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BLの丘
見下ろせる場所 11
2011-07-08-Fri  CATEGORY: 見下ろせる場所
一緒にいる…とは答えた皆野だが、何故こうして、ここにいるのかはかなりの疑問を纏っていた。
結局皆野は岩槻と慎弥に連れられる形でスィートルームに入ることになった。
しばしの癒しの時間…くらいならともかく、ダブルベッドルームに岩槻が姿を消し、慎弥と共にツインルームの方へと流れ込む。
リビングから離れてしまえば顔を合わせることもない広い寝室があるだけだった。
慎弥は寝室の隣にあるバスルームに入り、シャワーを浴びて出てくると、同じように皆野を促した。
皆野は一応、ロッカールームに押し込んであった着替えをかっさらってきたので、こまることもないのだが…。
「えー…と…」
話相手位の感覚でいた皆野の考えは大きく違っているらしい。
躊躇う皆野に、慎弥がどうしたのかと首を傾げた。
「あ、もしかして、傷、いたむ?」
見当違いな答えが返ってくる。そうではなくて、もしかして、ここに泊まれ、と言っているのだろうか…。疑問が音になることもなかった。あまりにも自然な流れでいてかける言葉もない。
アイボリー色のパジャマを着込んで笑みを向ける姿は無防備すぎるくらいだ。この姿を見せることに躊躇いのなかった岩槻にも感心する。
それほど信頼を置かれているのか…。ある意味、辛い立場に落とされた気分ではあったけれど…。

「えーと、俺、話相手?」
「明日だって朝から仕事なんでしょ?仮眠室がどういうところかは分からないけれど、寝るのならここだって変わらなくない?」
いや…、格段に良い。
比較にならない設備のよさであって…。あとは精神が保てれば…。などと邪な考えが皆野の中に宿っていることなど知りはしない慎弥なのだろうが…。
話相手というより、無言の宿泊希望を迫られる。
「あー……」
半ば本音を交えた溜め息に近い呟きに、慎弥の表情に陰りが宿る。
「…っ、ごめんなさい…。俺、無理なことばっか言ってるよね…」
ここに連れてきてしまったのも慎弥の我が儘だと気付いたように、すぐに落ち込む様が見ていて辛いものに映った。
今の慎弥は全ての物事を自分のせいにしようとする控え目な部分がある。
そんなふうに我慢することなどないのだと即座に否定の言葉が零れ出る。
「そうではなくて…。俺としてはこのような場所で寝られることに言いようのない感動がありますけど…」
まさかスィートに初めての宿泊…だとは言えなかったが、言葉尻の中にそれ相応のものを感じ取ったらしい。
「え?いつもこういうとこで寝ないの?!」
がっくりと頭を抱えたくなった。
『こういうとこ』がどういうところを意味するのかは想像の違いがあるのだろうが、感覚の違いは火を見るより明らかである。
こういうとこ、でなかったらどういうところなのだ?と疑問を持ったらしい慎弥にこれ以上の説明も何もする気になれず、大人しくバスルームを借りることにした。
地面に擦れて破れたシャツはこのままゴミ箱行きだろう…。
流れ落ちるお湯に眉をひそめながらも、一日の疲れを流せばさっぱりともする。

寝室に戻ると間接照明だけの明りに切り替えた部屋が浮かび上がっていた。
慎弥が寝てしまっているのであれば、このまま去ろうと思っていた皆野だ。
しかし、しっかりと瞼を開けた慎弥が、隣のベッドを示してくる。
ツインルームとは言っても、ベッドは寄り添った形をしており、間を隔てる空間はない。転がっていけばそのまま隣のベッドに入り込めるような作りだった。
かなりの躊躇いの気持ちを持ちながら、皆野は言われるままシーツの中に潜り込む。
「ごめんね…」
再び慎弥から謝罪の声が聞こえた。
無理してここに居座らせている…。そんな感覚が消えないのだろう。
安心させるように、皆野は「気にしなくていい」と答えるしかない。
もちろん、本音でもあったけれど…。

