血縁を遡れば血を分けたものなどいくらでもいる。
一部の遺伝子が千城と同じものを持つ…ということでしかない。
「同じ遺伝子とは…」
今更、な疑問を投げかける一世に、百合子の視線は痛いものだった。
検査員が戸惑いながら真実を述べてくる。
「ご兄弟、または親子…、親戚の方など…。いずれにせよ、数多くのサンプルを取ることで判明しますが…」
検査員のたどたどしい言葉に、百合子の疑惑は真っ先に一世に向けられた。少なくとも千城と一番濃い関係は父である一世だった。
鑑定士の答えは、「本人ではないが血の繋がりのあるもの」と確かに告げている。
千城の身内としてあげられる『男』は一世以外にいないといった表情だ。そこは親子の繋がりがあるのだから当然と言えば当然なのだが…。
「そんな話があるかっ。私だってサンプルなど出すぞっ」
自分に非はないといった調子で一世は声を荒げた。
息子の件であったはずなのに自分の立場が怪しくなるのはゴメンだ。晴れやかになるのであれば必要な検査を全て受けて百合子に突き付けたい気持ちがある。
「なんということでしょう…。どちらにせよ、榛名家の血を継いでいるということなのですね」
冷静な口調で百合子は尋ねた。今現在では、千城との親子関係がないということが判明し、一世の態度を見ても疑いはすぐに晴れるものと思われる。しかし、一族に関わり合いがあるのだと告げてくる。
その原因はどこにあるのか。女性に対して失礼な態度を取ったのは誰なのか…。
百合子のみならず一世も危惧するところであったが、千城という存在が頭にこびりついていたために他なる人間が思い浮かんでいなかった。
徹底的な調査はすぐさまに女性の相手を割りだしてくれた。
正確には女が口を割ったというほうが正しい。
曾祖父にあたる人間から枝分かれした分家の者だ。
今となっては特別親しい付き合いなどありはしなかったが、世界に君臨する榛名の存在に恨みはあったようで、半ば女性を脅しつけて同情を買うよう、手頃な千城の存在をほのめかしたらしい。
同年代で一番力を持つのは、確かに千城だった。その過去も、それなりに探っていたのだろう。
遊び歩いたかどうかはともかく、疑える要素は握っていたようだ。
自らの力不足を棚に上げ、逆恨みされるのも納得がいかず、かといって遠くはあっても親族と言う立場に勝手な判断もできず、一世は総会長となった父の龍之介の指示を仰ぐしかなかった。
やたらに動いては一族の不評、不謹慎な噂を買うだけになる。
何より、鶴の一声で一族の不祥事をどうにか抑えてしまいたかった。
…のだが…。
「隠していて良いことなどないでしょうね。この場ではっきりさせましょう。千城は子を設けるようなことはありません。二度とこのような疑惑がおこらないよう、私から宣言させていただきます」
百合子の言葉に一世は固まった。
認めてはいたが、世間一般公表できるほど肝が据わっていなかった。
百合子の言い分ははっきりと世の皆に、千城が英人を伴侶として生涯を過ごすと宣言するようなものだった。
「ま、待ちなさい…。まだ、子ができないとは…」
「何をグズグズとした考えをっ!!貴方の息子でもあるんですよ。心を決めて腹を括りなさいっ!!」
ピシャリと抑え込まれて返す言葉を失う。
まだどこかで『孫』という存在に囚われていた気持ちまで百合子はお見通しだったのだ。
自分の息子が取る行動を後ろめたく感じる必要がどこにあるのかと、また、いつまで願っても届かない夢を抱くのかと百合子の発言は容赦ない。
信用がないと分かりながらここまでの検査に付き合った要因をたやすく見透かされている。
そのことは百合子自身も『願わくば…』の気持ちがあるのだろうが、一度受け入れた環境にホッと吐息を零しているのも事実だった。
現在の千城や英人の暮らしぶりを見ても、余計な気苦労はかけたくない母親心なのだろうか…。
本人たちが幸せであるのならそれでいい、と無言で語りかけてくる。
それは確かである。
千城は英人と出会ってから、人に対する意識が全く異なってきた。人間らしさを纏わせている。
一世自身、今更ながらに教えられることがあったくらいだ。
電話口であれ、検査結果を千城に伝えれば、薄笑で迎えられた。
