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BLの丘
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眼差し 1
2010-12-10-Fri  CATEGORY: 眼差し
武田成俊(たけだ なりとし)はビルの中にひっそりと造られたバーに立ち寄った。
中堅のインテリアショップで販売員の仕事に就いている。
インテリアショップ、と名前は良いが、要するに『家具屋』で、生活に必要な細々としたものまであり、食品以外の全般を扱っていた。
5階建ての自社ビルの中にショールームを備えた売り場は、土日に限らず、結構な来客があって賑やかだ。
常に喧噪の中にいるような人間にとって、勤め帰りで寄ったせいか、初めて入ったバーはあまりにも静かで面食らったくらいだ。

一見、外からはバーがあるようには見えないただの雑居ビルの3F。
旧知の人物から「働いている」と連絡を貰わなければ知ることもなかったような場所。
思わず恐る恐るドアを開けてしまった。
まだ新しいはずなのに、趣がある空間だった。
オーク材で囲まれた店内は照明が落とされ、所々に絵画が飾られており、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
店に入れば、すぐにカウンターの奥に立った黒いベストのバーテンダーが気づいた。
同時に「いらっしゃいませ」の掛け声よりも先に「久し振り」と口端を上げただけの笑みを向けられる。
成俊の後ろに続く人間がいないことで、一人だと思ったのか、カウンターの空いている席を視線だけで促された。
26歳という歳にはなっているが、正直、こういった年齢層の高そうな店に来たこともなく、どうしたらいいのか分からずに戸惑った成俊には有り難かった。

『贅沢』とは無縁な生活だ。
成俊には同じ年の妻と5歳になる娘がいた。
同じ大学で知り合い、学生中に身ごもった妻の高音(たかね)はそれを理由に大学をやめてしまった。
成俊も学業どころではなく、働いて『家族』を支えたかったのだが、ようやく認めてくれた両家の親から卒業することを厳しく言い渡され、その間、高音の家で世話になってきた。
そんな身分で飲み歩く、などできるはずもない。
就職してからも、若い成俊の給料など高が知れていて、家族を養うことの厳しさを嫌というほど教えられていた。
今着ているスーツだって、何年ものだ?と聞きたくなるくらいヨレてきている。
そうは感じさせないのは、成俊の作りの良さか。
細身の身体と、割りに頭が小さいので、170センチしかない実際の身長よりも背が高く見られた。
大きな黒眼と紅い唇に先に視線が行くせいかもしれない。
それらのすべてが、控え目な華やかさを放っている。

高校時代を共に過ごしたバーテンダーの日野尚治(ひの しょうじ)が、温かなおしぼりとコースターをさりげない仕草で置いた。
「ここ、すぐ分かった?」
「あ、あぁ、一応、地図もらってたし…」
改めて店内を見回せば、長いカウンター席の奥のほうに4人の客が座っているだけで、テーブル席には誰もいなかった。
もしかして、閑古鳥が鳴いている店か?と些か不安に思う成俊だったが、今日が平日であることを思えばこんな日もあるのか…と納得できた。
くるりと首を巡らせていた成俊の行動に心意を見透かされたようにクスリと笑われる。
「うち、看板出してないから常連がほとんど。何飲む?おまかせでいい?」
確かに分かりづらかったな…と通ってきた道を振り返った。

日野はさすがに昔からの知り合いだけあって成俊の懐事情を良く知っている。
成俊も日野の家庭環境を見聞きしてきた。
日野は高校を卒業してすぐに働き出してしまったから疎遠になりつつあったが、自分の不手際というか、高音が妊娠したことで連絡を密に交わしたのが日野だった。
その頃、すでに接客業に就いていた日野は、当時から話を聞くのが上手かった気がする。
一気に状況が悪くなった成俊を宥め勇気づけ励ましてくれたのは、いつもこのバーテンダーだ。
ただ、ゲイバーで働き出したと聞いた時には、さすがに驚愕したし、人ごとながら将来の心配もした。
しかし当の本人は「働いているだけ」と開き直っていたし、ひたむきに生きる人間模様になにやら思うものがあったらしい。
実際誘われてその店に行ったこともあった。
日野には悪かったが、少ない金で飲ませてくれる貴重な店だった。
何より、話相手になってくれる。
あからさまに何かをする店ではなかったし、あえて好奇の目で見なければ、単に男同士が飲んでいる光景なのだと、成俊も思えるようになった。

