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甘い人 1
2011-12-06-Tue  CATEGORY: 甘い人
勝手ながら2011年度版アンケートを閉じさせていただきました。
あとでアンケート結果の報告をさせていただきますね。ダントツ一位が《栗本&譲原》で、これはもう覆らないだろうとさっさと書くことにしました。
年末に向けての【予告】を兼ねて(もう充分年末ですが)、不定期で進めていきたいと思います。
年内中には完結する方向で…。 (多忙になりつつあるのでそこは多目にみてやってください)




今受けている離婚問題の件に、譲原望(ゆずはらのぞむ)は同情の念を抱いていた。
三十代も後半の男は、38歳の自分と年齢が変わらない。
長年勤めてきた社会的地位があり、年齢と共に培った貫禄も滲ませている。きっちりとスーツを着こなした姿は、誰からも好かれる『デキる上司』を感じさせた。
シャープな顔立ちの中にある二重の瞳といい、通った鼻筋は女性を惹きつけるものになるだろう。
それが仇になったのか…。
世間体を考えてもあって結婚したはいいが、結局彼は女性を愛することはできなかった。
その昔、女性と付き合っていた期間もあったらしく、生活していくことは可能だろうという曖昧な考えが、結婚当時の彼にはあったらしい。
しかし彼はもともと女性よりも同性に目が向く性癖だったそうだ。
現実問題、夫婦生活は持てなく、溝は広がるばかりだった。
生活を拘束される不自由さにもやがて辟易するようになり、三年の結婚生活の中、この一年は別居生活だったという。
結局彼女が求めたのは慰謝料で、愛情を持てなかった彼を責めたかったのだろう。
もしくは彼を取り戻したかったのか…。

望の勤めるビルの事務室。各個人に割り当てられた部屋はセキュリティのしっかりしたものである。
もとより警備員が常駐しているため、無関係な人間が入ってくることも難しいのだが。
その部屋の中で相談に訪れた江嶋晃人(えしま こうと)と向かいあってソファに座っていた。
自分の性癖のことまで伝えてくるとは度胸のいることであっただろう。
ただ真実を伝えてもらえない限り、こちらも弁護することはできない。その点では正直に口にしてもらってありがたく、判断材料になる。
こんな状況にあるからなのか、見栄えのいい体面とは対照的に、悩み事を打ち明ける弱さを見せる。
入ってきた時の、挨拶を交わした時より肩を落としていた。
「最初の頃は彼女、『別れない』って言い張っていたんですよね。それで結局ズルズルここまで来てしまって…。それが突然、別れてもいいという話になりまして…」
「ご自身のお気持ちは話されたのですか?え…と、その…、女性、男性について…とか…」
望が突っ込んだ質問をすると、江嶋は「まさかっ」と目を見開いて両手を胸の前で横に振った。
「向こうには恨みの気持ちが強いんです。どこで何を言われるか…」
まぁ、当然の意見である。自分たちのような関係を世間的に、はいそうですか、と受け入れてくれる人間はまだ少ない。
迂闊なことを口走りされて職場や住処を追われる危険は孕んでくる。
ずっと意地を張っていた彼女が掌を返したように決断したのは何故なのだろう。彼の性癖を知ったのであれば理由も分かるところだが…。
「そうですね。…失礼ですが、別居中にどちらかの方と…ということはございましたか?」
つまり『浮気』のことである。
相手側が調査している可能性は高い。女性と共にいれば怪しまれるだろうが、同性であればどう捉えられるだろうか。
こちらの質問には明らかな動揺が見られた。肯定したようなものだ。
そこからバレた可能性も否めない。
「気付かれている可能性は…?」
「いや、そんなことは…。たぶんないかと…。彼女の性格を考えたら必ず言ってきます。鬼の首を取ったように現れるでしょうね」
それこそ『騙された』くらいの意識は持つだろう。
どちらにせよ、江嶋に非がないとは言い切れない状況で、不利なのは変わらない。
「そうですか。相手の方ともお話をさせていただかないとですしね。江嶋さんのご要望があれば選択肢に優先順位をつけて進ませていただきたいと思いますが」
「俺の意見て聞いてもらえるんですか?」
「もちろんです。一方的な話し合いにはしませんよ」
江嶋の発言に、どんなつもりでここまで来たのかと驚いてしまった。
彼女に財産を譲るための書類作成でもしにきたのだろうか。
望がはっきりと告げると、ホッとしたように笑顔を見せた。
「良かった…。ダメ元でここまで来たんです」
不安だったのは、江嶋が告白した内容にあったのか。自分のような人間は受け入れられないと思っていたのか…。
望はできるだけ穏やかな声で返した。
そうすることで少しでも江嶋の抱える狭められた空間を広げてやりたかったのかもしれない。
思うほど問題視するものではないと…。
「世の中には色々な状況が発生します。可能な限りお力になれるよう努力させていただきますので」
「ありがとうございます。どうか宜しくお願いします」
望の言い分を理解し、かといってあえて口に乗せてくるわけでもなく。
座ったままきちっと頭を下げた男は、社会の中を確実に前に進んでいる人間なのだと、改めて感じた望だった。


