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珍客の訪れ 1
2013-07-02-Tue  CATEGORY: 珍客
【策略はどこまでも】の番外SSです。




その日、桜庭那智(さくらば なち)は、上司の中條誠(なかじょう まこと)と外回りの仕事に出ていた。
午前中に2件の得意先を回り、社屋を背後に駐車場に向かいながら、「ランチでも食べて戻ろうか」と話に花が咲く。
午後は二人とも自社の会社内で書類とにらめっこの予定でおり、これといって急ぐ必要もなかった。
中條と一緒の時は車で移動することが多かった。
気兼ねなく会話ができるところと、資料などの荷物が増えても、重さを気にせずに移動できるところは利点である。
ペーパードライバーの那智が運転することは無いに等しく、一人であれば何の迷いもなく公共交通機関を利用した。
今日も中條が運転席に乗り込み、那智は助手席に収まる。
その時、那智の携帯電話が鳴り、中條は気にした様子もなく出るよう促してくる。
行き先が決まっていない中條は、車を発進させずにいた。

那智は発信者を見て眉をひそめた。
見慣れた会社名だったが、この名前が表示されることは非常に珍しい。
その会社に出入りする人間を嫌というほど知っていても、ほとんど本人の携帯電話からかかってくるので、見たことがないと言えるくらいだった。
那智の反応に中條は少なからず疑問を持ったようだが、口を出してくることはない。
「はい、桜庭です」
一応、営業用の口調で出てみると、『あぁ、姫君(ひめぎみ)?』と快活でありながら低音の声が届けられた。
相手の呼び方を聞いて、より一層那智の眉間は寄せられた。
そう呼ぶ人間を数名知っている。

電話をかけてきたのは、那智の恋人、高柳久志(たかやなぎ ひさし)が勤務する運送会社の上司で、黒川という部長だった。
那智も何度か直接顔を合わせたことがあるので、すぐに容姿が脳裏に浮かんだ。
50歳代だと聞いたが、仕事柄か今だもって筋肉をきちんと付けた肉体(だと思われる)は、その年齢を感じさせない。
明朗快活な性格は裏表がなく付き合いやすかったが、この呼ばれ方だけは気に入るものにはならない。
中條も『さくらちゃん』という、可愛さ丸出しのニックネームを付けてくれていて、こちらも何度言っても直る気配は見えなかった。
黒川に対しては、あからさまに文句を言うわけにもいかず、久志を通して不満を訴えているのだが、馬耳東風と聞き流されている。
頻繁に会うわけでもなく、強く出ないのも訂正されない理由だろう。
久志からの電話ならしょっちゅうだし、たとえ会社の電話を使われても気にも留めないのだが、上司からともなれば嫌な予感が走り抜けた。

「えーと、どうしましたか?」
この際、呼び名の件は後回しにしようと、脳は現状確認を求める。
黒川も面倒な前置きは省いて本題に入ってくれた。
『実は高柳が事故ってさぁ…』
「事故ぉっ?!」
予想もしなかった回答は那智を瞠目させるには充分だった。
中條も「えっ?!」と聞き耳を立ててきた。
ただ黒川の声音に慌てた様子は感じられず、那智の動揺とは対照的に淡々と続きを語った。
その口調は、いたって穏やかで、差し迫った状況ではないと伝わり、最初の焦りが徐々に鎮められていく。
話の内容はこうだ。
荷物仕分けの構内現場で、荷物の積まれた可動式のコンテナに体をぶつけて、足を挟んだという。
重量のあるソレは人の力で充分動かせるものだったが、少しでも勢いがつけばただの凶器に変貌する。
久志の職場では荷扱いの関係上、それらに触れないわけにはいかず、安全に関してはどれだけ注意していても、怪我をする確率は高かった。
擦り傷を作ったとか、指を挟んだ、くらいの報告は過去にも本人からされていたので、その程度は那智にしてみたら、紙で指を切ったのと同等の感覚だった。
怪我をしたことを『事故った』と大げさに表現するのはこの会社の人間ならではなのかもしれないが、那智にとっては非常に心臓に悪い言葉となって響く。
黒川自ら電話をしてきたことで、違いに気付くが、それでも生命にかかわるほど酷くないと思えた。
とはいえ、心配なのは変わりない。