そんな日野から『自分の店を持った』と連絡が来た時には、ただ驚くだけだった。
自分と同じ年でありながら、すでに起業したと知らされれば積んできた経験の差を堂々と告げられているようでショックもあった。
慌てて詳しく話を聞いてみれば「雇われオーナーみたいなもん」とあっさり返され、更には「奢ってやるから飲みに来いよ」と声をかけられて現在に至っている。
すぐにでも来たかったのだが、子供を保育園に預けてから働き出した高音や子供のことを思うとなかなか実現しなかった。
今日こそは…なんて思っている時に限って、子供が熱を出した、とか、上司に誘われたとか予定が重なる。

シェイカーを振る日野に視線を投げながら、また店内を見回し、以前の店とは全く趣向の違う雰囲気に、『とうとう日野もゲイバー、卒業か』と内心で安堵のため息をついていた。

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スミマセン…m(__;)m リーマン物が書きたかったらしいです…。
(正確にはあっちが詰まっているんですけど…。内緒ってことで。(←オイ) こっちが詰まるのも時間の問題か?!)
ポチパチでがんばりますっ!!

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眼差し 2
2010-12-11-Sat  CATEGORY: 眼差し
コースターの上に乗せられたロンググラスには、ジンとオレンジを合わせた比較的軽そうなアルコールが注がれていた。
「そんなに気取ったところじゃないからゆっくりしていってよ。…って言っても、あれか。遅くなれば心配もされるか」
さりげない気の回し方は昔のままだ。
いや、更に気遣いに磨きがかかったというべきか。
置かれたばかりのグラスを手に一口飲み、アルコール度の薄さから『いや…』と小さく手を振る。
他の客は勝手にやってる、と言いたげに、日野は成俊についてくれた。
「今日はここに寄るって言って来たし」
結婚する、した、就職した、子供が…と、様々な転換期に、日野も高音に会っている。
高音も日野の存在を知らない人間ではなく、『久し振りに…』と控え目に言い出したら『どうぞ』とあっさり許可してくれた。
届いた葉書も目にしていたから、起業するくらいの実力を付けた人間とは親しくしておきなさいという下心さえ見えた気分で、自分と比べられていることに卑屈になったくらいだ。
「なんか、浮かない顔、してんな」
どうしてコイツはこうも、人の表情というか感情を読むのが得意なのか…と内心で苦笑してしまう。
だからといって無理に突っ込んでくることはなく、いつでも『話したければ話せ』という態度だ。

成俊はあまり家に帰りたくなくなっていた。
今は高音の実家からすぐ近くのマンションに住んでいる。
1年前、30年という、気の遠くなるようなローンを組んで購入した。
子供がいるから、…その娘が自分に似ていないのに似ている気がして愛しいと思うから帰路にはつくが、夫婦仲は完全に冷めている。
セックスなど、子供が生まれてから片手の数にも満たないし、待っているのは子供を寝かしつけるために一緒に眠ってしまった妻と、冷えた夕食だ。
会話らしい会話もしたのだろうか…と、時々思う。
気がつけば金のことで喧嘩になり、休日に家にもいないと文句をぶつけられ、いかにも子育ては妻一人でやっていると言いたげだった。
どれだけ何を言われようが、娘の存在があるから日々を頑張ってこれていたし、自分の責任だという負い目もあった。
それが、妻に何かを言われたのだろうか。それとも女の子の性なのか。
物事の判断がつくようになった娘から発された言葉は「パパは男の人だからママとわたしからは仲間はずれなの」であって、何をするにも母親と…と父親を避けるようになった。
その態度は妻に良く似ていた。
親子とはこうやって似ていくのかと、しみじみと思わされたものだ。

