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陽いづる国 1
2012-09-01-Sat  CATEGORY: 陽いづる国
短いけれど適当にupします。
アンケート、ご協力ありがとうございました。
5話くらいで、サクサクといきたいです(←願望)


13歳の夏、父の転勤の都合で、美琴はその地にいた。
熱い…。砂漠が近くて、四季があるのか…、どの時期でも美琴は地元の人と同じように大きな布を体に纏った。
うまくまとめられなくては、クラスメイトが「ミコト」と手を伸ばしてくれる。
宗教にこだわるわけではなかったから、一種の日よけ策だったのだけれど…。
そんなことを口にしたらいけないとは勘で悟れていた。

慣れては後を残さないように、転勤の父に連れて行かれる。
そんなことを繰り返した幼少期に、やはり、国と人との繋がりを漠然と悟っていた。
ドイツの商業都市に、外交官である父が収まった。
明るい性格の美琴は自由に外を歩き回っていたし、近くの学校にも通っていた。
転校生…ということをすぐに受け止めてくれて、学業生活に波は立たない。
クラスメイトと過ごす日々は新鮮だし、よりそって来てくれる関係により興奮度が増す。

美琴はその中で一つの恋に落ちた。
相手に告白されるまで気付かなかったが、成績が優秀でスポーツも万能ときた人間に惹かれない人間などいないだろう。
ただ、深める気持ちが違っていただけ…。
美琴も頭脳の方では際立っていて人の興味を誘う。
まさか、相手に気遣われるほどの存在だったとは思いもしない。
一つの扉が開けば、流れていく水のよう。
せき止めていた感情は素直に、隠していた彼に向かっていったのだ。
その時、美琴も恋をした。

焼かれた肌を見て、白い自分とは違って、たったそれだけで逞しさが見えた。
同時に浮かぶ”頑丈さ”は包んでくれるもの…。

だからと言って伝えられるわけではない。
常に移動していく立場や、親兄弟を思っても、”男同士”という波に乗れるはずもなかった。
ここにずっといられる人間だったら…、彼を受け入れられただろうか…。

平然と振舞う日々の中、厳しい言葉を吐いてくる兄がいる。
10歳も離れた兄は、美琴にとって憧れでもあり、的確に進路を表してきた人でもあった。

どこで聞いたのだろう…。

大声を張り上げたら聞こえてしまう住居で。…静かに声を震わせる。
「美琴が伴侶をどう選ぼうが興味はないが…。世間体を考えろ。こんな状況は誰も笑ってくれない。同じく我が邸を潰すようなものだ。己の感情を隠して、守るものがあるだろう…」

男を求める思いは二の次だと言われた瞬間だった。
なにより、すぐに離れていくのだからと…。

恋よりも、選ぶべきもの…。

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陽いづる国 2
2012-09-03-Mon  CATEGORY: 陽いづる国
転校…という文字は常に付きまとってきた。
仲良くなってもすぐに離れていく。
明るかった性格は徐々に闇を帯び、打算的な付き合い方をするようになった。
恋心を持つ間もなく、…いや、兄美馬(みま)に言われたことで視野が変わったのだ。
美馬は海外の有名企業に就職し、もう一緒に住むことはない。年に数度顔を合わせるだけ。
しかし聞こえてくる美馬の活躍を知れば、自然とそこに目標をおいた。
幼いころから兄は美琴の自慢で、憧憬の的だったこともあり、あまりにも自然な流れだった。
長い間一緒に過ごした唯一の人間だったから、それも加味されているのだろうか…。

美琴は高校の進学を日本に決めて、帰国することにした。落ち着いた環境で勉学を究めたかったのだ。
幼いころとは違って、親が必要な年でもない。
運良く日本には祖父母がいてくれて、喜んで迎えてくれた。
美馬が言うように、恋愛ごとにうつつを抜かしている時ではないと、自分自身に言い聞かせもした。
“恋だ、愛だと戯言を言っている暇があったら、自分の身の置き場を考えろ…”
美馬の言い分は間違っていないだろう。
無情になることで伸し上っていける世界を、兄の背を通して世を見つめたのかもしれない。