浮かべる表情の隅まで伝わってきそうだ。
「年の離れた兄弟ができなくて助かりました。ご自身もどうぞお気をつけください」
一度は百合子に疑われたことまで見透かされて頭に血が上りそうになる。
親子共々、全く動じない人間だと、思わず悪態がこぼれそうだった。
その冷静さが今に至るのだろうか…。
反面で医学界の技術はどうにかならないものかと、無理難題な件が一世の脳内に湧いていた。
千城の華やかさと英人が持つ潜在的な美貌が合わさった時、どのような子が生まれるのだろうか。
まさに興味の対象となる。
もっともそれこそ、不穏な動きを生み出す原因になりそうであるが…。
どちらにせよ、これほど叶わない夢もない。
すったもんだのやりとりがあったからか、『孫』は諦めようと思った一世だった。
こんな騒動にしょっちゅう付き合わされる気もなく、百合子の判断に頷くしかない。
そんなもので揺るがないと信じるからこそ…。
何より、間違っていることなど一つもないと思えるからこそ…。
―完―
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えー…。単なるお父さんの心境?!/(゚×゚)\
一部の遺伝子が千城と同じものを持つ…ということでしかない。
「同じ遺伝子とは…」
今更、な疑問を投げかける一世に、百合子の視線は痛いものだった。
検査員が戸惑いながら真実を述べてくる。
「ご兄弟、または親子…、親戚の方など…。いずれにせよ、数多くのサンプルを取ることで判明しますが…」
検査員のたどたどしい言葉に、百合子の疑惑は真っ先に一世に向けられた。少なくとも千城と一番濃い関係は父である一世だった。
鑑定士の答えは、「本人ではないが血の繋がりのあるもの」と確かに告げている。
千城の身内としてあげられる『男』は一世以外にいないといった表情だ。そこは親子の繋がりがあるのだから当然と言えば当然なのだが…。
「そんな話があるかっ。私だってサンプルなど出すぞっ」
自分に非はないといった調子で一世は声を荒げた。
息子の件であったはずなのに自分の立場が怪しくなるのはゴメンだ。晴れやかになるのであれば必要な検査を全て受けて百合子に突き付けたい気持ちがある。
「なんということでしょう…。どちらにせよ、榛名家の血を継いでいるということなのですね」
冷静な口調で百合子は尋ねた。今現在では、千城との親子関係がないということが判明し、一世の態度を見ても疑いはすぐに晴れるものと思われる。しかし、一族に関わり合いがあるのだと告げてくる。
その原因はどこにあるのか。女性に対して失礼な態度を取ったのは誰なのか…。
百合子のみならず一世も危惧するところであったが、千城という存在が頭にこびりついていたために他なる人間が思い浮かんでいなかった。
徹底的な調査はすぐさまに女性の相手を割りだしてくれた。
正確には女が口を割ったというほうが正しい。
曾祖父にあたる人間から枝分かれした分家の者だ。
今となっては特別親しい付き合いなどありはしなかったが、世界に君臨する榛名の存在に恨みはあったようで、半ば女性を脅しつけて同情を買うよう、手頃な千城の存在をほのめかしたらしい。
同年代で一番力を持つのは、確かに千城だった。その過去も、それなりに探っていたのだろう。
遊び歩いたかどうかはともかく、疑える要素は握っていたようだ。
自らの力不足を棚に上げ、逆恨みされるのも納得がいかず、かといって遠くはあっても親族と言う立場に勝手な判断もできず、一世は総会長となった父の龍之介の指示を仰ぐしかなかった。
やたらに動いては一族の不評、不謹慎な噂を買うだけになる。
何より、鶴の一声で一族の不祥事をどうにか抑えてしまいたかった。
…のだが…。
「隠していて良いことなどないでしょうね。この場ではっきりさせましょう。千城は子を設けるようなことはありません。二度とこのような疑惑がおこらないよう、私から宣言させていただきます」
百合子の言葉に一世は固まった。
認めてはいたが、世間一般公表できるほど肝が据わっていなかった。
百合子の言い分ははっきりと世の皆に、千城が英人を伴侶として生涯を過ごすと宣言するようなものだった。
