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BLの丘
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Door of fate 1
2011-03-09-Wed  CATEGORY: Door of fate
今日も油臭い匂いが、ユニフォームである青いつなぎに染みついた。
高校を卒業してすぐに就いた自動車メーカーの『整備士』という仕事は、機械好きな竹島虎太郎(たけしま こたろう)にとって天職と言ってよかった。
小さい頃から電車や車に憧れ、プラモデルやラジコン、部屋の一室を占領してしまうような大規模な鉄道玩具から、天井から吊らされて空を舞う飛行機と、様々な乗り物の遊び道具を親に強請った。
虎太郎が育ったのは郊外…というか車がなければ移動も難しいような田舎だった。
広がる田園風景の向こうに、単線の線路が走っていたが、常に自動車を利用する家庭で、電車に乗ることなど滅多になく、30分に1度しか通らない電車の時間を楽しみに待ち眺めて喜んだものだ。
電車に興味はあったものの、やはりどちらかといえば身近な自動車に対する愛着の方が強い。
地元の工業高校に『自動車科』があったのも、神の思し召しかと思ったくらいだ。
運良く今の会社に就職が決まり、実家から通うには難しい距離の営業所に配属になってしまったが、好きなことができる世界に夢を抱いた。
入社してからも各種の資格試験をクリアするために実務と勉学の日々だった。
根がまじめで無垢な心で興味を示す性格は、職場の先輩たちにも気に入られ、毎日が充実の日々。
そんな虎太郎も30歳の大台に乗り込んだ。

身につけるものは汚れていたとしても、邪魔にならないようにと、短く切り揃えられた頭髪には清潔感が漂っていた。
全体的な骨格が細いように見えても、制服であるつなぎの下には日々の労働で鍛えられた筋肉がある。
細面の顔立ちがそう見せてしまうのだろう。
そして優しそうに誰をも包む琥珀の瞳と柔軟に動く紅を差したような唇が、虎太郎の人懐っこさを強調していた。

営業から戻ってきた所長の磯部雅彦(いそべ まさひこ)が、自分のデスクに着いたのはもう日もとっぷりと暮れてしまった時間だった。
客に向けられるメンテナンスの時間は決まっているため、不規則な時間で働く営業とは違って、虎太郎たち整備士の労働時間はほぼ決まっている。
「なんだ、まだ残っていたのか」
こんな時間まで何をしていたのか?と責められるような物言いではなく、逆に何かあったのか?と気遣われるような態度で訝しそうな表情を向けられた。
「いえ、整備日誌書いていたんですけど…。俺、こういうの苦手で…」
整備機械に強くてもパソコンは苦手だった。
さらに読書感想文だって原稿用紙一枚も埋められなかった文章力の無さだ。
毎日の日誌は一番の苦行と言って良く、整備ごとに記入してしまえばいいものを、つい後回しにして、今度は思い出せない事態にはまる。
「嫌なことを後回しにしたって解決しないんだよ。まったく、何年この作業やってるんだ。学習しろ、学習」
叱られているんだか呆れられているんだか…磯部の溜め息が聞こえてきた。
それでも棘があるように聞こえないのは、磯部の人柄の良さだろう。
そんな人格がこの営業所でナンバーワンの売り上げをとり、若干39歳の若さで所長まで上り詰める過程を作っている。