説明では、多忙極める現場から人員の応援要請をもらい、いつものごとく久志を送りこんだらこんな事態になってしまったそうだ。
普段よりも多い人数と物量に囲まれて、スムーズに事が運ばれなかった不運もあったのだろう。
人間でも時間でも、追われるものがある時ほど余裕がなくなり、注意力は散漫になる。
『本人は"問題ない"って言い張っているんだけれどさぁ。単純な事故ほどデカイ怪我だったりするんだよ。まぁピンピンしていることはしているんだけどねぇ。一応病院行けって言っても聞かないし。今日はもう退社させるんだけど、運転して帰るってふざけたこと言うし…』
吐きだされるのは心配なのか呆れなのか…。
このまま一人帰して、途中で交通事故にでも合われたら、それこそ困るのは"運送会社"のほうだった。
もう一つは、那智に黙ったままでいられても面倒を生むだけと判断されたからだろう。
久志は那智の友人である朝比奈一葉(あさひな かずは)から車を購入して以来、通勤に使用していたから、置いて帰りたくない心理も理解できたが…。
どう答えたら良いものかと声を発せないでいる那智に、黒川はまた続けた。
『こっちで誰かに付き添わせて病院連れて行ってもいいんだけど、あいにく人が足りないところでさ。高柳が元気すぎるだけに表立って人を割けないから、まあ、今日でも明日でもいいから、病院に行くこと、説得してもらえないかと思って、ね』
久志が誰に弱いかを良く知る上司だった。
そこにはもちろん、自ら運転して帰らないように、との約束を取り付けてほしい願いが込められている。
どっちを向いても人手が足りないのは、『夏のご挨拶』が出回る時期だけに仕方がない。
久志の我が儘に、那智は一つのため息をこぼしてしまった。

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数話で終わる予定…(←いつものごとく言っておく)
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珍客の訪れ 2
2013-07-03-Wed  CATEGORY: 珍客
迷惑をかけていることに変わりはないと那智は思う。
不注意で怪我をしたとは周りの人間に余計な心労を負わせる。
猫の手も借りたい一番の忙しい時に怪我をされて、文句を言いたくても体を張った作業の結果に本心は閉ざされるわけだ。
それが分かるから久志も元気な態度を見せるのだろう。
返って気遣われているとも気付かずに…。

チラッと隣の中條に視線を向けると、「高柳君なの?どうしちゃったの?」と相手にも聞こえる声で問われた。
仕事中の私用電話を容認している中條の精神もいかがなものか…。
黒川も那智の状況を探るのか、会話を一時中断させる。
那智は隠すことなく、中條と話をしだした。
「ヒサ、怪我したらしく、今から帰らせるからって会社の人からなんです」
「えぇっ?!怪我って大変じゃないっ。迎えに行くの?送っていってあげようか?」
「いゃぁ…、俺が迎えに行っても…」
『えっ?姫君、こっち来られるの?』
見えない間で三人の会話が進んでいく。
那智が仕事中だと理解しているから、『説得してくれ』というお願いの電話で終わらせる気だった黒川にとっては喜ばしい話に聞こえたはずだ。
『それだったら車も引き取ってもらえるか』
どこかホッとしたような吐息が黒川から漏れている。
口では置いて帰れと言っていながら、駐車場のスペースを開けさせたい本音を聞いた気分だった。
駐車場内でのトラブルもまた、事前に回避できるなら、一つの芽も摘み取っておきたい。
「俺、運転できないですよ」
名案だと言いたげな黒川に解決策にはならない、と、那智は訴えた。
中條はこの時点で、お荷物になっている車の存在を認識したらしい。
『姫君、免許ないの?』
「一応、ありますけど、ペーパーなんで…。あの車だって一度も運転したことないし…」
情けなさを露呈するようで、尻すぼみになる那智の発言に、中條も納得の表情を浮かべ、同時にそんな危険行為はさせられないと視線だけで釘を刺された。
今となっては事故る確率が高いのは那智の方だ。