「ま、待ちなさい…。まだ、子ができないとは…」
「何をグズグズとした考えをっ!!貴方の息子でもあるんですよ。心を決めて腹を括りなさいっ!!」
ピシャリと抑え込まれて返す言葉を失う。
まだどこかで『孫』という存在に囚われていた気持ちまで百合子はお見通しだったのだ。
自分の息子が取る行動を後ろめたく感じる必要がどこにあるのかと、また、いつまで願っても届かない夢を抱くのかと百合子の発言は容赦ない。
信用がないと分かりながらここまでの検査に付き合った要因をたやすく見透かされている。
そのことは百合子自身も『願わくば…』の気持ちがあるのだろうが、一度受け入れた環境にホッと吐息を零しているのも事実だった。
現在の千城や英人の暮らしぶりを見ても、余計な気苦労はかけたくない母親心なのだろうか…。
本人たちが幸せであるのならそれでいい、と無言で語りかけてくる。
それは確かである。
千城は英人と出会ってから、人に対する意識が全く異なってきた。人間らしさを纏わせている。
一世自身、今更ながらに教えられることがあったくらいだ。
電話口であれ、検査結果を千城に伝えれば、薄笑で迎えられた。
浮かべる表情の隅まで伝わってきそうだ。
「年の離れた兄弟ができなくて助かりました。ご自身もどうぞお気をつけください」
一度は百合子に疑われたことまで見透かされて頭に血が上りそうになる。
親子共々、全く動じない人間だと、思わず悪態がこぼれそうだった。
その冷静さが今に至るのだろうか…。
反面で医学界の技術はどうにかならないものかと、無理難題な件が一世の脳内に湧いていた。
千城の華やかさと英人が持つ潜在的な美貌が合わさった時、どのような子が生まれるのだろうか。
まさに興味の対象となる。
もっともそれこそ、不穏な動きを生み出す原因になりそうであるが…。
どちらにせよ、これほど叶わない夢もない。
すったもんだのやりとりがあったからか、『孫』は諦めようと思った一世だった。
こんな騒動にしょっちゅう付き合わされる気もなく、百合子の判断に頷くしかない。
そんなもので揺るがないと信じるからこそ…。
何より、間違っていることなど一つもないと思えるからこそ…。
―完―
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えー…。単なるお父さんの心境?!/(゚×゚)\
チャン♪チャカチャン♪のチャンチャン♪
やはり千城は、そんなマヌケな事しないよね~
(o´艸)(艸`o)ネ-
一世おじいちゃんの儚く見果てぬ願いは、夢のまた夢か・・・
残念でした。チ─(´゚ェ゚`:)─ン...byebye☆
やはり千城は、そんなマヌケな事しないよね~
(o´艸)(艸`o)ネ-
一世おじいちゃんの儚く見果てぬ願いは、夢のまた夢か・・・
残念でした。チ─(´゚ェ゚`:)─ン...byebye☆
お父さん
よっぽどおじいちゃんになりたかったのね~
残念に思ってしまうところは仕方ないとしても
美麗な男二人の子ができないかと真剣に悩んでしまうところが一世パパなんでしょうね
慌てず騒がず「ありえない」と言い切った千城に拍手
孫にこだわらず二人の幸せを邪魔させないという
百合ママの凛とした態度に惚れました
よっぽどおじいちゃんになりたかったのね~
残念に思ってしまうところは仕方ないとしても
美麗な男二人の子ができないかと真剣に悩んでしまうところが一世パパなんでしょうね
慌てず騒がず「ありえない」と言い切った千城に拍手
孫にこだわらず二人の幸せを邪魔させないという
百合ママの凛とした態度に惚れました
けいったん様
おはようございます。
> チャン♪チャカチャン♪のチャンチャン♪
>
> やはり千城は、そんなマヌケな事しないよね~
> (o´艸)(艸`o)ネ-
>
> 一世おじいちゃんの儚く見果てぬ願いは、夢のまた夢か・・・
> 残念でした。チ─(´゚ェ゚`:)─ン...byebye☆
失敗することのない千城でした~。
どんな過去があったのかは、まぁともかくね。
今は幸せだからいいのです。
まだおじいちゃんにならずに現役でがんばってください。