ススッと近寄ってくる慎弥の体が見えた。
そっと髪を梳いてやれば、またもや寄り添ってくる猫のような仕草を見せる。
吸い付いてくる…。そんな感触に皆野も溺れていく。
もうビクリと離すこともない。照れを纏って逃げ出すこともない慎弥がそばにいる。
『淋しい』のだと、体の全てが訴えてきた。


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ベッドイン~(o´艸`o)
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見下ろせる場所 12
2011-07-09-Sat  CATEGORY: 見下ろせる場所
これまでの慎弥の暮らしがどのようなものだったのかは想像するしかない。
幼い時に両親を失い、まだ甘えたい盛りの頃を支えたのは岩槻家の人間だ。中でも岩槻が一番可愛がってきたのだろうとは短い間でも見ていれば容易く知ることができる。
そこにあるのは家族愛のようなものなのだろうが、慎弥が淋しがるたびにこうして一緒に寝てあげたのだろう。
甘えられることがあたりまえであり、慎弥の特権なのだと教え込まれてきた。岩槻の望む態度を見せることで岩槻を安心させようとした健気さが伝わってくる。
それとは違って素直に寄り添われているような気がして、皆野は単純に嬉しいと思っていた。

髪を梳いてやると猫のように丸まって瞼を閉じる。
皆野の立場を知るから安心しているのだろうが、出会って間もない人間にこのような無防備さを簡単に露呈するのは些か問題だろう、と内心で溜め息をついた。
人肌の温もりを探すように、慎弥の指先が皆野のシャツに触れる。
お気に入りのぬいぐるみがないと眠れない子供のようで、またそんなところも愛らしく見えた。
「腕、痛くない?」
「単なるかすり傷ですから」
「草加さんがいなかったらどうしてたか分かんないや…」
「感情のままに、悪い方へと転がるのは良くないことです」
「…うん…」
岩槻に対しても言えることだったが、人間なのだから完璧に感情が抑えられるものでもない。
時にこうして吐き出すのも必要であったし、だからこそ、心を割って話せるときも来る。
「岩槻様も反省されていましたから…」
「うん…。征司くん、新しい事業に関わるんだ…。だからただでさえピリピリしてたの…」
「そうですか…」
立場を重んじる態度に出てしまったこともなんだか納得できる気がした。勢い余って慎弥に当たってしまったのか…。
「慎弥くんもお疲れでしょう。お休みになられたほうがいいですよ」
原因が分かっているのであれば慎弥の心の整理も早いかもしれない。
状況を理解できない慎弥ではないし、岩槻の態度からすれば大きな溝になることもないはずだ。
ただ、慎弥がますます本音で物事を語らなくなるのではないかという不安はありはするが…。
「また草加さんと遊びに行きたいな…」
ひとり言のようにポツリと呟かれたことにドキリとする。
一瞬社交辞令のようでもあるが、今の状況でそんな余裕が慎弥にあるとは思えない。
今日遊びに出たことを思い出しているのか、振り返ってそんなふうに感じてもらえるのは皆野にとっても喜ばしいことだった。
「えぇ。いつでもお付き合いしますよ」
口に出してみれば、皆野の方が上辺だけの返事のようだった。
うまく伝えられないもどかしさが皆野の中に湧きあがる。
一時的な、遊びのような存在になりたくはないのに…。
もっと見てみたい。もっと知りたい。求める感情がどんなものであるのか、気付かない皆野ではなかったが、いかせん、今の立場はあまりにも不利だった。
違う場所で出会っていたならぶつかっていくことも可能だっただろうか…。

