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BLの丘
春が来てくれるなら 11
2013-05-01-Wed  CATEGORY: 春が来てくれるなら
【また 韮崎視点です】


そこが『研修』の会場なのだとわかることで、韮崎を踏みとどまらせていた。
そばにいた上野原の声が、かろうじて届いたと言っても過言ではない。
その声に、現実に戻された気分だ。
「もう一度・・・、ミーティングルームの確認をしてくれ。終わり次第、解散だとは、管轄する人間にはつたえてある」
最後の目的とした空間は意思疎通をはかるためのもの。
部署ごとに分けているのも、親近感を生ませるためのものであった。

上野原は戸惑いつつも、自分に与えられた仕事をこなそうと躍起になる。
見てくれる人は、見ていてくれる。
信頼や、期待、希望。常にそばにおいてもらっていたのだからこそ、と韮崎のためにありたかった。

その深意を分かっていながら、韮崎は無視することで日々を過ごしてきた。

自分の"駒"を作るために動いた数年。
社内に多いのは、敵であり、また、味方にできるものもいる。
采配に目を向けてくれる若手が多くもいた。今までの生活に波風を立てられたくない年配の数も比例するところか。
『甘くはない』と韮崎は現実を伝えていた。
机に座っているだけで給料がもらえる世の中は、とうの昔に終わっているのだと。

大月に厳しく当たったのはそれらを教えるためもあった。
実際、大月は予想以上の手早さで動いてくれたのだから、周りの連中に舌を巻かせるのはすぐだった。
それも、自然と培われた、"経営"としての能力の違いだろう。
埋もれさせるにはあまりにも惜しい人材でもある。

それなのに、当の本人は全く気付かず、男あさりを繰り返す日々だ。
自らの美貌を武器に、分かってけしかけているのだから、なお、たちがわるい。

研修時間が終わるまでイライラと過ごした韮崎に、声をかけられる人物など片手にも及ばなかった。
とにかく順序どおり、終わらせて、この場からの解放を新人だけではなく誰もが望む。

昼食時間を挟んで、午後の二時間ほどを部署ごとに過ごさせれば、日程は終了した。
ディスカッションの時間、韮崎たちは会場としてくれた館長などと、ささやかな打ち合わせと休憩をとる。
このあと、全員を見送れば、そこで業務は終了という段階だ。

学校でいうなら、放課後。
誰がどこで何をしようと関係ないのだが、面倒が起これば飛び出していく親心がある。
たぶん、韮崎にとって、それは自分を育ててくれた、生かしてくれた『御坂家』に対する恩なのかもしれなかった。
だれから言われたことではなくて、勝手に動いているだけのこと。

他の人間に対しては、社会的な立場から、遠巻きに注意する程度ですまされるものが、大月に関してだけは異なる。
別に同僚たちと飲み歩くことを咎めはしない。
しかし、大月についてまわる行動といえば、一線を越えたことにしかならない。
その危険性を分かっているのだろうか。
自分が上野原をもてあましたように・・・

全ての日程が済んだあと、同じく『総務部』としての中に存在していた韮崎は大月の腕を取っていた。
「もう、帰るだろう。送っていく」
「俺、予定あるんだけど」
同じマンションに帰るのに、送るも送られるもないようでありながら、あたりまえのこととと発せば、拒絶される。
このあとの"予定"など簡単に想像できるものだった。

「社長が待っているんだ」
はっきりとした言葉は、周りの皆に聞こえていた。
わざとらしくもある理由に、大月の眉間が寄る。
嘘 だとは見抜いているのだろう。
しかし、ここで反論してこないとは、韮崎の顔を立ててくれているからなのか。

「わかったよ。断ってくる。・・・でも、その穴埋め、あんたがするんだろうな」

抱く、抱かれる。
溺れていったのはどちらだったのだろうか。
魅惑的な笑みに返す言葉もなく、大月は背を見せていた。

誰かを守るため。何かを手に入れるため。
悪魔に魂をうったのは、誰なのだろう。

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頭が働く時って動くんだねぇ。
でもつかれたので きえちんはちょっと眠ります。
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春が来てくれるなら 12
2013-05-01-Wed  CATEGORY: 春が来てくれるなら
【大月に戻ります】