そして夢の中で孫に会えたらいいね。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> チャン♪チャカチャン♪のチャンチャン♪
>
> やはり千城は、そんなマヌケな事しないよね~
> (o´艸)(艸`o)ネ-
>
> 一世おじいちゃんの儚く見果てぬ願いは、夢のまた夢か・・・
> 残念でした。チ─(´゚ェ゚`:)─ン...byebye☆
失敗することのない千城でした~。
どんな過去があったのかは、まぁともかくね。
今は幸せだからいいのです。
まだおじいちゃんにならずに現役でがんばってください。
そして夢の中で孫に会えたらいいね。
コメントありがとうございました。
甲斐様
おはようございます。
> お父さん
> よっぽどおじいちゃんになりたかったのね~
> 残念に思ってしまうところは仕方ないとしても
> 美麗な男二人の子ができないかと真剣に悩んでしまうところが一世パパなんでしょうね
おじいちゃんになりたかったんですかね~。
手に入らないものほどほしがるんでしょうか。
期待はしていなかったんでしょうが、突然現れた存在が気になってしまったのか…。
目の前にいるだけにその合わさったものを想像したくなるようです。
> 慌てず騒がず「ありえない」と言い切った千城に拍手
>
> 孫にこだわらず二人の幸せを邪魔させないという
> 百合ママの凛とした態度に惚れました
百合子ママはまだおばあちゃんになりたくないと思います。
だからこそビシッと言えたんでしょう。
凛とした姿、それを見て育った千城ですね。
コメントありがさうございました。
おはようございます。
> お父さん
> よっぽどおじいちゃんになりたかったのね~
> 残念に思ってしまうところは仕方ないとしても
> 美麗な男二人の子ができないかと真剣に悩んでしまうところが一世パパなんでしょうね
おじいちゃんになりたかったんですかね~。
手に入らないものほどほしがるんでしょうか。
期待はしていなかったんでしょうが、突然現れた存在が気になってしまったのか…。
目の前にいるだけにその合わさったものを想像したくなるようです。
> 慌てず騒がず「ありえない」と言い切った千城に拍手
>
> 孫にこだわらず二人の幸せを邪魔させないという
> 百合ママの凛とした態度に惚れました
百合子ママはまだおばあちゃんになりたくないと思います。
だからこそビシッと言えたんでしょう。
凛とした姿、それを見て育った千城ですね。
コメントありがさうございました。
このコメントは管理人のみ閲覧できます
a様
おはようございます。
> 久しぶりのちーちゃん&ひーちゃん話に胸がときめきました^^
> はぁー幸せ!
> きえ様ありがとうございます。
> 千城パパと同じ気持ちですよ!
> ちー&ひーちゃんの
> ベビーぜひぜひ見てみたいですねー!
> 本当、医学の力でどうにかならないものでしょうか(笑)
ちーちゃんひーちゃんっていうか、パパでしたけどね(笑)
昨年アンケートのお詫び企画(?!)で出しました。
二人の子供、見てみたいっていうパパでした。
合わさったらどんな子ができるんでしょうかね。
つか、子育てできるちーちゃんとひーちゃんとは思えませんが…。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 久しぶりのちーちゃん&ひーちゃん話に胸がときめきました^^
> はぁー幸せ!
> きえ様ありがとうございます。
> 千城パパと同じ気持ちですよ!
> ちー&ひーちゃんの
> ベビーぜひぜひ見てみたいですねー!
> 本当、医学の力でどうにかならないものでしょうか(笑)
ちーちゃんひーちゃんっていうか、パパでしたけどね(笑)
昨年アンケートのお詫び企画(?!)で出しました。
二人の子供、見てみたいっていうパパでした。
合わさったらどんな子ができるんでしょうかね。
つか、子育てできるちーちゃんとひーちゃんとは思えませんが…。
コメントありがとうございました。
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