるんでしょうねぇ
> それも人前で…
>
> これから半年間は専業主夫生活を楽しむのかな

幸せな生活を送っているからこそ想像できたことなんでしょうか。
真っ先にソレを思い浮かべるなんて、岡崎が聞いたらもっと励んでくれそうです♪
頑張って奉仕していただきたいものです。
コメントありがとうございました。
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