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BLの丘
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Present 1
2010-01-12-Tue  CATEGORY: Present
年末の差し迫った頃に、一つ年下の鹿沼龍太(かぬま りゅうた)が、北海道の道東へと出張に出かけることになった。
関東圏の雪とは無縁の地に住む自分たちだったので、出張の話を聞いた時、鹿沼はその逞しい身体に似合わず「寒いのは嫌いだ~っ!」と想像できない寒さに背中を丸めていた。
だからといってもこれが仕事なのだから仕方がない。

常陸雅臣(ひたち まさおみ)の勤める企業は旅行業だった。雅臣は企画された旅行プランを客に紹介する窓口業務の仕事に就いていたが、たまぁに添乗員として客に連れ添うこともあった。
数多く存在する旅行プランは季節ごとに変わるため、商品を把握するのはとても大変だ。おまけに扱っている商品は提携する航空会社のものや鉄道会社、観光バス会社のものまであったりして膨大だった。
だが添乗員として客に同行するたびに想像以上の神経を使い、どちらの仕事がいいかと言われればやはり窓口がいいと思っていたりする。旅行慣れした添乗員は、空き期間に窓口業務を手伝ってくれる者もいたが、大概は「窓口なんて無理」とぼやかれてしまうのだから向き不向きなのだろう。
鹿沼は雅臣たちが販売する商品を企画する部門にいた。だからいつも交渉や下調べなどで外に出ていて、会社に居ることは少なかったが、「今一番のお勧め」が出来上がった時には真っ先に雅臣の所へと大量のチラシを持ってやってくる。
雅臣は今年28歳になった。主任という肩書きももらった。
窓口業務に携わる人はほとんどが女性だったが、さわやかな風貌と物腰の柔らかさ、知識の豊富さで客の人気は高く、詳しい説明を求めたい人ほど雅臣を指名してきた。
雅臣は記憶力がとても良かった。一度しか聞かなかった話でもその頭の中から消えていくことはあまりない。
よく鹿沼が「小柄な身体の上にちょこんと乗った小さい頭部は全部が脳味噌」とからかった。鹿沼と比べれば一回りどころか二回りくらい小さく感じる雅臣なのに、どこにこれだけの知識が詰め込まれているのか不思議だったようだ。
少し神経質気味なところがある雅臣とは対照的に、鹿沼は非常に大雑把で朗らかな性格をしていた。体育会系で育ったという鹿沼はとても礼儀正しい一面を持ちながら、相手が気を許してくれば親しみを込めて寄り添っていく。だから営業先でも好印象の連続だった。

すでに出発までも済ませている「冬の北海道」を売り込んだプランが現地でトラブルを起こした。30名から40名ほどを募り一台のバスに乗せて各地を回るツアーだった。特にこの時期は一日に何台も観光バスを手配することがある人気商品だ。
企画の中で一番の売りである、海鮮問屋へのお立ち寄りプランだったのだが、年末商戦に絡んだせいで混雑と時間の無さに客が「買い物もできない」と苦情を寄せたことから始まった。これには問屋側からも文句が出て予定していた『おまけ』を提供しないと言い出した。
問屋側と客との双方の意見もあるから一概には言えないが、悪い噂でもたってしまえば共に良くない結果となる。
そこで人当たりの良さと顔の良さでどうにかしてこいと上司から白羽の矢を立てられたのが鹿沼だった。

鹿沼は人懐っこいと雅臣はいつも思っていた。
社内でも慕われ色々な人に声をかけられ、特に女子社員からは年齢を関係なく誰からでも可愛がられていた。『人気者』という言葉は鹿沼の為にあるのではないかと言いたくなる。
雅臣も『可愛い』と良く褒められたが、それは見た目の姿だけで性格ではないと卑下していた。
誰の輪の中にでも入っていける鹿沼に羨望の眼差しをむけつつ、妬ましさも少しだけ持っていたりする。
そんな鹿沼に告白をされてからすでに3年近い月日が流れていた。
だからといって鹿沼の気持ちに答えたことは一度もない。普段、他の社員がいる前でも平気でアプローチを繰り返す鹿沼の口調はいつもと変わらないし、からかわれているのだと雅臣は自分に言い聞かせていた。
これまで雅臣だって幾つかの恋愛はやり過ごしてきた。付き合ったのは全て男だったが一人を除いてはとても大事にしてくれたと思う。
大学を卒業するまで付き合っていた同い年の男は、就職した途端に雅臣を振った。
「この先は生きていく世界観が変わるしいつまでもこんなことをつづけていられない」と言われた。
本気だったのは雅臣だけであの男にとって将来の中に雅臣の姿などなかったのだ。
それ以降も幾人かと付き合うことはあった。だけど心を許すことまではできなかった。過去に脅え、あの時の胸の痛みをまた味わいたくない。
だから鹿沼が人前でおちゃらけて言葉にしようが、二人きりになった時に真剣な目で告げようが、雅臣はひたすら首を振り続けてきた。