「じゃあさ、さくらちゃん」
『あー、だったら運転代行の業者、呼んでやるよ。それで一緒に帰ればいいだろ』
中條の声と黒川の提案が同時にかぶさってくる。
中條が言いかけたことは、那智が黒川に耳を傾けた仕草で止まった。
だったら何も那智が出向かなくても済む話じゃないかとなりそうだが、久志を一人で帰すことに抵抗があるのだとうかがうことができた。
黒川にとって那智がいるということが一つの安心材料につながっただけだ。
「代行か…。まぁ、それならいいですけど…」
那智が返事をしようとすれば、すかさず中條がまた口調を荒げた。
「代行っ?!そんな信用ならないものを使わなくったっていいよ。車両の点検がてら、走行したい人間を連れていくから」
酷い物言いで自己解決してしまった中條はすぐに自分の携帯電話を取り出す。
黒川が、そちらの話はどうなっているんだ?と聞き耳を立てるように黙り、また那智も無言で中條の行動を目で追った。
速攻で繋がった先は、お抱えの自動車業者、つまり中條の恋人であり、現在久志の車の諸事情を一手に引き受けてくれている磯部雅彦(いそべ まさひこ)だった。
運良く(?)、久志の会社まで行く途中にある営業所にいたようで、何やら発言したらしい磯部に「大切なお客様の一大事」と中條が一喝し、一緒に向かうことを決めた。
那智と中條、磯部を乗せて引き取りに行き、磯部に運転させて那智と久志と車を送り届け、中條は磯部を連れて戻る…算段のようだ。
こうなれば上司の命令に逆らえる立場の那智ではない。
また、果たして二人が営業所に戻るかどうかは疑問だが、確実なのはそこに那智の存在は含まれていないことだった。
中條の思惑だけで許可された『早退』は、午後の仕事がいかに暇つぶしであるかを表していた。

黒川は『あとで形だけでも請求書をもらえれば、経費で落としてやるからポケットマネーにしろ』と、自分の懐が全く痛まない寛容なアドバイスで、磯部の苦労を労ってくれた。

中條の運転で磯部を助手席に、那智は後部座席で大人しくふたりの言い合いを聞きながら久志の会社に車を走らせる。
久志の怪我の様子を黒川に聞いたとおりに伝えれば、こちらも緊急性はないと判断しているのか、会話は穏やかだった。
磯部は、どうせ数日は車を動かせないだろうからと、このまま営業所に持って帰り、ついでに整備点検をしておいてあげる、と営業活動に出ていた。
定期点検とは違って突発的なそれが"有料"であることは、今の那智からはすっぽりと抜け落ちていたのだけれど…。
平気なふりをしていても、やはり顔を見るまでは安心など出来なかったのだ。

久志の職場は見かけたことがあっても実際に入ったことはない。
広い敷地と行き交う大型トラックの数の多さに圧倒される。
ちょっと間違えたら死角に入り、巻きこまれて踏みつぶされるのではないかと危機感すら覚えた。
建物に向かい進もうとして、突然けたたましい笛の音に出迎えられる。
何事だと停まってみれば、ユニフォームを着て拡声器を持った若い男が全力疾走でこちらに走ってくるところだった。
その距離、二百メートルはありそうだ。
拡声器から発される声も、ここでは小鳥のさえずり程度にしか聞こえない。
「そっちっ!!一般車両っ、進入禁止でーすっっっ!!」
駆け寄ってきた男は、ウィンドウを開けた中條に、こちら側の敷地(どこから区切られているのかサッパリ分からないが)は、関係者以外立入禁止の区域であることを教え、どういった用件かと尋ねた。
中條に振り返られて、覗きこんできた男の視線も自然と那智を捉える。
その途端に「えぇっ?!桜庭さんっ?!」と驚愕の声を上げられた。
那智は営業畑で育てられた記憶装置の脳をフル回転させて、その人物を探った。
久志の関係で出会ったことのある人なのだとは嫌でも分かるが…。
こちらの社員に名前を覚えられるほど精通していないはずだ。
一瞬の沈黙のうちに、彼は状況を理解してしまったのか、胸ポケットに収められていた無線機を取り出すと、ガーガー(誰かの会話らしいが)言っているその先に、宝物を見つけた少年のような声で呼びだしていた。
「高柳さ~ん、桜庭さんが迎えに来ましたよ~ぉっ」
突然ガーガー言っていたはずの無線機が無音になった。
車内で、外で、誰もが動きを止めて見守った直後、機械から『滝沢~ぁっ!!テメェッ、何、那智、構内に入れてんだよっっ!!』と罵声が響く。
それは紛れもなく久志の声だった。