「うち、…もしかしたら離婚の危機かも…」
「はぁ?!何で?!」
こんな話は誰にもしたことがなかった。
きっと日野だって、仲睦まじく暮らしている夫婦だろう、と思っていたはずだ。
親の反対を押し切って、何とか説得して、やっと辿り着いた結婚生活。
改めて振り返れば、若かったな…とつくづく思う。
目を見開いた日野が、手にしていたアーモンドの皿をガタッとカウンターに置きながら驚愕の声を上げた。
「いつの間にそんなことになっていたんだよ…」
「いやぁ、兆しは結構前からあったけど。自分でも目を瞑っていたんだと思う。高音も仕事と家事とで一生懸命なんだって…。俺、やたらなこと言うの、やめようって思ってたし。逆効果だったみたい」
「話しあったのか?」
静かに問われた声に、俊成は首を横に振った。
付き合ってきた頃からの勘で分かる。
高音は言い出したら自分を曲げないし、成俊自身、妻にまで腰を折ってぺこぺことする生活に疲れを感じていた。
「そんなんで…」
「なんかさー、あいつがどうしたいのか、分かるんだよ。周りの友達が遊び歩いていた時に身籠って、親の前で小さくなって、やっと新居持てたことで”解放”されたんだ…って…」
「だったら尚更これから」
成俊はまた首を振った。
口に出したことでより一層現実味を帯びて自分に跳ね返ってきた。
「"俺”っていう存在が邪魔なんだ。もう愛情もない。手もかけたくない。好きな時だったら許せる仕草一つだって、嫌いになった途端、全てが許せなくなる。今、その積み重ねの状態」
恋をしていた時は楽しかった。
見るもの全てが新鮮で、洗濯物に皺があったって許せた。
それが今では、そんなことの一つもできないのかと苛立つばかりだ。
目につくのは粗ばかりで、コイツの何が良かったのか、と改めて探すくらいになっている。
同じことを、高音も感じているはずだった。
思い描いた理想とはかけ離れているのだろう。
話しあって解決するようなレベルはとうに過ぎてしまった…。

日野が小さな溜め息を零した。
「まぁ、成の人生だからな。窮屈な生活に閉じ込められて苦しむより、一層見限った方が楽に考えられるのかもしれない」
暗くなるだけの話題を避けようとするのか、「腹、減ってる?何か作ってやるよ」と明るい声で告げられた。
こんな風に声をかけてもらえたのはいつが最後だっただろう。
余計に悲しくなるのを抑えながらポツリと呟いた。
「何でもいい。もう、冷めたメシしか食ったことないから…」
成俊の言葉に日野の目が剥くのが分かったが、日野はそのことについては何も言わなかった。
全てを悟ったのが肌を通して感じられた。
成俊は、この瞬間にも、『離婚』を決意していたのかもしれない。

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どっち向いても暗い話になっちゃったよ~(涙)
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眼差し 3
2010-12-12-Sun  CATEGORY: 眼差し
成俊が妻に別れ話を持ち出せば、あとはトントン拍子というくらいに早かった。
まるで成俊から切り出すのを待っていたかのようだった。
高音はここぞとばかりに「あなたから言い出したんだから」と、高額の慰謝料と養育費を要求してきた。
今まで我慢していたのは、これが目的か、と思うくらいだ。
娘と離れるのは心苦しかったが、冷めた家庭の中でどのような心を抱えて育つのかと考えれば、母親と仲良く暮らしてくれた方がいいのかとも思う。
それでも支払える金額など上限がある。
かといって、慰謝料の相場や、離婚に関する相談などどこにすればいいのか、成俊には見当もつかなかった。
親に相談しても良かったが、成俊の親の性格を考えると、言われたように金を工面してしまうのが分かる。
完全に非を認めていたから、できるだけのことはしてやると言い出しそうで、そんな負担を親にかけたくはなかった。

家に帰りたくもなく、行くあてを失って、成俊が辿り着いたのは、やっぱり日野の場所だった。
初めて訪れてから1カ月も経っていない。
成俊がどんよりと雨雲を背負って店に入れば、即座に理解したような日野が、カウンターの一番隅の席を示してきた。
L字型に作られたカウンターの、一番明りも届かないような場所だ。
その暗い空間が、今の成俊にはありがたかった。
ふとした優しさに触れたら、泣き出しそうだったから…。