寝起きは最悪だった。
幼い頃の夢を見たせいだろう。

小学校低学年のころだ。
5つ上の兄に連れられて行った近所の祭りの縁日はいくつのときだったか。
浴衣を着せられてはしゃぎながらも戸惑った。
足のまたぎたかとか、袖のまくりかたとか。
本当の恥じらいは、もうわからない。
微笑んでくれる二人の姿があったから、すこしは救われたのだろう。
少なくとも二人の存在は不要な別の人間をさまたげてくれていた。
同じように浴衣を着ているのに、映えかたはまったくちがっている。
それが悔しかったこともあったのだが。
いつの間にが、どこを間違えたのか、『何人の男をたぶらかすことができた』と、揶揄され。
意味も分からなく泣いたら、駆けつけた巨摩が『心配ない』と微笑んでくれて。
すでに方々を走り待っていたらしい。迷子になろうが、どこまでも追ってきてくれて、それはある意味、『安心感』だったのだろう。

夢から覚めたときに 得たのは見慣れない天井で。
どこだか、すぐに悟ることができた。
"研修"として与えられたホテルの部屋か・・・


生まれついた気質か。
目覚ましの音がする前に目覚めて、その後に機械音をきく。
目覚ましとは 韮崎が用意したモーニングコールである。
それを止めて、ひとつのため息をついた。
家族から逃れたい気持ちがあっても、力不足と甘えているのか。
今の環境からのがれられない。
自分で生むことができる資産がないこと。

やはりどこかで、期待して甘えているのだろう。

兄が望むもの、そして、父が期待するものとは・・・
朝食会場となるレストランは人で込み合っていた。
一番端のせきにつかせてくれたことは感謝すらできた。
ビュッフェスタイルの朝食の席でも、大月は人と交わることはない。
好きな食材をとり、淡々と口に運ぶ。テーブル席。
不意に光りを遮った存在に瞼をあげた。
夕べ知り合ったばかりの勝沼がそこに鎮座していた。
くったくなく微笑む表情に一瞬悩まされていた。
「俺、じゃま??」
「あー、いやぁ、そんなこと・・・」

ここまで早いアプローチの仕方とは思っていなかったせいか。
動揺も走りながら新鮮な気持ちもあった。

「昨日のこと、忘れていない?」
改めて確認されては頬も火照る。
自分を求めてくれるもの。
それはある意味で大月の憧れだったのだろうか。
過去の流れからを想像してしまう。
会社内でどんな立場にいるかわかるからこそ、ふざけてはこないだろう。

大月はいつだって淋しかった。
仕事に終われる父と母。
年が離れたせいか、兄とも遊んだ記憶がない。
抱きしめてくれる空間を埋めるために、本意ではない道をえらんでいた。

韮崎が自分のものにならないのだとはとうの昔に知っていた。
義理で愛してくれているだけのこと。

自分はいつになったら明野と同じように、全ての過ちを笑って許せる存在になるのだろうか。
そして、韮崎のように、何もかもを闇に葬れる技量を持てるのだろう。

韮崎に『家まで送る』と言われて、その後は二人とも空白になった。
車が出発してしまえばだれも追いかけてはこない。

「どうする?ホテルにでもよるか?」
「ふざけんなよ。家に帰る」
険呑とした発言に、苦笑交じりの韮崎は、言葉の音を柔らかくしてきた。
めったにないことに大月すら戸惑ったくらいだ。
労う・・・いや、いとおしむような・・・。
「そうか・・・。自宅では明野に気遣うところがあるかと思ったが・・・」
「抱かせてやる気、ないけど」

