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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
大人の時間 1
2010-03-15-Mon  CATEGORY: 大人の時間
縦に長い20畳ほどの小さな事務所(…というより、居室に近いが)の手前半分の壁はスチール棚に埋めつくされていた。
一般家庭で使うようなパソコンデスクとやはり家庭の書斎などにありそうなワークデスクが棚の隣に並んでいる。電話やコピー機などの事務機器も椅子から立ち上がらなくて済む位置に配置されている。
おかげで背面以外を囲まれているようだったが。
部屋の中央位置に向かい合って4人が座れるソファセット、そして奥にはパーティションで仕切られただけで、給湯設備と仮眠にでも使うのか、2メートルの幅があるソファベッドがあった。

普段この部屋に出入りしている人間は一人しかいないようだった。
明らかに個人さえ分かればいいという書類の整理のされかたに辟易としてくる。
ワークデスクの上に必要とされる資料を山積みにし、出されたデータを順序良く頭の中で構築させながら状況を把握していく。
ついでに誰が見ても解り易いように新しい形で作り直してもいた。
次回、また自分が見る必要ができた時に、同じようにひっかきまわすのが嫌だったからだ。
頭の中に入れたものを、次々とパソコンの中に吐き出した。
こちらも自分で作成したものは外部記憶装置の一部を使わせてもらって綺麗に整理しなおされている。もちろん紙もデータも原本をいじるような無粋な真似はしない。

気付けば夜の10時を過ぎていた。ここに辿り着いてすでに3時間以上…というべきか、まだ3時間というべきか…。
この事務所が本来の仕事場ではない。
明朝はまた早くから本業が始まる。

夢中になりすぎて中途半端に出してしまった資料をどうしようかと考えてしまった。
このままの状態で保存してもらうのが一番だったが、そういうわけにもいかないだろう。
となれば、あと1、2時間続けてキリ良く片付けてしまうか、また明日同じ作業を繰り返すか…。

そう思いを巡らせていたときに、事務所のドアが開かれた。
長く伸びた髪を後ろで一つに括っている。年はすでに50歳をこえているはずなのに、その雰囲気は年齢を感じさせていない。
鍛えられた筋肉が纏ったシャツから浮かんでくるようだった。
片方の掌にウィスキーが入った二つのグラスを持った男は、ドアが閉まる前に声をかけてきた。
「美琴、今日はもう終わりにしよう」

事務所と続いたところに店をかまえた水谷のバリトンが野崎美琴(のざきみこと)のやりかけていた仕事を制する。
そう、ここは、水谷俊一(みずたにしゅんいち)が持つ事務所。
野崎は濃紺のスーツに身を包み、未だ一部の崩れも見せない格好でデスクから顔を上げ水谷を振り返った。

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また意味の分からないものが始まっちゃったよ…
10話くらいで終わりたい予定なんですけど…
『かけがえ~』みたく長続きしたらどうしよ…
つうか、見切り発車、やめろって?!
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大人の時間 2
2010-03-16-Tue  CATEGORY: 大人の時間
「美琴」と呼ばれて野崎は明らかに分かるように眉間を寄せた。
今年37歳を迎える野崎にとってよばれたくない名称のひとつである。
「ファーストネームで呼ばないで頂きたいと以前にも申し上げたはずですが」
憮然とした野崎に、薄笑みを浮かべたまま気にした様子もなく近付いてきた水谷がデスクの上の空いた所にコトっとグラスを一つ置いた。そしてデスクに山積みにした書類を手で移動して自分が座れるスペースを作る。
「どうして?可愛い名前をつけてもらったって喜べばいいだろう?」
静かなバリトンが響く。
「『可愛い』?そう言われるから嫌なんですよ。女の子みたいじゃないですか…」
野崎の名前は茶道の家元である祖父「瑳琴(さこと)」がつけたものだ。
上に兄がいる。
祖父を始め、誰もが次は女の子が生まれると信じていた。
期待は裏切られたが、名前だけはずっとためたものがつけられた。
『美琴』…。
野崎は一度だってその名を喜ばしいと思ったことはない。
母は望まれても次を産まなかった。