「所長、コーヒー、淹れましょうか?」
「あー、いいよ。さっき飲んできた」
「また、一葉君のとこ、行ってきたんですかー?」
人が仕事をしている間に…という嫌味は言わないでおく。
磯部に向けた台詞に返ってきた言葉は、しっかり常連客となって通っている『喫茶店』に寄ってきた、というものだった。
そこで働く人間は、かつて同じ職場で営業の職に就いていた者だった。
職種が合わない、と退社してしまったが、今では再就職したらしく、いつの間にか身につけた技術で”美味しいコーヒー”を淹れているらしい。
自分が天職に就いているだけに、好きなことをして働ける環境につけたというのは喜ばしいことでもあった。
が、今の場合、少々聞き捨てならない。
嫌味のつもりはなかったが思わず漏れた口調に、不快そうに磯部の眉尻がぴくんとした。
「あのなぁ。コーヒーが飲めるのは朝比奈の店だけじゃないんだぞ」
「だって所長、一葉君のお店から帰ってきた時ほど、『美味しい物の後にマズイものはいらない』って態度で拒むじゃないですか」
口直し、ならともかく、いつまでも味わっていたい口の中、は虎太郎にも想像がついた。
営業所で淹れられるコーヒーなど”インスタント”しかないのだ。
図星だ、と言いたげに磯部の視線があらぬ方向を彷徨ったのを虎太郎は見逃さなかった。
だけどやっぱりそのことについて強く突っ込める立場でもない。
営業が動いてくれなければ自分たちの職場が干される。
人脈の繋がりは虎太郎ではとても想像ができないくらいに広く、また、磯部のことだ。顧客を誘うくらいのことをして一葉の店にも利益を落としているのだろう。
ぬかりのない気遣いの良さにはただ感心するばかりだ。
「じゃあ淹れてもらおうか」
「やめときます。一度断られて、恩着せがましく頼まれたって、俺、嬉しくないです。苦々しい気持ちで飲まれるくらいなら最初から流してもらった方が気が楽ですから」
こんな会話ができるのも長年の付き合いと磯部の人柄の良さからだ。
職場の雰囲気がより一層、虎太郎を働きやすい環境へと導いてくれる。
まだ一度も一葉の店に行ったことはなかったが、こうまで絶賛する磯部を思うと、いつか足を踏み入れたいと思う虎太郎だった。


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幾つも話を広げてしまってすみませんm(__;)m
100,000hit様のリクが『囁きは今日も明日も』に登場した竹島君でした~。
何もないよりは…と思ってupしてみました。
(いくつも放置してある話があるというのに…汗)
虎太郎視点で進んでいるので補足ですが、磯部が寄っていたのは安住亭です。誰かがご一緒だったので言いづらかったんでしょう(ってかいえないwww)
111111hit様リクも受け付けようかと考えていましたが、なんだかあっという間に過ぎてしまいそうで、今のところ自粛します。
可能そうであればまた後でご連絡いたしますね。

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Door of fate 2
2011-03-11-Fri  CATEGORY: Door of fate
昼下がりに訪れた、所長の磯部が教えてくれた店は、かなり分かりづらいところだった。
店舗などあるように見えない雑居ビル、それも看板もない3Fだ。
物の見分けに敏い営業職に就いていたって、絶対に見落としそうだと思った。
3Fなら、と5Fで止まったエレベーターを待つこともなく、エレベーターホールの隣にある階段を使うことにした。
普段から動くことの多い虎太郎の足は軽い。

店に足を踏み入れると、「いらっしゃいませ」と落ち付いた声が聞こえた。
黒いベストを着た男の姿がカウンター席の奥に見える。
店内の席数は多いとは言えなかったが、間隔を取ってあって窮屈な印象はなかった。
ちょうどテーブル席を片付けていた朝比奈一葉が、入店した客を確かめるべく顔を上げて口をポカンと開けた。
白のドレスシャツと蝶ネクタイを合わせた格好は、スーツ姿で働いていた頃よりも華やかに見えた。
…というか、スーツに着られていた感があった過去だが…。
「た、竹島、さん…?」
こちらが一葉の姿を見慣れない、と思うのと同じように、つなぎから私服に着替えた姿も一葉には馴染みの無いものなのだろう。
「よぉ。久し振りだな。所長が一葉君がここで働いているって教えてくれたんだ」
「しょ、ちょー…?」
ぽつり呟く癖は今でも健在らしい。
「この前来たって言っててさ。俺もいつか…って思いながらなかなか時間取れなくて。元気そうで良かった」
「はぁ…。この前っていつだろう…。もう1カ月以上ここには来てないですけど…」
「うそぉっ?!」
一葉が演技を込めて誤魔化せるような人物ではないのは、かつて一緒に働いていただけに良く知れる。
ということは、磯部は本当に『違う店』でコーヒーを味わったのか…。
なんだか悪いことを言ってしまった気分だなぁ…と少し後悔した。