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珍客の訪れ 3
2013-07-04-Thu  CATEGORY: 珍客
滝沢と呼ばれた青年の本来の勤務場所は建物の中であって、こうして車両が駆け抜ける地面に降りてくることは滅多にないそうだ。
トラックの荷台と同じ高さに造られた建築物の床は、そばに寄れば見上げるほどの高さがある。
トラックへの荷積みの作業をしていたところ、迷走する車を見つけて、飛び降りてきたのだとか。
そこはやはり、『安全第一』の作業現場なのだ。
久志が怪我をしたことは社内ではとうの昔に知れ渡ったことで、内輪事情に詳しいのは一緒に働いていた社員だからこそ。
また那智を以前見かけたことがあった滝沢は、一連の事柄を結びつけるのも早かった。
滝沢から連絡を受けた久志は、てっきり現場も現場、まさに久志が怪我をしたその場所に那智が入りこんだと勘違いしていたようだ。
いくらなんでも勝手にそんなところに入っていくかっ!と那智は内心で毒づいていたが声にはしなかった。
…というより、口を挟む隙がなかった。

ガーガー言っていたはずのトランシーバー無線は、何人もの声を届けてきた。
先程まで暗号でも伝えあっていたかのようなやりとりは鳴りを潜め、「滝沢、どこにいるんだ?」とか「(作業)ラインを止めて休憩にしよう」だとか、「姫ちゃん、上にあげちゃえよ」など、私語と思われる会話で埋め尽くされる。
見やった建物では、トラックとトラックの間から数人単位の塊がこちらを見下ろしているのが視界に入った。
さすがに降りてくる人物はいなかったが、滝沢の一言で仕事に対する注意が削がれたのは確かなようだ。

黒川や久志の声も混じり、「とりあえず事務所へ」と指示を受けた滝沢の案内で、中條は車をUターンさせ、敷地内の隅を塀沿いに回り込んで建物の反対側に出た。
そちらが本来、誰でも出入りできる『入口』だったようで、何故大型トラック専用の門をくぐってしまったかと言えば…、目の前を見慣れたトラックが走っていたから…というしかない。
だだっ広い敷地は車で走っても入口が見つけづらかったのだ。
ガラスの自動ドアが取り付けられた建物の入り口前には、来客者用の駐車スペースが数十台分用意されていた。
充分広いのだが、大型トラックが行き交う場所を見た後だからか、妙にこじんまりとしたスペースに見えてくる。
またもや全力疾走したらしい滝沢が、自動ドアの前で待っていてくれた。
中條と磯部は降りることをためらったが、見知らぬ場所に単身飛び込んでいく勇気はないと目で訴えた那智に苦笑して後を追ってきた。
そんなウブな神経は、とっくの昔に中條が指導して削ぎ落していたとは、誰も言いはしなかった。
あとは入る機会もない所へ足を踏み入れられる好奇心か…。

フロアごとに幾つかの部署があるらしく、エレベーターで2階へと案内されると、左右に分かれる廊下の片方へと向かう。
すぐにドアがあり、こちらも大きく『関係者以外立入禁止』の看板が掲げられていた。
『事務所』と一口に言っても、久志たちがいるところは、『現場管理事務所』として存在しているそうで、直接現場構内に行けるよう、隔てられているとのことだった。
そのドアを開けるとベランダのような通路に出て、荷仕分けの現場を上から望むことができる。
下の階につながる階段もあり、現場の人間はこの階段を使って行き来しているのだと思われた。
ビルで言うなら4階分のスペースが一つの空間となっているために、より一層の広さを感じる。最奥までは数百メートルといったところか。
更に続く扉を開けると、事務デスクが並ぶ、本当の事務所になっていた。
ただ、作業現場側はガラス張りで、構内が見渡せる。そちらは現場上部に出られる渡り廊下まで造られていて、中央地点まで行けるようだった。