「草加さん、明日お昼までで仕事おわるんだっけ?」
ふと、思い出したように慎弥が上目遣いで皆野を見上げた。
「明日?」
確かに明日の勤務時間については先程伝えた経緯があった。それを慎弥が覚えていたとは予想外だった。
「うん…。あ、でも、いいや…」
さりげない『誘いの言葉』だとはすぐに気付く。
控え目に断ってくるのは皆野を振りまわしているとでも思ったからか…。
そういえばこの部屋は3連泊だった。昨日今日の宿泊はレセプションが絡んでいるので理解できるが、明日の夜は何のためなのだろう。
客に対して込み入ったことを尋ねるのは失礼にあたるが、この場合は問いかけても大丈夫だろうか。
逡巡したあと、慎弥に返す言葉も重ねて口に乗せてみる。
「岩槻様とはご一緒に過ごされないのですか?」
今日の後ではまだ躊躇いを残しているのかもしれない。だが、二人にすでに予定があったのであれば皆野が入り込むわけにはいかなかった。
「征司くんは明日、仕事で一日いないの。先に帰ってもいいって言われてたんだけど…」
つまり、明日の夜、慎弥がここに泊まるかどうかは今現在でもはっきりしていないらしい。
話ぶりからすると、明日は丸一日慎弥に関われないのだと伝わってくる。だからこそ今夜、駄々をこねても岩槻と夕食を共にしたかったのだろうか…。
淋しそうな眼差しに見つめられては頬も緩むというものだ。ここで抱きしめ返してあげられないことが何とも残念であるが…。
「またお食事にでも行かれますか?」
皆野から出された提案に慎弥の曇っていた表情がぱぁっと晴れやかになる。
この隠すことのない笑顔を見られるだけで皆野の心もホッと息をつける気分になった。
こうやってありのままの姿でいてほしい…と心から願う。

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見下ろせる場所 13
2011-07-10-Sun  CATEGORY: 見下ろせる場所
慎弥の安心したような寝顔を見られて皆野もどこか落ち着いた。
兄弟間の確執は残ってしまうかもしれないが、少なくても素直に寄り添ってきてくれる『自分』という存在があることが嬉しくもある。
短時間で触れあってしまったお互いは、まだ知らないことが多すぎるのに目が離せない危うさを纏っていた。
それでいて、良く知ったように見透かせる無垢さ…。

転寝…とも言うくらいに浅い眠りを貪った後、朝の5時過ぎに皆野は目を覚ました。
勤務は7時からだったが、いくらなんでも時間どおりに出社するわけにはいかない。昨夜の騒動があったから余計に他の従業員には気を使うところがあった。
慎弥は目覚める気配もなく眠りの世界を満喫している。
握り締めるようにして皆野のシャツを掴んでいた手をそっと離しても、慎弥は起きなかった。気を許されていることが喜ばしいのか悲しいのか…。
こんな表情を他の人間に見せてほしくない悔しさが浮かんでくる。
岩槻は簡単に皆野の侵入を許してしまっていたが、こんなことが他の人間にも晒されるのかと思うと心中は穏やかでなどいられなかった。

軽く朝のシャワーを浴び、早目にこの部屋を出ようとベッドルームを音もなく飛び出せば、リビングルームでコーヒーをすすりながら朝刊を読む岩槻に出くわした。
まさか、6時前のこの時間に起きているとも思っていなかった。
「おはようございます。昨夜はご迷惑をおかけいたしました」
咄嗟に挨拶をする皆野に、岩槻は落ち着いた表情で微笑みかけてくる。
「早いですね…。朝食は?」
「スタッフルームの方に軽食もありますので…」
「そうですか。…でもコーヒーの一杯くらい、飲んでいかれる時間はあるのでしょう?」
この後の勤務のことは岩槻も充分に承知している。引き止めるわけではないが、暗に目の前に座るように勧められては断る言葉も浮かばなくなる。
立ち上がった岩槻が慣れた仕草で、デカンタの中に残っていたコーヒーをすぐに注いでくれた。

「慎弥は…、あの後、すぐに寝ました?」
気にかけるのはやはり『弟』のことなのか。
わだかまりを作ってしまったから余計に病んでしまうのだろう。
皆野が頷くと、ホッとした息使いが感じられた。
「草加さんにもご迷惑をおかけいたしましたね。慎弥が気を許しているのをいいことに、こんなことにまでお付き合いをしていただくよう望んでしまうなど…」
いくらホテルの従業員とはいってもここまで付き合う必要はないはずで…。
充分に理解はしているものの、押しを通してしまったのは慎弥に対する甘えでしかないと言わんばかりだ。
皆野は咄嗟に首を振った。
そんなふうに、業務上の付き合い、とは捉えられてほしくなかったのもある。

