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BLの丘
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待たせるけれど 1
2012-06-21-Thu  CATEGORY: 待たせるけれど
中学3年の時、両親が突然亡くなった。
意味が分からなく、葬式と言うものがなんだったのかも定かではない記憶だけが残る。
気丈に振舞う兄を見て、棺が狭い…焼かれる場所に向かうのを呆然と見詰めた。
追いかける弟、嘉穂を、親戚の人が必死に押し留めていた。
「やだっっっっ、お母さんっっ」
まだ甘えたい盛りの頃、暴れる体は小さかったけれど…。
人一倍人への思いを残していた。
泣き喚く小さな体を、兄の筑穂が精一杯の愛情を注いで抱きとめた。
「嘉穂…っ、お父さんとお母さんは一緒に新しい人生を生きていくんだよ」
二人が、共に亡くなってしまったことを、これで良かったと思考を変えられた兄に、穂波は心底感心した。
兄の筑穂がいなかったら、たとえ両親がいたとしても生活感は変わっていた。
いつでも弟ふたりを見つめてくれて、親の手伝いもしていて…。
筑穂が母親に似ていたせいだろうか、その性格も受け継がれたのだろうか。
少し、親が留守にするときでも家事の全ては筑穂に任されていた。
自分と嘉穂だけでは絶対にあり得ない世界…。
そして何故か、守ってもらっているのに、守ってもらいたい雰囲気をばらまいた兄…。

10歳も離れているのに、成長は全く異なった。
中学に上がる前には大学生の筑穂の身長を抜いたし、胸板も肩幅も筋肉のつき方が違っていた。
まだ小さい嘉穂を『だっこ』で鍛えようとしていたのかもしれないが、運動部で鍛える筋肉のつき方は明らかに違い、また動き回る嘉穂についていけなく、近所の縁日に出掛けてへばるのは筑穂の方が先…。
近所に住む香春を連れてははしゃぐのだが、やはり途中で根をあげられて、さりげなく金魚すくいなんかに誘って休憩させた。
全体的に無理をしている感じはあるのに…。
それを口にしないから穂波も言い出さなかった。

兄が進学に対して神経質になっているのは、随分昔から知っていた。
大学に行け…と。そのための知識を身につけろと…。
だけど、部活に明け暮れた穂波にとって、何をどう学んでいいのか全く分からなかった。
兄に促されるまま、単純に、『大学』と名のつくところにいっていいものなのだろうか…。
進路相談がはっきりと口に出されてきた頃、悩みは深くなる。
訳もわからなく、進学する意味がどこにあるのか…。
それよりも、自分たち、弟たちのためにひたすら自分と言うものを犠牲にしてきてくれた姿を知るから、もうこれ以上の苦労をかけることなく、働き出して独り立ちしたかった。
どの職についたら、満足が得られるのだろう。
穂波も中途半端に働くのではなく、自分のものとして身に付けられるものがあったなら…と考え出した時。
立ち寄ったパン屋で明るい声を聞いた。

「いらっしゃいませ~っ。今、焼き立てですよ~っ」
朝の早い時間、まだそれほど商品数は多くないのかもしれない。
まだ若いだろうと思われる男が、焼き立てパンのトレーを持って店内にやってくる。
コック帽の脇からはみ出した髪はくせ毛のように見えた。
少しだけ粉がかかったコックコート、そのままで店内と厨房を行き来する。
次々と運ばれてくる香ばしい香りに、そして元気な姿に『やりがい』というものを見た気がした。
奥には次から次へと製作する姿の年老いた人が見える。
出勤前なのか、朝食用になのか、買い求める人は多くて、ひっきりなしにレジに人が並んでいた。
『生きている』…
そんなふうに感じられた時だった。
そして、ちょこちょこと動く姿が…、誰かを気遣って誰かのために生きている人を思い浮かばせた。
小さくて、でも周りを気遣って動く人…。