今日はこの前とは違って客が多かった。
とはいえ、ほとんどはカウンター席に座っている状態だが、カウンターの席数が多めにとってあるせいか、人が並んでいても窮屈感はない。
その客らとも離れた席だったから、成俊は比較的緊張も持たずにいられた。
目の前に立った日野が「どうした?」と小さな声で問いかけてくる。
コイツにはもう、隠し事も何もする気になどなれない。
何の前置きもなく、正直に「別れることにした」と告げれば、驚いた様子もなく、「そっか…」と頷いただけだ。
その話題に触れようとしないでくれることが嬉しいはずなのに、溜まっていた鬱憤を聞いてほしい思いもある。
「なぁ、なんか、強いの、ちょうだい」
いつも日野が作ってくれるのは、酔い潰れないようにと控え目なアルコール量の酒ばかりだった。
だけどたまには、酔って我を忘れたい時もある。
店の中で…という自制心は働くものの、そこは目の前に日野がいるからという、甘えもあった。
「ちゃんと、金、払うから…」とボソリ付け加えれば、フッと口角を上げられて、「そんなの、いいし」と何かのボトルを手にしていた。

日野はカウンターの客と一言二言、言葉を交わし、上手く接客しながら成俊の為のドリンクを作ってくれる。
ついでに軽くつまめるものまで出してくれた。
その種類の多さに、成俊の方が驚いたくらいだ。
チーズとトマトが乗ったブルスケッタ、サーモンのカルパッチョ、フライドポテトと温野菜の盛り合わせなどなど。
いかにも、的に数種類が盛りつけられた大皿は、まともに注文すれば小遣いが吹っ飛ぶのではないかと思うくらいの見栄えの良さだ。
「しょ、尚治、こんなのまで…」
「残り物だし。どうせ他の客には出せないからさ。こんなので良かったら食べてよ」
小声で告げられるのは他の客に聞かれたくないからだろう。
アルコールだけを口にするのは体に悪い、と言われ軽くかわされてしまう。
…これのどこが”残り物”だってぇ?!…
成俊は内心で叫びたいのを我慢しながら、しみじみと生きている世界が違うことを実感してしまった。
まるで成功者と敗北者だ…。
自分の座る位置もある。こちらは暗闇で、日野はスポットライトに当たっているような錯覚。
じわりじわりと襲ってくる悲しみと焦燥に、出してもらったショットグラスを一気に飲み干した。
喉の奥がカァッと焼けつくようだ。
それを見ていた日野が、「おいっ」と目を見開く。
そんな日野を無視してグラスを差し出した。
「おかわり、ちょうだい」
「ばかっ。こんな飲み方、すんなっ。おまえ、ただでさえ、酒なんか飲み慣れていないだろっ?!」
「ほっとけよっ。たまにはこんな日も欲しいのっ」
一瞬の沈黙の後、「高音さんとの話し合い、うまくいっていないのか?」と、またもや人の心の内なんて見えている、といった態度で静かに問われた。
不仲を以前に伝えておいて、「別れることになった」と今日口にして、清々して良いはずなのに、打ちひしがれている姿をみれば、それ相応に想像もつくというものなのだろうか。
的を射た質問に、一人溜めていた愚痴がボロボロと零れる。

「慰謝料と養育費、出せって。マンションも明け渡せって…。俺が言い出したんだから全部要求、飲めってさ。ローン払って、あいつらに支払して…俺の給料からなんて無理だよ…」
今までの稼ぎでだってギリギリだった。
足りなくて高音がパートに出たくらいだ。
それなのに、更に自分にかかってくる生活費など、どこから捻出しろと言うのだろう…。
「それってちゃんと誰かに話したのか?二人だけで決めることじゃないだろ?」
「じゃあ、どこに言えばいいんだよっ?!もう、俺、頭の中、ぐしゃぐしゃで訳わかんない…っ」
挙句の果てには不覚にもポロリと涙がこぼれた。
初めて曝け出した『弱音』だった。

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いつBLになるのかしら…(汗)
前置きが長くてごめんなさい。

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眼差し 4
2010-12-13-Mon  CATEGORY: 眼差し
こんな自分を見れば、日野も呆れるだろうかと思った。
いつも親身になって話を聞いてくれていたが、相手を孕ませ結婚をして、だけど結局無理だと投げ出し、更には金まで用意できないという有様。
軽蔑されても文句も出ない。
新しいおしぼりを出してきて、隠すように目元に当ててくれた。
「俺だってそんな立場になったらうろたえるだろうけどさ…。こんな商売していると、色々な繋がりってあるんだよ。成、その話、自分で決めるなよ」
まるで忠告のようだ。
だからといって、日野に何ができるとも思えなかった。
単身で、飄々と店まで構えて、いくら”雇われオーナー”と言ったって、所詮自分と同じ年。
日野が言う『繋がり』など、成俊には想像もできないでいる。
それとも生活レベルを比較したくない抵抗なのだろうか。