「慎弥くんのことは私も心配致します。ずっと閉じ込めてきた感情をどこに向けたら良いのか分からないのでしょう。岩槻様が新事業でご多忙になることも、理解はできても受け止めるまでには至っていないのです。今までとの生活が変わってしまう脅えがあり、加えて昨夜の叱責に心を痛めているご様子でした」
皆野が口を開けば驚いたように目を見開かれる。
直後に感心したような視線が投げかけられた。
「さすがですね。人を見る目のプロ、とでもいうのでしょうか。短時間で慎弥のことをそこまで分析できるとは…」
「彼は素直な子ですよ。隠そうとする部分は確かにありますが…。全ては岩槻様を心配させないため。お気づきでいらっしゃったのでしょう?」
唐突に告げられたことに岩槻は額に掌を当てながら束の間黙った。
第三者にここまで言われては皮肉なだけなのかもしれない。
皆野は一瞬言葉を間違えたかと思ったが、岩槻からは責められるような台詞は聞かれなかった。寧ろ感心されるだけだ。
「慎弥が我が儘を言う。私がそれを受け入れる。そうすることで『兄弟』という絆を掴んできたんです。…驚きました。まさかこんな簡単に見透かされるなど…」
「それが良かったか悪かったかの判断までは私にはつきません。ただ、私が心配するのは慎弥くんは確実に『殻』を作り始めています。それが『岩槻家』から離れるためのものなのかどうかまでは判断ができませんが…」
「『離れる』?!」
あまりにも予想外だった言葉らしく、皆野の言葉は途中で遮られた。
『事業には携わらない』云々の話は、岩槻には伏せられていた内容だったのか…。
慎弥が淡々と語ってくれただけに当然岩槻の耳にも届いているものだと思っていた。
自分を押し込むような態度になったのは昨日の話なのだろうが、少なくとも慎弥の中では以前からあった感情だと思えた。
だから皆野にも平然と『岩槻とは関わらない』と伝えてきたのだろう。

「それ、…慎弥が言ったんですか…?」
「すみません。差し出がましい口をきいたようです」
ふっ…と岩槻の表情が歪んだ気がした。
見つめた先で苦々しいような、安堵したような笑みが見えた。
「面白いですね…。慎弥が、初対面の貴方にここまで気を許すなど…」
それは、喜びと受け止めていいのだろうか…。決して責めてこないのは慎弥の意思を尊重しているからなのか…。

皆野は口にしようかどうしようかと悩んでいたことを思い出した。
今日の午後、慎弥と一緒に出掛ける、と昨夜の寝る前に約束をしたことだ。
岩槻も、本日慎弥が帰宅するかここにもう一晩泊まるかの答えを出していないと承知している。どちらでも受け入れてしまうのだろう。
なんだか、想い人の親に、外出の許可を貰いに行く人間の気持ちがものすごく良く分かる…と、この時の皆野は思った。
同じように皆野も今、保護者の許可が欲しい…と心の底から願っていたりした。

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見下ろせる場所 14
2011-07-11-Mon  CATEGORY: 見下ろせる場所
コーヒーをすすりながら、皆野は遠まわしに慎弥から聞いたことを口にした。
「慎弥くんは、この後、ご自宅に戻ろうかと悩んでおりましたが…」
問いかけに岩槻は微かに首を傾げ、そんなことも聞いたのか…といった表情で頷いた。
「えぇ。帰らせようと思っていましたが。今日は一日ここにいても無駄な時間を過ごすだけになりますからね。私も夜まで接待やら何かと予定がありまして…」
想像したように、岩槻は慎弥にかまってやれる時間は取れないらしい。そのことは慎弥も最初から承知済みなのだとは昨夜の会話から知れることだった。
手持無沙汰になるくらいなら、住み慣れた場所に戻してやりたいと思うのも兄心なのだろうか。