自分でも誰かのために、何かがしてあげられるだろうか。
その姿を認めてもらえるだろうか。
こんな風に生きたい…。

穂波は「アルバイトの募集とかしていませんか…」とその場で尋ねていた。
目をパチクリとさせ、見上げてきた人は、本当に誰かに似ていた。

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学生物は苦手だ~と言いながらこんなものを書いているし…。
え?三兄弟…?!
シリーズ化するんだろーか…。
これこそ不定期更新になります…。
(つか、数話で終わらせたい…)
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待たせるけれど 2
2012-06-22-Fri  CATEGORY: 待たせるけれど
「バイト?」
突然話しかけたことに、キョトンと見上げてくる表情は、年上なのだろうがそんなことを思わせない可愛さが浮かんでいた。
忙しい合間なのに、きちんとこちらの話を聞いてくれる姿勢は人の良さを表している。
「君、そこの高校の子だろ?この時間に寄ってるって朝練か何かあるから?…ガッコ、頑張っているところなんじゃないの?…どっちにしても父さんと二人でやってる店だから…。人を雇えるような余裕はうちにはないよ」
やんわりと断ってくるのは、バイトよりも学業に専念しろと言いたいからなのか…。
引き離される感じがして、穂波は即座に「家に少しでもお金、入れたくて…。うち、親いないから…」と口を開いていた。
ますます訝しそうに見上げてくる視線は、穂波の言葉を半分信じて、でももう半分は疑ってかかっているものだった。
「あのさ…。本当に働きたいんだったら、ちゃんと君くらいの子を雇ってくれる場所があるでしょ。うちじゃお金なんか払えないから」
間違った発言をしたのだと気付いたのはすぐのことだった。
『働く』に中途半端な意見は持ち込ませない。
それは、自分たちがやっていることにプライドがあるからだろう。
その気合と言うか根性というか、そんなものが感じられるのも穂波を惹きつけるものになった。
「別に…、いい加減な気持ちとかじゃなくて…。知りたいんです。あなたみたいに生き生きと働ける環境…」
「それって将来に向けてってこと?」
「そ、うなのかな…。兄貴は進学しろって言うし、でも俺、その意味が分からないし。…早く働きたい気持ちはあるけれど、今の俺、なんにもないし…」
「そういうのは自分で探すんだよ」
「だから俺、ここで…」
「はーい、ストップ。とにかく、うち、雇えないから」
あっさりとかわされ、その他の客の手前もあって、長居はできなかった。

それでも穂波は明るい表情と声を忘れられなくて、たびたび通う日が続いた。
一度話しかけてしまえば、顔も覚えてくれているし、雑談にも付き合ってくれる。
穂波が抱いている感情も、それとなく伝わっているところもあったようだ。
一番最初に伝えた『親がいない』という家庭事情が、店員の気を引いていたのかもしれない。
後々知った話、筑紫野浮羽(ちくしの うきは)というこの人も、早くに母親を亡くしていたのだという。
父がやっていたこの店を手伝いだしたのは、まだ最近の話らしい。
そうやって頑張って働く人に、余計に惹かれていく気持ちがある。

浮羽と親しくなれば当然のように、その父親とも話をするようになった。
家庭環境、将来のこと、親身になって話を聞いてくれる姿は、父親がいたらこういうものなのだろうかと錯覚を生んでくる。
朝練に出向く前の僅かな時間、穂波が考えている真剣な態度に、また、哀れみもあるのか、商品として出せない失敗作を隠して入れてくれた。
『手に職を』…。
その考えは、浮羽よりも父親の職人根性のほうに気に入られたのかもしれない。
さらに芽生えたのは、ここで、浮羽と一緒にこの店を継げていけたらいいな、という思い。
穂波には、初めて見た時の浮羽の爽やかな笑顔が忘れられずにいる。
毎日を精一杯生きる姿勢は、目指していた人の姿でもあった。
『目指している人』…。
もちろん兄の筑穂のことだったのだが。
だからこそ、『兄のために』と思う気持ちも強い。

パン屋の朝は早かった。
本当はもっと早く、開店前の制作時間に向かいたかったが、働けない環境は兄に心配をかけるだけだと、踏みとどまった。
朝練の前に立ち寄る、本当に僅かな時間、粉の配合、発酵具合、焼くタイミングとか、まるで料理番組のように順をおって見せてくれた。
その間の苦労ももちろんあるのだろうが、仕上がっていく全てを見ても、穂波が気を取られるものばかりだった。
この道に進みたいと強く思った時、やはり穂波の心の中で渦を巻いたのは、兄から寄せられる『期待』だった。