北海道に出張に出向いたはずの鹿沼から大量の発砲スチロールが届いたのは、彼が戻ってきた日の翌日だった。
鹿沼とは会社で顔を合わせることもない一日だった。もともと部門が違うのだから働いているビルの階も違っていたし、鹿沼が窓口に顔を出すことはあっても雅臣から企画部に訪れることはまずない。
客に問われる不明な点は内線電話で確認ができたし、対応してくれるのは大概鹿沼よりも立場の上の人間ばかりだった。
夜になって帰宅した雅臣のマンションの郵便受けに宅配会社からの不在案内が入っていて何事かと連絡をしてみれば、海産物だと答えられ、早いうちに届けたいからこの後向かうと言われた。
すでに夜の9時に近いのに、寄ってくれるありがたさと、また明日二度手間をかけたくない気持ちから在宅していると返事をした。
この時になって、これまで一度として連絡をしたことのない鹿沼の携帯電話の番号を表示させた。

「あー、もう届くんっすかーっ?早いですねー。問屋の人が今後もよろしくって適当に詰めてくれたんですよ。会社に送っちゃうとみんなに取られちゃうしー。あっ、会社の人には内緒ですよ。たまにこうやって色々貰うんです。せっかくだから年末年始一緒に鍋でもしましょうよ。美味しいものが食べられる御礼ってことでいいですから、お邪魔させてくださいね」
「自宅に送ってもらえば良かったじゃないか。なんで僕の家なの?」
「そんなことしたら常陸さんちに行く口実がなくなっちゃうじゃないですか。それにうちにだって来てくれないでしょ。会社じゃないところで逢いたいっていう俺の気持ち、少しは受け取ってください」
電話越しの声は悪びれた様子もなく明るくはきはきとしていて、自分の感情をはっきりと口にしていた。
ずっと一線を引いてきた関係なのに、何かが崩れそうな予感がして、今まで以上に不安にさせられた雅臣だった。

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Present 2
2010-01-13-Wed  CATEGORY: Present
鹿沼が強引な手段に出たのは今回が初めてだった。「自宅に寄るための口実」と言い切って送り届けてくるなんて…。
今まで言葉で幾度か想いを告げられてはいても、食事や飲みに誘われたり(行ったことはないけど)、ちょっとしたお土産を買ってきてくれたりとそんな程度の付き合い方だった。
そんな雅臣の態度にも痺れを切らすことなく、根気よく雰囲気の良い社員関係を続けてきてくれた。
鹿沼に答えるということはその良い関係が壊れてしまうように思える。同じ職場とは付き合っている時は良いかもしれないが別れた時にどうしたってぎくしゃくしてしまうものだ。それにまだ自分には感情を入れ込むことができそうにない。鹿沼を傷つけることになる。

年末年始とはいっても、当社で旅行契約をしてくれた客は多数いるわけだし、客と共に各地を飛び回っている添乗員もいる。
窓口業務は休業に入っても、事務所には常に待機する人間がいた。
もともと週末も営業していて、カレンダーなど関係なく交替休み制を採用する会社だったし、1週間以上の休暇願もすんなりと下りてしまうから、正月や盆に働くことに苦はなかった。
とはいえ、持ち場が休みとなってしまえば頼まれない限り『緊急連絡先』の人員に当てられることはない。

発泡スチロールが届いた翌日が仕事納めで、30日から3日まで雅臣も鹿沼も休暇に入った。
荷物の中身を確認してみれば、休暇中は買い物に出かけなくて済むくらいの食品が詰め込まれていた。
一人暮らしをしている雅臣にしてみれば、この数年まともなおせち料理も食べたことがなかったが、一通り、いやそれ以上の品が揃っている。
どうみたって一人や二人で食べきれる量ではなかった。
やはり会社に持って行って多少分けた方が無駄にならないのではないだろうか…。
そんなことを思い、鹿沼に提案してみようともう一度かけた電話はもう繋がらなかった。