お酒は結構ですと言いたげに、グラスを隅の方へ寄せる。
水谷には何度言っても、野崎を呼ぶ名を変えなかったから半ばあきらめてはいるが…。

水谷はデスクに腰を軽く乗せ、手にしていたグラスを口元で傾けた。
店で飲みながら営業をしている姿は知っているが、裏に下がってきてもいいものかと心配する。
「それより、お店は大丈夫なんですか?」
「あぁ、どうせ客も来ないし、もう明りを消してきた」
「なっ…っ?!」

営業時間などあってないようなものだ。水谷の気分で開けられたり閉められたりする。
これまで勤めていた日野尚治(ひのしょうじ)が辞めて以来、この店の営業状況はあまり芳しくないのが正直なところだが、水谷にすれば、趣味の一つでしかないようだった。
儲けは他の所で補える…。
そう、いままで野崎が目にしていた書類などから…。

水谷は株の取引や不動産の管理など、事業を幅広く持っていた。
何故この場に野崎がいなければいけなくなったのかといえば…、ただのとばっちりといっていい。

英人のビルの3Fを早々に神戸の申し出通り改築し、バーとして使えるようにした。
ところが肝心のバーテンダーが不在だった。
水谷は日野をかっていたし、辞めさせようとしなかった。全面的に日野に任せていたと言っていい。
日野も気の良さから店を辞めることに後ろ髪を引かれていたようだ。
1か月以上、主のいないまま放置され、痺れを切らした千城が「なんとかしろ」と詰め寄ったのが野崎で、水谷に店に出ることを説得した。
水谷がバーテンダーとして店に出ればこの店の存続ができる。
もちろん水谷は店を潰すことも日野を辞めさせることも反対した。
この膨大な事業を一人でバーの営業と共に起てていくのは無理だという話から、何故か野崎が協力するという結果で落ちついた。
『榛名』にいる以上、野崎の知識の豊富さは水谷にとっても魅力だった。
野崎の力添えが貰えるのであれば、日野の一人を手放して自分が店に出てもいい…。
日野を辞めさせるための交換条件と言って良かった。


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大人の時間 3
2010-03-17-Wed  CATEGORY: 大人の時間
「P社は経営状況が良くないと噂になり始めています。株は早めに売却した方が良さそうですね。それと先日ご購入されたGビルのある不動産ですが…」
「難しい話は明日でもいいだろう」
水谷は野崎の言うことに関心がないように、言葉を遮った。
もともとは水谷の財産なのだから、もう少し考えてくれてもいいのに…と野崎は溜め息をつく。

「一杯くらい呑めよ。勤務時間じゃないんだ」
「誰が勤務時間にさせているんですか」
「勤務しろとは言っていない。助けてくれって言っただけだ。好き好んでここにいるのは美琴だろう?」

その『助けてくれ』が全てを把握しろと言っているのと同じだと気付かないのだろうか…。
助けるためには状況を読み取らなければならず、こうして過去のデータからなにからひっくり返すはめになっている。
まあ、榛名にいるからこそ大部分はすでに知った話だったが。
水谷の言い分に納得などできず、こぼれるのは小さな吐息だけだった。
フッと笑った水谷が再びグラスを傾ける。

車を運転して帰らなければならないのに、アルコールを摂取するわけにはいかない。
「お茶を頂きます」
立ち上がった野崎はパーティションの向こうにある給湯設備へと向かった。ポットの中にはすでに湧いたお湯があり、一杯分を抽出するティーパックもある。
マグカップに湯を注いだ。

この調子では全てを元に戻して帰ることになりそうだな…と野崎は心の中でまたもや溜め息をついていた。

それでも野崎であるからできる仕事といって良かった。
その辺に転がっている人間では同じ期間で3分の1も消化できない内容だろう。
水谷もそれを認めている。
彼にしてみれば、日野を失う変わりに手に入れた宝石に近い。

