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BLの丘
ただそこにいて 43
2011-10-06-Thu  CATEGORY: ただそこにいて
廊下に響き渡る物音に気付いたのか。
夜中にかける人足はそれとなく部屋へと響いたのだろう。
今のところ、誰かの手を必要とするものなど俊輔以外いない、この階だった。
『明日から出勤する』…。
そのことは吉賀だって聞いていたはずだ。寮に戻ったことも当然知っている。
だけど部屋まで押し掛けてこなかったのは…。俊輔の気持ちを待ってくれていたからこそ。
俊輔から寄り添ってきてくれることを望み、自分を許してくれたと思いたかった吉賀の待つ時間。
でも吉賀に会う前に見せてしまったものは、伊佐に縋っている光景で、明らかな誤解を与えていた。
「俊…輔…」
自分を呼ぶ声が聞こえた。何かに脅え、何かに戸惑いを宿し…。大きな後悔を纏った姿…。
だけどその影に潜んでいる恨みのような…、嫉妬…。

「知名!あとはおまえが何とかしろっ」
「あーっ、もうっ、尻拭いですかっ?!…、はいはい…」
突如叫ばれた伊佐の声に、がっくりと肩を落としつつ、しかしどこかやる気のある発言を見せた津和野。追いかけてこようとする吉賀の傍に掛け寄っていく。
廊下で俊輔は有無を言わされずに伊佐に横抱きにされて連れ去られた。
「俊輔っ!!」
廊下に響き渡る吉賀の声が痛ましいほどに響く。
振り返りたいのに、素早く動く伊佐はそれを許さなかった。
俊輔の部屋の入口を挟んで反対に動きだした医師たち。
視界を遮り、外に停められた車に押し込まれる。
恐怖で打ち震えていた気持ちが落ち着いてくる反面で、残した吉賀のことが心配になった。

「吉賀…、吉賀は…っ?!」
何故にこれほどまでストレートに伊佐に対して言葉を発せるのか、俊輔自身分からなかった。
震えた時、すぐそばにいる吉賀よりも伊佐を頼ったというのに…。
「知名に任せておけ。俊輔、やっぱり時間を置こう。一人で眠るのはまだ無理だ」
「そんな…」
反論したくても、こうして伊佐を呼んでしまったのは俊輔自身だ。事実闇に飲みこまれていくようで一人で眠ることができなかった。
暗闇の中で見つけられなかった人肌…。咄嗟に守ってくれる腕がなくて、そのことに焦りを感じた。
それが余計に恐怖に落とした。津和野と伊佐を見た瞬間に安堵したもの…。
あの時、真っ先に吉賀を求めずにどうして伊佐を呼んでしまったのか…。
心の奥深くに巣食っている、吉賀には迷惑をかけたくないと思う気持ち。つまり、甘えられないと思う心。
素直になるという意味を知りながら、まだ拒絶し続けているのは俊輔だ。

「吉賀…」
ぼそりとこぼれた言葉も伊佐は不快に思わないでくれる。
離れたはずの伊佐の家に戻った時、言いようのない安堵が胸に広がった。
広い部屋。一人ではないと包んでくれる空間。
連れ込まれたままの姿で寝室に案内される。もう慣れた光景。隣に自然と寄ってきた伊佐に向かって、ふぅっと大きな吐息が漏れた。
求めているものと心に宿しているものが全く違っている。
本当は吉賀の腕に包まれたいのに…、その腕の中で満足したいはずなのに…。
自然と体に覚え込まされ、慣れた目の前の包容力は何にも代えがたい。

「休みたかったら休めばいい。後のことはどうにでもしてやる」
支えてくれる強気な発言が俊輔を包んだ。
今の俊輔を見るのは自分だと言わんばかりの独占欲に似たもの。
体の関係を結んでいないにしても、返済できない金額を預けた今、俊輔の全ては伊佐のものなのだと言われているようだった。
危険がないだけで…。

「伊佐…さん…」
どうせなら吉賀を忘れられるほど全てを捧げられたら良かったのに…。
漠然と湧きあがった思いに涙が零れる。
何故伊佐を好きになれないのだろう。
伊佐が支えてくれるものはあくまでも表面的なものだ。
この心までは受け止めてはくれないと知るから俊輔も本当の意味で『好き』にはなれない。一時的な夢でしかない。
だからこそ安心しているのかもしれない。
伊佐を見られた時が懐かしく、そして嬉しかった。確実に守ってくれるものだと分かるから…。
隣に入った伊佐は、以前と変わらずに俊輔を抱き寄せてくれた。
「眠ろう…」
おまじないだ…と言った唇が宥めるように額や瞼、頬、顎と流れていく。
胸に抱え込まれてトクントクンと聞こえる心音に安らかな気持ちが宿る。
それは現実ではない、『魔法の国』に戻ってこられた安堵だったのかもしれない…。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-10-06-Thu 09:20 [編集]
俊輔くん、やっぱり現実世界に戻ってくるのは早かったよね
いつまでも夢の世界で魔法にかかったままじゃいけないって気がついたのはいいけれど、心も身体もついていけてなかったよ

『何故伊佐を好きになれないのだろう』
自分で分かっていてもどうにもならないでのでしょう

優しくてあったかくて安心できる腕の中
これって母親の胎内のようなもんかもしれませんね
恋愛感情が芽生える余地がない
ってことで伊佐さんはお母さん役決定!!
でも伊佐さんははじめっからそういう気持だった気がする
傷ついた雛を守って癒していつか羽ばたかせたいって
その先に恋愛感情が生まれればそんな未来も視野に入れつつ、
まずはお母さん役に徹するんじゃないかな

そんなふうに見守る保護者二人の存在が吉賀にはよくわからないから
それはそれで混乱させるのでしょうけれど…
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-10-07-Fri 07:15 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 俊輔くん、やっぱり現実世界に戻ってくるのは早かったよね
> いつまでも夢の世界で魔法にかかったままじゃいけないって気がついたのはいいけれど、心も身体もついていけてなかったよ

まだ早かったですね。
せめて伊佐の家で一人寝の練習でもしてあればこんな追いかけっこはしなくてよかったのに~。

> 『何故伊佐を好きになれないのだろう』
> 自分で分かっていてもどうにもならないでのでしょう
>
> 優しくてあったかくて安心できる腕の中
> これって母親の胎内のようなもんかもしれませんね
> 恋愛感情が芽生える余地がない
> ってことで伊佐さんはお母さん役決定!!
> でも伊佐さんははじめっからそういう気持だった気がする
> 傷ついた雛を守って癒していつか羽ばたかせたいって
> その先に恋愛感情が生まれればそんな未来も視野に入れつつ、
> まずはお母さん役に徹するんじゃないかな
>
> そんなふうに見守る保護者二人の存在が吉賀にはよくわからないから
> それはそれで混乱させるのでしょうけれど…

お母さん(爆)
そうですね~。あったかく見守って育てて、送りだしてくれる。いつでも待っててくれる人ですね。
そこにあるのは家族愛みたいなもので、一人で頑張ってきた俊輔にじんわりと染み込んでしまったんでしょう。
それが恋愛というものにはならないけど。
なったらなったで受け止める覚悟もできていたんじゃないでしょうか。
(それかならないと信じていたか…)
吉賀は自分の感情だけで突っ走ってきちゃったところがありましたからね~。
何を見ても嫉妬に結びついちゃって、一人グルグルです。
大人様、吉賀の面倒も見てあげて(;_;)
意味があってやっているならともかく…。
コメントありがとうございました。
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