荷物を送ってもらったことを会社の人間には内緒にしてくれと頼まれては、勝手に持って行くわけにもいかない。
量の多さに冷蔵庫が壊れないだろうかと心配するくらい綺麗に整理して押し込んだ。大量の氷で覆われていた海産物はそのまま蓋を閉じて寒いベランダに出しておいた。
今の季節なら、冷蔵庫と変わらない気温だろう。3階にある部屋だから盗まれるということはないと思うが少し心配してしまう。散々悩んで、一番大きなゴミ袋で包むことにした。

出勤してすぐに鹿沼を訪ねた。普段雅臣が企画部に足を踏み入れることなどないのだから、事務所にいた人間は誰もが驚いていた。さすがに仕事収めの今日はほとんどの人間が事務処理に追われている。
「常陸さんじゃないですか。どうしちゃったんですか?」
一番手前に座っていた年若い女の子が雅臣の姿を視界に入れた途端、キンキンとした甲高い声をあげて迎い入れた。
「こんな企画は売れない」という商品でも売りさばいてしまったりする雅臣の力はどこの部でも話題にされることだったし、一番目立つ所で勤務しているせいか、誰が見ても顔と名前は一致する。
「あのさー、…鹿沼いる?」
女子社員に一度視線を向けて微笑んで挨拶をした後、さりげなくフロア内をくるりと見回したが目的の人物を探せられない。
鹿沼からのアプローチには慣れていた雅臣でも、自分からたずねるのはなんとなく気が引けた。鹿沼が雅臣を追っていることもそれに答えない雅臣のことも周知の事実で有名な話にまでなっている。まぁ、誰も本気には捉えていないようだが、話題性としては火に油を注ぐようで余計に気恥ずかしさが生まれてしまった。
「鹿沼さんですか?…あっれー、さっきまでそこらへんに…、あ、もしかしたらコーヒーでも淹れに行ったのかも。鹿沼さんてば朝から眠い眠いって連発してましたから」
小声で話しかけてはみたものの、帰ってきた声ははっきりと鹿沼の名前を口にしていて、一瞬にしてざわついていたフロアが静まり返ったようだった。誰もが自分たちの会話に耳をピクンとさせたのが分かったくらいで、居辛さに「じゃあ…」と逃げ腰になる。
電話が繋がらなかったことに少しの苛立ちを覚えながら退散したほうが良いと判断すると同時に「常陸さん?」と背後からコーヒーの香りと共に聞きなれた声がした。
こんなところでお目にかかったことなどないと鹿沼の表情がパァっと明るくなるのを誰もが認めた。傍まで寄られて雅臣は振り返りながら鹿沼を見上げた。短めにカットされた髪形といい、清々しく人の良さそうな笑みを浮かべる容姿はやはり人を惹きつける魅力がある。
「どうしたんですか?こんなところまで」
「あ…、電話繋がらないから…。…、あの、ちょっと昨日のことで…」
ここで返事をしないのも周りに変に思われるだけだと思いつつ、内緒にしてと頼まれた言葉が引っかかって言葉尻を濁せば、自分を尋ねてきたと分かった鹿沼が手にしていたコーヒーカップを女子社員のデスクの上に預けた。
「開店までまだ時間ありますね」
雅臣が戻らなければならない時間を確認してからニッコリと笑みをたたえ、そそくさと腕を引っ張られ企画部から連れ出された。直後、背後で「鹿沼さんの寝不足の原因って常陸さんだったんですか~?!」と話しあう女子社員の声が響いて来て、なんてタイミングが悪いんだろうと後悔した雅臣だった。