日本に戻り、友人としての付き合いは多くの人間と持ったが、それ以上の感情を含むことはなかった。
美琴にとって恋愛は、進むべき道の妨げにしかならなかった。

大学のカフェテリアはさんさんと陽が差し込み明るくお洒落な雰囲気だ。
テーブルは全て円形で、学生は好きに椅子を移動させたりして人数調整を図っている。
ただ、新しく作られたこともあってか、価格も少々割高で、どちらかといえば昔からあるもう一か所のほうが学生には人気だった。
その分、静かで過ごしやすさはある。
そのため美琴はこちらのカフェを利用することが多かった。
二年も在籍すれば、好みもはっきりと表れてくる。
一人、英語で書かれた哲学書の本を読みながら、綺麗な三角形に切られたサンドイッチを頬張っていると、突然目の前に人が座った。
何だ?と思って顔を上げれば、高校も一緒だった大久保紳平(おおくぼ しんぺい)が、棒状のパンに具材を挟みこんだサンドイッチを三つもトレイに乗せてやってきたところだった。
小柄な美琴とは対照的に、180センチを越えた長身と服の上からでも筋肉隆々なのが分かる逞しさを見せている。
緩くパーマのかけられた髪はほど良い長さに切りそろえられていて、焼けた肌からは、笑えば白い歯がのぞいた。
紳平も帰国子女である。アメリカの西海岸に長いこと、いたらしい。
美琴とは違って、転々とすることもなく、良い少年時代を送ったようだ。

「まったぁ、難しそうな本なんか読んじゃって~」
言いながら手を伸ばしてきて、ひょいっとめくってはタイトルを読んでくる。
サバサバとした性格は嫌いではなく、良い関係の友達づきあいができていた。
二人とも高校時代は常に学業成績のトップを争っていたが、お互いにライバル視するのではなく、刺激として受け止めていた。
励まし合った…とでもいうのか。
良く知った性格の一人である。
「いいじゃない。それより、相変わらず食べる量が違うね」
美琴にしてみれば、三回分の食事量ではないかと思ってしまう。
「これくらい普通でしょ。美琴は食が細いんだよ」
「僕のほうが普通だよ…」
短い会話の中でも早速手をつけ、豪快にかぶりついた。見ていて気持ちの良い食べ方をしてくれるものだ。
「それって中野教授用の?」
「そう」
「お勉強三昧なのは感心だけどさ。…美琴、今夜、空いてない?」
問われたことによって、紳平が何を言いたいのかすぐに悟れてしまった。
以前からの疎通というものもあるので会話は非常にテンポが良い。
「あいてない」
「美琴~。おまえ、たまには息抜きしろよ、遊べよ」
速攻での返答に紳平はがっくりと頭を落とす。
毎回同じ答えを出しているのだから、いい加減諦めてくれと思うのに、何故か紳平はしつこく美琴に声をかけてくる。
合コンになど行っている暇はないのだ。

「興味がないっていつも言ってるじゃない」
「興味がなくても人生経験の一つとしてさ。実体験しておかないと、就職してから要領の悪さを指摘されるよ」
合コンがどうして就職に影響するのか、イマイチ理解に苦しむところはあるが、まぁ、紳平の言いたいことも分からないわけではない。
社会に出れば本意でない付き合いも当然出てくる。
特に飲みの席での作法など、聞いた話しかないのだから。
美琴は一つの溜め息を漏らした。
「とにかく行かない」
「俺の顔、立ててよ、頼むからぁ」
「何で紳平の…?」
心底参っている印象を見せられては、そちらのほうに疑問が湧く。
美琴が参加しないからといって、紳平が困る理由はないだろう。
「美琴を呼んでくれって、俺、再三言われてるの」
「誰に?」
「他のメンツ。なんつーか、かたっくるしいイメージがあるじゃん。取っつき難いみたいなとこっつーか。でもさぁ、みんな美琴と話してみたがっているんだよね。興味持たれているっていうことです」
深い付き合いをしてこなかったために、新しくできた友人たちの評価がどんなものかは噂で耳にしている。
それでも美琴は特に気にかけることはなかった。
学問という枠を越えた先に違う人間が存在するのではないかと思うのは誰もが同じだろう。
白羽の矢が立ったのが紳平だったというわけだ。