今は忘れろ、と言わんばかりに、おかわりのグラスに酒を注いでくれる。
酔って酔い潰れて、現実から逃れたかった。
そんなことで解決される問題ではないのに、何かに縋りたかったのだと思う。
日野ももう、止めはしなかった。
こういった時に、『たまにはハメ外せよ』ととことんまで付き合ってくれるのか、コイツの懐の大きいところだ。
自分には真似できない…。
面倒くさがって相手を拒絶してしまいそうだ。

高校時代の懐かしい話や、日野は今はどうなのか、とか、当たり障りのない会話が続いていく。
多少口籠ることに、特定の相手でもできたのか、と嫌でも分かってしまうが、成俊の現状を思えば口に出し難いのも理解できた。
不幸と幸福は隣り合わせで成り立っているのかもしれない。

喉を焼けつくしそうな酒を、今度はちびちびと飲み始める。
常連が集まる、と以前聞いたように、日野が多少不手際を見せても口を酸っぱくする人間はいなかった。
自分の家では感じられないアットホームさがここには溢れていて、益々家になど帰りたくなくなる成俊だった。

店のドアには小さな音を奏でるカウベルが付いていたから、開閉があるとすぐに日野が反応を示す。
だけど、今入ってきた、スーツこそ着てはいるが、サラリーマンとは違う、少し派手な感じがする男に、日野はこれといって声をかけることもなかった。
常連の扱いもここまでいけば…と、その態度に成俊が眉をひそめる間もなく、入ってきた男は何のためらいもなく日野の傍に寄った。
従業員…というには立場が逆のような気がしなくもない、きっと年上の人間だ。
何気なく目の前の動きを視界に入れていた成俊に、目の前で想像を越えた光景が繰り広げられた。
「ただいま」
「おかえり」
あろうことか、派手目の男は日野に帰りの挨拶をすると、その唇に自分のを軽くではあるが押し当て、スッと奥へと繋がる扉の中に消えていった。
あまりにも自然で、あっという間のことで、一瞬何が起こったのか分からない成俊である。
ここにいる誰もが、その行為を視界の中に入れていておかしくないはずなのに、何も言わない。
気にする自分がおかしいのではないかと思わせるくらいのものだ。
呆然とする成俊に、日野が向けた表情は、「見られちゃったなぁ」という、極めて落ち着いたものだった。

いくら日野自身がゲイバーに勤めていた経歴があったとして、本人がゲイになったとかホモになったとかいう報告は受けていない。
もちろん、そんなこと、言いふらすものではないだろうが…。
…ってか、ここ、”ゲイバー”じゃないんじゃないの?!…
成俊は驚愕のあまり、自分の離婚問題を忘れていた。

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眼差し 5
2010-12-15-Wed  CATEGORY: 眼差し
日野は今更言い訳もしない、といった態度で、いつもと何ら変わらなかった。
あまりにも潔く開き直った立ち振舞いに、先程見かけた人間は”女性”だったのではないか?と幻覚を見た気分にもなる。
だが、見間違うような容姿をしていたわけでもなく、目にした行為は錯覚とは言えず、覆しようのない事実だった。
日野の好み、というか、淡白さは成俊も知るところだ。
なかなか身を落ちつけようとはせず(夜の仕事をしているから、と本人は良く言っていたけど)、コロコロと女を変えていた。
いつか自分のように失敗するのではないかと肝を冷やしたことすらある。
ゲイバーに勤めていた時だって、男に興味があるような素振りはこれっぽっちも窺わせなかった。

