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BLの丘
淋しい夜に泣く声 8
2009-09-10-Thu  CATEGORY: 淋しい夜
ホテルの部屋は隅々まで行き届いていた。
幾種も並ぶ酒やナッツ、チョコレート、スナック。バスルームに備えてある備品も高級品ばかりだ。
何の不自由もなく過ごせるようにと、細かな配慮がいたるところまで施されている。
英人がこれまで暮らしてきた生活感とは大きく違うこの部屋に、本当に居ていいのだろうかという不安すら生まれる。

ベッドの上からは解放された。だが新しく待っていたのは、部屋から出ることを許されない『拘束』だった。

あの後、英人は手首を解かれることなく、秘書の野崎から全ての事情を聞かされた。
腕を繋がれたままだったのは、中途半端に聞かせた話を最後まで聞かずに逃げ出すのではないかと社長が懸念してのことだった。
『榛名グループ 榛名建設産業 代表取締役 榛名千城(はるな ちしろ)』
初めて見せられた名刺に英人のほうが竦んだ。
榛名グループと言えば、それこそ大昔から伝わる財閥系の会社で、手を広げている分野は一種に留まらない。
たぶん、息のかかっていない業界などないのではないかと思われる日本でも最大手の企業だった。
二重のぱっちりとした目が、これでもかと見開いた。
『社長』という単語は聞いてはいたが、まさかこれほど大規模なグループ内の取締役に彼ほどの若さで就いているとは思ってもいなかった。
最初、詐欺にでもあっているのかと思ったが、名刺に入れられた透かし模様が滅多に見ることのできないものだとは、さすがの英人でも知っていた。

「関連会社なんて腐るほどあるんだ。べつに全てを取り仕切っているわけではない」
感情の見えない能面のような顔で、彼は淡々と語ったけど…。

耳にした内容は、先刻聞かされたこととほとんど変わりはなかった。
英人の絵に惚れ込んだのは社長なのだと言う。英人が何気なく描いた絵は世間には見せられていない。
応募した住宅メーカーでさえ、販売物件を目的とした展示用のスペースにこの絵を飾ることはなかった。
たとえ敵対する会社でも、一部の裏は繋がっている。偶然見合わせた絵を世間に公表させなかったのは榛名の力だった。
それでも、現物を手に入れることは難しく、また今後の展開を考えても英人自身を手に入れるのが一番だと踏んだ榛名は徹底的に英人の身辺調査を行わせたらしい。

「3カ月後に今回のプロジェクトに関するプレゼンテーションが行われます。広報には絵のコピーが渡されていますが現物が無いのでは信用がありません。それに一度は他社に渡った作品と知られれば一層使用することを嫌がり、たとえ社長の意見でも通らないでしょう」
だから一刻も早く、他社にある絵の存在を消したいのだと、野崎は語った。そして、どこで繋がっているか分からない世界だからこそ、決定が下されるまで英人の名前は伏せたいのだとも告げられた。
「ご不便をおかけいたしますが、それに見合う対価はご用意させていただきます」
野崎はきっちりと頭を下げてから、この部屋を出ていった。

真っ白なパイル地のバスロープには、ホテルのロゴマークが刺繍されている。それに身を包み、茫然と先程まで繰り広げられていたことを夢の中のことではなかったのかと巡らせながら、リビングのソファで空中を眺めていた時、バスルームから出てきた男の視線と絡まった。
バスルームに入った時とは全く違う姿、雰囲気。威圧感などあったのだろうか?と思うくらい颯爽とした青年がそこにいた。
整髪料で撫で付けられていたはずの髪はサラサラと額に落ち、鋭かった瞳は穏やかさを含んだものに変わっている。
思わず、同一人物なのかと疑うほど、彼の印象は変わり果てていた。

「まだ起きていいたのか?疲れただろう。先に休め」
英人に投げかけられた言葉にも優しさが見え隠れしたが、見た目の印象が変わっても声の張りは同じで、この男は『榛名千城』なのだと思わされる。

急なことに別の部屋が取れなかったので今夜だけは同室になると告げられていた。
榛名は「野崎の所で寝てもいいんだが、あいつも仕事を溜め込んでいるからな」と、暗に仕事の妨げをしたくないと言われれば、頷かざるを得ない。

バスタオルで無造作に濡れた髪を吹きながら、デスクの上に積み重ねられた書類を確認する姿に、英人の心臓はドキンと高く鳴った。

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