滝沢に続いて那智たちが入るとカウンター台に迎えられた。
その奥に事務机が適当な『島』を作って並べられている。
そこに居た人間たちが一斉に振り返り…(というより、手ぐすね引いて待っていた印象だ)視線の集中攻撃を浴びた。
女性事務員が3名、他、ユニフォームを着用した人からスーツ姿の男性社員が数倍の人数で待機している。
事務所内で"働いている"雰囲気は全く見受けられない。
目を見開く者、「おーっ」と歓声を上げる者、それらを無視し、素早く室内を確認するように動いた那智の瞳は、ほぼ中央に位置していた久志の姿を真っ先に捉えたが、すぐ横に座った黒川のほうが先に声をあげた。
「ご苦労さん」
黒川は苦笑を浮かべ、久志は明らかに不貞腐れていた。
怪我をしたと聞いていても見た目はいつも通りでホッと胸を撫で下ろしてしまう。
まずは手間をかけたことの詫びを上司にするべきだろうと、那智はペコリと頭を下げた。
「黒川さん、このたびはご迷惑をおかけいたしました」
「いや、これといって、ねぇ」
「別に那智、呼ぶほどのことじゃないって言うのに」
久志の反論をきっかけに、あちこちからくだけた口調の言葉が次々と発され始めた。
「那智君っていうの?」
「噂以上の美人さんだなぁ」
「わざわざ来てもらって文句言う奴がいるかよ」……などなど。
この場にいる人たちの興味が那智にあることは、中條たちも気付くことができる。
久志からの情報だけではなく、実際に自分の目で確認したい心理は、久志の外見があるからこそ湧くものだとも理解できた。
それにしても、初対面にも関わらず、取り繕わない気さくさはこの社の人間ならではなのだろうか…。

中條や磯部も交えて、「大変でしたね~」とか「お仕事中だったんでしょ」などと話の輪に引っ張り込み、また、即対応できる営業マンとしての話術にも感心させられた。
そんな彼らを黒川がある程度の所で切り上げさせ、現場に戻るよう促している。
どうやら公然と仕事をさぼっていた連中のようだった。
人で埋まっていた事務所内はあっという間にガランと静けさを取り戻し、久志と黒川、スーツの男性2人と女子事務員だけになった。
机の数に全く比例しない在籍人数にも驚かされるが、黒川は隅のほうにある長テーブルの一角に那智たちを呼んだ。
さすがに中條たちは遠慮したそうだったが、「まぁ、いいから」と言われては従うしかない。
5人が囲んで座る光景を、他の人間が遠巻きに見て耳をダンボにしている。
たった僅かな移動でも右足をかばった久志の動きは、那智には隠すことなどできるはずもなく、ため息とともにバツの悪さを浮かべていた。

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村から来てくださっている方、新着記事が妙な時間になっていて、心配してくださいましてありがとうございます。
予約しているんですけれど、私の希望通りにupしてくれていない(>_<)
でもまぁ載ってくれているからいいかぁと思っています。
真夜中に起きていられる体力はありませんのでご安心くださいね。ちゃんと寝ています。
とはいえ、必ずしも定時でupできるわけではないのでご了承ください。
3話目まではできた…。三日坊主にならないことを祈って (―人―)ナムー
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珍客の訪れ 4
2013-07-05-Fri  CATEGORY: 珍客
折りたたみの長テーブルに折りたたみの椅子が置かれたこの一角は、誰でも座れるスペースになっているようだ。
とはいえ、ここまで入ってこられる人間自体が限られるので、きっと先程集まっていた連中たちのためにあるのだろう。
那智たちのような、完全な部外者が入ってくることは極めて珍しい出来事だった。
那智の隣に久志が、向かいに中條と磯部が腰を下ろして、黒川は全員の顔が見渡せる端に椅子を引き寄せた。
「姫君、悪かったな、こんなことになって」
改めて謝罪されると恐縮してしまうが、それでも他の人間がいなくなった(一部残っているが)環境に、那智も緊張で張り詰めていた神経を緩めた。
久志が黒川に対して上下関係を気にした様子のない態度をとるのをすでに知るだけに、那智も安心してしまうのだ。
「別に俺が怪我したわけじゃないからいいですけど」
「那智~ぃっ」
あえて突っぱねた言い方をすれば、久志の悲哀がこもった声が発された。憐れむ眼差しが磯部から差し向けられたが見なかったことにする。
「ヒサが大人しくタクシーにでも乗って病院行ってくれれば、俺も中條さんも時間の無駄、することなかったんじゃんっ。黒川さんだって自分の仕事、できたでしょっ」
「あぁ、少なくとも姫君のお披露目会は避けられたかな」
半ば自分も楽しんだ感じがある。それとは別に久志に配慮した言葉遣いは、久志の機嫌の悪さを考慮してのことだった。
那智を呼んだことは他の社員に黙っていたとしても、結局は滝沢の一言でほぼ全社員にバレた。
こんなことでもなければ顔を拝む機会もない、と、一部の人間がぞろぞろと集まってきて、奇妙な出迎え方をしてしまったのだ。
ハイエナのように群がる連中を見ては、久志の機嫌など降下の一途をたどる。
そして那智に同意したのは、こちらも那智を晒しものにした詫びが含まれていた。
那智は、人に見られることには慣れていたが、あからさまに好奇の目を向けられるのはやはり気分の良いものではなかった。
そんな思いも混じって、那智がつい久志に冷たい言葉が投げかけられるのは、少なくも安心したからである。
確かに普段と違う動きは気になるものの、昔から激しいスポーツをこなしていた久志を見ているだけに、最初に抱いた焦燥は消えていた。