「しょ…尚治、おまえ…」
小さく肩を竦めただけで、動揺する成俊に向かって日野が口を開いた。
「俺もこんなことになるなんて思っていなかったけどさ」
「な、何で?いつから…?」
「あー、誤解しないでほしいけど、俺、別に”そういう”趣味、ないから」
“そういう”が、男を性の対象として見る人間なのだとは、さすがに成俊にも意味が通じた。
だけど、あんなものを見せられては素直に認めることもできず、成俊はどう返事をしていいのか悩む。
「あの人がこの店の本当の『経営者』になるんだ」
成俊の脳内はますますこんがらかっていくだけだった。
日野自身の店ではないとは話に聞いていたが、その経営者と何故堂々と人前でキスなんてできるのだろう…。
「それって、この店の為に自分をあげちゃったってこと?パトロンとかヒモとかそんなところまで落ちちゃったってこと?」
本来なら噤まれるべき発言がすんなりと口から零れてしまうのは、相手が日野だからというのと、ショックで一般常識の境目が分からなくなったからかもしれない。

さすがに、成俊のこの言葉には日野も苦笑を見せた。
「そんなんじゃない。成にどう説明したら分かってもらえるか…、分かってもらえないことのほうが多いかもしれないけど、成が思うようないい加減な関係でも適当な付き合いでもない。きちんとした意味で付き合っていることは認めるよ。でも惹かれたのは人間性であって、男とか女とかの括りじゃない。あの人だから全てが許せるし生きていく上で共に居たいと思う。ノーマルな人間にとって受け入れがたい現実なんだろうし、これで成が俺を軽蔑するならそれも仕方ないと思ってる。それでも俺はあの人を取るだろうし、たとえ別れることになったとしても、恨みも後悔もしない」

何がここまで日野に自信を持たせるのかと身震いを感じた。
迷いもなく確信を持って生き抜いていこうとする思いがあるからこそ、この揺るがない清々しさを身に纏うのか。
これまで培ってきた友情を捨ててまで共に生きたいといい、全てを失った時ですら、過ぎた道を悔やまないと断言できる精神の強さ。
男を相手にすることで、日野は新たなる”覚悟”をも受け入れている。
全ては先程の男がいるからだろう。
日野に自信を与えるのも支えるのも彼であり、しかし、日野は彼に全てを委ねているわけではない。
きっと彼もまた、日野がいるから日々を充実して過ごしているのだ…。
同じ歳と侮っていたが、日野は成俊の知っていた頃よりもはるかに成長し先を歩いていた。
不甲斐ない自分を見捨てることなく親身になってくれる日野に対して、逆にそんな理由で『軽蔑』するなどできるはずがなかった。
日野が言うように、個々の人間であって、趣味嗜好に応じて付き合いを変える人間の方が愚かだと思えてくる。
たとえ日野がどんな人間と付き合おうが、日野は日野であり、自分にとって失えない友人に変わりはない。

「そっか…」
日野の発言を認めながら、心の隅の方で少し羨ましく感じている本音があるのを知った。
こんなふうに思い思われてみたい。
今の成俊が辛酸を嘗めるような状況にあるだけに、憧れるのだった。
「悪いな。成が一番大変だっていう時にこんな話になっちゃって…」
成俊は小さく首を横に振った。
どんな形であれ、人の幸せを恨むのは筋違いだ。
「おめでと…って言ってやるべきだよな…」
今、自分はどんな顔をしているのだろう…。
ここでもまた、敗北者の気分を味わっているようだ。
卑屈に考えてしまう自分が、本当に情けなかった。

俯く成俊に日野の言葉が降り注いでくる。
「成の話、あの人にしてもいいか?たぶん、絶対に力になってくれるはずだから」
自分の恥を晒すのは避けたかったが、八方塞の今、縋れるものなど何一つない。
店の一つも回せるほどの実力者ともなれば、日野が言っていた”繋がり”というのも納得ができた。
成俊が抱えるものは、どう転んだって一人で解決するには難しすぎる問題だった。
わらをもつかむ思いでいる現在、日野からの申し出はこちらから頭を下げたくなる。
小さく頷く成俊を見れば、言葉はなくとも日野は全てを悟ってくれる。
「今日はゆっくりしていけよ」
その言葉の裏には、後でもっと詳しく流れを聞かせろと言われているのが分かり、『他人事』にしない日野の優しさをつくづく思い知らされた。

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今更何が変わるわけじゃないけど、あんけーと締め切りまーす。
(丸2日以上チャットで遊び過ぎてて報告が遅れました…m(__)m)
 
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