「つまらない奴だよ、とでも言っておいてよ」
「そんなこと言って…。人に言わせるより、自分で表現した方がいいんじゃないの?百聞は一見にしかず。みんな納得だよ」
うまく丸めこまれている気がする…。
一度参加すれば、二度と声もかからないだろうか、と算段してしまう。
他の友人にも似た誘いをかけられることはあったが、一向に首を縦に振らない美琴にやがて誰もが諦めていった。
興味の対象…とされているというのも納得できる部分がある。
美琴は二つ目の溜め息をついた。
将来を見据えても、人付き合いが疎遠になるのは得ではないだろう。
美琴が吐いた溜め息に、目の前の紳平が口角を上げた。
多くを語らずとも感じ取ってくれる疎通の良さが、紳平との関係で一番気持ちの良いものだった。

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陽いづる国 3
2012-09-04-Tue  CATEGORY: 陽いづる国
参加表明をしたとはいっても、時間がないと理由をつけて一時間だけ、と頼みこんだ。
それでも美琴の意識が変わったことに紳平は喜んでいたし、あとはその場の雰囲気でどうにでもなるだろうと、「了解」と受け入れてくれる。
紳平から皆に伝えられることで、無理矢理連れてきた感が増し、紳平の貢献度も評価されるだろう。

合コン、というよりは、すでに顔見知りの男女が集まったようだった。
このメンバーの中で、恋愛を通しての”付き合う”といった感情を持っていないのは、それぞれの態度で見えてくる。
それとも、まだこれからお互いを良く知って…の発展途中なのだろうか。
ダイニングバーで四名掛けのテーブル席を繋げてもらい、総勢10名の参加だった。
話に聞いていたどんちゃん騒ぎにならないのは、参加している人間の品位があるからなのか、互いの近況や将来、世間話を語りあう。
もちろんこの店が、そういった雰囲気にそぐわないのを全員が理解していた。
場所やメンバーをわきまえた人たちには好印象を抱く。
学部内でもすでに見慣れた顔たちに、美琴も抵抗なく話題に加わることができた。

「え?中野教授のレポート、もう取りかかってんの?」
「そうそう。しかも美琴ってば全部原書」
「原文を読まなければ意味がないじゃないか…」
「…っていうか、野崎って何ヶ国語理解してるの?」
普段では聞きづらい質問も、こんなくだけた席では口が軽くなるというものか。
紳平が言っていたように、興味の対象には次々と質問が投げかけられた。
明らかに戸惑いや不快感を持ったと分かる質問はそれ以上続けられることもなく、周りの人間はサラリと話題を変えてくれる。
その辺りにも人の良さが滲み出ていた。だから美琴も気を許すことができたのだと思う。
「はっきりとは…。二、三ヶ国語じゃないかな…」
「うそつけーっ。俺が知っているだけで七ヶ国語は話すぞっ」
美琴の返す言葉に、すぐさま隣にいた紳平が否定論を上げる。
同時にあちこちから、目を見開かれたり、息を飲まれたりした。
「なな…っ?!…うっわ…っ」
その反応には美琴のほうが困ってしまって、紳平を嗜めた。
「紳平ってば…。会話ができるっていうだけじゃん…。そんなのは…」
「”理解できている”うちには入らないって?完璧主義者はどこまでできたら、その数に入れるんだよ…」
美琴にしてみれば、多少の読み書きができるレベルだったために、その通り、数には入れなかっただけだ。
本だって、今読んでいるような専門書は読解不可能になる。
とてもではないが、自慢できるような理解力はない。
「美琴ってもっと自信持っていいんじゃない?謙遜しすぎだよ。何を目指しているのかは知らないけれど」
黙ってしまった美琴の頭上を、大きな掌がポンポンと宥めてくる。
“何を目指す”…。
どれほどの努力を重ねても、10年分の歳の差を埋められるわけがなく、いつまでも手の届かない存在を追い続けるのだろうか…。
謙遜していると言われるが、それが今現在の美琴自身なのだと、本人は思っている。