「あの…。昨日に続いてまたで申し訳ないのですが…、本日の午後から慎弥くんとこの周辺を回ってきてもよろしいでしょうか?」
突然の提案はさすがに岩槻も予想していなかったようで目の開きを大きくする。
昨日の出来事ですら意外性があり過ぎたことだったのに、2日続けてとはさすがに躊躇するものがあるのだろう。
「ですが、そのようなことは…」
岩槻は困惑を滲ませた。だが同時に喜びも感じられたような気がした。
慎弥の私生活の中で、どれほど気を許せる人間がいるのか知りはしないが、兄に向かうのと同じような我が儘を口にできる相手は多くないのだと思う。
皆野には最初から自分勝手ともとれる姿を見られているために、今更隠し立てする必要もない。
昨日の一件も絡んでいる上に、朝の挨拶がてら、話をした内容でも岩槻の信頼が深まっているのが、一瞬見せた『喜び』に含まれているように取れた。
「いえ、私は構いませんので。ちょうど時間も空きますし。というより、私が見ていたいというほうでしょうか」
隠すことなく正直に告げれば、岩槻も納得してくれた。
岩槻としても、突き放した感じを慎弥に持たせたまま一人にさせてしまうのは不安であったようだ。
更に皆野が、単に『心配』で慎弥についていたいだけではない、それ以上の感情を読み取られる。

「偶然とは時々怖いものを感じますね…」
岩槻はふっと吐息を漏らした。
皆野と慎弥の行動について何かを言ってくるようなことはなかった。短時間で親しくなってしまった自分たち。偶然の出会いの凄さ。
慎弥も同意の上と承知している部分もある。
皆野に信頼を置いてくれているのだろうが、あっさりとしすぎる態度には、逆に慎弥に何一つ手出しをできない脅しのようなものさえ感じる。
清廉潔白な関係を要求されているようだ。
だが実際に起こってしまったことについては受け入れる度量の大きさがあるのもすでに知ったこと…。
大事に育ててきたからこその心配は皆野でも理解できることであり、また同じように皆野も慎弥を守ってあげたいと再び思えることだった。
やがてやってくる時間に胸を躍らせた皆野は、素直に感謝の意を述べる。
反対されないことは何より「良し」と受け入れるべきだろう。

コーヒーを飲み干し、そろそろ、と立ち上がった皆野に、見送りに来てくれた岩槻が突然頭を下げてきた。
「慎弥を…、お願いします」
あまりのことに皆野は固まってしまった。
特に深い意味はないのかもしれないが、意識を新たに持った今の皆野には受け止め方が変わってくる。
「え…と…」
いや、岩槻もすでに皆野の気持ちに気付いているのだろうから、言葉どおりに受け止めて問題はないはずだ。
皆野は改めて中途半端にする気はない意思を見せた。
あとは慎弥の反応である。
「こちらこそ…」
皆野もお辞儀をして部屋を出た。
もう一度このスィートルームに入れることはあるのだろうか…。そんなことを思いながら。

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見下ろせる場所 15
2011-07-12-Tue  CATEGORY: 見下ろせる場所
仕事の時間にそわそわとすることが新鮮だった。締まりのない笑顔を無駄に撒いていそうで幾度も気を引き締めた。
朝からチェックアウトの客の数の多さに追われる。
満室と言っただけあって、去っていく人間の数もとても多いものだ。朝早くからの退室の客と、のんびりと昼近くまで過ごす客。思い思いに過ごす時間にもちろん文句などつけられるはずがなく…。
しかし、皆野の退勤時間の昼を前にすれば、連泊を希望した客以外の全てが去っていた。

朝の時間にホテルを出ていく岩槻を見かけたが、フロントで特に話をすることもなかった。
仕事の最終確認を行っていると慎弥がひょこっと顔を出してきた。
「もうすぐ終わる?」
「はい。終わりましたらお部屋まで伺おうと思っておりましたが」
皆野の返答に隣にいた同僚がピクリと反応を示した。昨日に続き今日のこの後も客に付き合うとは思ってもいなかったはずだ。その驚きは充分なほど理解できる。
「お掃除のおばちゃんも来るから。俺いると邪魔になっちゃうでしょ」
歯に衣着せぬ物言いが相変わらずで、少々ホッとしていたりする。本人に向けては聞かせられない台詞が混じってはいるが、そんなところも自然な口調に聞こえた。
清掃などは時間をずらせば済むことで、室内に残る人間がいるのに押しかけるような無粋な真似はしない。
ただ、慎弥なりの口実なのだと感じ取れたから、あえて口に出すことはしなかった。
「ロビーでお休みになられますか?何かお飲物を用意させますが」
「う…ん、…オレンジジュース…」
「畏まりました。では掛けてお待ちください」
笑顔で慎弥を促し去らせると、途端に小声で囁きかけられる。

