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BLの丘
ただそこにいて 59
2011-10-22-Sat  CATEGORY: ただそこにいて
吉賀は俊輔が伊佐の元に帰ることを良いとは思っていなかったが、抱える精神的なものを理解しているだけに、反発はなかった。
仕事が終わった後も、大人しく見送ってくれる。
その大人しさは、津和野に言われたからなのだろうか。
以前のような獣じみた激しさがなくて少しばかり残念に思ってしまうのだが…。

俊輔が寮で暮らせる日はいつになるのだろうか…という、素朴な疑問が浮かぶ。
吉賀とも分かり会えた今、いつでも戻れるだろうという期待がある。
そのことを伊佐に投げかけてみれば、「いつ戻ってもいいんじゃない?」と、あっさりとした返答だった。
誰かに頼るということを覚えてしまえば、一人で恐怖に苛まれることもないだろうと、知ったかのように。
いずれ戻る世界を魔法使いは最初から承知していたようだ。

夕食で使った食器を洗い、いつものようにベッドに潜り込む。
今となっては伊佐に縋りつこうという気がなくなっていることに気付いた。
眠ってしまって自然と寄り添ってしまうことはあるのかもしれないが、一番淋しかった時ほどの弱さはない。
精神的な余裕が生まれたのだろう。
伊佐は俊輔が眠りについてしまうまで隣に居たが、深い眠りについたあとに、彼がソファに移動していることを俊輔は知らなかった。
少しずつ、人肌を感じさせない環境に慣れさせられていた。
夜中にうなされない俊輔を知った伊佐は、寮に戻ることを認めてくれる。
万が一にでも、なにかあれば、呼んでくるだろうと期待する安心感もあるのだろうか。

もう数日の時を伊佐の家で過ごした。そして休みの日に荷物をまとめて戻った寮。
質素さに悲しむものもあるが、伊佐ほど…とまではならなくても、いつか少しでも贅沢な生活が送れたらいいという目標にすることができた。
伊佐が持たせてくれた衣類だけでも、結構な量になっていた。それらが手元にあることも喜びに拍車をかける。
もっとも、吉賀にしてみたらあまり嬉しくない品物でしかないが…。
そこはやはり、吉賀自身まで奮い立たせる原因となってくれた。
「あいつに負けてられるか~」
「勝負することが違うと思うけど…」
気持ちは吉賀にあるのだからそれでいいじゃないかと俊輔は思ってしまう。
俊輔の部屋で戻ってきたことを確認しつつ、増えた荷物量を目の端に入れながら握りこぶしを作る吉賀に、クスクスと笑顔を向けた。
伊佐は頼りになるが、所詮その程度でしかないのだと…。
「俊輔、今日快気祝いしよう」
「そんな、大げさな…」
「メシ、一緒に食おうっていうだけだよ」
「うん」
「俺の部屋でいいだろう?」
「いいよ」
それから買い出しと称して、スーパーまで行くことにした。
途中の廊下で倉岳に出会い、一瞬身構えてしまう。
敵視されて以降、会話もなく仕事上だけ黙々と作業を続けてきた。
津和野からは倉岳に対してどんな話をしたのか、それを聞く間もなかったけれど…。
並んで歩いていた吉賀が、俊輔を庇うように一歩前に出て視界を遮ってしまう。
会釈だけで通り過ぎようとした時、倉岳に呼び止められた。
「もう、完璧に治ったの?」
「あ…」
「体調なんていつどこで悪くなるか分からないものでしょう」
「よ、吉賀…」
話しかけられたことに俊輔は戸惑い、吉賀が代わりに強い口調を向ける。揉め事を起こしたくなくて慌てて吉賀の服を引っ張った。
倉岳に以前感じたような剣呑とした雰囲気はない。
「寮で生活できるくらいになったのかな、と思って。あんまり病気ばっかされて、手を煩わされるの、困るからさ」
それだけ言い置いて倉岳は先へと足を進めていった。
背中を見送って吉賀は「何、アイツ…」と悪態をついていたが、俊輔はどことなく優しい気持ちで受け止めることができた。
工場の人間だけではない。そこには津和野の存在も含まれているのだろう。
仕事とはいえ、故意的に気を留められるのは気分の良いものではない。
それに、頑張ることに発破をかけられているようにも感じられた。倉岳だって人の悪い性格でないのはこれまでの付き合いで知れるところだ。
「いいよ、吉賀、行こう」
「あ、俊輔~」
俊輔も新たな一歩を踏み出す。
薄暗く考えるだけの日々ではなくなったこと。好きな人と一緒にいられる幸せ。それらを噛みしめながら…。

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