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BLの丘
見下ろせる場所 9
2011-07-06-Wed  CATEGORY: 見下ろせる場所
逃げ出してきた慎弥が大人しく、「ホテルに戻りましょう」と言った皆野の台詞に従うわけがなかった。
今となっては顔を合わせたくないのも分かるが、このままでは何も解決はしない。それに、岩槻には皆野から説明する気でいる。
話して分からない人間ではないことくらい、皆野も承知済みだ。
きっと慎弥が淋しがっていた気持ちは岩槻の方が痛いほど知っていた。どれほど構ってやりたくても、優先すべきことが彼にはあった。
皆野をうまく手玉にとったとして、皆野に気を使って慎弥を叱りつけたのだろうが、あの場でハグでもしてくれた方が皆野は落ち着いたかもしれない。
その代わり、慎弥の本音に気付くこともなかっただろうが…。

戻りたくないという慎弥の態度には、これまでに見た強気な態度は微塵も見られなかった。
気落ちした雰囲気はこの先どこに向かったらいいのだろうと、迷子になる姿だ。
たぶんもう、以前のように岩槻に対して慎弥が振舞うことは、この先ないのではないかと思うほどに…。
皆野が慎弥の手を取り繋ぐと、最初こそ驚かれはしたが、抵抗されることもなくされるままになっている。
「岩槻様は誰よりも慎弥くんのことを思われているのですから…」
過去を振り返ったのか、皆野を安心させようとしているのか、慎弥は静かに頷きはしたが、分かっていても、一度巣食ってしまった闇を払うのは容易なことではないだろう。

無言で来た道を戻った。
煌々と明かりの点いた館内は外からでも良く見える場所がある。その正面で、重役が岩槻に米搗きバッタのように腰を曲げていた。
思わず立ち止まってしまった皆野だ。
同じように視線を向けた慎弥が不思議そうに「何で?」と尋ねてくる。
勝手な兄弟喧嘩を繰り広げ、迷惑を被っているのはホテル側のはずなのに、平身低頭に振舞う姿が信じられないようだ。
「まぁ、…俺が関わっちゃったからね…」
皆野もまた、軽い苦笑を浮かべ心配ないと慎弥に向けながら、内心で半ば諦めたように溜め息を一つ落とした。
どんな理由であれ客に対して怒鳴ってしまったのは皆野だし、いくらプライベートで本人の希望とはいえ、保護者(?)の許可なく連れまわしたのも皆野だ。

途端に慎弥が不安げに瞳を揺らめかせる。
「ごめん…。俺…、草加さんに、迷惑ばっかりかけて…」
「そんなことないって。それより、慎弥くんを一人でホテルから出したなんて知れたら、それこそ減給物だよ」
皆野は茶化したつもりだったが、どこまで慎弥に伝わったかは疑問だった。
「ほらほら。とにかく帰らないと、もっと心配されちゃうから」
皆野は繋いだ手をわざとらしくブンブンと振る。
微笑みかければ、皆野の立場を思ったのか、素直に頷いてくる。

館内に入る為のドアをくぐる前に、気付いた人たちが駆け寄ってきた。
「慎弥っ!」
「草加っ!!おまえなっ!!」
岩槻よりもずっと押さえた声で、それこそ誰に聞こえているのかという低音が皆野に降りかかってくる。
もう、殴られることも覚悟の上だった。
一方、皆野の手から離れた慎弥が、いや、奪われた慎弥が岩槻の腕の中に収まっていった。
「ごめん…、ごめん…、ごめんね…」
幾度も謝罪の言葉を浴びせながら、細い体を抱きしめて岩槻の言葉も震えている気がした。
…失いたくない…。一時の判断でとってしまった行動を後悔する仕草。
無事に帰って来たと分かるから安堵して何のためらいもなく抱きしめるのは、幼い子供を守る『親』と同じだと思った。
時に厳しい言葉を浴びせても、最終的に縋ってくるのは自分の元なのだと…。
まるでそれを教え込むように…。

あぁ。なんだか分かるような気がした。
慎弥の我が儘を聞き入れることで拠り所を与え、そうすることでしか彼の心を守れなかった人…。
岩槻は全てを見通していたのだろう。結果的にそれは甘やかすことでしかなかったのだけれど…。
二人は心の奥深くで、言葉にも態度にもできないものを抱えながら過ごしてきた。決して表面に出すことのない『脅え』。

言いようのない悪寒が皆野の背を走る。
長い年月の間、こうして慎弥を捕らえ、縛り付け、我がものとした人に敵う術など持ち合わせていない。
自分の元に手繰り寄せたいと思っても、そびえる壁の高さを目の当たりにされる。
このままでは、慎弥は完全な『籠の中の鳥』になっていく…。
でもそれは、慎弥の望んだ世界ではない…。

「草加、後で話がある」
「はい…」
目の前で繰り広げられる兄弟の抱擁を目の端にして、呼び止められたことに素直に返事をすれば、ハッと気付いた慎弥が岩槻の腕から顔を上げた。
「ちが…っ、草加さんは何も悪くなくて…。…あ、それより、怪我が…」
破れたシャツから血を滲ませる肩から二の腕を凝視された。
「あぁ、これくらいは…」
明るい電気の下にくると、思っていたよりも深く擦れていたようだ。特に払いもしなかった小さな石の粒が幾つか付着していた。
そのことに目を止めたのは岩槻だった。
「もしかして、それも慎弥が…?」
「いえいえ、違います。単に俺の…私の不注意ですから…」
そっと慎弥を伺い見、黙っているように視線で訴えると、理解したのか押し黙った。
もちろん、こんな言い訳で岩槻が了承するはずなどなかったのだが…。
「とにかく怪我の手当てを…」
岩槻に促されて数人のスタッフが慌ただしく動きだす。
客に指示されるのもどうなんだろう…。皆野は再び内心で深い溜め息をつく。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-07-07-Thu 00:58 [編集]
お兄ちゃんやっぱり育て方間違ってたんじゃないでしょうか
『我が儘を聞き入れることで拠り所を与え、そうすることでしか彼の心を守れなかった』
気持はわかりますが、
籠の鳥の反乱に驚いたことでしょう
皆野さんの心境も複雑ですね
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-07-Thu 08:21 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> お兄ちゃんやっぱり育て方間違ってたんじゃないでしょうか
> 『我が儘を聞き入れることで拠り所を与え、そうすることでしか彼の心を守れなかった』
> 気持はわかりますが、
> 籠の鳥の反乱に驚いたことでしょう
> 皆野さんの心境も複雑ですね

お兄さん、間違えてますね~。甘やかすことが良いことではないのですが…。
慎弥が新しい家族の中で後ろめたさを感じないようにとしてきたことは、裏目に出てしまっているのでしょうか。
さらに伏兵の登場で…Σ( ̄□ ̄;)
皆野さん、どうしていくんでしょうね。
コメントありがとうございました。
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