「でもさぁ、翻訳されているのってニュアンスが変わっていたりするから、原書が読めたらいいよね~」
美琴の目の前に座っていた女の子が、わざとらしく自慢しない美琴の態度に嫌味をこめることなく話を続けてきた。
「私、英語、やっとTOEIC取ったよ~」
「俺と美琴って育ちが海外だから、自然と覚えたってだけだよ」
「そこ~っ。さりげなく自慢してんな~っ」
すでにみんなが知ったことを話のタネに盛り込んでしまう。
笑いを含み、会話はどんどんと広がっていく。
「あー、でもマジで、高校ん時、美琴とは英語で会話してた」
「はぁっ?!」
「だって、すげぇラクだったんだもん」
紳平とはそんなところでも意気があったのだろうか。
二人とも一番苦手とした言語が日本語だったせいで、自然と慣れた言葉を口にしていた過去がある。
特に感情的になった時ほど、早口の英語でまくしたてることが多々あり、通じてしまうことに安堵感を覚えていたのかもしれない。
「じゃあ何?将来はやっぱり外資系?」
「うーん、まだ決めていない」
美琴は周りで繰り広げられる会話を黙って聞いていた。
アルコールを飲める歳ともなれば、見据えてくるものもあるだろう。
美琴自身、大学院へ進むことを考え始めている。
のんびり考えている時間は少ないのだとは、こんな話を耳にすれば余計に身にしみてくるものだった。

無駄に騒ぐだけではなく、人の意見を聞ける。
時にはこんな時間を持つのもいいのかと、初めて参加してみて思った美琴だった。
気付けば一時間どころか二時間が過ぎている。
「カラオケ行く?」という誘いの言葉に当初の約束が全く意味を持っていないことを知った。
自ら破ったようなものだ。
「あ、…いや、僕はこれで…」
カラオケなどの娯楽は利用したこともなく、また歌える持ち合わせもない。
立ち上がり帰ろうとする美琴の腕を紳平が引っ張る。
「いいじゃん。どうせやることなんて、本読むことなんだろう」
「で、でも…」
力では紳平に敵うはずもない。ともなれば後は口で言いくるめるだけだ。
「紳平、約束は守って」
「一時間が二時間になっているんだ。あと一時間くらいいいだろ」
「けど好きじゃないし、嫌なんだって」
「なんか、それ、俺が無理矢理誘っているみたいじゃん」
もともと無理矢理のようなものだった。
この場所まではどうにか同行したけれど…。その先をはっきりと拒絶する美琴に、苛立たしげな声が漏れた。
たぶん、美琴がこの雰囲気を楽しんだことを感じ取っているからこそ、逃げようとする美琴を気に入らないのだと告げてくる。
突然の二人の剣呑とした空気に周りの皆が視線を集中させる。
こんなふうに嫌な雰囲気を漂わせてこの場を終わりにしたくはない。そのためには、この後の時間を割くべきなのだろうか。
困惑した美琴の表情をとらえては、派手な舌打ちをしてから「分かったよ…」と英語で答えられた。
美琴も「ごめん…」と同じ言語で答える。
そこから先は慣れたように、二人は流暢な英語で会話を進めてしまった。
酒の酔いが気の緩みも生みだしていたのだろう。
――帰りは送っていこうと思ったのに…。寄り道するなよ――
――そんな心配されなくてもちゃんと帰れる――
――美琴ってどこか世間知らずなところがあるから怖いんだよ――
――世慣れくらいしているよ――
日本は安全だと思っていた。もっと危険の孕んだ国を渡り歩いてきた。
美琴にはそんな思いがあった。
絶句される光景を目の当たりにして口を閉じる。
「はぇぇ…。全然聞き取れない…」
紳平と話をしていれば、いつもこんな感じだった。その反応ももう慣れたもので二人して肩を竦めて苦笑いを浮かべる。
飲みあっていた人は、二次会ともいえるカラオケに行くグループと、解散する人間に別れた。