えーと、どうしようかなー、と虎太郎が座る席を求めて店内をキョロキョロすると、確認するように一葉が話しかけてきた。
「竹島さん、一人なんですか?待ち合わせ?」
「いや、一人だよ」
「だったら、カウンター席でもいいですか?」
「あぁ、うん。もちろん」
壁にかかる美しい風景画が並べられた数と同じ数のテーブル席しかなく、多い席数とは言い難い。
『喫茶店』というには少し違う雰囲気を感じ取ったが、まぁこんな店もあるのか…と特に詮索はしないで、勧められたカウンター席に腰を落ちつけた。
意外なほどカウンター席は多く造られている。

奥に立っていた男が、「一葉君の知り合いなら…」と状況を知ったように、あえて突っ込んでくることもなく、接客の全てを一葉に任せた。
たぶん、この男が雇い主になるのだろう。
自分と変わらないくらいか、若干年下か?と思わせる風格を漂わせている。

「えーっとぉ…」
“コーヒー”と言われても、正直虎太郎は豆や焙煎などにこだわりがなかった。
普段、インスタントコーヒーで充分満足しているような人間である。
今日ここに来たのは、久し振りに一葉の顔を拝みたかったのと、磯部が嵌るものがどんなものなのか知りたかったからだ。
「何か一葉君のお勧めってあるの?」
「お勧め?…うーん、今日のランチは『炭焼』にしてみたんです。それでいいですか?」
「『炭焼』?あぁ、いいよ」
なんだか分からないからとりあえず頷いておく。
話を聞けば、ランチメニューを注文の客には”本日のお勧めコーヒー”が付くらしい。
もちろん好みのものに変更も可能らしいが、オリジナルのブレンドで挽かれた味は客の楽しみになっているそうだ。
香ばしいかおりが店内に漂っていく。
思わず口に入れたくなる格式高い匂いに感じられた。
さざなみをうったような、縁にカーブを描いたカップを前に出されると、より一層香りが強いことを体感した。
「俺、コーヒーのこと何も分からないのに、ここに来て悪いことしちゃったかなぁ」
虎太郎が申し訳なさげに呟くと、「どうして?」と首を傾げられた。
「だってさぁ。味の違いなんて比べようがなくて…。なんか申し訳なくなるじゃない」
「美味しいものを素直に『美味しい』って言える気持ちが大事なんだって、俺に教えてくれた人が言ってました。『比較できることはえらいことじゃない』って」
にこりと微笑まれると、あぁ、雰囲気が変わったなぁとつくづく思わされる。
自信がなく、何事にもオドオドとしていた頃とは違っている。
できること、やりたいことを身につけて確実に成長したのだと感じた。
こんな姿が見られるから、磯部もホッとして通っているのかもしれない、となんとなく思う。
朝比奈はいつも頼りなくて人の手を煩わせて…と磯部は文句を言っていたけれど、そんな彼が立派に巣立ったことは、初めて就職した時から見ていた磯部にとって、『子供』のような存在だったのかもしれない。
挫折して自分たちの前から姿を消してしまったが、こんな姿を見られれば安心もする。
懐かしい会話に華を咲かせながら、ゆったりとした時を過ごしていた時、いかにも若者らしいといった感じの、少し伸びた髪と片方の耳にピアスが二つ、だらしなく着こなされた服装なのに清々しさがある青年が入ってきた。
「一葉~、おなかすいたー」
非常に元気の良い青年だった。
一葉を呼び捨てにし、慣れたように虎太郎から幾つか離れたカウンター席に座りこむ。
「恵亮(めぐる)くん、何も食べてないの?」
答える一葉の態度も自然な雰囲気だ。
…見たことある…、この男、見たことあるぞ…。
虎太郎の脳裏が急速に過去を探った。
だが、営業のように対人面に意識の働かない虎太郎の頭は答えを導き出せない。

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誰が登場するのか~、と思えば…。
リク主様、ご希望の展開ではないかもしれませんがどうぞお許しくださいm(__;)m