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甘い人 2
2011-12-07-Wed  CATEGORY: 甘い人
江嶋の妻とのやり取りは難航した。
もちろん望から江嶋の性癖まで晒すことなどない。
その分、彼女の『裏切られた感』は強く、愛情もない日々を耐えた精神的な苦痛を匂わされた。
男同士の関係など想像もつかないと言った感じだった。
知らぬならそのままで済ませたほうがいい。
江嶋自身、注意を払い、今後も知られることがない慎重な動きを見せるのだろう。

望が調べた結果でも、彼女に他の男の陰などなく、ひたすら『疲れただけ』…なのだと伝えられた。
いつしか戻るかもしれないと思った陰には、彼を手に入れた優越感しかない。
それだけ地位を確立し、人目を惹く美貌だった…ということなのだろう。
確かに、ゲイと分かり、発展場などの場所で求められたなら傾いていきそうな風情を醸し出している。
もっとも今の望では、流れつくことなどあり得はしなかったが…。

突然の別れの理由を、単に「疲れただけ」と語られてしまえば、そんなものか…とも思う。
一年待っても、江嶋は彼女に視線を向けることなどなかったわけだ。
期待して待つ時間が無意味なものでしかないと悟った時のようだ。
江嶋より三つ若い彼女には、まだこの先再婚でも仕事でもして活躍する場があった。
もっとも彼女には結婚して家庭に収まりたいという願望が強いらしく、江嶋と見せかけだけでも作りたかった世界が見えてしまった。
収入のある旦那、見栄えの良い家庭、何より自慢したい夫…。
理想を掲げただけの生活に、現実を知ったのだと思う。
今からでも遅くない。本当の意味で彼女を愛し、同じ願いを抱くものなど星のかずほど浮かぶ。
たとえバツイチであろうがそう望んでいる男性も多くいるだろう。あとは、出会えるか否か…。

傷ついた心を癒してくれる存在が身近にいることを、望自身感じていたが、そこまで彼女に伝えることはできなかった。
諦め、を決めたその影に、なんらかの存在があるような気がしても、そこまで調べようとも突っ込もうとも思えない。
江嶋には有利な材料になるかもしれないが、ほじくっていい思いをしないのは江嶋だろう。
最初から彼は、穏便に済ませる方向を願っている。自分のプライベートを知られないためにも…。
江嶋の気持ちが分かるからこそ、最低限の交渉で済まされた。その中でも有意義に使えるものは使った。
渋られる相手方を、法律上の問題として対抗する。感情がない現在、頼れるのはそこしかない。

子供が存在しなかったから親権の問題もなく、金額の面ではかなりのやりとりがあったものの、最終的には江嶋が納得した形で問題は解決された。
彼にとって、後ろめたさのほうが抜きんでたのだろう。
「お役に立てなくて申し訳ございませんでした」
事務所で頭を下げた望に、どうして?と疑問の声が届く。
江嶋は同意していても、望としては納得のできない件がいくつかあった。それらはもちろん、今後江嶋を不利とさせるもの。
不甲斐なさを感じての謝罪でもあった。

「譲原さんは懸命に庇ってくださいましたよ。私の不実を一切出さず、あそこまでしてくれたんです。もう、本当に感謝ですよ」
ニコリと笑った表情には満足感が浮かんでいた。
彼にとって、もっと酷い状況が想像されていたのだと思う。
性癖一つ、ばらされただけで事は大きく傾く。
望はそれらについては、一つも口にすることはなかった。もちろん、顧客を守る為の手段でもある。

