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BLの丘
見下ろせる場所 10
2011-07-07-Thu  CATEGORY: 見下ろせる場所
深夜のロビーで他のスタッフに手当てをされるのも情けない話だ…と皆野は項垂れる。
それが終わるまで慎弥は離れていこうとしなかったから、一緒に岩槻も残っていた。
「私は大丈夫ですから…」
二人を促すのだが、戻りたがらないのは慎弥のようだった。
なんとなく、岩槻と二人になることに脅えているようにも見える。
今更ながらに、どう接していいのか迷っている様子だった。
当然その硬さを岩槻も気付いていて、二人の間に生じたわだかまりをどうにかしたい岩槻だ。見ていて痛々しくなる。

「征司くん…、あのさ…。もう一部屋、とって…」
皆野が立ち上がった後、突然慎弥から放たれた台詞に、その場にいた全員が固まった。
スィートルームには2つの寝室がある。何も今更別れる理由が知れない。
だけど、完全に距離を置きたい慎弥の気持ちは、皆野には理解できることだった。ひたすら守りに入ってしまうだけの岩槻と顔を合わせていたくないのだろう。

「慎弥…」
「ごめん…。ちょっと色々考えたくて…」
「そうか…」
慎弥の感情の揺れは岩槻が一番良く知っている。それを我が儘と取るかは本人たち次第であり、周りが口出しできることでもない。
スィートルームとは違う、たとえ狭い部屋であっても、慎弥は自分の空間が持ちたいのだな…と皆野は感じ取った。
しかし、現実は厳しく、ホテル側から「申し訳ございませんが、本日は満室となっております」と無情の言葉が放たれる。
レセプションが行われた関係もあって、満員御礼の直後にこの事態だったのだ。
「そう…」
慎弥は行き場を失った迷子の表情を浮かべる。
勝気な一面を見たことがあるだけに、同一人物かと見紛うしどけなさだった。

不安そうな眼差しが一瞬皆野と絡まった。
年甲斐もなくドキンと胸の内が震える。
涙に濡れた瞳はまだ乾いてはいなくて、岩槻ではないが抱きしめてやりたい衝動にかられる。
彼の感情に気付いてしまったからこそ、そばにいて、もう一度無邪気にはしゃいでいた数時間前の姿を取り戻してやりたかった。
何かを言いたげな口元が僅かに開き、…だけど大きな躊躇いを含んで閉じてしまった。
慎弥が端から分かる、完全な殻を作った瞬間だった。
口に出す全てが『我が儘』と、再び言われてしまうことに脅えている。
何が言いたいのか…、何を求められているのか…。
その全てを聞いてやりたい。

皆野はそっと慎弥に近付いた。
「今日はお疲れでしょう。ゆっくり休まれてください」
レセプションで気を使ったことも、その後の一騒動も、慎弥にとっては精神的な負担が大きかったはずである。
自分からは寄れなかった…、しかし皆野から近付いたことで慎弥の中で何かが弾けたらしい。
そばにいた岩槻の元を離れ、皆野の袖口に手を伸ばしてくる。昨夜のように伏せた視線には、まだまだ子供っぽさが混じっている。
それが何を表すものなのか…。

「もう少し…、一緒にいて…」
「慎弥?!」
「慎弥くん?」
「あ…」
咄嗟に口走ってしまったことを後悔するように、スッと皆野を掴んだ手から力が抜ける。
今、慎弥が抱く本音なのだとは、岩槻も皆野も咄嗟に理解できた。
ほんの短時間で慎弥の心の中に潜り込めたのは良しとされることなのか。判断はつきかねるが決して嫌なものではない。
寧ろ、喜ばしい…。
「ご、ごめんなさい…」
あまりにも控え目になり過ぎる姿がやりきれない思いを抱かせる。
慎弥はこの後もこうして、全ての感情を抑えてしまうのだろうか。たとえ虚像であったとしても、昨日のように、今日のように、奔放な姿はもう見せないつもりでいるのだろうか…。
「私は一向に構いませんが」
ニコリと笑って見せると慎弥の後ろで岩槻が大きく困惑していた。
慎弥の感情を優先させたいのか、皆野の立場を考慮してやりたいのか。
客相手の商売と分かるから無理していると思われているらしい。それでも再び慎弥を叱りつけるようなことはしたくない甘やかしだ。
「でも草加さん、お仕事の後でお疲れなのでは…」
岩槻に声をかけられて皆野は人の良い笑みを浮かべた。
「明日は半日出勤で午後から休みですから。仮眠室もあるので出社する手間が省けます」
翌朝7時から昼の12時までの勤務をこなしたあと、1日半の休日になる。
少しでも慎弥の気が休まればそれでいいと皆野は、慎弥からの誘いを断らなかった。
何より心配で、ずっと見ていたいのは皆野のほう…。
ホッと安心したような表情が、再び皆野の袖口を掴んだ。
昨日、騒動の中で寄り添ってきた体と同じくらい、いや、今はもっと細く華奢に見えた。


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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-07-07-Thu 23:48 [編集]
慎弥くんすっかり皆野さんに懐いてしまいましたね
彼は“年上の頼りになるお兄さん”に弱いみたい
甘やかされた末っ子体質の慎ちゃん、
何も言わずに寄り添ってくれるような皆野さんの
心地よさに惹かれてしまったんじゃないでしょうか
そして、そんな坊やに保護欲をそそられる皆野さん
抱きしめて慰めてあげたいけど…
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-08-Fri 09:51 [編集]
甲斐様
こんにちは~。

> 慎弥くんすっかり皆野さんに懐いてしまいましたね
> 彼は“年上の頼りになるお兄さん”に弱いみたい
> 甘やかされた末っ子体質の慎ちゃん、
> 何も言わずに寄り添ってくれるような皆野さんの
> 心地よさに惹かれてしまったんじゃないでしょうか
> そして、そんな坊やに保護欲をそそられる皆野さん
> 抱きしめて慰めてあげたいけど…

餌を与えてくれる人には懐くのです、ネコ。
っていうわけじゃないけど…。
甘やかされ過ぎてきて、甘えられる人間を見極めることが巧くなっているんでしょうかね~。それともただの無防備なんだか…。
皆野も複雑な心境ですよね~。
懐かれるのは嬉しい。慰めてもあげたい。だけどその影に常にいる人…。
あとは慎弥がどうでてくるのか…。
コメントありがとうございました。
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