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Present 3
2010-01-14-Thu  CATEGORY: Present
各フロアの廊下の端には自動販売機と小さなテーブルを備えた休憩スペースがあって喫煙室も隣接している。二人とも煙草を吸うことがなかったから、てっきり休憩スペースに向かうのだと思っていたら、手前の応接室に連れ込まれてしまった。
「話を聞かれたらまずいでしょ」と至極当然のように言っている。
こんなところで二人きりでいるほうがもっとまずいんじゃないかとあやぶんでしまうが…。
整えられたソファセットに座ることもなく、壁側に並んで立った。
「さっきの誤解、ちゃんと解いておいてよ。あとで変な噂になったら困るから」
「さっきの…って?…ああ、由真(ゆま)ちゃんが言ってたこと?まぁ、確かに常陸さんが原因で寝不足になったわけじゃないけど…」
雅臣も他の部の社員の苗字くらいは覚えていても名前までは記憶していなかった。鹿沼は親しい人たち、特に年下のほとんどの人間をファーストネームで呼んでいる。それだけ親近感があるということなのだろう。
「そう、そのこと。鹿沼の寝不足の原因をなんで僕のせいにされなきゃならないの」
「ねぇ、どうせだったら事実にしちゃいません?」
「しちゃいませんっ!」
鹿沼と会話をしているといつもこんな冗談ばかりだった。…調子を崩される…。
言葉の裏にどんな意味が込められているのかはさすがに雅臣でも理解できたが、さらりと願い出る神経には感心するやらあきれるやら…。欲望という波間にうずもれ、身体を酷使しての寝不足なんて誰にも知られたくない。
ピシャリと言い放ったつもりでも、やはり鹿沼は懲りていなそうだった。

くだらない話で時間を潰したくもなく、雅臣は昨夜届いた荷物の事を切り出した。食べ切れないんじゃないかという量が入っていたと説明したが、一向に鹿沼は取り合おうとしなかった。
「今日で会社終わっちゃうのに今更取りにも行けないでしょ?配らなくていいです。それに大丈夫ですよ、そんなに早く傷んだりしないから」
「そうかもしれないけど…」
「休みの間、二人で食べれば消化できますよ」
確かに鹿沼は、食の細い自分とは違って良く食べそうだ。これだけの身体と行動力を維持していくために必ず必要なエネルギーを確保しなければならないはずだ。
問屋の人間は鹿沼の体型を見てあの量を送ってきたのかもしれないとも思えてきた。
鹿沼を家に招き入れるのは初めてのことだった。へんな緊張感があるが、鹿沼の態度を見ていれば友人として過ごせそうな気がしてくる。それ以上の関係に陥ったら傷つくのは自分たちだ。
雅臣は過去に体験していたし、それを鹿沼に味あわせたくない。そろそろはっきりさせなければいけない。そんな思いから今回の話を受け入れたのだろう。

「余ったらちゃんと持って帰ってよ」
「はいっ」
万遍の笑みを見せながら返事の後には「喜んでっ!」と言葉が続いていたけど、あえて耳にしなかったように、雅臣は自分の働くフロアへと戻ることにした。
鹿沼の『眠い…』はすっかり消えたようだ。

一年の労働を終え、帰宅して食事を先にしようか風呂を先にしようかと悩みながら、明日は早起きをしなくていいのだという甘えからゆっくり酒でも煽りたいと思って結局風呂が先になった。
風呂から上がる頃には帰ってきたときとは違って部屋もだいぶ暖まっている。2LDKの作りだったが、LDKが一つの空間となっているためかなり広く感じる。しかもリビング部分にしかテーブルを置いていなかったし、小洒落たリビングテーブルではなく実用的なこたつだったから、キッチンからの距離が無駄に長く感じた。
壁に張り付くようにして流し台とコンロが備えられている。どこからも丸見えになるキッチンだったが、男の一人暮らしで気を使うものもいない。
家具がもっといっぱいあればまた違うように見えるのだろうが、あるのは本ばかりで、それも旅行に関するものばかりだった。書棚に入りきらないものが床から直に積み上げられている。それらがなければもっと殺風景な部屋になりそうだ。