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Door of fate 3
2011-03-16-Wed  CATEGORY: Door of fate
あまりジロジロ見るのも失礼だと、視線を反らすものの、一葉との親しげに話される会話は嫌でも耳に入ってきた。
どうやら大学生らしい。
「兄貴の車が車検で、俺の、乗って行かれちゃったの。久し振りに公共機関使ったら移動で疲れたよ」
車に乗りなれると、人ごみに対して苦手意識が働く気持ちは虎太郎も理解できるものだった。
交通の流れなど、不満に思うことがありはしても、少なくても自分の空間は確保できる。
「そういえば、磯部さんからメンテ案内の連絡もらってたなー」
突然、この場にはいない、見知った名前が飛び出して、虎太郎は今度こそマジマジと『恵亮くん』という大学生を見つめた。
虎太郎の反応を、一葉がクスクスと笑みを浮かべて返してくる。
「竹島さんは知らなかったですかね。所長に引き継いだお客さんなんです」
かつて一葉も営業をしていたわけだから、その頃の客人と面識があるのは当然のことで…。
今でも交流があることの方に少々驚いてしまったが。
あぁ、なるほど。だから見かけたことがあると思ったのか…。
「それはそれは。磯部と同じ営業所の者です」
人物が分かれば虎太郎も頭を下げた。
メンテ案内の件もあれば尚更丁寧になる。
「あ、ホントに?花園(はなぞの)です。後で磯部さんに連絡しますって伝えておいてください」
「いえ、磯部から連絡を入れさせますよ。それ、仕事ですから」
「じゃあ頼もうかな」
簡単な挨拶だけを済ませて、花園は再び一葉との会話を始めた。
二人の会話に時折混じりながら、だけど一葉の傍に立つ男は寡黙なようで、自ら話に加わってくるようなことはしなかった。

磯部が絶賛していたコーヒーをゆっくりと味わう。
花園の登場で多少の賑やかさが店内に広がったが、本来、この店は静かな雰囲気で過ごせるのだろう。
居心地の良さを覚え、また来ようと自然と思える。
外回りの磯部が、つい立ち寄ってしまう理由が理解できた。
花園からポンポンと飛び出す軽快な語りを耳に入れながら、コーヒーを飲み干すと、一葉に「また寄るよ」と告げて店を出た。
確かに、あの味を口に入れた後に、自分が淹れたインスタントコーヒーは飲みたくないものかもしれない…。

1週間ほど経過したあと、一日の作業を終えて事務所に戻った虎太郎は、メンテナンスの予定表に『花園』という名前が書き込まれているのを発見した。
実際に来店してくれるのはまだ先の話だが、直接客の顔を見ることもない虎太郎にとっては、知り合いがやってくるような親しみが生まれた。
「所長。花園さんのメンテ、予約取れたんですね」
事務所のデスクで残務処理を行っていた磯部に確認すると、「んぁ?」顔を上げてくる。
自分が連絡係の一端を担っただけに、嬉しさもあった。
「あぁ、花園さんね。まあ、予約も変更することが多いからな~。確実じゃないけど」
「そうなんですか。でもいずれメンテにくることは間違いないでしょ」
「まぁな。竹島、会ったことあるんだっけ」
「はい、一葉君のお店で偶然」
磯部に連絡を入れてもらうよう頼んだ時に、先日の出来事をかいつまんで聞かせた記憶はある。
売り上げが取れると思えば些細なことにでも飛び付くのが営業だった。
それに一枚絡めたような嬉しい感覚も湧いていた。
「朝比奈の面子をいまでも立ててくれているような子だよ。若いのに感心だ」
一度会っただけでは元気さが取り柄のような面しか見られなかった。
押しが強そうだな、というのはもちろん感じられたけれど、世間体を保ってくれるような性格までは見抜けもしない。
「へぇ…」
一葉繋がりでこの作業が手に入れられるのかと分かれば、余計に一葉との縁を切りたくない磯部の気持ちも察することができる。
他人任せなのはまぁ、否めないけど…。