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最後まで…というか、まだ安住の過去を書いて~コメントに頭が下がります。
本当に愛されている(←自分でいう?)キャラなのねぇ。
そのうち、なにか思いついたら書くかもしれません(←)

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陽いづる国 4
2012-09-05-Wed  CATEGORY: 陽いづる国
店を出てしばらくしてから、「野崎っ」と追いかけてくる人間がいることに気付いた。
もちろん全員がカラオケに行ったわけではないので、帰る方向が同じ人間がいてもおかしくはないだろうが。
故意的に避けた美琴に、改めて声をかけてくる人物がいるとは思ってもいなかった。
無視をするわけにもいかなく、振り返ると、学部内でも良く話をする男がいた。
紳平ほど…とはいかないが、美琴よりは背の高い、体格の良い男だ。
見慣れた顔は普段から色々と講義内容など尋ねてくる人物で、学問に真剣に向き合う姿は嫌いではなかった。
短髪の髪はツンツンと立ち、細面の顔に黒縁のメガネをかけている。
「あぁ、行かなかったんだ?」
カラオケのことを意味すれば分かったように頷き返してくる。
「もう少し、話をしたくてさ」
並んで歩かれて、同じ方面に歩いてもいいのかと思ってしまう。
だからといってこれ以上個人的に付き合う気持ちも湧かなかった。
それは紳平を断ったこともあったからだが。

「話?悪いけれどあまり時間がないんだ」
答える美琴に向かって見透かしたようにニヤリと笑みを浮かべられた。
「そんなこと言って…。それってやっぱり勉強のためなの?帰らなきゃいけない特定の相手がいるとも思えないけれど」
何が言いたいのだろうか。
眉間を寄せる美琴の腕を掴んで、帰りたい方向とは違う道へと進められる。
「ちょっ…?!」
まだ人が往来する中で騒ぎ立てたくなかった控え目さが相手の気を増長させた。
雑居ビルの隙間に連れ込まれて、その先は袋小路となってしまう奥、人の喧騒も遠ざかる。
「なにす…る…っ」
「お高くとまっているって感じ。生まれも育ちも、一般市民とは違うんですって?」
壁に背中を押し付けられて、勢いのあまり、一瞬呼吸が止まった。
彼が宿しているものは完全な妬みだ。
美琴だって好きでこんな育ち方をしたわけではない。
最大の刺激を与えてしまったことは、間違いなく、紳平との会話にあるのだろう。
更に晒した、これまで見えなかった部分か…。
冷やかな声がどんどんと近付いてくる。
「そんな”美琴くん”もかっこよくて可愛いけれどね。どこか欲求不満、抱えているんだろう?」
それこそ何のことかと全身が固まった。
何より名前を呼ばれたことが、激しい嫌悪感を運んでくる。
今まで数多くの人間が『美琴』の名前を呼んできたが、今ほど背筋が凍ったことはなかった。
もともとあまり好きな名前ではなかったけれど…。
厭らしさを込められたことが判れば危機感と共に恐怖心が湧いてくる。
「言…うな…っ」
抵抗しようとする体に力が入らない。押さえこまれた体はピクリともせず、体格の差をはっきりと伝えられるだけだった。
耳元に寄せられた唇からアルコールを含んだ呼気が吐き出され、更に悪寒が増した。
「別に誰にも言わないよ。二人でいい思いすればいいじゃん。溜まっているんだろ、ここ」
スッと股間に手のひらが差し込まれて全身が逃げようと慄いた。