風呂上がりに前ボタンのパジャマとはんてんを着込み、晩酌と食事の準備を整えようやくこたつに入って、最近凝っていた芋焼酎のふたを開けたところに玄関の呼び出し音が鳴った。
いつもに比べれば確かに早い帰宅時間ではあったが、こんな夜分に訪れてくる人など頭に思い浮かばなかった。
まさかまた宅配便じゃないだろうな…と思いながら部屋に備え付けのインターホンのモニターを覗きこめば見たことのある顔がモニターに顔を近づけていて、それはどアップといって良かった。
「か、かぬまぁ?!」
「はい。お言葉に甘えて来ちゃいました♪」
語尾におんぷとかハートマークなどが付いていそうなくらい、モニター越しでもその声は嬉々としていた。
雅臣としては呼んだ覚えもない。『年末年始に…』と確かに鹿沼は言っていたが、誰が聞いたってそれは今日から…ではないだろう。
このままモニター越しに会話を続けるのは気分の良いことではないし、近所の目もある。最新式の建物ではなかったからエントランスのセキュリティーも備わっていなかったし直接玄関に辿り着けたわけだ。
慌てて玄関に走り寄り鍵を開ければ、一度家に戻って着替えてきたと思われるダウンジャケットを羽織った姿の鹿沼が佇んでいた。
普段は凛々しいと思う姿も私服になってしまうとかなり印象が変わって逞しさのほうが際立つ。
手には2本の一升瓶が入っていると思われる化粧箱と大きなバッグが肩から下げられていた。
化粧箱を除けばまるで今から旅行にでも行くのかといういでたちだった。
部屋着のままの雅臣に一瞬見惚れたかのような視線を見せつつも、とっさに取り繕う姿がうかがえた。
「部屋ん中はやっぱりあったかいですねー。あー、しあわせっ」
「どうぞ」と言う間もなく、三和土に上がり込んだ鹿沼は呆然とする雅臣に化粧箱を渡した。
「いくら食材が届いている…っていってもねぇ。御挨拶代わりですから」
体格の良い鹿沼が狭い玄関に入り込んでしまえば雅臣は後ずさるしかない。玄関の扉が完全に閉まった音の後で、鹿沼がドアに鍵をかけた。

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Present 4
2010-01-15-Fri  CATEGORY: Present
「はあぁぁぁ???」
すっとんきょんな声を上げたのは雅臣の方だった。
帰る素振りを何一つ見せずに、いや、帰らないと言い切るかのように鍵としっかりチェーンロックまでかけられる。
「ちょっ、ちょっと待って、ナニコレっ?!」
廊下と言えるようなものはない。狭い上がり口の先にドアがあってそれをくぐればリビングだった。
この部屋の良くも悪くもある点がこの玄関の狭さだった。玄関を入った真横に土間続きのウォークインクローゼットが備え付けてあり、確かに収納力には優れている。だが人が来た時に玄関口で話をする…というわけにはいかず、嫌でも部屋に上がってもらうことになる。ましてや、玄関ドアを閉められてしまった現在では鹿沼が立つ位置は非常に窮屈そうだった。

慌てふためいた雅臣を鹿沼が人差し指を振りながら見つめ返した。
「ナニコレじゃないですよ。休暇中、二人で食材を片付けましょうねって今日約束したじゃないですか。大丈夫です。俺、料理は出来ますし、一人暮らしで片付けとかも苦手じゃないですから。全部を常陸さんに任せたりするようなことはしません」
そういう問題じゃない。話の論点がズレている気がする…。
約束なんてしたかぁ?したか?と一日の流れを思い返せば、確かに朝一番で企画部に出向いた時に話した会話の中に「休みの間に二人で消化する…」と言っていたと振り返った。
『休みの間』と言う言葉をすっかり聞き落としていたようだが、雅臣と鹿沼の間で『期間』が大きく異なっていたのだと今頃になって知らされる。
雅臣には『年末年始』と言われた言葉のほうが印象強く31日と元旦という意味だったし、鹿沼は今日告げた『休暇期間中”ずっと”』と捉えていたようだ。
一晩くらいなら(もちろんただのお食事だけ)…と腹を括ったところはあったとしても、休みの期間中ともなれば話はずっと変わってくる。
なんの感情もない「友人」や「後輩」としてだったらまだ受け入れられるだろうが、明らかに好意を寄せる鹿沼を知っているだけに躊躇するものがあった。
それに、雅臣としては予定していた一夜に、全てを打ち明けようとしていた。
鹿沼に感情を寄せることはないこと。別れることになったときにお互いが気まずい思いをすること。だから忘れてくれ…と。
3年近くも曖昧にしてきてしまったことに罪悪感があったから、荷物が届いても突き返すことができなかったのだと思う。