花園自身の車だと聞いていたから、来店するのは当然本人だと思っていた。
だが実際に車を運んできたのは、彼の兄だというスーツを着こなした男だった。
営業所が開店したばかりの朝一番のメンテナンスの予定だったが、30分ほど遅れると連絡が入ったらしい。
店内の接客スペースに座った男のそばに虎太郎は近付いた。
虎太郎と同じ年くらいにも見えるが、髪を後ろに梳いた髪形のせいだろうか。大人っぽくも見える。
花園も目鼻立ちが整った顔つきをしていた。
目の前の男も似たパーツを持ちはするものの、若さからくる元気な花園とは対照的に洗練され落ち着いた雰囲気が伺えた。
「昨夜夜遊びをしたせいで、すっかり眠ってしまって。遅れてすみませんでした」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「遊びたい盛りか、困ったもので…」
兄弟、というより、保護者に近い物言いだった。
実際、見た目の年齢からも、けっこうな歳が離れているのだろう。
一人っ子で育った虎太郎は、歳が近そうなのに見た目以上にしっかりしていそうな態度に少し驚かされる。
車の状態を聞き、鍵を受け取った虎太郎に、「すみませんが少し出てきます。終わったら置いておいて貰っても良いでしょうか?」と問いかけてきた。
仕事中なのだろうか。
必要があれば代車も用意できるが、突然のことに配車がどのようになっているのか、即座に判断できない。
「えぇ。もちろん構いませんけど。代車の確認、してきましょうか?」
「いえ。実は知人を待たせているんです。恵亮のことを口実にしてなんなのですが、ちょっと…」
曖昧に言葉を濁したことで、仕事を抜け出しているのだと直感で感じた。
伊達に磯部などの営業を相手に育っていない。
「そうですか。1時間ほどで終わりますからそれ以降であればいつでも引き取りにきてください」
立ち去っていく後姿を見送りながら、少々不思議な気分の虎太郎だった。
だって、何も、初対面の自分に理由まで言っていく必要はないじゃないか…と。
誤魔化されているのだから『理由』にはなっていないのかもしれないけれど…。
案外、隠し事のできない素直な人なのかもしれない、と内心で呟きながら、虎太郎は仕事に戻った。

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Door of fate 4
2011-03-19-Sat  CATEGORY: Door of fate
偶然と言っていい再会は、一葉が勤める店だった。
食事まで提供してくれるという店は休日の虎太郎にとって寄り添いたくなる空間になっている。
一人暮らしだと、どうしても自炊は限界があったし、孤独感を生む。
ここに来れば迎えてくれる人の温かさがあって、いつしか、心の許せる場所へと変わっていた。
一葉のはからいなのか、遠慮したくなるくらいの破格の値段で食事が用意された。
だけど他の客を見ても、聞かれる金額はほとんど変わらないようだ。
提供される数々を専門店で食したなら桁が変わっているのではないかとまで思わせてくれる料理だというのに。
オーナーが良心的なのだろうか。
『リーズナブル』…その言葉はこの店の為にあるようだった。
メニューに表記されたものだけではなく、栄養バランスを考えた配膳には頭が下がる。
押し付けることなく好みまで聞いてくれる心遣いは感心させられるだけだ。

休日の昼前、遅い朝食というか早い昼食というか、つまりブランチを食べ尽して一葉が淹れてくれたコーヒーをすすっていると、見たことのある男が入ってきた。
ブラウンの細いストライプ模様の入ったシャツの上に、軽くジャケットを羽織った姿は、以前見かけた時よりもずっと若そうだった。
入ってきた男も虎太郎の姿を認めた。
「あ…」
カウンターに座った虎太郎に気付いた彼から、小さな驚きが漏れる。
恵亮のようにあからさまな反応を見せないのは、歳からの落ち着きなのだろうか。
「以前、お会いしましたね」
にこやかにほほ笑んだ男は、「お隣いいですか?」と虎太郎の隣のスツールを指差した。
一人での来店なのだとさりげなく告げられた。
顔を覚えていてくれたことは虎太郎にとっても嬉しいことだった。
営業という職業だったら、『覚えよう』という意識が働くのかもしれないが…。
ともなると、相手の男もそんな職業なのだろうか。