「こんな時…って思うかもしれませんが、私、ちょっと気分が良いんです。もし、譲原さんさえお嫌でなければ、祝杯もかねて一杯お付き合い願えませんか?」
突然江嶋に誘われた言葉。
長々と続いた話し合いは夜の帳を迎えていて、長引くと分かっていたからこそ、望もこの後の予定など入れていない。
申し訳なさももちろんあった。
そしてもう少し江嶋のプライベートに触れてみたい気持ちもあったのかもしれない。
同じような立場として…。
自分と恋人である栗本佳史(くりもとよしふみ)との関係を暴露する気はなかったが、苦しみ悶える者の気持ちを探ってみたい程度の好奇心があった。
今後の救いになれれば…。偽善者的な感情も混じる。
佳史に対しての一瞬の躊躇いが見え、江嶋に「何かお約束でも?」と問われて咄嗟に首を横に振った。
「いえ、何も…。私などで良ければお話の相手にでもさせてください」
相手方とのやりとりだけで終わる、淡白な存在ではないと、望も願っていた。
『信頼』とは、そうやって生まれるものだと…。

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甘い人 3
2011-12-09-Fri  CATEGORY: 甘い人
シティホテルのロビーの一角には、強面の人相をした、スーツ姿の人間が数人いた。
この近くで起きた事件について、聞き込み調査が行われている。
集まっているのは警察の人間で、必要とされる監視ビデオのテープを手にすると、営業の邪魔をしないようにと去ろうとしていた。
後に残ったのは感謝と今後の調査にも協力を求める上役の存在だ。
部下にはさっさと鑑定を急げと促している。
「ご迷惑をおかけいたしました」
頭を下げた屈強な体格の佐貫光也(さぬきみつや)に対して、支配人の年配の男は、「ご協力できることがあればなんなりと…」と、またこちらも平身低頭の姿勢である。
単なる聞き込みでも詳細に状況を語ってくれるのは、この辺りを危険区域にしたくない気持ちがあるからだ。
観光客も多ければ、噂でさえ悪影響を及ぼしかねない。
できることなら最小限ですませたいのは誰もが思うこと。

「また後日…」
佐貫の言うことを理解したように、支配人および従業員も残った警察の人間たちに至極丁寧な挨拶を繰り広げた。
人を見る目を持つホテル側の人間の証言は、一般人よりもずっと優れていて、訪れた関係者たちを感心させてくれた。
幾人もが出入りするロビーの中、当たり前のように去ろうとした佐貫の視界に、見たことのある人間が飛び込んできた。
酔っ払っているのか…。
男の肩に腕を回し、もたれかかるように支えられて歩いている。ただそれだけのことに視線が向いただけ。
だが直後、驚愕に目が見開かれた。
酔っているとしたならふらつく足取りは充分理解できるものの、相手とする男と、この場所が納得いかない。
それらは『刑事』という職の勘でしかない。

しばらく様子を見て、見送りつつ、佐貫はエレベーターに乗り込もうとする男をホテル側に聞いた。
すぐに答えられるところが、人間を見定めたような視覚をもつ肌である。客を捉えられる観察眼、この能力は素晴らしいとしか言いようがない。この日宿泊する人相など、覚えきれないのが普通だろう。
そして尋ねたことを即座に応えてくれる。

佐貫の仕事柄だから聞けたことと言っていい。
他の人間なら答えてもくれないプライベートな内容になる。
宿泊予定の部屋がツインルームであれば、もう一人の人物が来ることはホテル側も予測できている。疑いを持つこともない。
佐貫はその部屋のキーを用意させると共に、去ろうとした部下を二人連れた。
「おい、案内してくれ」
「え?あ、しかし…」
「全部の責任は俺がとる。いいから鍵を開けられる形をとれ」
突然の指示にホテル側は大きな戸惑いを見せた。
いきなり今通り過ぎたばかりの男の部屋に踏み込む、といった姿勢は訳も分からなく驚きでしかない。
有無を言わせない脅迫ともとれる指令に、諦めを感じ素直にしたがい、鍵を持った従業員と佐貫、さらに背後を覆うような警官を2人携えて、目的の階へと向かった。

…嫌な予感がする…。
単なる刑事の勘でしかないが、僅かな時間でも冷汗が背筋を伝わった。
昔の自分でなら、指揮もとれなかったが、今なら何もかもが可能だった。…いや、それ以前の問題…。
守りたいと強く思うものがあるからこそ、微かな疑問も確かめたいものに変わる。