「坊やは明日ちゃんと出勤するのか?」
水谷が言う『坊や』とは榛名千城を表している。
野崎より5歳も年下だからそう呼ぶのだろう。水谷からみれば20歳は違うといっていい。
パーティションの向こうから聞こえた声に、野崎は「たぶん…」としか答えられなかった。
千城の行動は気まぐれだ。それもここ最近…。
『英人』という存在を手に入れてから、素行は嬉しくないほどに乱れた。
もともと人間的な感情を持たない人だったから、喜ばしい事実ではあっても、ここまでくれば論外だ。
確かに仕事はできる。自由になれる時間を求めているのかと思うくらい彼の所作は隙がなく完璧だった。
おかげで文句も言えない。

「美琴も恋をしたほうがいいぞ。仕事一本で生きていくには人生つまらな過ぎる」
「貴方が言うと説得力がありますね」
ティーパックをゴミ箱に入れながら野崎は呟いた。
水谷の性癖もこれまでの肉体関係も感づいている。言葉に出して言いはしないだけだ。
だが『恋』という言葉には疑問があった。水谷は伴侶を得ていない。
その場しのぎの『恋』を長年続けているようだ。
『恋』はあっても『愛』はないのか…。
それで楽しいのだろうか。
「随分嫌味な言い方だな」
「事実を申し上げているだけです」
パーティションを通り抜けた野崎を水谷の鋭い視線が迎える。

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なんの意味もないつまらない連載です…。
ちょっと春になって色々とありまして、定時更新できなかったらすみません。
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大人の時間 4
2010-03-18-Thu  CATEGORY: 大人の時間
「まぁ、坊やのそばにいる以上、美琴に相手ができてもその人が可哀想なだけだな」
グラスを傾けながら水谷が野崎の整理した書類をめくった。
これだけ完璧な仕事をするからには、私生活にも支障が出るだろうと水谷は内心で思っている。
それを苦とも思っていないでそつなくこなしてしまうんだから感心するばかりだ。
そして事務的に動く野崎を、感情があるのかと少々心配したりもする。
「ええ。時間外労働もここでこうして行っているわけですし」
「まるで俺が拘束しているような発言だな。主が違うだろう」
「社長からはきちんとしたお給料を頂いています。こちらはボランティアに近いですから」
「でも嫌がらずに来る」
野崎にとっては『責任』という言葉のほうが大きかった。
この店の管理…というか、水谷の財産をどうするか、千城に依頼された仕事といっていい。
潰せば日野の負担となり、神戸も気を病め、千城の不快を買う。

改めてデスクの前に座った野崎を歓迎したような水谷の言葉が響く。
「たまには付き合えよ」
頬に手を伸ばしてきた水谷の手をぴしゃりと叩いた。何を言いたいのかは判断がつく。
先程千城が明日の朝きちんと出勤するかと尋ねたのは野崎の身を思ってのことなのか…。
「どこかの娼婦か男娼とお間違えのようですね。こちらを片付けましたら私は帰らせていただきます」
出しっぱなしにされた書類を手早く整理し始めた野崎に小さな吐息が聞こえた。
「そういうところがさ…。可愛くないよ。一夜の間違いくらい『大人の男』にはつきものだぞ」
「貴方と一緒にしないでください。何が間違いですか。簡単に言うなど…。もっとも貴方は『一夜』が365日続いているようですが」
核心をつかれて水谷はやれやれと肩を竦めた。
さすがに365日はないが、奔放に過ごしてきたことに変わりはない。
この事務所に限らずホテルなど連れ込んだ若い男は数知れず。
日野こそ、黙っていてはくれているが、実際に跨いだ数は年の数を優に超える。
それも男も女も関係なく…。
そういう点では日野の相手である神戸とは気があった。
もちろん日野本人にも他人にも封じられた内容だが、過ごした過去は覆しようがない。
一度くらい相手を頼みたい男だったが、すでに遅すぎ見事に断られたも同然だった。