「今日はおやすみなんですか?」
私服姿でこんな時間にのんびりとしていれば、聞かれて当然のことである。
他愛のない話題に「えぇ」と小さく声が漏れる。
「花園さんは?」
変わりに聞き返すと驚いたと目をぱちくりされた。
「名前、覚えていてくれたんですか?…えーと、すみません…」
「あ、竹島です」
驚きの後の戸惑いに、彼が何を聞きたがっているのかすぐに判断出来た。
「竹島さん…。失礼しました」
「いえ、サービスの人間の名前なんて知らなくて当然ですから」
軽く頭を下げた彼に恐縮して両手をぶんぶん振った。
ニコニコと愛想の良い笑みを浮かべた彼には、人当たりの良さをまた感じてしまう。
『兄』という立場がそう形成するんだろうか…。
「私も今日は休みなんです。恵亮がこのお店を教えてくれて、良く来るんですよ」
「そうなんですか。じゃあ一葉君つながり…なんだぁ」
カウンターの中にいる一葉にチラリと視線を投げるとすでに知った人間のようで、一葉も軽く会釈をしていた。
まぁ、販売で恵亮と会っているのだから、その家族と面識があってもなんら不思議はない。

「竹島さん、何を飲まれているんですか?」
食後のコーヒーと言って出されたものは一葉のお薦めで、尋ねられたところで答えられる知識もない。
「えと…」
頭をポリポリかきながら一葉に救いの手を求めると、「キリマンジャロです」とあっさり返ってきた。
「じゃあ俺もそれ貰おう。一葉君、ちょっと濃い目に淹れてくれるかな?」
「はい」
親しさの違いは当然なのだが、虎太郎に向けられる畏まった態度と、一葉に語りかける口調は異なる。
もともと堅苦しい語り口調に慣れていないだけに、自分にも気を抜いてほしいと願うものがあった。
年上の磯部に対してだって謙虚な姿勢など滅多に見せなくなった昨今である。
「竹島さんの『お休み』って交代制になるんですか?」
他人行儀な会話に戻ってしまった彼を残念に思いながら、小さく頷く。
立場上尊大な態度に出られるわけもない。
「一応定休日はあるんですけれど、その他は交代で。でも希望日を休みにしてくれたりするので融通が利く方だと思ってますよ」
「そうですね。決められていないところはいい。…失礼ですけれど、竹島さんっておいくつなんですか?」
「え?」
「あ、と…、すみません。なんだか、同じ年くらいかな…と思ったから…。でもこの前見た時と雰囲気が違うし」
「あっ!!俺も思いましたよ~」
突然の問いに戸惑いはしたが、率直に告げられることに虎太郎も同意を示した。
感じていたことが同じことだったのだと知れば尚のこと、親近感がわく。
「花園さん、すごくしっかりしてそうなのに、でも見た目若いし」
「若くは…。自分から言うべきですよね。29歳になります」
「やっぱり年下だったのか…。あー、俺30歳。もう大台」
畏まった態度はどこへ…と消えてしまった虎太郎だった。
それ以上にプライベートに触れられることが心地よくもある。
「上?!…見えなかった…」
「え?それって…」
再び目を見開いた花園に、虎太郎はどう思われていたのかと疑問が浮かぶ。
頼りないと見受けられるのだろうか…。

「ふたりして若く見られるっていいじゃないですか~。ショウちゃんなんて俺と同い年なのに、すっかり貫禄付いてるし」
目の前で花園のコーヒーを淹れていた一葉が話に加わってくる。
『ショウちゃん』と呼ばれた男が一葉の隣で苦笑していた。
…ゲッ、この男こそ自分と変わらないと思っていたのに、一葉君と同い年とは…。
『ふたりして若く見られる』ことがいいことなのかどうかは別として。
お互いを年下と思いこんでいたことは笑いのネタになった。
そしてすっかり打ち解けてしまったのである。