「でもあの男にはケツをふる気だったんだろう?」
全ての男を切れと言われた。同時に新しい男を咥えるなという意味もある。
韮崎が常に相手をしてくれるのであれば、逃げ道も探さずに済んでいただろう。
それは 憧れ にも似ていた。
一人のひとを想い、守っていく姿を見せつけられては・・・っ

本気で大月が韮崎を狙ったら、韮崎はどう反応するのだろう。
そのとき、兄の明野は まだ"弟"としてみてくれるのだろうか。
去るべき道がわかるからこそ、今は何も言えないでいた。

疑似でもいい。
兄を安心させられる、ラブストーリーをみせたかった。

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春が来てくれるなら 13
2013-05-02-Thu  CATEGORY: 春が来てくれるなら
言っていることが矛盾しているのは大月自身が理解している。
勝沼を断った時点で、その穴埋めを韮崎にほのめかした。
帰宅時にどこに寄るのか・・・ それを尋ねられて突っぱねるのはおかしな話だろう。
本気でその気などなかったと。
だが、韮崎としては、面倒事に巻き込まれない安心感もあるのだろうか。
無駄に抱けば危機感も増すというもの。

そんな関係も、どうでもよくなってきた。
送られる車の中で瞼を閉じる。
少しずつ冷静になっていく思いに、勝沼の存在が写り込んできた。
どこまで本気かは分からないが、寄られることは嫌ではない。
今の環境から逃げたい現実があいまって逃げ道を探していることも自覚している。
韮崎にすがりながらも、彼には全てを預けられない事実が存在する。
韮崎は"明野"のものだと分かっているから・・・
虚しさが、改めて心に広がっていた。

駐車場に車を止めたところで、偶然か、故意か、明野に出迎えられた。
「お帰り」
にこやかに声をかけてくれる姿は、大月に良く似ていた。
兄弟だから当然なのか。
背格好も顔かたちもなにもかも・・・
それが大月を悔しがらせるところでもある。
少し年をとれば、こうなるのだろうかという見本のような気がする。
あと幾年早く生まれたら、韮崎を手にすることができたのだろうか、という、バカバカしい考えまでよぎった。
韮崎がさりげなくカバンを手渡す光景を視界に収めながら、大月は足早にその場を去って行った。
「あ、大月っ」
何かを言いたそうな明野を振り切って、エレベーターに乗り込んでいた。
あんな光景を見せられては、一人になりたくないと思ってしまう。

ふたりの行方を理解できるからこそ、どこかに出かけたかった。
勝沼と過ごすことができたなら、こんな考えは思いもしなかったのか。

ふと、一度聞いた番号がよみがえってくる。
それはたった一枚の名刺で、誰にも配られているものであったのだけれど。
そんなものは、調べればいくらだって手に入れられる代物だ。
個人情報を明かさないところは、所詮、その程度の存在なのだろうか。
まあ、それでもいいけれど、とすさんだ気持ちが見え隠れした。

コールした先はすぐに繋がった。
『ハイ、勝沼です』
よそ行きの声に何故か笑みが浮かんでしまう。
仕事先の電話に休日でも答えてくれることが、感心できることでもあった。
「あー、御坂だけど・・・」
『えっ?御坂さん?!どうしたのっ』
そう、一度は断った存在。
その人から連絡がくればどうしたのかと焦るのが人の心情というものだろう。

「悪い・・・。今夜、会えねぇ?」
それが何を意味するのか、分からないほどウブではないだろう。
韮崎との関係性を、それとなく知ってもいる。
自分の立場も分かりながら、声をかけてきてくれた人。
何も知らなければ、ただの行きずりだが、勝沼は知りすぎるほどに知って、だけど近づいてきた。
脅えなどないはず・・・。

韮崎の意のままに連れ去られた場所と理解できるのか。
『どこ?』
応じてくれる返事に会社近くの店を指定した。
どこから来るのかは分からないが、その周辺なら行き慣れた場所でもあるだろう。
『了解っ。じゃあ、一時間後でっ』
満足げな声を聞いて電話を切る。

