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BLの丘
あやつるものよ 9
2011-11-20-Sun  CATEGORY: あやつるものよ
荷台につけたカゴは何かと便利だった。
他の店で購入した品も入れることができる。前輪のカゴに荷物を乗せて重さでハンドルを取られるより安定している。
そんな話を岡崎に聞かせれば、少々渋い顔をされたが、「安全は第一」と賢い買い物に賛同された。
声をかけてくれた店員が男性だったことと、丁寧に事を運んでくれたことが、ありがたいサービスから過剰なものと捉えられたらしい。
そこは酒を注ぐ相手でもして誤魔化すに限る。
どうもこだわることが千種の感覚と違っているようだが、それも新鮮と言えばそれまで…。
胸の奥にくすぐったさもあったが、内緒の話。

ある日、夜も遅くに帰ってきた岡崎はダイニングテーブルに乗せられた鍋にいたく感動していた。
「おぉぉ。今日は鍋か~。寒くなってきたからこれからの季節はいいなぁ」
「まぁ、冷蔵庫の掃除もあるんですけどね」
その時間になってから火をつけたために、煮えるまでに時間がかかる。
風呂の準備まで出来上がっていたから、先にそちらを促した。
「素晴らしい嫁を貰った気分です」
喜ばしさを浮かべつつも、茶化した岡崎を追い立てるようにリビングから出した。
『嫁』…とはなんぞや…。
この家では、玄関から真っ先に飛び込んでくるのがリビングダイニングで、そこを通らなければ廊下に繋がらないところが、隠し事もできない難点になっている。
とはいえ、お互いの存在を確認できる点では良しとできるものなのだろう。

岡崎の帰宅は本社にいた時よりも格段に遅かった。
どんな仕事が待ちうけているのか、話そうともしないし、千種も詮索するようなことは避けたいと話題から反らす。
ふたり揃ってダイニングテーブルにつき、千種の日常を聞くのが日課になりつつある晩。
岡崎は相変わらずのように、日本酒を嗜みながら食を進めていた。
「俺もそろそろ仕事探さないとな…。バイトでもしないと家賃も入れられなくなる…」
主夫業でいつまでもいてはいけない、身の置き場に困っていた。
片付けから解放された落ち着きも手ごたえのなさを感じる。
ポツリとつぶやいた千種の言葉に、岡崎が「あ…」とまるで今思い出したかのように話を繋げた。
「家賃…っていうか…。ここ、買うことにした」
ふーん…と思わず頷きそうになって、慌てて言葉の意味を飲みこむ千種だった。
そんな簡単にマンションの一つを『買う』と決めていいものなのだろうか。
「はぁ?」
目を見開く千種に、やんわりとした笑みを見せてくる。
忙しさの中であまり話をできなかったが、裏でそんな手続きが行われていたのは驚きでしかない。
「うん…。千種がついてきてくれたことで決心できたって言うか…。そのほうが千種も腰を落ち着けるっていうものだろう?」
そこまで言われて、岡崎がこの地に根を下ろすことを漠然と悟った。
いずれ、岡崎は本社に戻ってもおかしくない人物である。
この地で千種が正社員としての就職口を見つけられた時、辞めるには勇気を必要として、また再就職の困難さを味わうことになる。
どこまでも岡崎についていく…。そうではなく、自分自身の生き方を見つけろとそっと背中を押されていた。
それも、岡崎から離れて行かない方法で…。
その手段として、岡崎はこの地を離れない決断を下したのだ。
多少の出張があったとしても、基本的に異動などあり得ない本支社間なのである。
今回の出来事が異様であった、それだけだ。もう一人の飛ばされた課長ですら、一年もすれば元の鞘に戻るのだろう。

「何…言って…」
呆然と岡崎を見返す千種に、言い聞かせるように岡崎が口を開く。
「こんなに幸せな生活が送れていて、どうして手放したいと思える?千種がいなければ根なし草状態でどこででもどうでも良かったが、傍にいることを知った今は違っている。きちんとした生活が送りたいという千種を見て、落ち着きたいと思うものだろう。将来、俺がいつ異動になるのかという不安を持たせたままで千種に就職はさせたくない。というより俺が離れたくない方だな。この地で二人で生きていくんだって思わせてくれたのが、こうしてついてきてくれたことだった…」
伏せてきた気持ちをしっかりと見透かされていた。
就職活動に本腰を入れられなかったのは、この地に根差す心意気がなかったからなのかもしれない。
それを、マンションを購入するという一大決心を通して、岡崎の千種に寄せる思いを改めて感じさせられた。
何の不安も持たなくていい…。好きに生きろ…と…。
「ぶちょ…、俺…」
「まぁった、そう呼ぶぅ。次からペナルティ、つけようか」
真面目な話をしているかと思えば茶化される。
そんなところに、ささやかな照れ隠しも見えて、思わず微笑んでしまう千種だった。
いつだって導いてくれる存在だ。
覚悟を決めた岡崎を見れば、燻っていたものがはがれおちていく。
一つの失敗ですら、次へと進むステップと促してくれる力強い考えに身も心も癒されていく。
もうなくてはならない存在。

『ついてこないか?』と誘われたあの日。
ついてきて新しい生活を始められた自分。さらに先に進めと発破をかけられる。
アパートで声をかけられた時の事を思い出す。
『戻るのに早くて五年…。もしくは骨を埋めるか…』と岡崎は口にした。
千種を追い立てることになったのかもしれない口実。千種を誘い、千種が追いかけることで、岡崎は後者を選んでいたのだ。
それこそが、岡崎が賭けた人生だった。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-20-Sun 21:08 [編集]
いい男ですねぇ岡崎さん
惚れ直したっていうか二度惚れ?

骨を埋める決心したんですね
確かに一人じゃあどこでもいっしょって思ってたんでしょうね
『何の不安も持たなくていい…。好きに生きろ』
の気持ちに感動しました
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-21-Mon 06:53 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> いい男ですねぇ岡崎さん
> 惚れ直したっていうか二度惚れ?
>
> 骨を埋める決心したんですね
> 確かに一人じゃあどこでもいっしょって思ってたんでしょうね
> 『何の不安も持たなくていい…。好きに生きろ』
> の気持ちに感動しました

どこまでも見守ってくれる存在ですね。
ますます惚れていくことでしょう。
一人でいるのと、二人になるのはまた違いますから~。
新しい地で並んで進んでいってほしいものです。
コメントありがとうございました。
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