「日野を大事にしたい…」
神戸からはなたれたその言葉に日野を譲ったようなものだ。
この話は野崎の知らないところで交わされている。
神戸は正面から日野を譲り受けたいと申し出てきた。
いつまで経っても双方で譲らず、辞めさせもせず、辞めもせず煮え切らない関係が続いた。
千城が気付いていたかどうかは疑問だが、野崎を差し向けてもらえたのは水谷にとって喜ばしいことだった。
間に野崎が入ることで千城や神戸の願いが叶う運命となる。
水谷とて、日野の幸せを望んでいた。彼の過去は知っている。
両親を失い、愛情の一つも浴びずに過ごした少年時代。
流れついたこの世界でも着実に実力を身に付け這い上がった。
強い精神力があったからこそ、得られた『幸福』を手放せたくはなかった。
神戸から聞いた言葉に水谷は何も言わず、ただ頷いた。
「あぁ。君が日野君を幸せにするんだな…」
確認したときの神戸の顔は力強かった。

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大人の時間 5
2010-03-19-Fri  CATEGORY: 大人の時間
「本当に可愛くない。もう少し素直にならないと誰も愛してくれないぞ」
肩を竦めた水谷が懲りることなく野崎の頭上をポンポンと叩いた。
「本気で愛したこともない貴方に言われたくないですね」
「俺はいつだって真剣に愛してやっているさ」
「その場は、でしょ。…はいはい。とにかく続きをさせてください。いつまでたっても帰れなくなるんです」
「泊まって行けよ」
「まだ言っているんですか?相手には困っていないでしょう」
野崎は呆れかえりながら水谷を制した。
この男が今抱えている男を知っている。
犯罪と言っていい。
相手は高校生だったから…。
女は面倒だと水谷は言っていたが、それにしたって…。
もちろん、本人たちの好き好きだ。そんなことに改めて忠告する気もない野崎だったけど…。

「そうでもないさ。『大人』のほうが愉しめる場合もある」
「高校生じゃ物足りないって仰りたいんですか」
「知ってたのか…」
嫌味を飛ばせば堂々と認める。野崎は頭を抱えたくなった。悪気はないらしい…。
「精々スズメを可愛がって上げてください。私は遠慮させていただきます」
「大人のお付き合いをしようぜ、美琴ちゃん♪」
「それ以上仰るようでしたら破産の手続きへと物事を運びますよ」
珍しく水谷にはしつこさがあった。ほとんど本気、口調だけ冗談。
からかうような口調で一番気に入らない呼び名を口にされる。イライラは募る一方だ。
どれだけ精力旺盛な男なのだ…。頬を撫でてくる手を払いのける。
野崎とて、恋愛はともかく、手をかけた人間はそれなりにいるから、水谷の言う意味が分からないわけでもなかったが、素直に従うのは癪に障るだけだった。
名前を呼ばれているというのがたぶん最大の原因だろう。

一瞬ぱちくりと目を見開いた水谷の表情が、でもすぐに薄笑みへと変わる。
「美琴だったら本当に手を回しそうだよな」
「無茶苦茶な要望を聞き入れているわけにはいきませんから」
書類をまとめ、トントンと揃えて、キャビネットに戻そうと立ち上がった。
続きをする気はとうに失せた。こんな馬鹿馬鹿しい雑談を続けているせいだ。
明日また出すことになるのだが、とりあえず水谷が分かるように元通りにしておかなければならない。
デスクに腰かけたままの水谷が野崎の行動を見ている。
この男に関わっていたら朝までかかりそうだ…。

「いい男が仕事に明け暮れているなんて淋しすぎるぞ。たまには楽しめよ」
「それなりに息抜きはさせていただいていますよ。貴方とは違う方法で」
「ホント、可愛くない」
40歳まで近いというのに、可愛いもへったくれもあるかと内心で呟く。
野崎の後を追うように立ち上がってきた水谷が背後に立つ。
「水谷さ…、んっ」
「気高い貴婦人っていう感じだな」
振り返った途端、きっちりと締められたネクタイが一気に引き抜かれる。
鍛え上げられた水谷の体躯は草原を駆け抜ける豹のようだった。

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