これまで、社内の付き合いで酒席などを共にしたことはあったが、個人的な付き合いは一切断ってきた。時折、「送る」といってマンションのエントランスまで着いてきてくれたことくらいはある。
無理強いだけは絶対にしなかった鹿沼なのに、何かどこかが変わり始めているのを雅臣もはっきりと感じ取っていたが、それが心底嫌なものでもなかったし、むしろこうやってズカズカと入ってこられることに喜びと恐怖の二つの感情が入り混じった。
これまで付き合った男たちは皆優しかった。腫れものを扱うように雅臣を抱いてくれた。心の傷に触れないようにオブラートに包んで「今の君がいい」と囁いてくれた。
思い出したくない一番深いところにまで誰も近づいていない。
包まれたからこそ、感情を寄せられない罪悪感にどんどんと蝕まれていって、結局は「好きになれない」ことを相手に気付かれ、また雅臣も相手を手放した。『優しさ』が物足りなかったのかもしれない。
最後に別れた男は2カ月前だ。それも身体だけの付き合いといっていい。雅臣の心の傷を理解してくれたが、癒すところまではたどりつかなかった。雅臣がのめり込めなかったのか相手が深みにはまろうとしなかったのかは分からないが、お互い安全パイを選んだことだけは確かだ。
心の傷を抉るくらい強く踏み込まれたら…。傾きそうな自分がいる。それが分かるから余計に怖いのだ。
今の鹿沼がまさにそんな感じだった。

「なんだよ、その荷物はっ!まさか泊まり込む気でいるの?」
「はいっ!」
「気易く返事してないのっ!だめに決まってんだろっ」
「もう夜は遅いんです。夜道を一人で歩いていたら襲われます。追い出さないでください」
こんな巨体を襲う馬鹿がどこにいるんだよ…。
雅臣が絶句していると「ほら、早く」と言うように鹿沼は靴を脱ぎ出し、部屋へと雅臣を追いたてる。
重い箱を両手に抱えてしまった今、鹿沼を阻止しようにも身体は自由が利かなかった。

部屋へと続くドアを鹿沼が開けてくれながら、「何が届きました?」と問われる。
たとえ幾晩泊まることになろうと、預かった食材くらい確認をさせるべきだと思った。それを持ちかえってもらうためにも…。
「冷蔵庫の中に入れたのと…、ベランダにもあるよ」
冷蔵庫に入りきらないくらい届いたんだって促せばまたもや喜びを表した鹿沼がいた。
「家から出なくていいってことっすねーっ!」
そういう意味じゃないだろ…
重い箱を部屋の隅に置きながら、勝手にのぞいていいからとキッチンへと鹿沼を招いた。
冷蔵庫を開ければ、びっちりと詰め込まれた食材に鹿沼が驚き言葉を失っている。
「なんすっか…これ…」
「だから食べ切れないって言ったじゃん」
「そうじゃなくて入れ方ですよ。大中小大きさも形も違うのに良くここまで入れられますね」
冷気の流れがなくて電力会社からは苦情がきそうだった。
感心したように覗き込みっぱなしの鹿沼が、上段下段とおせち料理とその他の食品が見事に分けられた庫内をじっくりとみている。
まるで体内でも見られるような恥ずかしさに雅臣が早く閉じろと言葉を荒げた。
「旅行の荷物を詰め込むのと一緒じゃない?どうにかコンパクトになるように考えるのと一緒でしょ」
「その発想の転換が素晴らしい。俺が持って行く荷物量も、常陸さんに荷造りしてもらったら半分のスペースで済みそう」
手伝う気はないけどね…と内心で悪態をつきながら、食べたいものがあったら出して、と鹿沼を促した。
鹿沼に帰ってもらうことはすでに諦めている。
…分からない。鹿沼が帰ることを望んでいない自分がいるのを認めたくなかった。
…付き合いだけだ…。食品があってそれを食べて…。自分に言い聞かせた。
過去の男とイベント事を過ごしたことはなかった。年末年始という時間を過ごすのは幼い頃の家族を除いては鹿沼が初めてだ。
突然訪れた男の存在が怖かったのに安堵感もある。
雅臣は先にこたつに入りながら、鹿沼を待った。
時早く、おせち料理を皿に並べた鹿沼が戻ってきた。食べ物に頓着はないらしい。
「さっさと食べないとね」
酒のつまみだと言わんばかりに無造作に盛りつけられた品は『おせち料理』には見えなかった。