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待たせるけれど 3
2012-06-23-Sat  CATEGORY: 待たせるけれど
兄の気持ちも分かるし、目の前で動く人の”生活感”も見えてくる。
進学が全てだと思っていた穂波にとって、力強く働く目の前の姿は、想像していた学歴を誇示するものと全く違っていた。
だからこそ、『働く』意味をはっきりと知らせられる。
決して楽なものではないこと。
立場は変わっても、『働きながら』自分と弟の嘉穂を育ててくれたのかと思うと、目頭が熱くなった。
決して辛いことも、弱音も吐かなかった兄に対して、やはりはやく働いてやるべきだろうと思う。
「俺…、こういうの、ちゃんと学びたい…」
「専門学校っていうのがあるよ。大学じゃないけどさ」
朝の早い時間、父と一緒に粉を捏ねて、オープンへと向かう後ろ姿に穂波の燻っていたものが零れる。
穂波が悩んでいるところも押さえてくれる。
“進学”に関して考えがまとまらないこと。
浮羽は自分の経験を穂波に教えてくれた。

本格的に学びたいのであれば…。
技術をもった世界で生きたいと思ったのも確かで、ただ、それを、どう兄に伝えたらいいのか分からなかった穂波でもあった。
机の上に向かうより、ずっと、こうして動いている方が体に馴染んでくる。
それが分かるからこそ、敷かれたレールの上を歩きたくない葛藤が見えた。
浮羽は当たり前のことを、アドバイスをくれる。
「調理する上で必要なことは、試験も通して全部教えてくれる。ホナがどこで働くかは別として、技術を身につけたいっていうホナには適していると思うけどな」
技術を学ぶことを、背を押してくれた。
浮葉やその父に、目指す道は言えなかったけれど、同じ道に進みたいとは伝わっていたようだ。
それが分かるから、将来の行く末はともかく、父親は忙しいなかで様々な事を教えてくれたのだと思う。
学校の時間も知られていたから、「もう行くんじゃねぇのか」とうながされて、しぶしぶ店を後にした。
“きっちり”ということを守ろうとする性格は、ある意味で穂波を育てていた。

恋に落ちた…のはたぶん、出会った時なのだと思う。
一緒にいればいるほど、優しさを知ったし、どこかで崩れそうな張り詰めた雰囲気も感じられた。
それは兄に似た部分なのかもしれないが…。だからこそなのか、気付けるところは多々あった。
あたり一面に気を使おうとするから、少しでも息を吐き出して…と思ってしまう。
小さい体が重いものを持とうとすれば寄り添いたくなる。
接客業である以上、感情を表せないのは当然だが、その芯の通った動きが、余計に穂波を惹きつけるものとなった。

…甘えさせてやりたい…。

夕方、閉店前の店に立ち寄ると、ほとんどの商品が売れていて、残っているものは僅かだった。
「あぁ、ホナ。店じまいしちゃうから、持って帰っていいよ」
いつもは見られるお父さんの姿もなく、店を閉めようという動きを見せた浮羽に、いつもと違うものを感じた。
「何かあったの?」
少し悩んだようだが、日々の交流のおかげか、素直に口を割ってくれた。
「父さん、ちょっと具合悪くてさ。先に家に帰らせたの」
「え?」
「あー、大丈夫、大丈夫。どうせゆうべの飲み過ぎの結果だから~」
手をひらひらと振りながら、努めて明るく振舞おうとする姿に、無理を隠す気の強さが見えた。
頼れる存在にはなってくれないのだろうか。…なるわけがない…。年下の自分に対して…。
分かってはいても…。
頼られたい気持ちが湧いた。
浮羽に寄った体が、『無理しないで』と伝えるように、小さな存在を包んでいた。
突然抱きしめられたことに、動揺もあるのかもしれないが、ホッと安堵したのは伝わった人肌の温度があったからだろうか。
肌の温もり…。
いなくなってしまった存在からは感じられないもの。
互いに大事な人、頼りたい人を失ってしまった過去があったから、素直にその温かさを感じられたのかもしれない。
「俺…、浮羽さんを支えていきたい…」
穂波の願望はじっとしていた浮羽の心を揺さぶっていた。


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待たせるけれど 4
2012-06-25-Mon  CATEGORY: 待たせるけれど
片親を失った苦しさは持っているのだろう。残った一人が少しでも具合が悪いとなれば当然心を痛める。
穂波はいっぺんに失いすぎて、現実が見えなかった。
そして歳の離れた兄が、何よりそばにいようと、努力を重ねてくれたから…今がある。
支えられてここまでこられた。これが自分と嘉穂だけだったら…と思うことは何度もある。
歳が離れすぎていて、どこか疎遠だったのかもしれない。
改めて感じた彼なりの思ってくれる気持ち。
まともな生活なんてできなかった。きっと親戚にも、ふたりいっぺんに引き取れないと離されて暮らすことになっていたはずだ。
学校も生活も変わる。
気心知れた人がそばにいてくれる力強さは、何にも変えられないと、学んできた。
それは浮羽の父も同じことだったと思う。
残された”家族”のために…。