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Door of fate 5
2011-03-20-Sun  CATEGORY: Door of fate
メカニックがどうこうなんていう話は、興味のない人間が聞いたって面白くもなんともないはずだった。
それなのに花園凛(はなぞの りん)は、相槌をいれてうまく会話を引き出してくれた。
聞き上手、とは、このような人間のことを言うのだろうと、感慨深く思った。
凛は海外から商品を仕入れる商社に勤務しているとのことで、普段は内勤業務らしいが、時に店舗を回ったり、またある時は直接海外まで交渉をしに向かうこともあるという。
「すごいですね~。海外なんて行ったこともないや」
「仕事だから、観光どころじゃないけど。まぁ、日本国内だって観光地らしいところになんか行った覚えがないくらいだよ」
「俺、国内は結構行ってるかも。車の中で寝泊まりするようなビンボー旅行だけど」
「え?!車中泊?!」
寝るのは布団の上…という常識があるらしい凛にとっては驚きの話になってしまったのか。
だけど今度はそんな話に興味を持たれて、切れることのない会話が続く。
頼んだ覚えもないコーヒーのお代わりまで一葉が淹れてくれて、余計に時間の感覚を失ってしまった。
ファミレスのドリンクバーコーナーを利用したって、こんなに長く一つの店に居座ったことなどない。
ドリンクバーだったら自ら動かなければならないが、ここでは、さりげなく物が提供される給仕付きだ。
気付けば店のムードがなんとなく変わっていた。

店全体の明りが落とされ、壁に飾られた絵画に当てられるライトと、オレンジ色のほのかなダウンライトが、夜の店へと風貌を変えていた。
明るい昼間から夕焼けの世界に自然と移り変わった…そんな感じだ。
話に夢中になっていて全く気付かなかった。
「あれ?」
虎太郎がキョロキョロとすると、凛が「知らなかった?元々はバーとして開業したんだよ」と耳元で囁いた。
昼間とは違って静けさの中に厳かな雰囲気すら見られた。
だからといって居辛くなるものではない。
むしろ、一日の疲れを癒してくれるような、神々しい空間にすら思えた。
突然、凛が近い存在になった錯覚が襲った。
こういった雰囲気に慣れているのか、昼間見た時よりも大人びたオーラを纏った気がする。
「まだ時間、平気?」
問われて虎太郎は無意識に首を縦に振った。
これまでの話で、虎太郎が一人暮らしだとか、休日はこの店にきて食事を取るだとか、日常をすでに明かしてしまった現在だ。
付き合っている相手がいなければ、当然待つ人間もいない。
「俺はいいけど…。…凛さん…」
話の流れから互いに名前で呼ぶことにも慣れてしまった。
以前、『待ち合わせた』という人物の影が不意にちらついた。
こういった場所で、いくら業務上の関係から親しくなったとは言っても、一緒にいると知られれば良い顔をされないのではないか…。
虎太郎の心配をよそに、朗らかに笑う姿がある。
「今日、休みって言ったでしょう。俺、予定ないけど、付き合わせるようなの悪いし」
まだどこか、販売店と顧客という立場を捨てきれないでいると思われているのか。
律儀に付き合う必要はないと暗に含められて、そう言う意味ではないと首を振る。
「こういうところに、俺なんかといて平気なの?」
「どうして?この歳になって、飲み歩いちゃいけないなんて制約、親からももらってないから」
凛は平然と答える。
…そうじゃなくて…とは虎太郎は言えなかった。
会話の中からも、凛は付き合っている人間がいるとは口にしなかった。
誤魔化されているのかと思えばそれまでだが、かといって深く追求することもできない。
自分が勝手に勘違いしているのだろうか。
曖昧な態度が煮え切らないものを生み出すようで、虎太郎は小さな身震いを覚えた。
自分が年上のはずなのに、そんなことを一切感じさせない落ち着き。
さりげなく、包んでくれる雰囲気にすっかり飲まされていた。
…なんか、マズイ…。
虎太郎は危機意識を持ったが、流されていく雰囲気に逆らえなかった。

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