辿り着いた部屋。
呼び鈴を鳴らしても、しばらく音も何もしなかったが、立て続けに鳴らすと「何っ?!」といらだつ声が中から響いた。
ホテル側の従業員に扉を開けるよう指示すると、戸惑いの後で鍵を開けた。
彼らにはまだ成り行きが見えないのだろう。状況を説明する余裕を、今の佐貫は欠いていた。
「何かっ?どうして?!」
突然開かれた扉に、疑問を浮かべる相手の男は入口の前まで来ていた。上着を脱ぎ、ワイシャツ姿ではあるがネクタイも外されて胸元は開けられている。
佐貫は扉を大きく開かせ隙間をくぐって奥に進もうとした。
もちろん動揺したのは廊下(とはいえない狭い通路だが)に立った男。
「なんですかっ?!あなたたちっ?!」
「うるせーっ」
閉ざすように両手を広げた男を振り切って、佐貫が進んだ先には、布団にくるまれた男の姿があった。
猿轡をされ、両腕を背後で縛られている。
布団で隠されていたが、それがどんな状況かは床に捨てられた衣類ですぐに知ることができた。
全裸である。
そして、見つけた顔。
「望っ!!」
響いた声に驚いたといった感じの瞼が声の元を追った。
やはり勘は当たった…。
ベッドに転がされていたのは、紛れもなく、自分を愛しながら答えを見つけられず、ようやく諦めてくれた男の姿だった。
今では愛されているべきはずの人間が、どうしてこんなところで…。
そして、状況は望が選択したものではないことを語る…。
「きさまっ…っ」
振り返った先で、止めようとした部下の姿があった。
「やめてくださいっ。調べますからっ!!」
この場で警務職ながら暴行が加えられれば立場は一変する。
佐貫の進退を気遣う者たちは、咄嗟に状況がいかなるものなのか判断出来ていた。
それらは佐貫を庇う、ありがたいものでしかなかった。

「暴行の現行犯だ。連れていけ…」
悔しいながらも、ようやく落ち着いた態度を見せ、佐貫から静かに告げられる言葉の通り、ついてきた人たちは男を連れた。
佐貫と残された人の話を、邪魔したくなかったのもある。自分たちが携わってはいけない何かを感じ取っている。
残された人…。それは明らかに佐貫の知人であり、知られたくない世界があることを物語っていた。

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視点が変わってしまった…。ごめんなさい。
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甘い人 4
2011-12-10-Sat  CATEGORY: 甘い人
栗本佳史が連絡をもらったのは夕刻の頃だった。栗本の経営する病院はすでに患者が途切れていた。
まもなく診療時間も終わり、その時間を待たずに片付けが先に行われていく。何かあればまた出してくれば良いだけのこと。
恋人の譲原望からの連絡は、一つの案件が片付き、その顧客に飲みに誘われたのだという内容。
職業柄、お互いに客や患者のことについては特に語ることもなかったが、ふと漏らされた話の中から、今現在望の扱っている件が一筋縄ではいかないのだと気付いていた。
もちろん信頼があるからこそ語られたことであり、他者に告げることなどない。ちょっとした愚痴のようなもので、双方の状況は理解できている。それだけ頼られた人という気持ちも湧く。
その件がどうにか処理できたこと、客にも喜びがあったのだろうと、そっと察する。
これまでも、仕事上の付き合いはもちろん、何かにつけて制約などしたことのない仲だった。
ただ、過去、望が傷を癒す為に他の男に走ろうとしたのを、幾度も遮ってきた…、自分なりに我慢できなくて手を出した…、そんなことはあった。
踏み込んだのはプライベートの面だけ。
今は自分に寄り添ってきてくれる存在だと分かっている。人との付き合いが必要であることも充分承知していた。
だから顧客との付き合いにも反対しないし、望の意思に全てを任せている。