「ホナ…」
腕に抱いた小さな体が、少し震えて、やっぱり考えて、引き離そうとする。
年上として、まだ未成年だという立場を考慮しても、穂波の気持ちをすんなりと受け入れられるはずがなかった。
「父さんは大丈夫だよ」
「そうじゃなくて…っ」
誤魔化されそうになる空気を遮って、腕の強さで浮羽を押さえこんでいた。
「浮羽さん、お父さんのために…って努力していること、すごく多くない?そうやって頑張ってる浮羽さんを見るのもいいよ。いいけどっ。甘えてほしいよ…。まだまだなこんな俺でも、愚痴とか言うくらいでもいいよ。少しでも頼ってほしいんだ。俺、浮羽さんのためになること、したい…」
「ホナ…、憧れているだけだよ。働くっていう姿に…。生活のこともあるでしょ。焦っているだけだよ。もっと良く考えて…」
「それって断られているってことだよね?」
仕事のみの面ではない。穂波の抱える想いを気付いているから、答えられないと告げられているのと一緒。

穂波自身、いつの間にこんなに心に広がる思いが強くなったのかと振り返った。
だけど、考えたって、詳しい理由を箇条書きにして恋に発展する人なんていないだろう。
親しく付き合ってくれたのは、これまでの態度で充分感じられること。
それは、”付け入る隙”なのだろうか…。

はっきりと身を引く穂波の意思も台詞から感じられたのか。
誤魔化し続けてきたことは浮羽も心に湧いているのだろうか。
ほんの僅か、腕の中でビクンと震えた体は、突っぱねられない戸惑いを抱えている。
人の良さ…と言えばそれまでだが、それ以上に特別に寄せてくれるものがあること。
だから激しく嫌がられることなく、親身になって穂波の話を聞いてくれた…のではないか…。自惚れだろうか…。
兄に対しても”頼ってほしい”と願った。本人のプライドを傷つけることになるかと思って口に出せなかった。
それと同じように過ごす人に、これまでできなかった、何かの償いのようなもの…。
憧れを期待として混同するのは間違えているのかもしれないけれど、浮羽の動揺が見られれば、一度知ってしまえば離れることはできなくなる。

「ホナ…、将来を考えるのはいいことだよ。でも俺のことはそこに含めちゃいけない。ホナはホナの…」
「何で?どうしてダメなの?浮羽さんの力になれること、ないのかな。今だって、精一杯気を張っているじゃない。そういうとき、頼ってもらえないの?見てて辛いよ…」
胸の内を晒す穂波に、ズズッと鼻水をすする音が聞こえた。
ほんのわずかな時間でも、父親のことを考え、耐えていた気持ちが、的確に当てられて張り詰めていたものが途切れたのだろうか。
「ホナ…。本当に、…高校生には思えないね…」
「浮羽さんが若いからだよ…」
「情けないやつみたい…」
「余計、しっかりできるかもだよ」
「減らず口…」
クスッと少し笑ってくれたことに、穂波の気持ちも和らぐ。
全く嫌われていないこと。今のこの時間、自分に気を許してくれたこと。
「この店、一緒にやっていきたい…。そのために進学先、変えたいんだ。少しでも早く、もっとたくさん知りたいこと、ありすぎるの…」
認めてくれたと思った。
だけど浮羽はあからさまに動揺を見せた。
「ホナ…?!本気でっ?!…そんな簡単に決めちゃ…っ」
「きっかけ、作ってくれたのが浮羽さんなのに…。それにやっぱり、こんなふうに一人で頑張る姿見せられたら、そばにいたいよ」
「ホナ…」
一番気が弱っている時につけ込んでいるのだろうか。
ひと震えした体は、奥底に秘めた不安を、顕著に表していた。

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待たせるけれど 5
2012-06-29-Fri  CATEGORY: 待たせるけれど
誰かに寄り添いたい気持ちは以前から持っていたのだと思う。
親の手前があるのか、客を相手にする仕事だからなのか、誤魔化してきた感情の部分は多大にあった。
母親がいないから…という点でも、父親に負担をかけたくない気負いのようなものも見えていた。
そこは本当に、誰かに似ていて、穂波の心を締め付けた。
無理はさせたくない。もう一人の”同じようなひと”を作りたくない…。