自分が何をするか…というより、相手に何をして貶めたいほうだろう。
相手の意思が読めたとしても、このまま素直に応じられるような内容ではない。
「やめ…っ」
こんなことをして何が楽しいのか…。こんなことで自分がどれほど優位に立てるというのか…。
涙目になる美琴に一層寄った男の腰が更に美琴の動きを封じた。
「貴公子みたいな顔して、こういうときは色気たっぷり含むよな…」
「な…っ」
言葉だけで充分穢された気分になった。
不意に塞がれた唇が、一瞬の隙をついて、生温かい舌を受け入れてしまう。
かき回されるような動きに嫌悪感は益々増していき、酔いのせいもあるのか吐き気が込み上げてきた。
体からはどんどんと力が抜けていき、気持ち悪さだけが漂う。

脳裏を横切ったのは、何にも対応できない不甲斐なさか…。
凛々しい兄が嘲笑う姿だったか…。

「美琴っ!!」
意識が飛びそうになった時、突然聞こえた声に現実に戻された。
声に反応して離れた男から、代わりに近付いてきた逞しい男へと体が移る。
「あ…」
安心も混じったのか、力が抜けそうになる体は、紳平の腕にしっかりと抱き止められた。
苦しかった肺が、思いっきり紳平の体臭を嗅ぎこんだ。
あれほど嫌だった男の臭いが、なぜ紳平に移っただけで安堵を帯びるのだろう…。
「しんぺ…」
「てめーっ、美琴に何してんだよっ?!…二度と俺たちの前に顔を出すなっ」
「シン…っ。おまえだってコイツ狙ってたんだろっ。先に手ぇ出したからって怒るって…っ!!ただキスしたくらいで…っ!!」
「そんな軽い存在じゃないんだよっ!!」
二人の会話が耳に入ってくるのに、その意味までは思考がついていかない。
そして何故、ここに紳平が現れたのかも…。

紳平が、誰をどう思っているのかと…。
そんな存在になりたくなかったというのが本音だろうか…。
だけど湧き上がってくる分からないものが美琴の中に生まれている。
ずっと避けていた”何か”だった。
認めたくない恐怖と、埋もれたい気持ちの葛藤が濁流のように襲ってきた。
脳裏を過った兄の姿が、その瞬間、…消えた…。

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5話で終わらせようと言ったことは無理です…と今頃になってお伝えします。(絶対に不可能な状況…)
何話になるか???…分かりません(←相変わらず)
まぁ、みこっちゃんの青春時代を楽しんでください。
将来が見えているだけに…。この話はハピエンではありません.・゜゜・(/□\*)・゜゜・


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陽いづる国 5
2012-09-06-Thu  CATEGORY: 陽いづる国
苦々しい表情を浮かべて男は道路へと出ていった。紳平の迫力に押された感じだった。
恐怖が消え、美琴の震えていた体が少しずつ落ち着いていく。
キツく抱きしめられていた体を離そうと脱力していた美琴の体に力が入ると、紳平が覗きこんでくる。
「美琴?」
この思いを感じたくなかった…と言えるのだろうか。
紳平という存在がどんなものなのか…。
はっきりと相手から聞いてしまったら絶対に流れて溺れていくだろうことが、自身で分かる。
美琴が望んでいない世界。
だからこそ紳平から拒絶してもらいたい気持ちが浮かんだ。
一瞬迷わされた気持ちが、震えが収まるのと共に精神も落ち着きを取り戻していくようだった。
「あ、ありが…と…」
距離を置こうとする美琴を紳平はまだ繋ぎとめようとして、動揺が走る。
美琴が長いこと逃げていた感情を紳平は持っている。それが美琴には怖かった。
弱くなる心が分かる。
でも求めてしまうもの…。