互いに別の空間で暮らす日々。特に連絡してくる必要もないだろうと思うのに、わざわざその一報をくれたのは、今夜付き合う相手の何かがあったからなのか。
望なりの佳史への気遣いなのだと、改めて感じることがあってホッとした。
気遣われるほど望の中で大きな存在となっているのだと分かるのが嬉しい。
「一杯飲んだら帰るから…」
そう告げられた言葉に、「あぁ。夕飯、用意しとくよ」と答える。
どれほど長い話になるのかも分からない。しかし、必ずここに帰ってくるのだという思いが伝わってきた。
望には自分で所有し、帰るマンションがある。わざわざここまで来ることもないと思うのに…。
この場所に来たい理由があるのだろうか。
ささやかなことが喜びに変わる。
「待っている」という言葉を無しに、雰囲気だけを伝える。温もりは機械越しでも感じられる。
会える…と約束することも少ない。来れば迎えるし、来なければ互いの生活を尊重した。
『余裕』…。そう捉えられるものなのか。あとは追い掛けた『見栄』でしかない。
長年待って張った落ち着き…。動揺など見せないと…。望はここに来る…と…。

飲んで帰ってくるなら胃に優しいものが良いだろうと選んだ食材の品数。
顧客との付き合いの時間がどれほどになるのか、知りもしない。
望の立場も分かるからこちらから連絡を入れることもなかった。こうして待つのは、もう長年の癖のようなもの。
ただ、過去と違って、自分の元に来るのだという信頼が、今の栗本を支えていた。

それなのに…。
突然もらった連絡は過去の級友でもある、警務職の佐貫からで…。
付き合いは何かと長い。色々な意味で胸に秘めた過去も持っている。
以前、望が思いを寄せた相手でもあり、呆気なく望を振ってくれた人物でもあり…。しかしその潔さに誰もが認めてしまったほど、偽善的なかけらも残さなかった。冷たくしたことも逆に愛情の裏返しと言えた。
ひどく責めたくても、できなかったのは佐貫の人柄と、どこまでも突っぱねた彼なりの愛情を感じるから。
中途半端な思いを与えないことで、望を護ってくれていたのだ。
その彼から伝えられたこと…。

『望が襲われた。今から送っていくから…』
受話器越しのくぐもった声の奥にある風景を、佳史は想像できなかった。
「な…?!望はっ?無事なのか?」
『襲われた』という意味を理解できない佳史ではなかった。過去幾度か、そんな場面には遭遇している。
ただ、どこかで”他人”という視線があったのを、今更ながらに感じた。
身近にいた人間の気持ちが今ほど強く分かった時はない。
かつての自分がどんなものだったのか叱責を浴びるようで、その罰かと全身に悪寒が走る。
『無事だ…。…ただ酷く脅えているから、…話をきいてやってくれ』
ビクンと体が跳ねる。
無事だと言われても、その姿を見るまでは落ち着かない。
佐貫の言い分も充分なほど理解できた。
佐貫では聞き出せないことを、佳史に依頼した形だ。
だけど振り返らせるようなことはしたくない…。佐貫の気持ちを考えたら葛藤するものがあるのだと思える。
被疑者とのやりとりがいかなるものであったのか。その真実。
望が言うのも言わないのも、佳史の対応に賭けたのだろう。
全ての人間が、『守秘義務』を背負っていた。
特にこの場。愛した人を世間に晒す、傷を負わせるものを宿していたから…。

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たびたびすみません…。どこ視点?ですよね…冷汗
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甘い人 5
2011-12-12-Mon  CATEGORY: 甘い人
佐貫に車に乗せられていた。
かろうじて服は着たものの、かなり乱れていて、上から毛布をかけられている。後部座席に横たわった体は、疼く熱に襲われていた。
江嶋がいつの間に入れたのか、酒に含まされた媚薬は着実に望の体を蝕んでいた。
ホテルの部屋に連れ込まれた時、「薬が効いているから」と言いながらも、叫ばれることと暴れられることを恐れて望を拘束した。
親切心と好奇心から話を聞こうとした自分に対して、あまりにも酷い仕打ちだと思ったが時はすでに遅い。

「譲原さんが、あんなにも尽力してくださったのは、俺のことを思って…だからでしょう?」
どこかで意味を取り違えた男は、ねっとりと望の体を撫でた。
仕事だからしたことであり、どんな相手にだって満足いくような結果を与えてやりたい。
それがどうして、『想いがあるから…』と捉えられたのか…。
この男の性癖を知ってはいたが、自分が対象になるなど、想像の域を越えていた。
ベッドの上で、逆らえない体をいいようにねぶられる。
脳裏を横切る、自分を大事にしてくれた人に、あまりにも申し訳ないと涙が零れた。
浮かんだのは、佳史だけしかない。いつまでも待ってくれた人…。何があろうともそばにいてくれた人…。

声の一つも出せない場所に響いたホテルの部屋の呼び出し音。
何だ?と訝しげに無視を決め込んだ江嶋だったが、執拗な音は行為を続けることを妨げるのに充分だった。
続いて聞こえてきた解錠の音に、自身を晒すような恐怖と救われるような安堵を味わう。
江嶋だけでなく自分も、世間に性癖を晒せるような度胸は持ち合わせていない。
だがその先に見えた姿に、瞠目しうろたえた。
…佐貫…っ!!

