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BLの丘
あやつるものよ 2
2011-11-12-Sat  CATEGORY: あやつるものよ
寒空の下で待つ千種の前に、スッと陰りができる。
目の前に立った男に視線が釘付けになった。
…本当に来てくれたんだ…。
千種の中に湧いたのは感動、感激…。何よりも喜び…。
「こんなところで待っていたのか…。まだ時間はある。コーヒーでも飲もう」
強引とも思われる仕草だが、決して嫌なものではない。こうやって部下を引っ張っていってくれるさり気なさも見える。
岡崎は、自分を避けようとする相手は決して誘うことなく自由にさせ、少しでも気を置く人間であれば底から知りあおうとする。
それもさりげなく、誰に言いふらすこともないという安心感を身につけて…。
だから信頼された。各個人の何かを知りつつ、決して口外しない男。

夢物語のことかと思っていた千種にとって、目の前に現れた岡崎の存在は、あまりにも安堵し大きかった。
かじかんだ掌に添えられた温かさに、瞼の奥が熱くなった。
同じく手にしているのはスーツケース。
聞いていた話が嘘でなかったのだと、改めて知った…。


2週間前に、岡崎は千種のアパートを訪れてきた。
過去、同じく左遷させられる課長から酷い仕打ちを受けた千種だったから、また部長からも罵られるのだろうと覚悟していた。
玄関で出迎えた時、岡崎は「少し、話をしたい」と申し出てきた。
玄関先で出来ることではないのだと即座に悟れる。
少々散らかっていたが、この場で元上司を追い返すことなど千種にはできなかった。
居住空間に招き入れると、岡崎はくるりと首を回して生活ぶりを見たようだった。
「元気だったか…?……って、聞く方が野暮か……」
重苦しい雰囲気が狭い部屋に流れる。
見た目だけで千種の疲弊は感じ取れるのだろう。
「俺は…」
…大丈夫です…、と声を繋ぎたかったのに、心優しい岡崎を知るからだろうか。隠した声が零れなかった。
代わりに漏れたのは言いようもない涙だった。
自分一人だけの責任ではない。周りの何人もの人間を巻き込んだ事態に、悔しさと情けなさが込み上げてきた。
自分は辞めることで逃げられた…。だけどその後も汚名を着せられた数々の人が会社の中で生きていくことになる。

零した涙を掬ってくれる温かな指があった。
驚いて顔を上げると、間近に岡崎の悔しそうな表情が見える。
「すまなかった…」
謝罪の言葉の後に、意味も分からない千種の瞳が大きく見開かれた。
なぜに、…、どうして…?
恨まれても謝られることなどないはずだ。
真意が分からなく、震える睫毛に唇が一つ舞い降りた。

「この先はどうする?千種さえ嫌でなければ、俺についてこないか?」
初めて聞いた呼び捨ての名前。
言われていることの全てが意味が分からなくて、目の前にある精悍な表情に視線で問い詰めてしまう。
「新しい土地に、一人でいるのは不安なんだ…。千種さえ良ければ、傍に居てほしい…」

千種には岡崎を地方に追いやったという負い目があった。
そして今の地で新しい仕事に向かおうという意欲もなくしていた。
岡崎にしてみたら単なる気まぐれなのかもしれない…。
それでも孤独になってしまった千種は、藁にもすがりたい気持ちのほうが大きかった。
岡崎は、以前から憧れていた人だった。彼のようにいつかなりたいと…。
その男に声をかけられて、無職の自分が、尚且つ、迷惑だけをかけた人間が、どうして断れようか…。

「来週にはこちらを発つ。新しい住所はここだ。携帯の番号は変わっていない。……新幹線の指定席だ。千種の分も取ってある。いらなければ……金券ショップにでも売ればいい……」
スッと差し出された乗車券と指定席券。
会社から支給されるのは当然ながら一人分であるはず…。
すでにその席を押さえた心境はいかがなものなのか…。

夢の世界に誘っておきながら突然闇夜に落とされるような恐怖があって、深意を聞けなかった。
言うことを終えたと、岡崎はすぐに千種のアパートを出て行こうとする。
「ぶちょ…」
「おまえはもう退社したんだ。俺は上司でもなんでもない。一個人として俺は千種を見る」
ズンと胸の奥が鳴った。
抱えてきた何もかもから解放されるような安堵が広がる。
去り際、岡崎は誰に向かうでもなく、ぼそりと呟いた。
「俺は…5年は戻れないだろう。いや、もしくは向こうに骨を埋めるかな…」
何かを悟った言葉…。背に何かを負いながらも、野心を込めた瞳は曇っていなかった。
千種に何を決断させたかったのか…。

会社を追い出され、自暴自棄になっていた自分に少しでも明りを灯してくれた人の好意を…。たとえそれが嘘であっても、千種は自分を励まして賭けてみたかった。
裏切られても決して恨まない。
千種はその日、アパートを解約する手続きをとっていた。
もう、どこにも戻れない…。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-12-Sat 14:41 [編集]
暗い・・・あまりにも暗い出だしですね
でも好きです
こんなふうなのも
どもまでも落ちていきそうな
祝福されない二人の逃避行(この二人は違うけど)みたいな雰囲気が、何が待っているのかわからない未知の土地でのこれからが案じられて先が楽しみです
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2011-11-12-Sat 14:52 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-14-Mon 10:29 [編集]
甲斐様
こんにちは。
レス遅くなりましたm(__)m

> 暗い・・・あまりにも暗い出だしですね
> でも好きです
> こんなふうなのも
> どもまでも落ちていきそうな
> 祝福されない二人の逃避行(この二人は違うけど)みたいな雰囲気が、何が待っているのかわからない未知の土地でのこれからが案じられて先が楽しみです

暗い出だしです(`・ω・´)ノ
そして書いているうちに反動ではっちゃけたものを書きたくなったりするんですよね。
でも内容はそんなに暗くならないと思います。
逃避行とはちょっと違うでしょうけど、この先何が待ち構えていることやら…。
頑張って書いていきたいと思います。
コメントありがとうございました。
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-14-Mon 10:34 [編集]
K様
こんにちは~。

> 『質屋にでも…』のくだりでちょっと昭和の香りを感じました
> JRの切符や映画とか商品券の売買に金券ショップのお世話にはなっているのですが質屋さんにはなじみがなくて新鮮(?)

(^_^;)
確かに!!
『金券ショップ』という名前が今の時代だ~~~(汗)
ということで今更直すことにしました。
いや~。みなさん、言葉が逞しい(←)
コメントありがとうございました。
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コメント | | 2011-11-14-Mon 14:18 [編集]
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