紳平は美琴を抱きこんだまま口を開いた。
――美琴は無防備なんだよ――
染み透ってくる声は聞きなれた発音だった。
――そんなこと…――
――放っておけない――
――言わな…で――
築いたはずの対人面に対する壁が今にも打ち砕かれようとしていた。
ずっと抱き続けてきた強がった内面。
――美琴が手に入れたいものって何だよ?何をそんなに頑なになる必要があるわけ?――
いつの間にか読み解かれていた精神状態に目が見開かれた。
美琴のことをより知る人間だからこそ、彼が持つ雰囲気に飲みこまれそうになる。
続けられた紳平の言葉に、もう自分を守る術を見出すことはできなかった。
――俺には素直にぶつかってくるところがあるのに、でも何かを隠そうとするその態度が気に入らない。美琴は感情を押さえこみ過ぎる。何のために?ありのままの美琴を見せろよ。俺とは距離をとらないで――
――紳平…――
――悩むものを聞かせて…。美琴は何かに囚われ過ぎていて視野が狭いんだ。何でもいい。一緒に見ていこう――
これ以上踏ん張れる気力が美琴にはなかった。
離そうとした体をもう一度強く抱きしめられたなら…。
自分から縋ってしまう弱さに巡り合う。
相手に思われることの温もりをようやく知ったのかもしれない。
雪解けの時を迎えたかのように、美琴の心が本音を晒して、桜色に染まり、大きな安堵の息を吐いた。
固く閉ざされていた恋愛への道を、紳平の強い力と理解力があれば大丈夫だと思ったのだった。

長いことずっと一緒にいられるわけがない、という育った環境から、また兄に言われた台詞から、得にならないと思われることは避けられてきた。
無意識に紳平への気持ちを隠したのもそのせいだろう。
それに紳平は気付きつつ、機会を伺っていた…というべきなのだろうか。
遊び方の一つも知らない美琴に襲いかかってきたあの男に、紳平が言い放った「軽い存在ではない」との台詞は、美琴の私生活を良く知るものでもあった。
キスの一つもまとものしたことがない…。露呈するのは恥ずかしさも混じったが、紳平にはそれすらも受け止めている雰囲気が漂う。

覗き込んだ紳平の指が美琴の唇の上をなぞった。
美琴の気持ちの変化を仕草などを通して感じ取れているようだった。
こうやって物分かりが良い態度が、美琴が一番好印象を持っている部分でもある。
適度な距離と物分かりの良さ。
――キスしてもいい?――
唇は先程の男の余韻をまだ残している。
怖さはあっても信頼できる人間に対して、返事は一つしかない。
「Yes…」

挨拶程度の頬に寄せるようなキスなら幾度も繰り返したことがあったが、想いを込めたものは初めてだった。
軽く触れあわせるように重ねられる。一度離れてはまた啄ばまれ、また離れて…。
幾度かその動きを繰り返した後で、紳平の舌が美琴の唇を舐めた。
無理矢理押し付けられたものとは違って、気持ち悪さもなければ吐き気も湧かない。
それが紳平に対して向けられる愛情なのだと知らされる。
そっと差し込まれる舌に真似ごとのように美琴も舌先を触れあわせた。
ぎこちなさは伝わるのだろうが、紳平の態度は変わることがない。
官能を引き立ててくる動きに、美琴の体が徐々に反応を示してしまう。
「あ…」
唇の隙間から漏れる声があれば、抱きしめられた体の密着度が増した。

「Mikoto.…Come to my house…(うちへ来い)」
多くの人間が味わうであろう青春の時間には、憧れに近いものがあったのかもしれない。
本音を曝け出される場所だからこそ、甘えが生まれた。

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みこっちゃんと紳平は感情的になるほど英語で会話しているところがあるので、表記の仕方に読みづらいところがあるかと悩みました。
日本語と英語の発言の違いをどう表現するかと悩んでのこんな結果…。
どうかご理解いただきたいと思います。

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