身支度を整えて部屋を出ようとした。
会社では見せないあでやかな姿は、夜の街に繰り出す時の定番。
一見は社会人には見せない、学生時代のそのものを纏わせている。
いつまでも"学生"と印象づけた点かもしれない。
裏表がはっきりと出ていて・・・

その姿を改めて目に入れた時、瞠目したのは、勝沼だったのだろう。
分かるから、大月も、頬を上げていた。
狩りをする姿、そのものだ。

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春が来てくれるなら 14
2013-05-03-Fri  CATEGORY: 春が来てくれるなら
「びっくりした・・・」
呼ばれたことをおどろいているのか。
大月を前にして第一声がその声で、まぁそれは想定内でもあったけれど。
いつまでも外に佇む気はなく、店の中へと入る。
自分と付き合っていく以上 どれほどのステータスが必要になるのかと教えることになるのか。
誰もが気軽に寄れる居酒屋だったが、そこは老舗の場所。大月の顔を視界に入れれば対応も変わる。
受け付けたはずの女性もすぐにひっこんで、年配の人に変わっていた。
「いらっしゃいませ」
着物姿で深々と頭を下げてくれる人に軽く手をふる。
「突然ごめん。個室、ある?」
「はい、もちろん、すぐにご用意いたします。ご連絡いただければもっと奥の間をご準備できましたのに」
「そんのはべつにいいけれどね」
妖艶に微笑む姿にドキリとさせられながら、たわいのない会話を交わすだけのうちに"部屋"が整えられれていることに瞠目もした。
単純に"飲む"だけだと思っていた勝沼にとっては、予想外もいいところだ。
それも、大月の手の内だったのだが。

最初はさぐるように相手の感触をたしかめていけばいい。
この環境に涎をたらしてくるような人間なのか。
引き寄せられるのは、家の資産か、それとも、大月自身を見て狙ってくれるものか。
席を立って、戻って、酔いを少し冷ました。
目の前の男は、変わらないらしい。
「ふたば・・・だっけ」
相手の名前を口に乗せれば嫌がられもしない。どころか目を見開かれた。

ファーストネームを口にして明らかな動揺が見えた。
「え?!」
「ってか、御坂さん、俺の名前、知ってんの?」
単なる偶然、うらおぼえ。今更"偶然"はないだろう。
ほころんだ顔を見てしまえば尚更。
「そう、双葉だよ~っ。あー、俺、マジ、これで登録していい?」
言うのが早いか、携帯の操作が早いのか、「御坂さんは?」と聞かれて「だいき」と自然と答えていた。
こんなやりとりがなつかしくて、心の中にあったウミのようなものを自然と吐き出してくれる。
まだ、出会って間もない、それなのに無駄口をたたかず、状況をよんではすぐさま話題を変えてくれる"営業"に気を許すのはあっというまというか。

こんな時間を設けられなかったことを大月自身が一番知っていたのだろう。

"抱かれてもいい"
その奔放さはいくつもの危険をはらんでいる。
最後に望むものがなんであるのか、大月自身わからなかった。


韮崎と明野のようではなくても、『ラブストーリー』と名付けられるものが生み出せるなら、疑似体験から始めるのも一つの手段か。
笑ってくれる人を前に、「これもありかな」と思う。

この日の会計はもちろん、大月がもったのだけれど。
『給料前借りしてでも、あとでちゃんとはらうからっ』と言われて苦笑した。
どこまで真面目な男か。
その純真さも、また新鮮だった。

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春が来てくれるなら 15
2013-05-04-Sat  CATEGORY: 春が来てくれるなら
大月と勝沼の距離は一気に縮まった気がした。
"社内で男あさりをする"・・・という意味にしかとっていない韮崎は苦々しい態度でいる。
それでも、周りは社員同士が仲良くしている、程度にしか捉えられていないので、表立って文句も言われなかった。
余計な発言をすれば、韮崎自身の首を絞めることになりかねないと理解してのことだろう。