「まぁまぁ、さくらちゃん」
那智の性格を良く知る中條は苦笑いだ。痴話喧嘩ができるほどとは大した心配もいらないだろうと、こちらも胸を撫で下ろしていた。
久志に向ける心配事が増えれば、那智の気もそぞろになり業務に支障が出かねない。
久志の職場の雰囲気も感じられれば、メンタル面でもフォローを入れてくれる人がいる過ごしやすい環境だと思うことができた。
みんなが那智を気遣うタイミングで黒川は話を本題に戻していく。
「で、なぁ、姫君。たぶんコイツ、自分では全く説明しないだろうから俺がするけど。コンテナボックスの回送中に、他のコンテナボックスとの間に入っちゃって、…あぁ、後続のやつに押されちゃったわけよ。こう、密集しての作業だったからさ。その時、逃げりゃいーものを足底で押さえこんで距離を保とうとしたんだ」
片足立ちになってもう片方の足で後ろに向かいストップをかけた光景を教えてくれた。
自分で握っている物体を手放すわけにもいかず、咄嗟に足が出たことは機転がきいたとは言えても褒められたことではなかったらしい。
「俺が逃げたら前にいた奴にぶつかって、あっちが"せんべい"ですよ」
「まぁ、それいっちゃそうなんだけど」
どっちにしても誰かが怪我をするのだと平然と口にしてくれるあたり、感覚が狂っている。
荷物の入ったコンテナは高さ2メートルの壁と化して視界を狭めてしまう。
長身の久志でも状況を見渡すのは不可能に近かった。
"せんべい"にならずに済んだことを久志は自慢げに語ってくれるが、結果的にそれも『良し』とは言えないだろう。
黒川は一つのため息をつく。
「慣れてくるとマニュアルどおりに行動とらなくなるし、あの通りに実行している時間もスペースもないからな」
少なからず、危険行為を黙認していたことを認め、そんな頃が一番危ないと忠告もする。
繁忙期は普段とは違った空気になるのだと…。
作業内容は分からないが、『これくらいは…』と曖昧になる部分が発生するのはどこの企業も同じなのだろうか。
ただ、こちらは生死に直結してくる。
「とにかく病院行って診てもらってこい。止めた時、かなりの衝撃がかかっているはずなんだから」
「ちょっと負荷がかかった程度だって」
黒川が言うことをやはり大人しく聞く気がないのか、軽く考えている久志をたしなめて、その視線は那智に向けられてくる。
痛みがあることは本人も自覚しているのだから、あとは追随してくれる発言が欲しい黒川だった。