こちらから擦り寄れば、ちょっとした窪みに水が染み込んでいくように、穂波の存在を感じ取ってくれる。
その隙間を、穂波は狙っていたのだろうか…。
穂波自身、誰かのために、誰かと共に…と思うことはこれまでなかった。生きてきた人生を振り返っても、長いものとは当然言えなくて、兄にしたら「ガキの分際で何言ってやがるっ」と目くじらを立てられそうだ。
それでも抱いた感情を大事にしたい。
自分の想いを隠して生きるようなことはしたくない。
その気持ちは、我慢し続ける兄に気付かせ、代弁するかのように穂波の中で大きくなった。
伝えたいことのほうが大きいのか…。

愛するからこそ…。愛してもらっているからこそ…。
自由な空間を自分にも兄にも、なにより、愛した人にも…。
抱きしめた腕から少しだけ力が抜ける。
覗きこむように見た、濡れた瞳に、不安があったことを察知する。
「我慢しないで…」
そっと囁いて、穂波の脅えたように向かう唇を、浮羽は静かに受け止めてくれた。
触れる温かさに、もっと熱いものが欲しくて、舌先を差し込むと、答えるように絡ませてくれる。
体験がそれほどあるわけではないけれど、誘ってくれる大人の上手さなのか、穂波は溺れるように貪りついた。
縦横無尽に動く舌を、うまく官能点に導き、どこがいいのか教えてくれる。
ぬちゅっと音がした後、現実に戻されたように、浮羽が穂波の動きを止める。
「ホナ…」
「ダメ…?…俺…」
そっと擦り寄せた腰が性欲を表して浮羽に伝わって、戸惑いを大きく伝えてくる。
この歳の反応としては理解できることもあるのだろうか。
だけど穂波は、一時的な感情とか、軽薄な態度で臨むつもりはない。
浮羽に対して、どれだけの愛情があるものなのか…。冷静にさせてくれるところは、先に伝えてはいけない”欲”なのだと判断させてくれた。

この場ではあまりにも厚かましいことなのだと穂波も感じて、腕の力を弛め、距離を持つ。
今、優先するべきことは、父の安静であり、一刻も早く浮羽の気持ちに余裕を持たせること。

どこまでも穂波から回されてくる思いに浮羽は何を感じたのだろうか。
「早く、お父さんのところへ…」
穂波の言葉に、弾けたような驚きが浮かんでいた。
穂波は分かっていても無視した。気付かせて、こちらに神経を向かわせるのは、悪い…。
今は自分より、家族へと思いを向けてほしいという気遣い…。
「ホナ…」
送りだす、その一瞬は、亡くした人へ何もできなかった後悔も混じるのだろうか…。
同じ後悔を浮羽には味あわせたくなかったから。
もう一度、今度は浮羽のほうからすりよってくる。
互いの痛みを分かち合うものとして受け入れてくれていた。
穂波はそっと囁いた。
「待ってる…。待たせるのかな…。いつか絶対並べるように、何でも学ぶから…」
「いいのかな…。でも待っていたい…。ホナ…」
淋しい場所に入り込んだ卑怯な手なのかもしれないけれど、ふたりを結びつける強さにもなっていた。

浮羽の父が、ただの過労だったとはその後、連絡をもらって、少しホッとした穂波だった。
きちんと病院に連れていって、問題がないと言われて帰ってくれば、浮羽の気も抜けると言ったところだろう。
電話口で、一人で店を開くのもどうか…と不安視する浮羽に、「できることがあれば、俺が手伝ってやるから」と咄嗟に声が漏れる。
品数が少なかったとしても、あの店の開店を待っている客がいることは、利用客として、同じ高校の生徒として、良く知っていることだった。
「でも、ホナ、学校が…」
「朝練は自由参加なの。その時間だけでも手伝わせてよ」
一人より二人…。勇気づけられるものが浮羽の中に湧くのか、躊躇いながらも認めてくれた。
二日とたたずに店主は復活したが、その後もたびたび穂波が朝練をさぼる日は続いた。
一日おき、二日おき…といった感じで、頻度は顧問に咎められるものでもなかった。
お父さんが作り上げるパン、浮羽が作っていくもの、間で穂波も手を出していく日々が、何とも楽しかった。

「待たせるけれど、いつか一緒にこのお店を継ごう…」
店の裏、見送ってくれようと出てきた浮羽を抱きしめた穂波の言葉に、浮羽も頷いてくれる。

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