総務部に顔を出した勝沼は、手にしていた書類を大月に見せた。
出張に関する申請書類だ。
すでにベテランともいえる上司に同行するらしい。
誰の手に渡っても最終的には韮崎のもとにたどり着くのだから、話しかけやすい人間を選ぶのも自然な流れだった。
「一泊か。ホテルの手配は終わっているの?」
「今まで利用していたところって言ってたよ」
「そっちで全部やってくれれば、こっちの手間もかからないから助かる」
「仕事、放棄してんなぁ」
書類にハンコを押して上へとまわすだけなら、大月も楽だと訴えれば、苦笑されてしまった。
本来、そういった手配は大月たち、総務部の仕事である。

「お土産でも買ってきてあげようか」
デスクの脇に立った勝沼は、私語を続けていた。
「えー、別にいいよ」
「じゃあさ、週末、メシでも食いにいかねぇ?」
「週末?・・・あー、まぁいいけど」
一瞬の躊躇は、韮崎に対するものがあったからだろう。
ほとんど暗黙の了解のように、大月の部屋を訪れてくる。
関係を断ち切りたいと思いながら、抱かれることの快楽に酔ってもいた。
韮崎が与えてくれるものは大きかったのだ。
そういえば、この男はどんな抱き方をするのだろうか。
好奇心が脳裏をよぎっていった。
その気があるなら、今度会った時に身体を開くのもいいだろう。

雑談を繰り広げていると、兄の明野が姿を現した。
20代の後半だというのに、きっちりとスーツを着込んだ姿は貫録をつけていた。
もっとも韮崎とはまた違う風貌ではあったけれど。
明野を視界に入れては、部署内の空気も少々緊張を帯びた。
大月と良く似た顔形なので、『兄弟』だとは誰もが気付く。
明野は持ってきた書類を大月に手渡した。
「大月、回覧資料だから、各部署ごとに回るよう、部数、用意して」
「コピー係りかよ・・・」
「文句言うな。戻ってきて押印確認したら届けて」
「はーい」
「ったく、やる気のない返事して・・・」
コツンとひとつ、握りこぶしが落ちてきてから、明野は勝沼に視線を向けた。
「話中だったのかな?邪魔してごめんね」
「あ、いえ、それほどでは・・・」
人当たりが良いのは明野の性格でもある。
ニコリと微笑まれては、毒気を抜かれたような勝沼の表情が見えた。
大月のように誘いかけるものではないとしても、やはり似た部分はあるのだろう。
比較されるようで大月は明野から視線をそらした。
早くこの場から立ち去ってくれという思いも込められている。

その時、どこかに出ていた韮崎が戻ってきた。
明野の姿を見つけては声をかけてくるのはいつものことだった。
「来ていたのか」
「うん、この前の資料ができたからね」
「あぁ、作ってやっても良かったのに」
「いいよ。巨摩も忙しいだろうし」
韮崎は会話を続けながら、大月のデスクの上の書類に手を伸ばしてくる。
同時に出張申請の用紙にも視線を走らせていた。
咄嗟に内容を把握してしまう能力はどんなものなのだろうか・・・

「今、判を押してやるから、持って行け。予定変更が生じれば、また出せばいいから」
「は、はい・・・」
韮崎の態度には、この場に勝沼を留まらせたくない気持ちが含まれているようにも思えた。
大月のデスクから去る後ろ姿に、『ついてこい』という無言のセリフがあり、嫌でも勝沼との会話が終了を迎える。
「あ、じゃあ、また連絡する」
「うん」
勝沼の言葉に、チラリと振り返った韮崎だったが、何かを言ってくることはなかった。
それぞれが散り散りになり、いつもと変わらない業務がやってくる。
勝沼が去ってしばらくしてから、再び大月に近づいてきた韮崎は、「社内での揉め事は避けろ」と釘をさしてきた。
その意味を深く知るものは、周りにはいなかったから、この場で吐けたものだったのだが・・・。
憮然と韮崎を睨みつけてしまう。

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