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Present 5
2010-01-17-Sun  CATEGORY: Present
「なぁ、普通、年末から食べないだろう?こういうの」
鹿沼らしく、不揃いな太さにカットされた伊達巻卵を箸の先でつまみながら思わず聞いてしまう。
年越し蕎麦もまだ食べていないのに、こたつの上にあるのは伊達巻卵やかまぼこ、栗きんとんだった。
「細かいこと、言わないでくださいよ。消化するんでしょ。食べ飽きちゃいますかね」
「うん、飽きそう」
向かい側に座った鹿沼と視線が合って、見慣れない姿に一瞬の躊躇があった。
冗談ばかり繰り返す間柄で辛辣な発言も多いけど気にしたら次から次へと戸惑いが生まれる。
思えば、自分も部屋着なんだ…。
付き合っていた人たちにもあまりこんな姿は見せていない。
それくらい『外』で会っていたのだと振り返った。
恥ずかしさが一気に湧いて緊張した指先が震えた。
なんだろう…この心臓のバクバク感…。

余計に芋焼酎が進む。
俯いてしまう雅臣を気遣うように話題をあれこれと変える。もともと人に対しての気遣いはとても良い方だと思っていた。
鹿沼には独特のオーラのようなものがある。
「いつもそういう格好なの?はんてん、可愛い」
突然振られた話にこれまでなんとなく適当に相槌を入れていた言葉が止まった。
「な、何、可愛いって。嬉しくないし…」
「可愛いですよ。窓口にいる姿も可愛いけど今のほうがもっと惹かれる。見られて良かった、こういうの」
「ばっ…かっ…」
こたつから温まるものではなくて、身体の中からボウッと燃え上がるようなものがある。
羞恥心だったが、取り繕うことに精一杯で雅臣は慌てふためいていた。

「ねぇ。ずっと誤魔化そうってしていませんか?はぐらかされる気はないですよ。この前の男、別れたんでしょ?」

空気の流れが突然変わった。
真剣な眼差しが雅臣を攻める。
鹿沼は雅臣が付き合っていた過去の男を知っていた。
この3年の間に移り変わった男の数も承知している。同じ社内で気まずさに陥りたくない関係にわざと雅臣が付き合っている奴はいると明かしたからだった。
最初の頃は鹿沼も雅臣を思って、それが本人の為なら…と身を引いてくれていた所はあったが、感情を入れこまない雅臣に気付いたのだろう。
最後の男が身体だけの関係と言って良かったから尚更思うものがあったのかもしれない。

「鹿沼、あのさ…」
「もうやめてください、あんなの。いい加減な思いで付き合うとか。俺もこれ以上だまされる気はないですから。適当な感情を抱えてふらふらと他の人間に縋るのなら俺のとこに来てください。絶対に大事にします。後悔させない」

言いかけた言葉をさえぎられる。
人を愛することが怖い…。また自分は捨てられる。そう思うから心を寄せられない…。
そしてどうしたって別れる時のことが頭に浮かぶ。同じ社内なんて、ずぅっと抱えるはめになる。

酔いの力もあって溜め込んでいたものが喉の奥から零れた。
「何でわかんないの…?いつか傷つくんだよ。鹿沼にそんなこと思わせたくないし…」
「なんで傷つくって言い切るの?!」
「だっていつか別れる…」
「別れないっ!何それっ!付き合う前に別れる時のこと考えてんの?馬鹿じゃんっ!そんなことしてたらいつまでたったってふらふらのままだよっ」
雅臣の言うことを理解できないと言うように鹿沼から激しい言葉が吐き出された。
脅えている自分を知っているし踏み込まれたくもない。だけど傷つけられるくらい攻められたい自分がいるのも確かで上薬を塗り込められるみたいに癒されたかった。
きっと過去の傷を抉ってもらわない限り次には進めない…。
だけどやっぱり恐怖の方が勝った。
「もういいのっ!つらいことしたのっ!二度と経験なんてしたくないっ」
「どんだけ悲惨だったの?そんな傷ついた恋の思い出だけじゃ終わらせないよっ!よくないっ。全部ぬり変えてやる。苦しみだけを味合わせて終わりにしたくない。過去の思い出全部俺が貰ってやるから俺にだけは本当のこと見せてよ」

口調を荒げた男が目の前に来た。避ける暇もなく肌の温もりに包み込まれる。
久しく感じていなかった肌の温度と酔いが雅臣を襲った。

…だめだ、今、涙がこぼれる…

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20000踏んだ方いらっしゃいましたね。前後10番くらいは…。
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