選ばれたのはもちろん那智だ。
「衝撃…ってどれくらいのものなんですか?」
参考までに聞こうと何気なく那智が質問したのだが、淡々と答えてくれた黒川には久志以外の全員が言葉を失った。
「うーん、重量は重いもので4、500キロ…。でも今時期、水ものが多いし満載だからなぁ。軽自動車一台分くらいになるのもあるか?」
逆に問われても答えようがない。
車を例えに出されたら即反応したのは磯部だった。
「え?停止していたものではないんでしょ?それを片足一本で止めようとしたんですか?」
「ヒサはバカなんだよ」
「なちぃ~ぃっ」
話を聞けば聞くほど情けなくなる。
どこの世の中に生身の人間が鉄の塊と張り合おうとするのか。
黒川は他の事例を話してくれたが、久志の立場を悪くしていくだけだった。
「今回のケースとはちょっと違うけど、コンテナボックスに挟まれたとかぶつけたとかってとき、大概の奴は骨折してたりするんだよなぁ。もう、その場から動けないってのがほとんどで」
それらからすれば、確かに久志は"ピンピン"している。
「だ~か~ら~ぁ」
「高柳君、病院行こうっ。今から連れて行ってあげるからっ」
何かを言いたげな久志の反論は中條に遮られる。それは那智の気持ちを代弁してくれたようなものだった。
素直に"心配している"などといった態度を見せない部下の強がりは、ここまでの会話を聞いていれば充分計れた。
「でも中條さん。もう病院も午前の診察時間終わるし、余計拘束させちゃうことになっちゃうよ」
久志はまだ何かと言い訳を付けてくるが、中條にとっての優先順位は、那智の不安を取り除くことだった。
更に一分一秒も(待ち時間などで)無駄にしないようにと頭を回転させるのは磯部のことを想うからだろう。
「大丈夫、24時間体制で受け付けてくれる優秀な外科医、知っているから」
言いながら早速携帯電話をいじる中條にボソッと磯部から確認する声が発された。
「もしかして…、栗本さん?」
「他に誰がいるっていうのっ」
聞くまでもないとピシャリ言い放つ態度に磯部は口を挟むことの虚しさを感じた。
思った通りに事が進むと確信する自信はどこから湧いてくるのだろう。
また、受け入れてくれる人は中條の性格も良く把握していて、それはそれで磯部に軽い嫉妬心を抱かせるのだが…。

「あ、佳史(よしふみ)いるぅ?」
出たのは受付の女の子か。
トントンと進んでいく事項に、久志は諦めの境地に達し、那智と黒川は安堵の息をついた。
『善は急げ』とは、中條の持論でもある。

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珍客の訪れ 5
2013-07-06-Sat  CATEGORY: 珍客
話が決まれば行動も早い。
黒川の仕事の邪魔もしたくなかったし、久志の状態もはっきりしたものが早く知りたかったからなのだが。
中條は磯部のことを考え、磯部は突然の訪問になってしまった栗本を気遣った。
開き直ったのは久志だ。
どうせ医者にいくことになるのなら、どんな診断結果が出ようが、それまでは甘えていられる。
この会社の社員駐車場は敷地から離れたところにある。
「俺、怪我したし、あそこまで歩いて行けないし、ここまで持ってきてくれるとありがたいんですけどねぇ。磯部さん、俺の車、分かるでしょ。ハイ、鍵」
中條が乗りつけてきた車の隣でほざく"顧客"に、那智は目を見開き、磯部は"それくらいは"と引き受けてしまう。
我が儘ばかりを言う客に慣れた姿は、営業マンの鏡のようで、何故磯部が好成績を保っていられるのか教えられた気分だった。
離れている…とはいっても、道路を一本挟んだ隣で、ここの敷地内を端から端まで歩くよりずっと近く感じられた磯部だったのだが。
しかし、我が身に置き換えれば悪態の一つもついてやりたい。

見送りに出てくれた黒川に那智はもう一度頭を下げた。
「今日は連絡していただいてありがとうございました」
「あぁ。返って姫君に負担をかけたほうか…」
これまでの流れからして、社内の人間で処置を済ませてしまいたかった後悔も混じっている。
第三者の手を煩わせるとは、黒川にとっても不本意な結果なのだろう。
那智は社内事情のことは気にしていなかったが、ひっかかったのは相変わらずの『呼び名』だった。
気難しい表情を浮かべながら、強気に出るなら今だと黒川を見やる。
「もうっ、その『姫君』ってやめてくださいよ~。そんなふうに呼ばれたって全然嬉しくないしっ」
不貞腐れる那智とは反対に、黒川は苦笑いを交えた。
「なんだかなぁ。ついつい。高柳が『姫様扱い』しているせいだろうよ」
うまく誤魔化された気がしなくもない。
ふたりが漂わせる雰囲気が、自然とそんな印象を植え付けてしまったと語られる。
久志に守られているように見られるのは、男として気に入らなくもあったし悔しさも漂った。
黒川は「考えておく」といった態度で話をすり替えてしまう。
「"今"が終われば一息つけるし。また一杯ひっかける席ができるだろうから、顔を出せよ」
ゆっくりと話をしていられる時間もなかった…と気遣ってくれる。
久志の会社の連中が宴会好きで、なんらかの理由をつけては一席設けているのを那智も知っていた。
ただ、今までは『他社の席』と踏みこむことに躊躇いを持っていたし、久志が頑なに参加を拒否したことで実現していない。
しかし今回ばかりは、働く社員に負担をかけた後ろめたさがあったから、お酌のひとつもしてやったほうが、今後の久志のために良い気がした。嫌味も言われず、波風たてずに過ごせるだろう。
もちろん、久志の反感を買うのは覚悟の上だが、元々の原因が誰にあるのかを理解している那智に"弱み"はない。

