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BLの丘
あやつるものよ 14
2011-11-25-Fri  CATEGORY: あやつるものよ
恐ろしいくらいの順調ぶりだった。
何通も送っていた履歴書。その中から返事をもらったのは数社に上ったが、かつて勤めた企業名は充分なほど有名で、そこを退社してここまで来たことは疑問にしかなっていない。
言い訳を口にしたところで、それとなく情報を掴む社もあるのだろう。
上手くいかない就職活動かと思われていた。
そのなかで目を付けてくれた食品会社がある。
海外まで取引を行っていた以前の社から比べたら、格段に小さなものだったが、だからこそ千種の評価を下してくれたのかもしれない。
千種には、大手企業に勤めていたという経歴と、幾つかの資格、そして必要に迫られて資格をとるまでには至らなかったが身につけた法律の勉学まであった。
募集されていたのはそれらを活かせる職種ではなかったが、就職することに対しての焦りもあったのかもしれない。
似たような会社ならやりこなせるのではないかと言う甘えを含んで会社を選んでいた。
小さな会議室の中、面接に携わった社員は、しばらく頭を悩ませている様子だった。
大概の場合は、「後日返答」という措置を取られていただけに、この沈黙が重く感じた。
かといって、こちらから話しかけることもできないでいる。

数分の緊張感漂う空気を、先に口を開いた面接官……雑用を一手に引き受ける総務の人間らしい……は、躊躇いがちに千種を見据えてきた。
白髪がかなり混じった、50代も後半だろうという、人の酸いも甘いもかみわけるような、それでいて穏やかな視線を向けてくる人である。
「えーと…ねぇ…」
沈黙を破った言葉に、この場で面接に対しての断りが入れられるのかと身構えた。
ある意味、数日悩まされるよりは潔い判決である。
神妙に俯く千種に、面接官である稲沢(いなざわ)は、一度疑いを晴らすような手を振る仕草を見せた。
その動きが全く分からず、逆にキョトンと睫毛を瞬かせる。
「安城さんはすぐに就職したいんだろう?それはよく分かるんだけどね…」
どうにも歯切れの悪い口調に、訝しさは浮かぶが、何やら溜めていることを感じ取れない千種でもない。
さらに、誤魔化すのは構わないが、暗に今回の求人から反らされているのも感じた。
だったらさっさと言ってくれたほうが自分のためでもある。
しかし、漏れたのは全く異なった見解だった。

「これだけの資格と経歴があって…。…いや、実は、半年後に定年になる社員がいるんですよ。その後をね、君くらいの経験のある人に任せられたら…っていうのが、…まぁ、私個人の見解なんだけど…。とはいえ、ちょっとこれは、惜しいですわ…」
履歴書と職務経歴書を何度も何度も読み直しながら逡巡している。
それは募集した仕事につかせることに抵抗があったようだ。
「だからってその人をすぐに辞めさせるわけにはいかないしね。こっちの勝手な都合を言っちゃえば、半年後…、引き継ぎ期間入れたとして五カ月後かな。そこまで待ってもらえるっていうならね…。うちもまた求人情報出して、面接時間を割かれることを思うとねぇ…。でもすぐに雇える費用もないんだ…。今回の募集より、つくのは重要なポストになるけど。君ほどの実力があれば充分だろう。これだけの人材を早々見つけられないって言うのも本当のところ。給料ももちろん変わってくるし…」
最初は何のことかと意味が掴めずにいた。
要するに今回の求人とは別に必要としたい人間は、まだいたということだ。
今の就職難に臨んできた人は数知れず。それは他の人間でも任せられることであり、千種さえ許すなら一つ上、もっと上の配置につかせたいという思惑が伺えた。
だからといって無駄な時間を社で過ごさせる余裕もない、細々さがある。
いずれ上の位置に引き抜くにしても、採用できる人間など高がしれているし、入社間もない人間が上に上がるのは明らかにおかしな話だ。
それを、この面接官は、実務経験のある過去の職場からの『引き抜き』という、特別処置を取らせたいのだとは、すぐに知れたことだった。
定年間近な人間と比べられたら格段に落ちるだろうが、それに引けを取らない経験が千種にはあったのだろう。
ヘタな情報を入れるより、突然のほうが受け入れやすい。
「え…と、それは…」
どう答えていいのか、千種自身分からずにいた。
少し済まなさそうに語るところが人の良さを感じてしまう。
「もし…、もしもだよ。安城くんが、半年先まで待ってくれると言うのであれば、うちは万々歳なんだ。こちら側の、本当に勝手な都合なんだけれどね。給料もない。その間待てって言うのは、本当に我が社の勝手な話だ。だから、ここで君に決めてもらった方が良い」

こんなことってあるのだろうかと思った。
採用不採用は、会社側が決めるものだろう。
それを、この人のいい面接官は、千種に求めていたのだ。
この後、就職先が見つかる可能性は明らかに低い。今ここで蹴飛ばして、では半年後に就職できているのだろうか。
それも、今より良い条件で…。
半年という期間は長いようで短い。あっという間に過ぎ去る日々の中、新しく募集をかけられて、自分より優秀な人材が入り込むことを思えば、もう求人情報はない状態にするのが千種にとって賢明のはなしだろう。
次の募集の時に採用される可能性は今の百パーセントから格段に落ちる。
だったら今の時点で潰すべきだ。
迷うことなど千種になかった。
「喜んでお受けいたします」
千種の答えに正面の稲沢は破顔する。
「そうかぁ。本当にうちにとってはありがたいよ。勝手なことばっかり言ってすまないね。忘れないように、連絡だけは時々入れるから」
半年という間にもてなされる何かもがあること、それとなく悟っていた。
いつ反故にされてもおかしくないのであろうが、守ろうとしてくれる必死さが伝わってくる。
この面接官は即席だと言いながらも、約束事を守るように、五カ月後の入社日を記した契約書を千種に持たせた。
人の人情を感じた昨今である。
この話が嘘でないことは、短い時間でも感じられた千種だった。
やはり、この地の人は温かい…。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-25-Fri 22:29 [編集]
稲沢さん、いいひとだ~
人を見る目がある!!
まじめだし心優しいし
お買い得です、千種くん

それにしても千種クンは努力家で勉強家なんですね
芸は身を助く?じゃないけどきっとこれからの仕事の役にも立つんでしょうね
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-26-Sat 10:05 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 稲沢さん、いいひとだ~
> 人を見る目がある!!
> まじめだし心優しいし
> お買い得です、千種くん
>
> それにしても千種クンは努力家で勉強家なんですね
> 芸は身を助く?じゃないけどきっとこれからの仕事の役にも立つんでしょうね

千種、いいとこに拾われたようです。
お買い得品を逃した会社はいずれ後悔することでしょう(←いや、繋がらないけど…。ふふ~んってことで…)
千種は努力家…だと思います。
岡崎のために料理もがんばった人ですから。
愛情も混じっていたかもしれないけど、根本的に、何事も誠実…なんでしょうね。
そんなところもこの先に役立っていくものと思います。
コメントありがとうございました。

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