見られたくない人物であることに変わりはない。
かつて愛し、あっさりと捨ててくれた人であり、幾つもの傷を背負った人…。
そこに自分が加えられるのも嫌な話だ。佐貫はいくつ、こんな暴行現場を目撃するのだろう…。
もう彼を苦しめたくないと願ってしまう。

「望?!」
口を塞がれていた猿轡を外され、手首を拘束した紐も解かれた。
「だいじょ…」
心配をかけたくなくて、起き上がろうとした体がマットレスの上に崩れ落ちる。
思っていたよりもクスリの効き目は強いらしい。
そして人に触れられたことで余計に体が反応した。
…熱い…。
「…はぁ…っ!」
吐息に佐貫がすぐ怪訝な表情を浮かべた。
こんな事態は慣れた事なんだろうか…。
「何か、盛られたのか…?」
「…たぶ…ん…。酒に、何か混ぜられた、んだと思…う…」
「アイツ…っ!」
憤る佐貫をどうにか抑えた。
もともと飲みに行く話に乗ったのは自分であり、彼の感情に好奇心を抱いたのも自分だ。
心配されるのはありがたいことであったが、こうして誰にでも親切丁寧な腕を差し伸べてくる優しさにまたほだされそうになる。
「い…から…」
江嶋の身元など充分なほど知れている。弱みすらこちらの手にあった。
どこか切羽詰まった状況は、燻ってきた日々からの解放も関係したのだろうか…。などと考える自分は犯罪者に甘いのか…。
「事情聴取は後でいい。送ってやる。…佳史のところでいいだろう?」
一拍の後、告げられた言葉に頷き返す。
体の奥に籠る熱の正体を知っているし、自分で処理するような惨めさを味あわせたくないもの…。
幼馴染とはいえ、男の性、全てを知り尽くしたような相手に、羞恥心も吹っ飛びそうだった。

車中で気を紛らわそうとしてくれるのか、佐貫が声をかけてくる。
「ヌきたいならヌいていいぞ」
疼く体の存在を理解しているとはいえ、いくらなんでもこの場でその行為だけは避けたい。
「ばか…」
体を丸めた望に一応笑みは浮かべてくれたが、あくまでも表面上のもので、心底気遣われているのが肌ごしに伝わってきた。
仮にそんな態度に出たとしても、誰にも何も言うことなく闇に葬ってくれるのだろう。

車に運び込まれて向かった先。
到着と共に佳史が慌ただしく家から飛び出してきた。
「望っ?!」
連絡はすでに入れられていて、この時を今かと待ち侘びていたのが伺える。
先に下りた佐貫が佳史に大雑把な説明をした。
「怪我とかは無いから…。ただ、一服盛られている…」
佐貫の説明に佳史の瞳が見開いた。
言葉の裏に、「早く楽にしてやってくれ」という思いやりが見えた。
それが何を意味するのか…。この先に続く性行為を見られるようで羞恥心が湧くものの、望の体を佳史に預けてすんなりと消えてしまう寡黙な男に感謝も浮かぶ。
ガクンと崩れそうになる体を支えられて、でもこのまま抱かれたくはないと望は「先に風呂…」と願い出た。
「望…」
「頼む…。このままは嫌なんだ…」
未遂とはいえ、何があったのかなど、佳史も理解できることなのだろう。
「分かった…」と頷いて、望を自宅の中へと入れた。
温かな空気がここにはあった。
後ろめたい男同士の関係かもしれないが、誰よりも想い、何よりも大事にしたい環境がある。
江嶋はどうしてそれが分からなかったのだろう…。
教えてやりたかったが、それは自分の役目ではない。
今は…。燻るこの体を愛してほしかった…。
38年。生きてきて手に入れた全て…。
愛する、愛される、という意味を、あの男は取り違えた。

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