「おまぇ…、何考えてんの…」
「何って別に…。時間の有効活用?」
「はぁぁぁ…」
誰に問うのか、という疑問形で答えれば、あからさまな溜め息。これには苦笑も漏れてしまうというものだ。
「揉め事起こす時は外でやってくれよ」
「分かってるよ」
同僚の言う『揉め事』は、昨夜のような兄弟喧嘩だけに留まらず、自分たちの『プライベート』な意味まで含まれている。
人間関係の愛憎劇など人に見せて気持ちのいいものではないし、ましてや職場で披露するほど酔狂でもない。
『時間の有効活用』と軽口をたたいたのも、同僚には心配の種になっておかしくなかった。
だけど、今、周りの人間に教える情報など、この程度でいいと皆野は思ってしまう。
あまりの急展開は、余計に興味を持たれてしまうだけだ。

昼食の時間にようやく仕事を終えた皆野は、慎弥を連れて車に乗り込んだ。
「ねぇねぇ、昨日のお店にもう一回行きたい」
「昨日のお店?」
まずは食事かな…と話を切りだした皆野に、慎弥が希望を伝えてくる。
助手席に座りこんだ慎弥は、控え目な態度を時々見せるものの、皆野と二人という空間に安心したのか、正直に接してくる。
皆野がこれといって反論する態度に出ないのも落ち着かせている要因なのだろうか。
ホテル内では堅苦しいほどの『接客』でいた皆野だが、一歩出てしまえば多少の気安さも生まれた。
「夕ご飯食べに行ったじゃない」
「あぁ、羽生のところか…。でもちょっと時間かかりますよ」
「うん、いいよ。返って空くんじゃないの?」
「確かに…。でも気に入っていただけたとは…ね…」
「サービスは良いし料理は美味しいし。あーゆーお店って居て落ち着くよね」
岩槻家の人間ともなればそれなりに高級な店に足を運ぶ機会の方が多いだろうに。そんな中で好評を得られたことは皆野にとっても喜ばしいことだった。
「羽生に伝えておきましょう」
「あの手の料理が食べられるところで、家族で行くところって妙に片肘張るところが多くて…。人目も気になるからあまり落ち着かないんだ。何て言うんだろう…。安心して『食べられる』っていう感じがした」
「そうですか…」
家族の手前…という緊張感もあるのかもしれない。
育ちの違いか、ざわついている店も苦手であるようだし、かといって正装しなければ入れないような店も嫌なのだろう。
羽生の店はコース料理をメインに扱い、少々値が張るにしても、敷居が高いわけでもなく気軽に入れる印象がある。昨日は夜も遅かったから余計に静かに感じたのだろうが、食材まで見極められた舌には皆野も感心した。
「うん。いいお店を教えてもらったよ。…あー、でも征司くんが行くにはカジュアルすぎちゃうのかな~」
「お友達とは?」
皆野が尋ねると僅かに表情が曇った気がした。ほんの僅かな変化だ。運転中の皆野もはっきりと見たわけではなく、一瞬の言葉の躊躇いに雰囲気を感じ取った程度だった。
「大学院の友達は…、研究室の近くで一人暮らししてる人も多いし…。半分趣味の世界っていうのもあって、バイトしてる人も結構いるし…」
バックグラウンドの違いは顕著に付き合いに表れているのだろうか。
学生という身分で慎弥の口に合う料理を出す店にはなかなか行けたものではないのだろう。
考えれば分かることをわざわざ慎弥の口から言わせてしまったことを、皆野は後悔した。
だけど慎弥にしてみれば「食べたい」のだという思いも伝わってくる。
「では私がお付き合いしましょう」
落ち込みかけた雰囲気を払拭するように、皆野は明るい声を上げた。


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