磯部が戻ってくると、那智は中條の車に、久志は自分の車の助手席にそれぞれ収まって出発した。
せっかくの時間をふたりきりにさせてあげられなかったことは少々悔やまれるところだが、磯部も車のことを聞きたいだろうし、移動しながら質疑応答の時間が終わればこちらも付き合わされずに済む。
自分が運転しないからなのだろうが、那智にとって聞いていて楽しい話ではなかったのもある。

中條が先導し、辿りついた病院は、開業医だと分かる少し年季の入った建物だった。
「親父さんの跡を継いだんだよ」
簡単に説明してくれて、また医師が同級生なのだと教えられた。
仕事柄、顔が広いのは百も承知だが、信頼を寄せられるのとはまた違っている。
那智はいざというときに頼りになる上司の一面を見た気がしていた。

駐車場入口脇の看板にはしっかりと『診療時間』が掲げられていて、すでに過ぎたことを目の当たりにした。
その下にある『休診日』の案内に目をやり、今日何度目か分からないため息がこぼれた。
午後の時間帯が休みになる、まさに"その日"である。
中條は「あー、大丈夫、大丈夫」と一蹴してくれたが…。
医院の玄関ドアに鍵はかかっておらず、誰よりも率先して中條が乗りこんでいく。
遅れて那智と久志が入っていくと、待合室の椅子が並ぶところで、白衣を纏った男性が出迎えてくれた。
人好きのする、優しい眼差しで、「こちらへ」と一番手前の椅子に座るよう、案内される。
久志の動き方を、見逃さない鋭さがあった。
すぐに口が開けるのは那智のほうだ。
「突然すみません。中條さんのお言葉に甘えさせていただいて…」
言わんとすることをふわりと微笑まれることで制された。
大人しく腰掛ける久志を見ては、徐々に痛みが増していく状況も理解できているらしい。
「ぶつけたって?どういう態勢だったか説明できるかな」
座った久志の前で腰を折った医師は、それとなく全身に視線を這わせていた。
痛む箇所だけを診察するのとは違っているのは、傍に立つ人間でも感じることができる。

おおよその説明を久志がする中、横から中條が口を挟んでは咎められている。
送ってきたのだと分かっても、詳細まで知らない栗本という医師は、磯部のことも思ったのか、「もう帰っていい」と出口を顎でしゃくった。
「磯部さん、どうせ誠に都合良く使われているんでしょ。こちらはいいから、仕事に戻ってください」
「いえ…ですが…」
どちらに同意したらいいのか悩んでしまうところが、なんだか笑えたが、那智もこれ以上付きあわせることにはためらいがあった。
一番引っかかったのは車のことだ。
帰りはタクシーを使ったとして、自宅のマンションの駐車場に送り届けてくれと願うのは図々しいだろうか…。

「佳史、どれくらいかかるの?」
「そんなにかからないけど。まずはレントゲン、撮ってからだな」
同級生同士の会話に久志は「大げさなっ」と押しとどめる。
「『レントゲン』っ?!シップでも貼っておけばいいんじゃなくて?!」
久志の発言には呆れたため息も混じっていたが、貶すことはしなかった。
「患者さんの自己判断が一番信用ならないんだよ。ちゃんと治したかったら、まずこちらの言うことを聞いてもらえるかな」
有無を言わせない言葉の強さは、さすがに中條の友人と言うべきか、と那智は一瞬思ったが、栗本の言うことの方が正しいと、言うことを聞けと久志の肩を叩いた。
「ヒサッ!!」
「…っつぅ…っ!」
顔を歪めた姿が見られる。頑丈に鍛えられた体は、本来これくらいの衝撃ではビクともしない。
その反応には那智はもちろん、栗本も驚いていた。
"自己申告"がいかにあてにならないか、全員に知らしめた。

「誠、帰っていいよ」
静かに、静かに告げられることは、診察時間が短くないことを表していた。

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