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BLの丘
ただそこにいて 24
2011-09-17-Sat  CATEGORY: ただそこにいて
『うち』と言われた場所はこの病室のことではなかった。
「少し待っていて」と言い置いた医師は部屋から出ていくと何をしていたのかしばらくしてから戻ってきた。
白衣は脱がれていて、胸元を寛がせた前ボタンの白いシャツ一枚にズボンを穿いている。
「ここは他の患者さんも来るからね。自宅に行こう」
体を動かすことが辛い俊輔を、簡単に横抱きにしてしまう。
「あ、ちょっと…」
『自宅』預かりだなんて恐れ多過ぎる…。
抵抗も受け入れられず、そのまま病室から連れ出されると、あまり広くない受付の場所に出た。
さらに廊下を進むと『診察室』と張られたドアが見え、その奥には『立入禁止』と大きく書かれたドアがある。
『立入禁止』のドアに医師が入り込むと、目の前には2階に伸びる階段の存在。そのまま3階まで一気に上ってしまった。
移動した距離と設備を見ても、あまり大きな病院ではないのだと知ることができた。どちらかといえば「診療所」のような感じなのだろうか。
「2階はリビングダイニングと客間があるだけだから。寝室はこっち」
連れ歩きながら家の説明をさりげなくされる。1階部分が病院で同じ建物に自宅があるそうだ。
『寝室』という言葉にどきりとした。そして運び込まれた部屋の広さに呆然とした。
優に30畳以上ある。奥の中央の場所に、これまた巨大なベッドが鎮座し、部屋の真ん中にはソファセットとテーブル、反対の壁には大きなテレビ画面。壁側には広そうなウォークインクローゼットが扉を開いたままで放置されている。
大きな窓の外にはやはり広そうなバルコニーが見えた。
外の景色をようやく見られて、今がすでに日の暮れた時間帯なのだと知った。
昨夜、自室に戻ったのだから、丸一日眠っていたことになるのだろうか…。

ここが寝室というのであれば、リビングとやらはどれだけの物が揃っているのだろうか…。
モデルルームのように整理された作りを間近で見たことがなかった俊輔は、場違いな場所に来てしまったようで言葉を失う。
俊輔を抱きかかえていた医師は何の迷いもなく、広々としたベッドに俊輔を下ろした。普段自分が使用している寝具類とは雲泥の差がある高級品なのだろうと思われる肌触りの良さ。
それから開けっぱなしだった窓にカーテンを引きに行く。
「あ、っと。俺の紹介、まだだったね。伊佐武雄(いさ たけお)。呼び名は俊くんの気が向いたものでいいけど。できるなら『先生』は無しにしてほしいな」
明るく微笑まれる姿は、見た目からの印象とかけ離れる。キツイイメージが強いのに、話し言葉も扱われ方もすごく丁寧で優しい。
「でも、待ってください。俺、いきなり、こんなのって…」
「これはね。知名からの要望でもあるんだよ。『しばらく預かってくれ』って頼まれたの。知名も挟まれた人間関係の修復に乗り出しているところだから」

この医者は、どこまで話をきいたのだろうか。
吉賀と津和野がどんな話をしたのかも知らないが、吉賀がペラペラと話すことはないと思う。これまでの流れから津和野は勘で状況を悟ってしまっているのか…。
そんな場所から隔離させたかった理由…。
『挟まれた人間関係』…って、吉賀が言っていた倉岳のこともあるのかな…。
疑問ばかりが湧くが、疲れた体は何もかもを放棄したい思考も片隅にあった。津和野が関わってくれれば万事うまくいくような安心感がどこからともなく湧いてくる。

現実に身動きの一つも取れないのだ。寮に戻ったところで何ができるわけでもなかった。
だからといって全く見知らぬ人間の手を煩わせるのも気が引けた。こんな風に受け入れてしまえる伊佐の性格もどうなんだろう。
しかも完全なプライベートルームに連れ込まれているのだ。
医者という存在でなければ確実に拒絶していたと思う。
今体にある痛みと熱が、どれくらいでひけるのかも分からない。
弱っているからこそ、人の温かみを余計に実感してしまう。
こんな風に優しくされたなら…、もう一度吉賀に声をかけられたなら、間違いなくズブズブと溺れていく自分がいることを思う。
誰しもが、俊輔を甘えたがりにさせているように仕組んでいるとしか思えない。
そんなに弱くなったら…。家族を誰が見てくれるのか…。

「何か食べられそうかな。そうそう。水も飲んでいないよね。まだ熱があるから薬も…」
医師の行動は相変わらず素早い。
熱に浮かされた容体がどのようなものなのかはすぐに気付くというものなのか、すぐに寝室を出て階下に降りて行った先から、何やら物音が聞こえたが、なにをしているのかまでは判断ができなかった。
戻ってきた伊佐は中で氷の音がするステンレス製のポットとグラスを手にしていた。何よりまずは水分補給をさせたいらしい。
それをグラスに注いでくれて、背中を越された口元に寄せられる。自分でグラスを持ってもいいのに、伊佐は「大人しく飲んで」と言うだけだった。冷えた水は心地いいくらいに俊輔の体に染み渡っていった。
体が持ち上げられて座る姿勢を取らされると、ドーナツ型のクッションの意味が分かる気がした。
直接圧せられる部分が痛みで震える。横向きで寝かされた姿勢が一番ラクかも…とふと思った。

「ご飯は…、いらないです…」
「そう。でもゼリー飲料くらい飲めるでしょう。少しでも何かの栄養をとって」
食事に気をつかってくるところは津和野とも変わらないのか…。
少しでも早く回復したい俊輔は、ただ従うだけだった。
迷惑をかけないためにも、稼ぐことを目的とすることからも。
ついこの前も休んだばかりだ。休むことは俊輔を不安にさせる。少しでも良くなれば帰してくれるだろう。
安易にそう考えて、俊輔は想像以上に眠り心地の良い空間で、再び眠りについた。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-09-17-Sat 22:54 [編集]
始まりましたね、交通整理
心身ともに弱ってる俊輔はとりあえず避難させてくれたので安心しました

伊佐先生、なんか大人で優しくて、いろんなもんをすっぽりと包みこんでくれるような懐の広さを感じさせる先生です
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-09-18-Sun 07:06 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 始まりましたね、交通整理
> 心身ともに弱ってる俊輔はとりあえず避難させてくれたので安心しました
>
> 伊佐先生、なんか大人で優しくて、いろんなもんをすっぽりと包みこんでくれるような懐の広さを感じさせる先生です


津和野先生、動くのが早いです。問題解決に向けてさっさと行動開始♪
そこは俊輔の”働きたい意欲”のことも考えてくれているんでしょうね。
ただいま俊輔はボロボロ状態ですから、安全地帯に逃がさないと~。
そして伊佐先生~!!二人の仲の良さをうかがわせてくれます(?)
コメントありがとうございました。
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